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黒はすべてを混ぜる色 ――忘れられる少女と、忘れない者たち  作者: パンダプリン


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第49話 おもしれー女とおもしれー男

「シエル。あなたって協奏者たちと仲いいわよね」


「うん? う~ん。そうかも! 仲良くしてもらってるよ」


 もうお馴染みの黒の派閥の仲間との談笑。

 これまではリセアちゃんとリーヴァちゃんだけだったので、その二人も含めてもっと大勢とこうして話せるなんてねえ。

 ただ、そうなると噂話なんてものも自然と多くなってくる。


「もしかして、前から知り合いだったりするの? なんかそういう噂を聞いたんだけど」


「え~? そんなことないよ。入学してから私の持ち前のお話する力でなんとかした!」


「……嘘でしょと言いたいところだけど、あなたを毛嫌いしていたときですらそうやって話しかけてきたもんねえ」


「協奏者のみんなは、黒の派閥でも話せる数少ない人たちだったからねえ」


「改めてごめんなさい。今までの全て」


 あ、まずい。別にそこを責めるつもりじゃなかったのに、謝らせてしまった。

 みんな黒の派閥に入るときにこれまでのことは謝ってくれた。だからそれでおしまい!

 終わったことよりも未来を見据えられる。それがシエル・アルモニアという女性なのさ!


「気にしてないよ~」


「その言葉に甘えていいのかしら」


「いいのいいの。本人がいいって言ってるんだから」


 私の返事に周囲は安堵したように穏やかに笑っている。

 やっぱり刺々しく接するよりも、こういうふうに接する方が楽だもんね。

 誰かを嫌うのって、それだけで心への負担も大きいと思うんだ。


「ところで……。協奏者の人たちに口利きしてもらったりっていうのは……」


「え? みんないい人だから、話しかけたらすぐに仲良くなれると思うよ」


「それはたぶんお前だけだと思う……」


 そうかなあ?

