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黒はすべてを混ぜる色 ――忘れられる少女と、忘れない者たち  作者: パンダプリン


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第45話 カサブタだらけの魂

「全員で協力しても倒せなかった。そもそも、遭遇すらできずにシエルと鉢合わせている」


「そういう運命ってことかしら……」


 イルマの弱気な声に皆の表情が曇っている。

 ともすれば、自分も折れかねないのが現在の状況だ。

 不安になるのも仕方がない。最初は倒せていた魔族の残滓は回を追うごとに強くなる。

 僕とヴィルタとイルマが別行動して遭遇できなかったが、前回戦ったトゥリの所感では前々回より強かったらしい。


「四人で力を合わせても無理。教師に支援要請しても毎回シエルが先に遭遇する。……どうすればいいんだよ」


 そういう運命か……。

 彼女が死ぬのが運命? そんなこと許せるはずがない。彼女は困難なんて乗り越えて生きていくべきだ。

 なら、今できる中で最善の手はなんだ? 協奏者四人で協力して戦うことか?

 ……四人か。


「四人で無理なら、五人で戦えば……」


「五人って、まさかシエルのこと言ってる?」


 ヴィルタの目が厳しく歪む。だけど僕を責めているというわけではない。

 こいつもわかっているんだろう。シエルがどうあっても巻き込まれることを。

 であれば、あらかじめシエルと共闘してあれを倒すしかない。


「シエルはいつも土壇場で戦うことになっていた。だから、命懸けの時間の巻き戻しなんかに頼っているんだ」


「その前にあの脅威を教えて、五人でなんとかするように協力を要請するってことね」


 幸い今回は時間に余裕がある。

 巻き戻った直後なのに、ヴィルタだけでなくイルマがこうして話に参加している。

 自分だけの前で死なれたことがよほど堪えたのか、いつもは静観を決めるトゥリさえもここにいる。

 四人でさらに強くなることは大前提。

 そこからさらに、シエルが学校に入学した後という限られた時間であれに勝てるほど強くなってもらわないといけない。


「まずは、僕たちがさらに強くなることが急務だね」


「そうね……。私ももう逃げたくない。記憶を封じてなんかいられない」


 これまでのイルマとトゥリを責めるつもりはない。

 そして、この後の巻き戻しで彼女たちがいつも通りに目を背けても責めない。

 それだけ辛いということは知っている。

 僕とヴィルタのこれは半ば意地みたいなものだけど、いつまで折れずにいられるかはわからない。

 いっそ国外にさらおうとしたこともあるくらいだからな……。


「今回こそ終わらせよう」


 僕の言葉に三人は頷いた。

 もう一度だってやり直したくない。それはここにいる全員の総意なのだから。


    ◇


「う~ん……。君さぁ、危なっかしい!」


「ええ!? そんなつもりないんだけど」


 精霊くんが私をまじまじと見つめるから何かと思ったら、そんなことを言われちゃった。

 自称魔王軍四天王のピルカヤくん。……じゃなかった、精霊くんって呼ぶようにしないとね。

 そうしないと私のことだから、ついぽろっとピルカヤくんって呼んじゃうだろうし。


「自覚ないんだよねぇ。君みたいなタイプはさぁ」


「無自覚美少女シエル・アルモニアってこと?」


「ほんと、いい性格してるよ。まあボクは嫌いじゃないけど」


 こうしてケラケラと笑う姿を見ると、彼が魔王軍四天王だったなんてまるで信じられないよねえ。

 人間である私と友好的だし、魔王軍というのはやっぱり自称なんじゃないかな?

 それとも、魔王軍って実はいい人たちだったとか? そうなると勇者様が間違っている? それとも女神様?

 う~ん……。まいっか。過去の話はわからない。大事なのは、今ここにいる精霊くんと仲良くしたいってことだからね。


「ボクが面倒を見てあげている以上、変な騒動に首を突っ込んで簡単に死なれても困るよねぇ」


「そのときは精霊くんが助けてね」


「たしかにボクは最強の精霊だけど、今は生まれたばかりだからそんなに強くないんだよ」


 そうなのかなあ?

 私が思うに精霊くんってかなりの魔力だよね?

