第53話 君に新しい力をあげよう
「トゥリちゃん大丈夫?」
「うん。大丈夫」
本当かなあ? なんか最近みんなが浮かない顔している気がするんだよね。
試験が終わったからむしろいい気分な人のほうが多いのに。
それに私は黒の派閥の仲間が増えてとても楽しい。黒飴という危険な存在も倒していいこと尽くめ。
だけど、協奏者の四人は最近特に暗い表情をしている気がする。
「う~ん。どうしたものかなあ」
「あら、どうしたの? シエル」
「リーヴァちゃん」
それにリセアちゃんも。
二人は他の派閥の生徒と仲良く話していたみたい。
唸りながら歩く私を不審に思ったのか、そんなお喋りの場を切り上げてこっちに来てくれた。
「二人とも楽しそうだねえ」
「ええ、試験も終わった。派閥の仲間も増えた。悩み事なんて特にないからね」
「私も、最近は風の精霊の使い方が上達した気がするんだ」
「お~、さすがリセアちゃん。四属性を使いこなす日も近いね!」
うん。やっぱり周りはみんな順風満帆。
毎日が楽しいことばかり。だというのに、私のことを入学当初から気にかけてくれた四人がそうじゃない。
……嫌だなあ。そういうの。
せっかくだから、みんな楽しく過ごしたいよね!
というわけで、ここは四人の悩みをどばんっと解決しちゃおう!
「というわけで、単刀直入に聞きに来ました!」
「ええ……」
ヴィルタさん先輩は私の発言に見るからに困っている。
おかしいなあ? 悩みがあるっぽいから教えてほしいと聞いているだけなのに。
ここはさくっと打ち明けて解決するんじゃないの?
「ええと……。そうだね、心配してくれてありがとう」
「はい! というわけで、悩み事をどうぞ!」
「う~ん、ちょっと難しいんだよな」
あまり人に言いたくない悩みなのかな?
だとしたら、そもそも相談に乗ろうとすること自体が間違いだったのかなあ……。
「なんかごめんね」
「いえいえ! ヴィルタさん先輩が早く元気になれるといいですね!」
というわけで次は別の協奏者のところに行こう。
トゥリちゃんかな? トゥリちゃんだね。
よし、炎の派閥のところに行って、さくっとお悩み解決!
「……平気」
「あれえ?」
そっか。ヴィルタさん先輩もそうだったけれど、相談の乗り方が間違っていたのかも!
あなたの悩みを教えてではなく、私に何か力になれることはないか?
これだね!
「トゥリちゃんトゥリちゃん」
「どうしたの?」
「それじゃあ、私に力になれることはある?」
「……」
なさそう!
困ったなあ。友達や先輩たちが悩んでいるのに、何の力にもなれないっていうのは悲しいことだよね。
「シエルは一緒にいてくれるだけでいい」
「え~? そんじょそこらの田舎娘だよ~? そこにいるだけでかわいいトゥリちゃんたちとは違うよ?」
「シエルがそばにいてくれたら、それだけで元気だから」
ありゃりゃ。
猫モードだね。気まぐれに懐いてくれる感じが、トゥリちゃんのかわいいところだと思う。
でも、私はそばにいるだけで何かができるかと言われると……。
う~ん。現に協奏者四人は元気じゃないもんねえ。
「ってことなんですよ~」
「それを一応の当事者である私に相談するところとか、ほんとかわいいんだから!」
イルマ先輩のハグで迎えられる。
こうしているときは元気に見える。
でも、普段の態度とか見るとなんかちょっとねえ。
何か悩みを抱えている。そして解決せずに悶々としている。
そんな感じがするんだよねえ。
「イルマ先輩も遠慮なく相談してみません?」
「……大丈夫よ。私たちならあなたのおかげで元気だから」
「……そうですか。それならよかったです!」
よかった……のかなあ?
本当に何の悩みもない? いいや、絶対にあるね!
でも、私に相談しても解決できないってだけ。
「……カリオせんぱ~い」
「その気の抜けた声、さすがにたるみすぎてないかな?」
「先輩が悩みを打ち明けてくれたらシャキッとします!」
「悩みなんてないから、君はずっとたるんだままになるね」
……一見するといつものやり取り。
でも一度気付いてしまうと違う。カリオ先輩は隠しているけれど何か悩んでいる。
なまじ周囲の悪意がなくなったからこそわかる。
この学校で今一番悩んでいるのは、協奏者の四人ってことが。
「では、先輩たちのために私にできることとは!」
「そうだねえ。トラブルもなくなった。なら、黒の派閥のまとめ役として、規律を守るようにね」
「はぁい」
なんだか力になるというよりは、下手な問題も起こすなと言われてるみたいだねえ。
協奏者同士なら、悩みも相談されているのかな?
あの四人はなんだかんだで仲良しだもんね。
……でも、私も一応は黒の協奏者なんだけどなあ。
まだまだ頼りにならない。そういうことなのかな?
「シエル。ちょうどよかった」
「リーヴァちゃん」
力のなさを実感しながら廊下を歩いていると、リーヴァちゃんがやってきた。
どうやら向こうも私を探していたらしく、ほんのちょっぴりほっとする。
協奏者の力になれなかったので、私自身を必要としてほしいなんて思っていたのかな?
なんとも私らしくないネガティブな考えでよくないね!
「ど、どうしたのよ? 急に変な動作をして」
「もやもや消してた!」
「そ、そう。それであなたに提案があるんだけど」
「なになに?」
「黒の派閥も人数が集まって形になってきたわ。他の派閥みたいに指導しながら上達できないかなって思って」
「指導……」
たしかに、今の私は集めた仲間でわいわいたのしくしているだけ。
でも、他の派閥は協奏者がしっかりと指導して上達を目指している。
……これだ! つまり私がみんなに教えて協奏者らしくなれば、頼れる存在として協奏者たちの相談に乗れるかも!
「私、やる!」
「そ、そう? ただ、大丈夫? トゥリは例外として、私たち一年生が指導できるほどの力ってあるかしら? いえ、あなたの実力を疑うんじゃないけれど」
「う……」
た、たしかにちょっと不安かも。
ただ、それならいつもと同じようにするだけだよね!
訓練訓練。そうして強くなろう!
協奏者らしくなるために、精霊使いとして成長すればいいだけだね!
「ちょっとがんばってみる!」
リーヴァちゃんにそう言い残し、私は召喚室へと移動する。
まずは動く! それが私にできること。
精霊くんたちをうまく混ぜ合わせて、試験のとき以上の力を使えるようになれば……。
うん。絶対にみんなが相談してくれるよね。
『いいんじゃないかな? それなら、そんな君にいいことを教えてあげるよ』
なになに? 精霊くんが教えてくれるなんて、久しぶりだねえ。
それじゃあ、私がとびっきり強くなれるように、とっておきを教えてほしいな。
『まかせてよ。ボク、君の力はすごいと思っているからね。しっかりとやり方を学んだら、今よりもはるかに強くなれる。それだけの下地ができるまで、ずっと待っていたんだから』
ほうほう。つまり、私の成長を考えてくれていたんだねえ。
いやあ、精霊くんには頭が上がらないよ。
『それじゃあ学んでみようか。精霊について、属性の調和について。それがどれだけの大きな力になるか。ボクがしっかりと教えてあげるよ』
そうして私は召喚室で精霊くんとたっぷりお話した。
なるほど……。いけるかな?
いやいや、まずはやってみよう!
今の教えを使いこなすことができれば、きっと私は協奏者にふさわしくなれるよね?
それでみんなの相談を解決して、全員仲良くこの学校での日々を楽しむんだから!




