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黒はすべてを混ぜる色 ――忘れられる少女と、忘れない者たち  作者: パンダプリン


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第44話 心の中に染み込むインク

「どうだ~!」


 私たちは見事に試験で爪痕を残した。

 というか、かなりいい感じだったんじゃない!?

 旧演習場では思うように精霊魔法を使えなかったけど、今回は完璧に上手くできたと自画自賛してしまう。

 私たちって、本番に強いタイプなのかな?

 いっそそれを売りにしていこうか。本番に強くなれる黒の派閥なんてどうかな?


「結果は後日知らせる。今日は全員しっかりと休んでおけ」


 先生の言葉で締められて、試験はつつがなく終わるのだった。

 いやあいい感じだったねえ。さすがに協奏者チームには勝てないにしても、それでもだいぶ好成績だったと思うんだ。


「先輩たちこの後どうします?」


「さすがにかなり疲れたわ……。部屋に戻って休むつもり」


「だな……。魔力制御に神経がすり減った気がする」


 ありゃりゃ。先輩二人はお疲れみたいだねえ。

 さすがにここで止めてもまずいし、お礼を言って先輩たちとはお別れした。


「リーヴァちゃんは?」


「私も疲れたわ……。というか、あんたなんでそんなに元気なのよ」


「山育ちだからかな?」


「山にそんな効果ないと思うわ……」


 リーヴァちゃんも疲れている。

 となるとやっぱり解散して、先生の言うとおり似ゆっくり休むべきなのかもしれないね。

 そうと決めたら私も部屋に……。


「シエル」


「おや、トゥリちゃん。お疲れさま~」


「うん」


 トゥリちゃんは最近とても距離が近い。

 それは今日も変わらないようで、まるで私を引き止めるかのように立っている。


「どしたの?」


「……シエルはこの後どうする?」


 はっ! これはまさか試験の打ち上げのお誘い!?

 みんな疲れ切っていたから諦めたけれど、トゥリちゃんとならできるってこと!?


「な、何も予定はないよ?」


「そう。よかった……」


「……」


「……」


 え、終わり!?

 単に私の予定を聞いただけ? しかも予定がなくてよかったってとういうこと?

 ええい! それなら私のほうから誘えばいいよね!


「トゥリちゃん。この後試験の打ち上げしようよ~」


「……いいけど。同じ派閥の人は?」


「みんな疲れて休むみたいだよ。そういえば、トゥリちゃんのところの派閥の人たちも……」


「そっちと同じ」


「ありゃりゃ」


 みんなそれだけ全力だったんだねえ。

 たしかに、みんなの結果はすごかった。

 全力で試験に取り組んで精霊魔法を行使した結果だね。


「そう考えると、まだ元気なのって私たちくらい?」


「そうかも」


 私は山育ちだし。トゥリちゃんは協奏者だからねえ。

 ……ということは、他の協奏者たちも元気かもしれない。

 いっそのこと、協奏者全員で打ち上げを……。


「ヴィルタさん先輩たちも誘ってみない?」


「……お兄ちゃんたち、用事があるからどこかに行った」


「あちゃあ」


 一歩出遅れちゃったか~。

 となれば、ここはトゥリちゃんと二人で。


『シエル』


 どうしたの? 精霊くん。

 珍しく精霊くんのほうから話しかけてきた。

 実体化しているときはともかく、魔石にいるときはあまり喋らないのにね。


『なんか嫌な感じの魔力を感じるよ』


「嫌な感じの魔力?」


 トゥリちゃんの肩がぴくっと動く。

 あ、精霊くんとの会話なのに思わず口にしちゃった。


「打ち上げするんでしょ? 行こう」


 トゥリちゃんが私の手を引いて食堂へと向かう。

 積極的なトゥリちゃん! 珍しいねえ。


『まいっか。ボクの気のせいかもしれないし』


 そうなの?

 あ、わかった。それってもしかして旧演習場の魔力じゃない?

 あそこの魔力淀んでいるって精霊くんも言ってたし。


『それかなあ? ボクはあそこの変わり者たちと違ってまともな精霊だから、たしかにあの場所の魔力はあまり好きじゃないね』


 そういうことなら試験も終わったことだし、あの場所にはあまり近づかないようにしよっか。

 私も精霊くんに我慢させるつもりはないからね!


『そうだね~。また他の派閥の演習場を間借りしよっか』


 まだまだ肩身は狭いねえ。

 そんな反応を返すと、精霊くんはケラケラと笑うのだった。

 笑い事じゃないからね!