 私という前例があるし、黒の派閥でも関係なく接してくれるんだけどね。

 みんな協奏者って言葉に怖気づいてしまうのか、仲良く親しくっていうのは難しいのかもしれない。


「シエル」


「おやっ、噂をすればヴィルタさん先輩」


「噂?」


 あ、そっか。これは私の失態だ。

 ヴィルタさん先輩は噂に苦しめられていた過去がある。

 良くない噂じゃないかと勘ぐっているかもしれない。


「ちょうど今、みんなが協奏者と仲良くしたいって話していたところなんです」


「へえ。そうなんだ」


 う~ん。我関せず。

 そういうところはトゥリちゃんのお兄さんだねえ。似た者兄妹だよほんとに。

 つまりヴィルタさん先輩も美形。美形だけどちょっと怖い顔と思われがち。

 だから余計に話しかけづらいって話だったねえ。


「というわけで、みんな実戦だよ。ヴィルタさん先輩と楽しくおしゃべりしてみよう」


「お前、無茶ぶりにもほどがあるぞ。その入り方で話せるのお前くらいだからな!?」


 え~? そうかなあ。

 男子も女子もみんな同じ意見らしく、それならばと私が先陣を切ることにした。


「じゃあ、私がヴィルタさん先輩と仲良くするので、それを参考に」


「ならないってば……」


「よくわからないけど、シエル借りてもいい?」


「は、はい! どうぞ!」


 私は黒の派閥の仲間たちに差し出されてしまった。

 水の派閥と黒の派閥の橋渡し的な役割かな? なら、ここはひとつ気合を入れてヴィルタさん先輩とおしゃべりしよう。

 そうしてひそかにむんっと力を入れながら、私は黒の派閥が使用している空き教室を出ていくのだった。

 ……話し声は続いているし、うちの派閥のみんなも仲良くやってくれているみたいだねえ。よかったよかった。


    ◇


「あれはもうそういう才能よね」


「俺、毎日あいつに謝りたいくらいの罪悪感があるんだけど……」


「そのほうが困るみたいだから、あの子の好意に甘えるしかないな」


「あのヴィルタさんにあれだけ気軽に話しかけるとか、シエルって精霊使い云々の前に別の才能がすごいわよね」


    ◇


「それでヴィルタさん先輩。今日はどうしたんですか? 訓練ですか? 訓練しちゃいますか?」


「シエルは訓練が好きだねえ」


「精霊使いですからね! 強くなるのは楽しいです」


「……あまり急いで力をつける必要はないんだよ? トゥリから聞いたけど、ずっと練習ばかりしてたでしょ」


 たしかに試験まではずっとそうだったかなあ。

 なので最近ののんびりとした日常は、むしろなんだか違和感を覚えるような気がする。


「ヴィルタさん先輩も、まだのんびりしたほうがいいと思います?」


「シエルは頑張りすぎだからね。いっそ今日は俺と昼寝する? トゥリみたいに」


「ほほう、私の膝枕を所望ですか! 兄妹揃って私にメロメロってことですね!」


「……」


「じょ、冗談で~す」


 さすがに黙られちゃうと、調子に乗ってすみませんって感情が勝ってしまう。

 だけどここでへこたれないのが私なのさ。

 へこたれタイム終わり。ここからはまたいつもの私だね。


「あ、そうだ」


 私の思い付きに、ヴィルタさん先輩は不思議そうに目線を向ける。

 なので思いついたことはそのまま口にしてしまおう。


「さっきも言ったじゃないですか。ヴィルタさん先輩とも話したい人っていっぱいいますよって」


「ああ、言ってたね。そんなこと」


「それで私は思ったんですけど、ヴィルタさん先輩って顔がいいじゃないですか」


「……ええと。ありがとう」


 おや、ちょっと照れてる?

 なんだか珍しいヴィルタさん先輩を見られた気がする。ラッキーだね。


「なので、雰囲気を変えることで、接しやすいヴィルタさん先輩になる可能性があると思うんです」


「……それって、カリオみたいにってこと?」


 あ~……。カリオ先輩ってそんな感じですよねえ。

 さわやか王子様って感じで普段からみんなと話している。

 でも、たぶんあれは擬態とみたね!

 だって、ヴィルタさん先輩たちと話しているちょっと乱暴な言葉遣い、あのほうが楽しそうだもの。

 まあ、今回のヴィルタさん先輩改造計画はそういうのではないし、そこは一旦忘れちゃおう。


「雰囲気っていうか。見た目ですかね? 見た目を変えることで雰囲気も変わる的な?」


「髪型でも変える?」


「う~ん。そうだ! ヴィルタさん先輩、デートしましょう!」


「!?」


 おおう。今度はやけに驚いているねえ。

 今日はヴィルタさん先輩の色んな顔が見られてお得だねえ。


「私と町を回って、いろんなお店で服装やら髪型やらを変えて雰囲気を変えてみましょう!」


「……わかった」


 おや、乗り気。ヴィルタさん先輩ってやっぱりこういう話に乗ってくれるし良い人だよねえ。

 こういうところを、もっとみんなに知ってもらえたらいいのに。


 そうと決めたら今日こそ町に繰り出そう!

 妹と果たせなかったお出かけは、兄と行うことで達成だね。

 ということで、私たちは大きな町に二人で出かけるのだった。


「おや、髪留め。髪型を変えてもっとおでこを出すとかどうです?」


「まあいいけど」


「おやおや? この服いいですねえ。普段と印象変わりますよ? ほら、似合っている」


「そう」


「ピアス! 私は無理ですけど、ヴィルタさん先輩はこういうのも似合いそうですねえ」


「それ、むしろ話しかけにくくなるんじゃない?」


「たしかに!」


 いやあ楽しい!

 美形を自分好みにカスタマイズしていくの、すっごく楽しい!

 ほんとノリがいい先輩だなあ。私のおすすめのほとんどをしっかりと試してくれている。

 私は今日の成果である、ヴィルタさん先輩シエルセレクションを見て達成感で満たされるのだった。


「どうですか? 楽しいですか? ヴィルタさん先輩」


「うん。楽しいよ」


「それは良かった。では次はあのお店に」


「待って」


「はい?」


 突然ヴィルタさん先輩に呼び止められる。

 するとヴィルタさん先輩の手が私の頭に優しく触れられた。

 ……ん? なにか付けた?


「それ、今日のお礼」


 手鏡で私の顔を見ると、そこには私が密かに気に入っていた髪留めが……。

 ば、ばれちゃってたかなあ? 今日はヴィルタさん先輩が主役なので、私は気に入ったアクセサリーは後日買おうとしてたんだけど。

 もしかして、物欲しそうな顔しちゃってたかなあ?


「あ、あの……。その……。ありがとうございます……」


 だとしたらちょっと恥ずかしい。

 あと、素直にプレゼントが嬉しい。そんな気持ちが相まって、私らしからぬしどろもどろとしたお礼の言葉を返した。


「喜んでくれたならよかった」


 ……そこにその笑顔は反則だと思うなあ!

 ヴィルタさん先輩め。いつか女の子を勘違いさせるよ。この先輩は。

 そんな意外なヴィルタさん先輩を知りながら、私たちは楽しい買い物を終えて学校へと戻るのだった。

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