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黒はすべてを混ぜる色 ――忘れられる少女と、忘れない者たち  作者: パンダプリン


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第48話 夢の中の親友

「シエルー。授業行くわよー」


「はいはーい」


 次は炎の授業だね。

 黒の派閥の何人かは同じ授業を受けるらしく、私は一緒に講堂へと向かうことにした。

 いやあ、昨日までが嘘みたいだねえ。三人しかいなかった黒の派閥がこんなことになるなんて。


 講堂につくと、見慣れた小さな背中を発見した。

 あれはトゥリちゃん! 私は彼女のところにすぐに駆け寄っていった。


「トゥリちゃん。おはよー」


「シエル。おはよう」


 いつもみたいな眠たそうな目。

 話しているとなんだかまったりぽやぽやとしてくるねえ。

 だけどそんな彼女とのやり取りは、平穏な時間を感じて私は好きなのだ。

 私とトゥリちゃんが挨拶をしていると、黒の派閥の何人かが遠慮がちに近寄ってきた。


「えっと……トゥリさん」


「なに?」


「その……私たちも今日から、炎の精霊についても学ぼうと思うの」


「そう」


 う~ん。興味がなさそう。

 別にトゥリちゃんが彼女たちを嫌っているとかじゃなくて、単にマイペースなだけなんだよねえ。

 私たちが何の科目を学ぼうと彼女に関係するわけじゃないのだから、わかるといえばわかるんだけど。


「そ、それじゃあ。よろしく」


 話しかけた人たちも、その手ごたえのなさに最低限のやり取りだけして席へと戻っていった。

 さて、私もせっかくだから新たな黒の派閥の人たちの近くに……。


「どうしたのかな?」


 移動しようと思ったけれど、くいっと袖を引っ張られた。

 トゥリちゃんだね。もしかして私に何か用事があったのかな?


「ここ、空いてる」


 隣の席を指さす。

 ……なるほど! トゥリちゃんは私と一緒に仲良く授業を受けたいってことだね!

 であれば、ここはトゥリちゃんのお友達の私がこの席を使わせてもらうとしよう。


「じゃあ、今日はよろしく~」


「うん。よろしく」


 私の言葉に返事をしたトゥリちゃんの表情は、心なしかわずかに微笑んでいたように見えた。

 

 そんなこんなでつつがなく授業を受けていく。

 昨日の黒飴事件について先生たちが軽く説明と注意喚起をしたけれど、それ以外はいつもと一緒。

 どうやらあの魔力の塊は、過去の魔王軍か魔族の残滓が溜まりに溜まって濁っていき、あそこまでの存在になったみたい。

 取り込んだ人間から魔力を奪ったり、肉体を利用して喋ったりもするらしく、あの場で倒せなかったらと思うとぞっとする。


「さて、授業も終わりだねえ。試験も終わったし、今なら演習場に行っても追い出されないかな?」


 なんなら多くの人が黒の派閥に入ってくれたからね!

 今までみたいに肩身が狭い思いはしなくてすみそう。

 現に、黒の派閥への嫌がらせもなくなったし。


「演習場に行くの?」


「うん! 今なら空いてるかも!」


「試験が終わったから、利用している人はあまりいないと思う」


 やっぱり!

 それじゃあ、私たちの貸し切りとして利用できるかもね!

 そうと決めればすぐに……また、袖を引っ張られてるねえ。


「もしかして、何か別の用事でもあった?」


「……ええと」


 トゥリちゃんに尋ねると、少し言いにくそうに言葉を選んでいるかのような反応をされる。

 なんだろう? もしかして、何か問題を起こしちゃったかな?

 いや、さすがに今日は心当たりがない。普通に授業を受けていただけだったし。


「今日は休むべき」


「私も?」


「シエルは一番休まなきゃダメ」


 たしかに、昨日は色々とがんばった。

 でも一日ぐっすりと眠ったから、体力も魔力も回復したと思っているんだけどなあ。

 トゥリちゃんから見たら、私は無茶しているように見えるのかもしれない。


「じゃあ、今日は念のため休もっかな」


「それがいい」


 私の言葉にトゥリちゃんはほっとしたように頷いた。

 そうなると切り替えが早いのが私のいいところなのだ。

 今日はお休みの日。せっかくだし、町で遊んでみようかな?

