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黒はすべてを混ぜる色 ――忘れられる少女と、忘れない者たち  作者: パンダプリン


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第51話 その口は屋台料理でふさいで

「シエル・アルモニア。少しいいかい?」


「ほい、きた!」


「……なに? その反応」


「ふっふっふ……。予測通りというわけですよ。カリオ先輩」


 昨日はイルマ先輩とお出かけしたからね。

 今日はカリオ先輩に休めと言われると思ったのさ!

 今日はお休みの日の前だからのんびりと過ごして、休日が開けたらいよいよ訓練再開だね。

 さすがにそこまで休んだら、協奏者のみんなも休めとは言わないと思うし。


「予測できてるなら話は早いか。今日は休むようにしなよ?」


「は~い」


「……」


「……」


「じゃあ僕の用事はそれだけだから」


 あれ~?

 それを言いにきただけ? 休んでいる間、暇を持て余すことになった後輩は放置ですか?

 これは予測できていなかった。


「予測できていたって言わなかったっけ?」


「はい。なのでカリオ先輩と遊びに行くのかと思いました」


「……本気で言ってる?」


「もちろん!」


 力強く肯定すると、カリオ先輩はため息をつきながら私の目を見た。


「僕、君が苦手だって言わなかったっけ?」


「なら、ここで親睦を深めましょう! 私もいよいよ黒の協奏者ですからね。協奏者同士仲良くしたほうがいいと思うんです」


「……わかった。君、放っておいたら休まずに訓練しそうだし、僕が見張るよ」


 信用がない。

 ただ、結果的に二人でお出かけするのならそれでもいっか。

 お出かけ中に信用してもらうよう頑張ろう。


 そうして約束を取り次げた放課後。

 三日連続となりすっかりと慣れた外出申請を提出し終えた。

 当日でも即座に処理してくれるんだから、慣れてしまえば楽なもんだねえ。


「ごめんね。待たせた」


「いえいえ~。今来たところですので」


 その言葉にカリオ先輩が私の顔を見る。

 なんでかな? 首を傾げるとまたもため息。幸せ逃げますよ~?

 もしかして、私が嘘をついたと思って疑ったのかな?


「行こうか」


「はい!」


 だけどそのことには触れず、カリオ先輩は私を先導するように歩き出す。

 小走りで追いかけると、その後はずっと同じ足並みで歩くことができた。

 ……私の歩幅に合わせてくれたのかな? そうでなければ、最初のときみたいに急いで追いかけなきゃいけないもんね。


「どこか行きたいところはある?」


「う~ん。カリオ先輩のおすすめはどうです?」


 ……なんて言ってしまったけど、この人王子様だった。

 この人のおすすめって、なんかとんでもなく高級な場所なんじゃないかな?

 そこに現れる場違いな女シエル・アルモニア。

 ……まずい!


「じゃあ、適当に歩こうか」


 私の提案に乗ってくれたから、今さらやっぱなしって言いづらい!

 ええい。女は度胸! お高いお店でも入ってやろうじゃないの!


「……大丈夫? なんか挙動不審だけど、体調が悪いならすぐに休んだほうがいいよ」


「い、いえ! 大丈夫です!」


「……そうみたいだね」


 私の言葉だけでは信じられないのか、カリオ先輩はまじまじと観察してから判断してくれた。

 う~ん。信用がないねえ。


 大丈夫。信用はこれから重ねていくつもりだから!

 ということで、高級魔法店でもレストランでも、かかってくるといいさ!


「おや、カリオ様。デートですか?」


「世話の焼ける後輩の面倒を見ているんですよ」


「それは何よりです」


「カリオさま~。あそんで~」


「ごめん、今は先に約束した子がいるからね。また今度遊ぼうね」


 おや?


「カリオ様、いい果物が入りましたよ。持って行ってください」


「ありがとう。お代はいくらですか?」


「いえいえ! カリオ様からお代をいただくなんて……」


 おやおやあ?

