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黒はすべてを混ぜる色 ――忘れられる少女と、忘れない者たち  作者: パンダプリン


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第46話 調和の中心

「よし、行こう! リセアちゃん。リーヴァちゃん!」


「いや、そこまで気合入れなくていいわよ。試験用の演習場に行くだけじゃないの」


「シ、シエルちゃんは元気だから……」


「甘やかしたら駄目よリセア。全部肯定したら、好き放題されるわよ」


 甘いねリーヴァちゃん。

 全部肯定しなくても好き放題するのが私なんだから!

 それに私たちだけ三人チームなんだから、気合を入れないと他のチームに笑われちゃうよ。


 というわけで黒の派閥の三人で試験用の演習場へと到着した。

 一瞥されるも今は嫌がらせとかされないねえ。

 それだけ試験に集中しているということで……つまり、普段は集中力が不足している?


「お前ら本当に三人だけでいいのか?」


 先生が最終確認をしてくる。

 でも大丈夫! 良いも悪いもないから!

 そもそも黒の派閥には三人しかいない。四人目を集めてチームを組むなんてできないんだよねえ。


 それを理解しているからこそ、先生は特例として三人での試験を許可してくれた。

 採点も三人での連携による部分を見てくれるので、出力は周りよりも地味かもしれないけれど、試験には影響なし。

 なら、なんの問題もない!


「大丈夫です!」


「そうか。まあお前らの努力は見てきた。気負わず挑めよ」


「は~い」


 そうして私たちの試験が始まった。

 さあ、ここはドカンと派手に花火を打ち上げよう!


「いやあ。どうなることかと思ったね」


「本当よ。まったくもう。無茶してあんなに魔力を使っちゃって」


「面目ない」


 リーヴァちゃんが言うとおり、私は試験で少し無茶をしてしまった。

 周りの大規模な魔法に近づくため、三人とはいえできる限りの大きな魔法を使おうとしたのだ。

 そうして大量の魔力を放ったところ、リーヴァちゃんとリセアちゃんが制御にけっこう手こずってしまったみたい。


「でも、二人のおかげで大成功だね」


「まあ、三人であれだけ練習したからね。多少の出力が増したところでなんとかなるわ」


「シエルちゃんの魔力。操作しやすいからね」


 結果としては、三人で四人分くらいよ魔法を放てたと思う。

 これは私たちも一目置かれたんじゃないかなあ。

 手応えを感じながらも試験の終わりを待つ。


 大丈夫。余力はだいぶ残しているから。

 協奏者四人から聞かされた、魔族の残滓が来たとしても十分迎え撃てるはず!

 まさか、協奏者のみんなからそんな恐ろしいものの存在を聞かされるとは思わなかったけど、みんなで頑張って倒しちゃおう!


 精霊くんも同じ魔族として協力してくれるみたいだし、みんなの力が合わさればきっとなんとかなるよね。

 そのために、協奏者四人が付きっきりで私に指導してくれた。

 その努力を無駄にするつもりはないよ。私は。


『……シエル。来たみたいだよ』


 精霊くんが知らせてくれる。

 嫌そうな顔をしていることから、同じ魔族って括られるのも嫌なのかもしれないね。

 味方ではなく敵。というか嫌悪する存在なのかな?


「シエル」


「うん。わかってるよトゥリちゃん」


 みんなもそれが近付いていることに気づいたらしい。

 カリオ先輩はすでに生徒たちを避難させようとしている。

 イルマ先輩は先生に事情を説明し、何が近づいているのか知らせている。


「全員校舎に退避しろ。以前のモンスターよりも厄介かもしれないぞ。これは」


 先生は即座に判断して、カリオ先輩と一緒にみんなを避難させているけれどちょっと間に合わないかも。


「行こう! トゥリちゃん。ヴィルタさん先輩」


「くれぐれも無茶しないようにね」


「わかってます!」


「怪しい……」


 な、なんで!?

 トゥリちゃん、その疑いの眼差しはこれから一緒に戦う友人に向けるものじゃないよ。


 っと、そんなことを考えている余裕ももうないね。

 それがいよいよ接近したことで、生徒たちから困惑の声が漏れた。

 大混乱が起こりそうだったけれど、そこはさすが先生とカリオ先輩。

 しっかりと収めてこちらに駆けてきた。


「お前らは下がっとけ」


「いえ。先生こそ生徒を守ってください」


「お前らも生徒だろうが」


 たしかに……。

 ただ、先生一人であれをなんとかできるのかな?

 そして私たち五人でなんとかできる?


「カリオ。教諭が協力してくれるならチャンスだ」


「……そうだな。先生、あれは危険です。だから僕たちにも協力させてください」


「……くそっ。わかった! 悪いが俺だけでは手に負えない。お前らと協力して止める。その間に他の先生方を呼ぶ必要がある」


「それがいいと思います」


 ということは連絡が必要だねえ。

 精霊くん。いける?


『余裕』


 頼もしい返事とともに精霊くんの反応が魔石から消える。

 かと思えばすぐに戻ってきてくれた。


『すぐこっちに来るってさ』


 さすが精霊くん! 仕事が早い!

