第47話 暗雲拡がる少女たちの船出
「おおう! これは!」
私の魔力にみんなの魔力が重なっていく。
さすがは協奏者と先生。
試験のための特訓とは違って、なんかとんでもない魔力量ってことはすぐにわかった。
「無理ならすぐに言え。シエル・アルモニア」
「大丈夫です! 私、わりと魔力制御上手くなったので!」
精霊くんに頼りきりだった私の魔法。
それは入学後にだいぶ力技だったということが判明した。
ヴィルタさん先輩は、魔力量そのものはそこまで多くない。
だけどその制御技術によって、他の協奏者と変わらないほどの魔法を扱えている。
ヴィルタさん先輩は、そんな制御技術を私に伝授してくれたのだ!
「習ったことはちゃんと覚えてますよ!」
ヴィルタさん先輩の魔力を私の魔力に合わせる。
炎と水が合わさって反発しながらも一つの魔力へと変化する。
「次はトゥリちゃん!」
私と同じ炎属性なのでトゥリちゃんの魔力は合わせやすい。
だけど完全に結合するのではなく、私とトゥリちゃんの魔力のいいとこ取りで二種類の炎をイメージする。
よしっ! いい感じ!
ヴィルタさん先輩の魔力とも調和が取れている。
「いい感じです!」
「ああ、大したもんだ。その調子で残りも頼むぞ」
先生の目から見ても、今のところ私は上手くいっているらしい。
……だよね? 先生葉褒めてくれるけれど、なんで協奏者四人の顔は浮かないのかな?
ええい。今はそれより残りの魔力の結合だ!
イルマ先輩の魔力で炎も水も強化される。
いよいよ魔力は荒れ狂って、気を抜いたらボカンって爆発しそう。
だけど大丈夫。最後に残しておいた先生とカリオ先輩の魔力。これらで強固に固めるイメージをしてしまえば……。
ほら、出来上がり。
「精霊くん。いくよ!」
「いいねぇ。それだけの力なら、あんなやつ簡単に倒せるよ!」
魔力を精霊くんと共有する。
六人分の力はできる限り無駄なく混ぜることができた。
精霊くんが喜ぶ程度にはすごい力だし、私もこれなら黒飴を倒せると思う!
協奏者のみんなも緊張しているのか、固唾を飲んで見守ってくれている。
でもきっと大丈夫。なんせ精霊くんだからね!
魔王軍四天王じゃなかったとしても、この精霊くんはとてもすごいんだから。
「燃えろぉっ!」
精霊くんの魔法は黒飴に飲み込まれた。
さっきまでと同じく魔法を飲み込んで無効化しているように見える。
だけど、すぐに異変が発生したみたい。
黒飴はぼこぼこと脈打ちはじめ……なんか気持ち悪い。
まあとにかく、明らかに無理しているのか尋常じゃない反応を見せていた。
「うん。ボク強い」
精霊くんが私のもとに戻るころには、黒飴は苦しむように体を崩していく。
……あ、なんかこれ爆発しそう。
私のそんな予想は的中し、あれだけ大きかった黒い球はもう見る影もなくなってしまう。
破裂して本当に黒飴サイズになったと思うと、そのまま順番に溶けていってしまった。
う~ん。最後まで黒飴だったねえ。
「先生、倒しました~」
「あ、ああ。まさか本当に倒すとはな。よくやった助かったぞお前たち」
ぽかんとしながらも、先生は私たちを褒めてくれた。
きっと相当強かったんだろうねえ。あの黒飴。
これまで何度かモンスターとは戦ったことがあるけれど、それよりも断然強い相手だったもの。
でも、みんなの協力のおかげで見事に撃破。
めでたしめでたしで終われるね。
「……いたた」
「死ぬかと思った……」
黒飴のせいで真っ黒に固められていた生徒たちも、徐々に解放されていく。
精霊くんの言うとおり、本体を倒せば解決できるみたいだね。
「あなた……」
そうして解放されたうちの一人と目が合った。
なんだかバツが悪そうにしているけれど、具合が悪いのなら保健室に運んだほうがよさそうだねえ。
「すごいわね」
「へ?」
女生徒のその言葉が私に向けられたものだと一瞬わからなかった。
その言葉を皮切りに、周囲の生徒たちが口々と聞きなれない言葉を放ってくる。
「……やるじゃないの。黒の派閥」
「ありがとな。おかげで助かった」
「四つの属性を極めたら、あなたみたいになるのね」
おお!? これは黒の派閥の勧誘チャンス!