 なんだろう。なんか思ってたのと違う。

 道を歩くカリオ先輩。そこに何人もの住民たちが話しかけては親しそうなやり取りをしている。


 カリオ先輩って、王子様だからもっと貴族! って感じかと思っていた。

 でも今の姿は、私たち庶民とも親しめる気がする。


「……悪いね。すぐに足を止めることになって」


「いえいえ! カリオ先輩の意外な一面を見れた気がしています!」


「君、僕にどういうイメージを抱いているのさ」


 どういうというと……。

 そりゃあ王子様だからねえ。下々の生活なんて知らない天上人って感じかなあ。


「雲の上の人?」


「そうなったら国のことはわからなくなるよ。だから、時折街の人たちと交流しているんだ」


「そうだったんですか。カリオ先輩って偉いですね」


「これでも王子だから、そのくらいは当然だよ」


 王子様なんだよねえ。

 でも、こうして私と二人でお出かけなんてしていいのかな?

 今さらになって気になってきたよ。


「カリオ先輩カリオ先輩」


 なので手招きして耳を近づけるようにお願いしてみる。

 カリオ先輩は最初は嫌そうな顔をしていたけれど、根負けしたのかゆっくりと私の口元に耳を近づけた。


「王子様なのに護衛とかつけなくていいんですか?」


「ああ、そのこと」


 私の疑問に納得したのか、カリオ先輩は私から離れて答えてくれた。


「邪魔になるから断ったよ」


「じゃ、邪魔って……」


「大切なものを守ろうとしても、彼らは僕の身を優先する。なら、悪いけれどその役目は今は邪魔になるんだ」


 大切なもの……。

 規律? でも、護衛がいても関係ないよね?

 カリオ先輩の大切なものかあ。いったいなんだろう。


「でも、そんな簡単に断れるものなんですか?」


 一国の王子様が護衛も連れずに歩いている。

 それはかなり危険な状況なのでは? って思えるんだよねえ。


「だから実力は示した。幸いなことに、精霊魔法の実力だけはついているから」


 なるほど。数年の学生生活で成長したってことですね!

 その実力が護衛を不要とするほどとは、さすがは協奏者だなあ。


「さて、ついたよ」


「ついた?」


 高級なお店はこのへんにはないよね?

 でも、カリオ先輩はすでに到着したと言っている。

 ここにあるのは食べ物の屋台くらい……。


「何が食べたい? この前のお礼におごるよ」


「うええ!? カリオ先輩って常にフルコースを食べる人じゃなかったんですか?」


「どんなイメージなのさ。美味しいよ? ここの軽食」


「カリオ様にそう言ってもらえると、来客が増えそうですね!」


「よく言うよ。わざわざ僕が宣伝しなくても繁盛しているのに」


 しかもお店の人と仲も良さそう!

 そっか。カリオ先輩って本当にこの町をよく見て、そこに住む人たちと交流しているんだなあ。

 なんだかより身近な存在に思えて少し嬉しい。


「よ~し、それじゃあ夕飯がいらないくらい食べてやりますとも!」


「いいねえお嬢ちゃん。どこの食べ物も美味いから食っていってくれ」


 お肉の串焼き。小麦の生地で野菜と魚を巻いた料理。

 甘い食べ物に一風変わった異国の料理まで。

 たしかにここはいい場所だね! カリオ先輩の紹介で、この町のいい場所がまた一つ知れた。


 そんなこんなで本当に大量の食べ物を頼んでみると、カリオ先輩は嫌な顔一つせずに購入してくれる。

 う~ん。昨日からおごってもらってばっかりだなあ。

 お店の邪魔にならないよう少し休憩できるスペースに腰を掛けると、私たちは二人でむしゃむしゃと買い食いを楽しんだ。


「美味しそうに食べるね」


「美味しいですから! 私は素直な女なんです!」


「……ああ、そうだろうね」


 おや、少し微笑んだ?

 これは、もしかしてカリオ先輩と仲良くなるチャンスなのでは?


「カリオ先輩って、私のことまだ嫌いですか?」


「……ああ。そうだよ」


 ただ、やっぱり悪意とかそういうものは感じない。

 うまく隠しているのかもしれないけれど、その場合はお手上げだねえ。

 いっそ、嘘を見抜く魔道具でも買おうかな? それで私を嫌っているのが嘘だったら、遠慮なくガンガン仲良くなるんだけど。


「ちょっと違うか。嫌いじゃない。苦手なんだ、君のこと」


「苦手か~」


 うるさい女は苦手なのかな?

 だとしたら、大人しくじっとしておけば嫌われないのかなあ?

 もしゃもしゃと食べ物を口に運び、二人で静かな時を過ごす。

 こういう時間も嫌いじゃないけれど、たぶんカリオ先輩が言ってるのはもっと別のことなんだろうねえ。

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