 生まれたばかりというのが冗談に思えるほど、そこらの精霊たちよりもすごい存在ってことはわかる。


「周りと比べてるでしょ? でも周りよりすごいのは当然。なんせボクは元四天王だからね。だけど、今はそのときよりずっと弱いのさ」


「ほええ。魔王軍四天王ってすごいんだねえ」


「うん、すごいよ。すごかった……。でも今はいないから」


「その人たちの代わりは無理だけど、私は精霊くんと友達だよ」


 精霊くんはその言葉を聞いて少し嬉しそうに微笑んだ。

 炎でできた体なのに表情豊かだねえ。

 まあ、精霊ってわりと感情的らしいから、全身で感情を表現できるようになっているのかもね。


「それじゃあ、やっぱりそんな友達が簡単に死んだら困るね。ちょっと特別な魔法を教えてあげるよ」


「え、特別!?」


 いい響き! なんかこう、奥の手って感じがしていいよねえ。

 精霊くんの言葉に前のめりに食いつくと、彼はやっぱり笑いながら話を続けてくれた。


「まあ簡単に言うと時間を巻き戻す魔法さ」


「すごそう!」


「すごいよ~? なんせボクが女神と戦うために習得した魔法だからね」


 神様相手の魔法なのかあ。そりゃあすごいはずだよね。

 でも、そんな精霊くんも負けたとなると、女神様ってすごい神様だったんだろうなあ。


「習得したころにはもう全部意味なかったけどね。しかも、魔方式の構築はできても出力が足りなかったし」


「ってことは発動はできないってこと?」


「ボク一人じゃ無理だね。ただ、忌々しいことに精霊は人間との共鳴で力を増やせる。それは勇者パーティの精霊使いのおかげで嫌というほど理解した」


 やっぱり、精霊と人間が仲良くできたらさらに強力な力を発揮できるってことだね。

 それにしても時間の巻き戻しかあ……。

 なんで女神様を必ず倒すとかじゃないのかな?


「君の実力は並だよ」


「急な低評価!」


「でも才能はすごいと思う。それにボクとの相性もいい。だから、君とボクが協力すればできるはずなんだ。時間の巻き戻しが」


「ほほう。私にそんなすごい力が……」


「ただ、これを使ったら死んじゃう。死んだ後に巻き戻る」


 それだけ負荷がかかるってことかな?

 でも巻き戻るのなら平気? ……死ぬのって痛いのかなあ?


「はい! 先生」


「なにかな? シエルくん」


「死ぬのが痛すぎて、巻き戻った後も心が壊れないですか!」


「大丈夫大丈夫。だって、巻き戻った後は君もボクも記憶がなくなってるもの」


「ありゃ~」


 それはちょっと……。本当に最終手段だねえ。

 記憶がなくなるってことは、今までの楽しい思い出が全部消えちゃうってこと。

 その状態で巻き戻った時間を過ごすってことは、今の私が死んじゃうのと同じじゃないかなあ?


「君が言いたいことはわかるよ。どうせ記憶がなくなるのなら死ぬのと変わらない」


「そうそう。ちょうどそう思ったんだよ」


「でも、それでも避けたい未来があるのなら、君は使うだろうね。ためらいなく」


 そうかな? ……たしかにそうかも。

 今後仲のいいお友達ができたとして、その人のためなら私はためらいなく魔法を使えると思う。

 ……んん? あれえ?


「どうしたの?」


「なんか、思っていたよりもその魔法を使うことに抵抗がないなあって」


 私、そんなに考えなしだったっけ?

 なんでだろう。なんかあまり大したことないから、ピンチのときは使っちゃえくらいな感覚だよ。


「う~ん……。いざというときためらわないのはいいけれど、あまり気軽に使うのはおすすめしないよ?」


「だよねえ。わかった! じゃあ教えて。ピンチのときにだけ使うことにするね」


「そうだね。君、本当に危なっかしいからね~」


「モンスターなら倒したじゃん!」


「ボクの力でね」


 ぐぬぬぬ……。ああ言えばこう言う!

 だけど、そんな関係は嫌いではない。やっぱり精霊くんはいい精霊だと思う。

 きっと魔王軍というのが冗談なんだろうね。

 これからも私の友達として一緒にいられたらいいなあ。

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