    ◇


 シエルを旧演習場から引き離すことはできた。

 途中でピルカヤが魔族の残滓に反応したときはどうしようかと思ったけれど、ちょっと強引に手を引いたら従ってくれた。

 ……反省。私はずっと同じ行動を繰り返すって決めたんだから、今のはよくない。

 でも……シエルと試験の打ち上げってしたことない。

 だから楽しみ……。


「おお、わりと元気……でもないねえ? なのに騒ごうとはしているのかな? たくましいねえ」


 食堂には大勢の生徒がいた。

 シエルの言うとおり、試験で疲れ果てているはずなのにそれでも騒ぎたいみたい。

 ただ無理しているということはわかる。

 明日辛いことになりそう。……そっか、明日があるんだ。

 よかった、今回は明日がある。あの変な魔力に邪魔はされない。


 なんて考えた私が悪いんだと思う……。


「な、なんだあれ!」


「先生たちをすぐに呼ばないと!」


「協奏者は!? いえ、協奏者じゃなくていい! 誰でもいいからあれを止めて!」


 食堂の喧騒は一気に狂乱へと変わってしまった。

 あれがここに現れるなんて……。

 お兄ちゃんたちは旧演習場に向かったはずだから、きっと入れ違いになっている。

 私が止めないと……。


「シエルはここで待ってて」


「トゥリちゃん。あれをやっつけにいくの……?」


 不安そうな声で尋ねられる。

 だけど大丈夫。私は強いから。がんばって強くなったから。

 あなたのほうが強いから炎の協奏者に向いていると言ったけど、あれはあくまでも一度目のやりとりというだけ。

 今の私なら、ピルカヤを従えるあなたよりも……。


「よしっ! それじゃあ友情パワーでやっつけよう!」


 本音を言うと嬉しかった。

 あなたと一緒に目標に向かって進む。それだけで私はとても楽しい。

 だけど、今回はそうはいかない。相手はかつての魔王軍の負の遺産。

 そしてあなたを何度も殺している存在。

 だから、お願いだから……もう私の目の前で死なないで。


「駄目……」


「大丈夫。私、こう見えてけっこう強いんだよ?」


 知っている。

 あなたは強い。協奏者に迫るほどに強い。

 そして何よりも心が強い。どんな嫌がらせにも負けない姿は、私たちにとって辛く悲しいものだった。

 諦めてくれたら今すぐにだって助けられるのに……。


 でも、あなたは諦めない女の子だから……。

 私たちはそれをよく知っている。

 知っているからこそ何もできない自分が嫌になる……。


「……倒せないから、先生たちが来るまで時間稼ぎ」


「わかった!」


 それが私にできる精一杯の譲歩。

 はっきり言う。シエルが無事なら他の生徒が犠牲になろうと知らない。

 だから、私がシエルを守る。逃げないのなら一番近くで守ってみせる。


「トゥリちゃん!」


 私のシエル。私の恩人で親友で大好きで……。

 なのに、なんで。なんで! いつも私の目の前で死んじゃうの!


 シエルの体からは信じられないほどの魔力が放たれている。

 ああ……。時間が巻き戻る予兆だ。

 今回もシエルは命を賭けて私を守ってしまった。

 こんな命……シエルなんかに守られる価値なんてないのに……。


「大丈夫だよ」


 どうしてあなたは笑っていられるの?

 辛くて苦しくて痛いはずなのに……。

 手を伸ばしても届かない。忌々しい泥のような黒い魔力は、シエルの体を小さく小さく折りたたんでいった……。


    ◇


「ああっっ……!!」


 気持ちが悪い。体中がベトベトと汗にまみれている。

 わかっている。悪夢と現実の狭間のような恐ろしい体験。

 小さな手を見ると、自分の時が戻ったことを実感する。


「トゥリ!」


「お兄ちゃん……」


 小さなお兄ちゃんが慌てて駆け寄ってくる。

 私は見た目相応の子供になってしまったのか、お兄ちゃんに抱きついて泣いてしまった。


「シエル……死んじゃった。私の……目の前で」


「そうか……。辛かったね……」


 救いたい。救いたい。

 死に行くあなたを救いたい。

 ドロドロとした感情は、きっとヘドロのように濁っている。

 あなたと交わったそのときから、きっと私は黒く染まってしまったんだね。

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