第52話 シエルのレベルがあがった
「さあ、十分に休み終わった!」
「元気ねえ。試験も終わったのにまた演習場?」
「試験後は訓練していませんでしたからね! 有り余る元気が体内を駆け巡っています!」
「すごいやる気だよな。なんか俺たちも見習わなきゃってなってくるよ」
そうしてみんなで強くなって、黒の派閥がこの学校を支配するのです!
なんて計画はさておき、休みっぱなしだからうずうずする。
今なら、精霊くんも満足するほどの魔法を使える気がするんだよね。
『気のせいだと思うよ~』
出鼻くじかないでくれる!?
とはいえ、精霊くんの見立ては何時も正しいからなあ。
もっと訓練しないと、精霊くんの力を引き出しきれないかあ。
『がんばってるのはたしかだけど、ボクを使いこなすにはあとちょっとだね』
おや? 前までとは評価が違うね。
まだまだ先ではなく、もう少しかあ。
もしかして、私って意外と成長してる?
『協奏者たちの力を束ねたとき、ボクの全盛期の力を使えた。だから、シエルが各属性をもっと鍛えたら、ボクが最強の状態で実体化できるはずだよ』
お~!
ということは、このまま鍛え続けたら精霊くんが本気モードに!
なら、なおさら休んではいられないね!
全ての属性を満遍なく鍛えて、精霊くんに不自由させない精霊使いにならなくっちゃ。
というわけで休み明けの初訓練。
黒の派閥も肩身が狭くなくなったので、堂々と演習場を利用する。
……まあ、肩身が狭いときも堂々としていたけどね。
「ここはやっぱり炎属性で!」
炎の派閥の演習場で、私はこれまでどおりに精霊魔法を放った。
放ったのだけど……なんか、出力上がってる?
もう少し弱めの魔法で小手調べするはずだったのに、的にしていた魔力人形が吹っ飛んでいった。
「……やっぱりすごいな。あいつ」
「黒の派閥の協奏者っていうのも否定できないわね」
周りからは感嘆の声が聞こえる。
あの黒飴を倒してからというものの、何もかも順調だねえ。
魔法は上達し、派閥も周囲に認められた。
これはいよいよ私の素敵な学生生活が始まるのでは?
『悪くないね。やっぱりあと少しだ』
だよね! 精霊くんを使いこなせる日もそう遠くないのかもしれない。
それにしても、どうして急にここまで上達できたんだろう。
『協奏者たちには感謝しないとね。あいつらがシエルに力を貸したから、シエルの体は力の使い方を無理やり覚えた。一度覚えたからにはもう忘れないはずさ』
なるほど……。
みんなの力で一時的に強くなれたけれど、それだけではなく私自身も強くなれたってことかあ。
じゃあ、あと少しっていうのも本当なんだろうね。
『そうそう。だから期待してるよ? ボクを昔くらい強い状態で実体化することを』
任せて!
そうとわかれば特訓あるのみだね。
炎だけで魔法を使うと威力は上がった。
でも、今なら複数の属性を同時に使える気がする。
「炎と風で、威力がどかんと上がるかも!」
相性がいい属性なので、これなら私にも使いこなせる。
それぞれの精霊から力を借りて、魔力は二つの属性をそれぞれ融合させたものにする。
それを精霊くん実体化のための媒介にしてしまえば……。
「さっきより力が強いみたいだね。それじゃあ、今度はあっちの的に当ててみよう!」
炎の威力は先ほど以上。
風の属性も含むため、炎の竜巻みたいになって人形が壊れた。
……これ、四つの属性を扱えたら、本当にあのときくらいの魔法が使えるんじゃないの?
まだそこまで制御はできないけれど、なんとなく出力は足りていると思う。
「よし! これからは魔力の制御をがんばろう!」
『そうだね。四属性を完全に調和させることができれば、君は間違いなく最強の精霊使いになれるよ』
精霊くんの励ましの言葉を聞き、私はたしかな手応えを感じた。
そうとわかれば出力よりも制御だね。
最初は少しずつでもいいから、まずは複数の属性を混ぜる感覚を忘れないようにしよう。
あの試験のときのように、協奏者と先生が協力してくれたときのように。
「……ねえ。あれってもしかしたら協奏者より上なんじゃ」
「複数の属性の合成を一人でやっているのか? そんなことができるのなら、黒の派閥はいずれどの派閥よりも強くなるってことだよな……」
さあ、合成しよう。
全部混ぜよう。炎も水も風も土も、全部混ぜて黒くしよう。
◇
「……やっぱり」
シエルはあの戦いでコツをつかんでしまった。
一人で複数の属性を扱える精霊使いはそれなりにいる。
だけど、それらを同時に扱って混ぜることができるのはシエルくらい。
何度目のやり直しかわからないけれど、いつかどこかで私は見た。
私をはるかに上回る炎の力を見た。
「止めないと」
でもどうやって? お兄ちゃんたちに相談しても、きっと解決しない。
あの魔族の残滓を倒すため、私たちはシエルに可能性を教えてしまった。
そうしないと先に進めないからと考えて、シエルの力を最大限に引き出す方法で倒させてしまった。
きっと彼女は止まらない。
属性の調和こそが彼女の力。出力はすでに足りている。あとは全ての属性を制御するだけ。
それだけで……ピルカヤが満足するほどの実体化を実現してしまう。
「シエルの学習を邪魔する……。無理、できない」
彼女はきっとどこかで学ぼうとしてしまうから。
「その先で何が起こるか教える」
これも駄目。ピルカヤは常にシエルと共にいる。
シエルだけに内緒話なんてことはできない。
下手したら、全てを知られたピルカヤが無理やりシエルに自身を実体化させるかも。
「ああ、もう……」
彼女は単に学んで成長しているだけ。
それを止める理由が思いつかない。
それに……あんなに楽しく学んでいる。無理やり止めるなんて……。
そんなことだから、私はいつも中途半端なんだ。
カリオなんて自分が嫌われてでもシエルを生かそうとしているのに……。
思いつかない。
やっぱりみんなに相談しよう。私は一人では何もできない。
そんな自分が本当に嫌になった。
「やっぱりそうか……」
すぐに三人の協奏者を集めた。
シエルの急激な成長について話すと、カリオは深刻そうな顔で考えている。
「黒の派閥に人が増えた。彼女は思う存分他者の魔力について学ぶだろう。そうして魔力の調和を極めてしまえば、ピルカヤを復活させる力を得てしまう」
「そうしたら、魔力の残滓以上に凶悪な敵になるね」
「以前は私たち全員どころか先生方も含めて、学校中を火の海にしたからね……」
シエルの目の前で全てを奪う炎の精霊。
あのときは、シエルは自害してピルカヤを止めようとした。
半端な復活だったためか、ピルカヤはそれで肉体を失いかけた。
最後の最後まで利害が一致してしまった二人は、再び時間の巻き戻しで過去へと戻った。
私たちは記憶を引き継いで、それ以外のみんなは全てを忘れて。
「前と同じ結果になるとしたら、シエルは自らの命を絶つ」
「そしてピルカヤの最後のあがきで時間ごと巻き戻る、か……」
ここが最後の難関。
あのピルカヤを何とかしない限り、私たちはいつまでたっても先へと進めない。
それでも、記憶を引き継げたことを悔やむことはない。嘆くことはない。
私たちが何とかしない限り、シエルは永遠に死に続け戻り続けるのだから。
シエルを救うのは私たち……。
待ってて。今度こそ私たちがあなたを救ってみせるから。