 なら私もそれをすぐに伝えなくっちゃね。


「先生! 先生たちへの連絡は精霊くんにしてもらいました!」


「よくやった! 助かる」


 なんて話していると目の前には黒い球体がやってきた。

 ただの球体ではなく、なんかぼとぼとってヘドロみたいなのが垂れている。

 そのたびに精霊くんが嫌そうな顔をするから、きっとあれが魔族の残滓でもある濁った魔力なんだろうね。


「時間稼ぎだ。無理に倒そうなんて考えるなよ」


「はい!」


 先生の指示はしっかりと聞き、それでもあれをできる限り押しのけようと魔法を放つ。

 黒い球体の体は、そんな魔法を次々と体内へと沈めていく。

 う~ん。効いているのかどうかもわからないねえ。


 先生は時間稼ぎって言ったけど、協奏者のみんなすごい勢いで攻撃してない?

 なんか親の仇のかってくらいに魔法を叩き込んでいるんだけど。

 先生もちょっと反応に困ってるねえ。


「ちっ、駄目か」


 そしてカリオ先輩や。あなた普段はもっと爽やか系の話し方じゃないですか。

 もしかしてそっちが素ですか? そっちはそっちで嫌いじゃないですけどね!


「う~ん。協奏者たちのおかげで接近は止められてるけど、全然効いてないねえ」


「それでいい。無理せずに他の先生方の到着を待ったほうが確実だ」


 それもそっかあ。

 ちょっと試したいことがあったけど、先生の判断に従って私も微力ながら攻撃し続けよう。

 精霊くんいくよ~。


『あの程度も倒せないなんて、ほんと力が衰えて嫌になるなぁ』


 そうは言うけど、精霊くんも十分すごいからがんばって!


『ボクもっとすごいんだよ? シエルがもっと褒めたくなると思うけどなぁ』


 終わったら褒めるからがんばって!

 精霊くんが諦めたように攻撃を続ける。うわあ、すごい。

 炎の球がズガガガガって何発も撃ち込まれてる。さっすが精霊くん。


『でも効いてないよ。あ~嫌だ嫌だ。この程度の出力じゃ、こんなやつも倒せない』


 出力が足りないのかあ。

 う~ん……。やっぱりちょっと試したかったなあ。

 でも今の時点で均衡は保っているし、さすがに下手な博打はよくないね。


「ちょ、ちょっとなにこれ!?」


 背後からの叫び声に、私も先生も協奏者たちも顔を向ける。

 するとそこには小さな黒い球体がそこら中に浮かんでいた。

 えっ!? あれもこの魔力の仲間ってこと!?


『というよりは、こいつの分体かな? 性能は低いから本体はこいつだろうけど、あれを操れるなら面倒だね』


 面倒っていうか大ピンチじゃない!?

 私たちの黒飴通せんぼ作戦が意味なくなってる!


「た、助け……」


「嫌っ! やめて! こないで!」


 小さな黒い球は触れた人たちを包み込んだ。

 まるで影が立体化したような、真っ黒な人間の彫像のようなものがそこら中に作られていく。

 大丈夫かな!? あれって、息できてるのかな!?


『呼吸もそうだけど、魔力がやばいかもね。あの小さな球体が魔力を吸収して、こいつに送り込んでいるみたいだよ?』


 なんかやばそう!

 こうなったらもう時間稼ぎがどうとか言っていられない!

 でも、あの大きい黒飴は私たちの攻撃でもぴんぴんしている。

 となると、ここはひとつ博打だね!


『いいねぇ。ボク嫌いじゃないよ? そういうの』


「先生! トゥリちゃん! ヴィルタさん先輩! イルマ先輩! カリオ先輩!」


 私が叫ぶと、みんなすぐにこちらを見てくれた。

 なら、そのまま私の案を伝えてしまおう。


「試験みたいに協力魔法で一気に吹っ飛ばしましょう!」


「とはいっても、いくらお前らでも即興でなんとかできるか? 教師である俺だって、お前たちに合わせてなんて難しいぞ」


「大丈夫です!」


「根拠は? さすがになんの根拠もないのに、危険なことはさせられない」


 先生は心配そうに聞いてくる。

 そうだよねえ。今の均衡を崩してまでやる価値があるのかってことだろうけど、私には自信がある。

 なんせ、入学してからずっと協奏者の誰かが私と一緒に魔法の特訓をしてくれていたからね!


「毎日協奏者と特訓したので、私ならみんなの魔力を制御しやすいです!」


「それなら僕たちだってできる。シエルに無茶をさせる理由にはならない」


 カリオ先輩私のこと名前で呼んだ?

 いや、今はそんなこと気にしている場合じゃない。


「でも、先輩たちは得意な属性に特化してますよね?」


「くっ……」


 というわけで、ここは全属性を学ぼうとしている私が適任なのだ。

 先輩たちはすでに各々の属性だけを磨き上げている。

 だから、他の精霊を完全に調和させるってことは難しいはずなんだよね。


「大丈夫です! 私は毎日練習したので! それに、失敗しても先生と協奏者がいますから!」


「……考えてる時間はなさそうだな」


 先生の決断は早かった。

 そうだよね……。今もみんなが魔力を奪われている。

 演習場は黒い人形だらけになっている。あの中にいる生徒を助けるのが何よりも優先。

 失敗したら……。まあ、そのときは奥の手を使うしかないね!

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