第50話 とても穏やかなゴールデンドロップ
「今日こそ訓練を~」
「シエル。ちょっといいかしら?」
「ほいきた! は~い。イルマ先輩」
なんとなく、今日も協奏者がくるかなあなんて思っていた。
そうしたらやっぱりやってきたね。
今日はイルマ先輩かあ。明日はカリオ先輩あたりがやってきたりして。
「今日も私はお休みしたほうがいいですか?」
「あら、トゥリとヴィルタから話は聞いているみたいね。あれだけの魔法を放ったのだから、さすがにもう少し様子見が必要だと思うわ」
やっぱりそうか~。
精霊くんは私なら平気だと思うとは言っていたけれど、みんなの心配を無碍にするのもよくないからね。
ここは休暇期間と思ってゆっくりと休んでおこう。きっと明日はカリオ先輩がくるだろうから、その後からまたいつも通り特訓の日々だね。
「つまり、イルマ先輩も私とお出かけってことですね!」
「え、ちょっと話をと思ったけど……まあ、それでもいっか」
「あれ、勇み足でしたか?」
「話したいこともあったし、一緒にどこかのお店で話しましょっか」
話したいこと……なんだろうね?
とりあえず、今日もお出かけの日になったので、昨日とは違う場所をいろいろと回るとしよう。
「イルマ先輩はこの町に詳しいんですか?」
歩きながらそんなことを聞くと、イルマ先輩は少し考えるような仕草を見せた。
「……そうね。一応、町のどこに何があるかは把握しているつもりよ」
「すごいですねえ。こんなに広い町なのに」
大通りだけでなく路地裏にも色々とお店があるので、全てを把握となるとちょっとした探検になりそうだ。
そういえば、ヴィルタさん先輩も迷わずに私を案内してくれていたね。
やっぱり都会の人はすごいなあ。ただ、私も山の案内なら自信がある。なのでここは引き分けってことにしておこう。
「いずれイルマ先輩たちを山に案内しますね?」
「なんでそんな話になったのかはわからないけど、それはそれで楽しそうね」
乗り気だ。イルマ先輩って付き合いいいよねえ。
そのあたりはヴィルタさん先輩と似ている気がする。
これが上の学年の大人の余裕……!
「ところで、このあたりは何があるんですか?」
「魔法関連の本を取り扱ってるお店が多いわよ。興味があったらのぞいてみる?」
「興味あります!」
学校の教本もいいけれど、そういう魔法の本というのはいくら読んでもいいものだからね。
精霊くんから学び、自然の中から学び、授業で学び、実戦で学ぶ。ここまできたら、自主学習用の本というものにも大いに興味があるのだ。
「それじゃあまずはここから」
そうして入ったお店の中。
年季が入ったお店からは紙とインクの匂いが鼻に届く。
古いというよりは歴史あるという印象が大きく、様々な本を眺めているだけで楽しい。
「お、精霊の本だ」
基本的な魔法の本の一角を抜けると、そこには精霊魔法に関する本が固まっていた。
精霊魔法に扱い方だけでなく、精霊そのものの研究や自然界における魔法についても記載されている。
ふむふむ。やっぱり精霊くんが言ったとおりだね。精霊は魔力に意思が宿った存在。
その状態は三段階にわかれている。
ほとんど魔力と同じで実体化できない状態。明確な意思を持ち、他の魔力を使って実体化できる状態。
そして、完全に実体化された最も力を強く振るえる状態。
精霊くんは二番目の状態だね。
私たち精霊使いは主に二番目の精霊と協力し、精霊魔法をいうものを行使している。
一番目の状態はまだまだ意思が希薄で本能寄りの行動ばかり。
だから、二番目の状態が精霊の誕生という扱いになる。
『だから言ったでしょ~。ボクは生まれたばかりの存在だって』
でも、三番目の状態で死んだら、一番目に戻るってことはここには書いてないね。
そのあたりの研究は進んでいないのかな?