ということで、私は間髪入れずににみんなの言葉に応えていく。
「黒の派閥に入れば、私くらいのことできるようになるはずですよ~!」
「……実際にあんな力を見せられたらなあ」
「ええ。協奏者と先生の力あってのものというのはわかるけど、制御できたらあそこまでの魔法が放てるようになるのね」
「全属性の協奏者ってことか」
「黒の協奏者?」
やった~! 自称とか候補とかでなく、なんか黒の協奏者になれそう。
そうしたら私は派閥の代表として、リセアちゃんとリーヴァちゃんを守れるくらいになれるかもしれないね。
仲間が増えたら、あの二人もきっと喜んでくれるに違いない。
「今なら安いですよ~!」
「え、金かかるの!?」
「まあ、あれくらいの力を身に着けられるのなら多少の出費は……」
あ、ごめんなさい。嘘です。
私の中のお調子者が出ていってしまった結果です。
『君からお調子者が出ていったら、抜け殻みたいになるんじゃないかなぁ』
失礼しちゃう!
実体化が解除された精霊くんは、魔石の中からいつも通りに思念で話しかけてきた。
でも、今回は精霊くんのかっこいい姿のおかげで対処できたからね。
失礼な言葉も許してあげよう。
『はいはい、ありがと~。まあ、ボク最強の精霊だからね』
その言葉は決して言い過ぎではない。
みんなの魔力のおかげとはいえ、あれだけの魔力を放出できるのは精霊くんがすごいからだ。
やっぱり元魔王軍四天王っていうのはすごい存在なんだね~。
「先生。授業の変更ってまだ間に合いましたっけ?」
「ああ、だけど今日は勘弁してくれ。さすがに疲れた……」
生徒たちが先生や私に殺到する。
これは確実に黒の派閥にたくさん加入してくれるはず!
いやあ、明日からが楽しみだね~。
心地よい疲れとともに、私は機嫌よく精霊くんとその場を後にするのだった。
◇
「ど、どうするの? あのままだと黒の派閥が……」
わかっている。わかっていた。
シエルに僕たちの力を集めて放ってしまえば、あの子ならあのくらいの魔法は行使できるだろう。
ピルカヤがあの程度の脅威を易々と排除できるだろう。
そして、四属性のいずれかを極めるのではなく全てを極めることによる高みに、人々は魅せられるだろう。
その結果、彼女は黒の派閥の協奏者として君臨する。
精霊使いとして大成する。大成しすぎてしまう……。
「わかっていたことだ。危険を覚悟してでもあの残滓を排除して、無理やり先に進むしかなかった」
繰り返しすぎた。
あれ以上繰り返すと、あの魔族の残滓はさらに肥大化して手の施しようがなくなっていた。
だから、シエルとピルカヤに頼るしかなかった。
「……俺たちでピルカヤの計画を阻止しないとね」
ヴィルタの言うとおりだ。
先には進んだ。もう後戻りはできない。できるけれどそれは二度と御免だ。
シエルの死による後戻りなんてしたくない。
「シエルはきっと調和の精霊使いになる」
トゥリが想像する未来にたどり着くだろう。
そうして、今回と同等の規模の魔法を扱えるようになったそのとき、ピルカヤは全力を出せる姿で顕現する。
用済みとなったシエルを殺すことはないだろうけれど、シエルはピルカヤを命懸けで止めるだろう。
そうして死んで巻き戻る。
「四つの派閥によって、黒の派閥を抑制した意味も無くなったか」
「でもほっとしているわ。シエルがもう辛い目に遭わなくて済むんだから」
……それでも、死ぬよりはましだと思う。
そんな僕の考えはきっと間違っていたんだろうな。