 いっそ、誰かを誘って……。誰かを……。


「どうしたの?」


「トゥリちゃん。一緒にお休みしよう」


 なんとなくなんだけど、トゥリちゃんここのところ疲れたような顔をしている気がする。

 私だけじゃなくて、トゥリちゃんこそしっかりと休まないと駄目じゃないかな?

 そうと決まれば、トゥリちゃんもお休みの日にしてしまおう!


「え、私は……」


「お休みしよう!」


「……強引」


「でも嫌いじゃないんでしょ? 私、最近トゥリちゃんのことわかってきたよ~」


 表情はあまり変わらないけれど、雰囲気がなんとなく変わってくるのだ。

 今はほんわかした雰囲気のままなので、私の提案にすでに乗ってくれているとみたね!

 じゃあさっそく町の中へ……。


「こっち」


 あれ? そっちは学校だよ?

 まいっか。忘れ物か準備かわからないけれど、トゥリちゃんについていこう。

 なんせ今日はのんびりの日だから、時間はたっぷりあるもんね!


「……」


「……」


 そうして私は中庭のベンチでトゥリちゃんを膝枕するのでした。

 ……なんでだろうねえ? ただ、町に行く気はもうなくなってしまった。


 静かな中庭は綺麗な花が咲いていて、噴水から流れる水の音だけが耳に優しく響いている。

 ぽかぽかとあったかく、かといって暑いというわけでもない陽気でなんだか頭の中がぼうっとしていくねえ。

 二人で並んでベンチに座っていたはずなのに、トゥリちゃんはすっかりと眠くなったみたい。

 本当に猫みたいに私の膝の上でお休みモードとなってしまった。


「あ~。イルマ先輩の気持ちちょっとわかる~」


 野良猫が無防備に懐いてくれている感じがすっごい!

 こうしてまじまじと観察しても、私への警戒心なんてまったくなくていっそ心配になるよ。

 う~ん、とっても美少女。猫というよりはお人形?

 ちょびっと抱きしめてみたくなるけれど、さすがにそんなことをしたら起こしちゃうねえ。

 私も寝よっかな。今日はお休みの日なのだから、こうしてまったりのんびりと贅沢な時間を楽しむとしよう。


    ◇


「トゥリちゃん。あっちクレープ屋さんがあるよ!」


「食べてばかり」


「うぐっ! だ、大丈夫! いっぱい特訓すれば太らないから!」


 いや、いっそのこと脂肪を燃焼させるってのはどうだろう?

 私は四属性を全て学んでいるけれど、一番はやっぱり精霊くんと同じ炎属性なのだ。

 ということで、精霊くんの力を借りたら私のお肉も燃やせるんじゃない?


『精霊に無茶なこと言うのやめてよね?』


 駄目か~。

 なら明日いっぱい動こう! 今日はトゥリちゃんとお出かけなんだから、中途半端に我慢したら損だもんね!

 そうして私は二人分のクレープを買って、片方をトゥリちゃんに渡すのだった。


「はい、トゥリちゃんの分」


「頼んでない」


「これを一緒に食べることで、私の共犯になるっていうのはどうかな?」


「……ありがとう」


 私はトゥリちゃんと仲良くクレープを食べ、その後も町の中を見て回る。

 学校ばかりだったからねえ。あまりこのあたりのお店に来たことなかったんだ。


「ねえシエル」


「ん? どうしたの、トゥリちゃん」


「いなくならないでね?」


「え~? 私そこまで落ち着きない女じゃないよ~。ちゃんとトゥリちゃんとはぐれないようにしているから、心配しないでも大丈夫」


 ……なんだっけ。これ。

 どこかで見た光景? 体験したことあったようななかったような。

 ああそっか。夢か。今日はトゥリちゃんとのんびりベンチでお休みしていたはず。

 だから町にお買い物になんて行っていない。じゃあ、これは単なる夢ってことだね。

 でも、なんでだろう? 私が進む道の先が真っ暗で何も見えなくなっているのは……。

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