表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
黒はすべてを混ぜる色 ――忘れられる少女と、忘れない者たち  作者: パンダプリン


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

43/59

第43話 不用心極まりない要人

「来ない」


 俺のところにシエルは来なかった。

 それはいいんだけど、それなら他の誰かのところに行ったのかな?

 トゥリかカリオかイルマのところに。

 それなら安心できる。だけどそうじゃないのだとしたら……。


「お兄ちゃん」


「トゥリ」


 わざわざ水の派閥の演習場まで顔を出すということは、トゥリのところにもシエルは来ていないんだろうな。

 じゃあカリオかイルマ?

 とりあえずここにいても仕方ない。俺はトゥリと二人で手分けしてそれぞれの演習場へと向かった。


「そうか。お前たちのところにも来なかったか」


 カリオは難しい顔をして呟くように言った。

 無理もない。俺たち四人のところにシエルは来なかった。

 今までは試験のための訓練として、どこかの演習場を時間外に使ってもらっていた。

 だというのに、前回は旧演習場なんて場所を使うようになり、あまつさえそこで魔族の残滓に囚われた生徒に殺された。


 だから今度こそ今までどおりに各演習場を利用していいと事前に教えたのに、今回も旧演習場で訓練している。

 このままだと、また旧演習場がシエルを殺すかもしれない。


「前回シエルが死んだ場所だ。旧演習場についても今回は調べてある。教師立ち会いのもとで淀みを調査したが、あれは魔族の残滓ではないはずだ」


「じゃあ、旧演習場で訓練すること自体は問題ではないということね」


 問題となるのはやはり魔族の残滓だろうな。

 いまだ発見できていないそれは、確実にシエルを蝕む敵となる。

 撃退できるかどうかは別として、これまでそうならなかったことはない。


「そもそも、なぜあれほどまでに膨れ上がっているかを考えると、やはりあれも何度も同じ時を繰り返しているからだ」


 それに異論はない。

 でなければ、最初に敵対したときと比べてあれほど強くなるはずがないのだから。


「だから、あの魔力自体に意思があるとしたら、僕たちから逃げるだろうな。取り込む相手を見つけて力をつけるその時までは」


「じゃあ、また暴れるまで手出しはできない?」


「調査は続ける。だが、そう思ったほうがいいだろうな」


「あとは……俺たちのうち誰かがシエルについておくべきなのかもしれない」


「そうだな。そうしないとまた守れなくなる」


 前回はシエルがいない間にあれを発見し、四人で解決しようとした。

 しかし俺たちで太刀打ちできないうちにシエルがやってきてしまった。

 あれじゃあ意味がない。結局シエルが犠牲になるだけだ。


「そもそも、あれを倒せるほど強くなれたのかしら……」


 イルマの心配そうな声に皆表情は暗い。

 前回であの強さだった。今回さらに強くなっているとしたら、自信を持ってあれに勝てると断言できないんだろうね。


「シエルをあれに近づかせないようにするため、一人は戦えないと考えるとかなり厳しい相手になりそうだ」


 なら教師に協力を請うべきか……。

 それほどの一大事であることはたしかだけど、いつどこで発生するかさえもわからない。

 警戒はしてくれてもいざというときにすぐに参戦してくれることは期待できないな。

 それでもやらないよりはマシだけど……。


「ピルカヤの仕業じゃないのよね?」


「だろうな。あれの目的はもっと先にある。シエルを強化して自身を完全復活させるよう実体化させること。ここでシエルが死ぬことは、あいつにとっても不本意なはずだ」


「だからといって、ピルカヤに協力を要請するわけにはいかないけどね」


 そうしたら自然とシエルも参戦してしまう。

 それにいくらピルカヤといえど、完全復活していない状態では分が悪いだろう。

 その結果が前回のシエルの死亡と巻き戻しなんだし。


「とりあえず……。試験後はシエルを連れて旧演習場を離れよう」


 話せど話せど、俺たちはそんな消極的な案しか出せなかった。


    ◇


「試験試験~。もうすぐ試験~」


「ご機嫌?」


「当然だよトゥリちゃん! なんせ、私たち黒の派閥の実力を披露するんだからね! やっちゃうよ~? 私たちどかんとやっちゃうよ~?」


「ん。がんばって」


 他人事だねえ。

 トゥリちゃんも同じ試験を受けるはずなのに、もう準備万端ってことかな?

 さすがは協奏者ってことだね。でも、私はそんなトゥリちゃんさえも超えてみせるのだから、当日はトゥリちゃんといえどライバルだね!