『そりゃあそうだよ。ボクだって死んだのは遥か昔のことだもの。次の誕生まで観測できるほど長生きな種族なんていないんじゃない?』
あ~。そういうことか。
こうして過去を生きていた精霊くんは復活したけれど、当時の知り合いは誰もいない。
だから、精霊が生まれることはわかっても、それが何度目の誕生かなんて誰も観測できていないんだね。
「どう? 気に入った本は見つかった?」
ちょうど一息ついたところで、イルマ先輩が声をかける。
待っていてくれたのかな? 気遣いの人だねえ。
「はい。これとこれと……あとこれを買います」
「勉強熱心なのね。それじゃあ貸して」
「はい?」
イルマ先輩は私が選んだ本を店員さんのところへ持っていく。
そして自分が選んだ本と一緒にお金を払っていた。
「あ、あの。お金出しますよ?」
「いいのよ。先輩としてがんばる後輩を応援させてちょうだい」
うわ~。かっこいい。
私もこういう先輩になれるかな? 後輩のために行動できる先輩って素敵だよね。
イルマ先輩にお礼を言うと、彼女は優しく笑ってくれた。
そうして私たちは本屋さんを出て、近くの喫茶店で休憩しながらお喋りをすることにした。
元々私に何か話があるってことだったし、イルマ先輩にとってはこっちが本番っぽいね。
なんだろう? あのとき黒飴を倒した魔法についてかな?
先輩はこういう場所での注文になれているようなので、私も同じお茶とお菓子を頼む。
お~。なんかおしゃれというか優雅なお茶会って感じだ。
「話というのは、あなたが使った魔法についてよ」
「黒飴を倒した協力魔法ですか?」
「ええ。無理はしていないかしら? あれだけの大規模な魔法ですもの」
「元気です!」
「かわいいわね! まったく!」
こうして向かい合った席に座っていなければ、今ごろイルマ先輩にもみくちゃにされていたことだろう。
まあ、私はどんとこいって感じだけどね!
ただ、お店の中でそれは迷惑だろうから、大人しく話を続けておこう。
「私たちが入学後にあなたに脅威を教えたわね」
「はい! 黒飴が学校を襲うから力を貸してほしいって言われました!」
「そうして私たちの指導を毎日続け、あなたはそれに応えてくれた」
「みんなわかりやすい教え方でしたからねえ。楽しかったです!」
「でも、普通ならその程度であれだけの魔法は使えないと思うの。ねえシエル。あなた、どうしてそれだけの力があるの?」
どうしてと言われても、先輩たちのご指導ご鞭撻の賜物ってやつじゃないかなあ?
でも、先輩が聞きたいのはそういう話じゃないよね。
となると、私が精霊魔法に慣れていた理由かあ。慣れていた理由。慣れていた理由。
精霊くんが色々と教えてくれたからかな?
「精霊くんのおかげですかね?」
「あなたの契約精霊のことかしら?」
「はい! 出会ってから色々なことを教えてくれるんです。頼れる相棒ですね!」
『ボクとしては、手のかかる子供の面倒を見ている気分だけどね~』
自分なんて生まれたばっかりだというのに!
まったくもう! そう言いながら笑っているの知っているんだからね!
「……仲がいいのね」
「当然です!」
「でも、その精霊の力はとても大きいように見えるわ」
さすがイルマ先輩。精霊くんのすごさを見抜いているみたいだね。
精霊くんもそんな褒め言葉に機嫌を良くしている。
「だから、あまり無理したら駄目よ? 焦ってその力を使いこなそうとしたら、あなたにとっても精霊にとってもよくないから」
「そうですねえ。地道にこつこつがんばります」
私の返事に満足してくれたのか、イルマ先輩は微笑んでくれた。
精霊くんの力すごいからねえ。時を巻き戻せる力なんて、普通の精霊じゃあり得ないと思うもの。
ただ、現状ではそれを使いこなせない。私の命を使って発動できる奥の手だもんね。
イルマ先輩が言うとおり、これを使いこなせるように焦らず一歩一歩確実にがんばろう。
私の決意に、精霊くんがわずかに魔力を揺らして応えてくれた気がした。