「ところでトゥリちゃんや」


「何?」


「どうしてそんなぴったりとくっついているのかな~って」


 近くない? おのれ猫少女。距離感も気まぐれだというのか。

 でもそういうところもかわいくて私は好きだなあ。


「そのまま私の射程に入ったままなら、私がイルマ先輩くらいトゥリちゃんをかわいがります」


「……」


 離れない! というかちょっと迎え入れる感じになってる!

 い、いいの? やっちゃうよ? 思い切り抱きしめて頭とかなでちゃうよ?

 その後私は思う存分トゥリちゃんを愛でるのだった。

 いつもはここまでさせてくれないのに、なんか今日はいいことあったのかな?

 それとも単なる気まぐれ? どちらかわからないけれど、今日はいい日だねえ。


 さらに後日。

 またも私の近くに人がいる。ただ、トゥリちゃんではない。


「……あの~」


「どうしたの? シエル」


「いえ、ヴィルタさん先輩。いつもより近いな~なんて」


「ごめんね。嫌だった?」


「い、いえいえ! 私はどんとこいですけど!」


 そう答えるとヴィルタさん先輩はその距離を保ち続ける。

 あれかな? トゥリちゃんのお兄さんということで、やはり猫属性だから気まぐれなのかな?

 ということはヴィルタさん先輩も愛でる? 愛でちゃう?

 ……いや、さすがにそれはまずいかあ。


「試験はうまくいきそう?」


「そうですねえ。やるだけやりますとも! 後は知りません!」


「シエルらしいね。いつでも全力だ」


「全てを使い切る全力がモットーですので!」


 あ、あれ? なんでちょっと悲しそうな顔するんですか?

 もしかして、私残念な子だと思われています?

 ただ、余力を残すよりはそっちのほうが性分に合っているんだよねえ。


「シエルはいつも頑張っている。たまには力を抜いていいんだよ」


「なるほど! 脱力と力みの緩急ですね!」


 頭をぽんぽんとやさしく触れられるがまるで嫌じゃない。

 さすがコワモテイケメンなヴィルタさん先輩。

 行動の一つ一つがなんとなく色っぽいねえ。この人は。

 今日はヴィルタさん先輩とそんなたわいのない話をした。


「……」


 その翌日。今度はイルマ先輩と一日中一緒に行動している気がする。

 なんだろう。もしかして、私協奏者に監視されてない?

 試験前で問題を起こしそうだから、問題児の私を実力者たちが監視しているってこと?

 お、おのれ精霊学校……。私じゃなくて、私を排斥しようとする生徒にも問題があると思うんですけど~?


「ど、どうしたのかしら? 表情をころころと変えて」


「精霊学校がひどいんです!」


「えっと……。落ち着いて一から話してみましょうか?」


 ということでイルマ先輩に思いのたけをぶつけると、イルマ先輩はやさしく頭をなでて……。

 やさしいかな? ちょっと激しくない? 私をかわいがるモードのイルマ先輩になってますよね!?


「イ、イルマ先輩?」


「はっ! ご、ごめんなさい。一度触れたら一気にかわいいが押し寄せてきたわ。油断していた」


「すみません。私がかわいくて」


「そういうところがたまらなくかわいいのよね!」


 イルマ先輩のタガが外れた。

 結果、私はイルマ先輩と仲良く一日を過ごすこととなったのだった。

 そしてその翌日。


「ですよね!」


「うるさいな。君は」


 カリオ先輩は顔をしかめて注意する。

 ただ、ここは学校の廊下だから全面的に先輩の言うことが正しい。

 なので私はすぐに小声で謝った。


「っと、すみません」


「素直に反省できるところは、君のいいところだと思うよ」


「あとは黒の派閥としてがんばっているところも加点してください」


「そこはむしろ減点ポイントだから」


「行動力がある女シエル・アルモニアです」


 しかしそんな言い訳はカリオ先輩には通じない。

 こちらを残念そうな目で見つめてから、カリオ先輩は視線を逸らした。

 せめてなんか言って! ただの残念な子で終わらせないで!


「イルマにも話したみたいだけど、君の考えで合っているよ。試験前でみんなピリピリしている。だから、余計なトラブルを起こさないように、僕たちで君に付き添っているんだ」


「ですよね~。ご迷惑をおかけします」


「いや、これは君のせいとも言えないから、謝る必要はないよ」


 おや、意外だなあ。

 てっきり騒動の原因である私に全ての責任があると思っていたのに。

 カリオ先輩は相変わらず厳しくも平等だ。


「私、カリオ先輩のそういうところいいと思いますし好きです」


「……はいはい。ありがとう」


 まだまだ仲良くなるには大変そうだねえ。

 だけど、なんとなくカリオ先輩とも親しくなってきていると思うのだ。

 それが気のせいでないことを願うとしようかな!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