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黒はすべてを混ぜる色 ――忘れられる少女と、忘れない者たち  作者: パンダプリン


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第42話 君が死んだ場所

「あら、シエル」


「イルマ先輩。おはようございま~す」


「……」


「かわいがります? どんとこいですけど!」


「そういうところがほんっとに! かわいい!」


 朝からイルマ先輩に愛でられる私。

 周りの痛い目は、イルマ先輩の態度ではなく私に対してなんだろうなあ。

 効かないけどね! たとえ気づいたとしても、そのたびに気にしなくなっていく術を身につけているからね。


「そろそろ試験ですねえ」


「……ええ。そうね」


 若干の間があった。

 イルマ先輩ほどの人でも試験に緊張しているのかな?


「大丈夫ですよ。イルマ先輩ならなんとかなりますから」


「ありがとう。お互い頑張りましょ」


 そう言って笑顔で応援してくれるイルマ先輩。

 いい人だなあ。でも、問題が一つあるんだよね。

 私たち、試験中は演習場を借りられないということが発覚しているので。

 さてどうしたものか……。


 まあ、黒の派閥の集まり場所である空き教室に行ってからだね。

 そこでリーヴァちゃんや先輩たちと相談してから決めよっと。


    ◇


「カリオ。ヴィルタ」


「来たか。イルマ」


 相変わらず二人のほうが先に集まっている。

 ほんと、仲いいわよね。この二人。


「トゥリは……やっぱり?」


「ああ、トゥリは怖がってるよ。自分が動いた結果でシエルを殺してしまうことを」


「そう……」


 それを責めることはできない。

 私たち四人は過去に自分の行動のせいでシエルを死なせてしまっている。

 あの子は、私たちを守って死ぬことが一番多い。

 トゥリには耐えられないんでしょうね。自分のせいでシエルが死ぬなんて。


「前回の魔王軍の残滓は前々回より大きくなってたわ。やっぱり、あれも私たちと同じなんじゃないの?」


「その可能性は高いだろうな。僕たちがいくら強くなっても負け続けている。時が戻るたびにあれが強くなっていることがわかる」


 まず乗り越えなければならない災厄があれほど強くなるなんてね……。

 最初の巻き戻りではあれを乗り越えられたはずなのに、今ではすっかりと大きな障害として立ちはだかっている。

 一筋縄ではいかないということかしら。


「旧演習場はもう調べたの?」


「ああ。だけど今回は単なる魔力の澱みだった。あれは移動して潜伏している。誰かを取り込むのが校内とは限らない」


 嫌になるわね。見つけることすら困難だというのだから。

 前回は私の派閥の者たちを依り代に暴れていた。その前はヴィルタの派閥。さらにその前は町の中で暴れていたっけ。

 未然に防げればいいんだけど、魔族の残滓っていうのはどうにも見つけにくい。


「もっと大勢に協力して探してもらうのは……」


「目立つような真似をすれば、それこそ逆効果だろうな」


 そうよね。

 そもそもそんなことができるのなら、黒の派閥を解体するようにシエルを説得しているもの。

 だけど私たちにはそれができない。


「ピルカヤが常にシエルの傍にいるからね……」


 元魔王軍四天王である大精霊ピルカヤ。

 シエルが契約した正真正銘の怪物。あれが近くにいる限り、下手なことは言えないし動きを悟られてもいけない。

 不幸中の幸いは、あの精霊も時が巻き戻ったら忘れられるってことくらい。

 皮肉なものね。私たちを苦しめる時の巻き戻しが、あいつを出し抜くための唯一の希望になっているのだから。


「今回もピルカヤの存在は確認できた」


 カリオの言うとおり、シエルはわりと気軽にピルカヤを実体化させている。

 ここに入学してからはそれ以外の精霊を実体化させて魔法を使うよう訓練しているけれど、切り札はあくまでもピルカヤ。

 当然よね。一度死んで再誕したことで大幅に弱体化しているとはいえ、元魔王軍四天王以上の精霊なんて存在しない。


「残滓をなんとかする。その後はピルカヤの復活を阻止する。それでようやくシエルを救える」


「それもわからないけどね。なんせ、ピルカヤ復活を阻止できたことなんてないんだから」


 ヴィルタの言うとおりね……。

 だからこそ、魔族の残滓なんかでこれ以上足踏みするわけにはいかないわ。

 場所がわからないとしても、なんとかして探し出さないとまずいことになってしまう。


「探ってみるわ。まずはあれをどうにかしないと、話にならないんだから」


「ああ。僕たちもそのつもりだ」


 こうして今後について話したけれど、はっきり言って何も進展していない。

 どこにいるかわからない魔力の澱みを対処して、それが終わったら今度はピルカヤを対処する。

 はあ……。本当に厄介な話ね。だけど、諦める理由なんて一つもない。

 あの子がこれ以上犠牲になるところなんて見たくないのだから。


    ◇


「旧演習場?」


「ええ。なんでも淀んだ魔力ばかりで精霊が極端に少ないらしいわ。だから、今は使われていない演習場なんですって」


「演習場だったってことは、広いよね?」


「でしょうね」


「魔法の訓練もできるよね!」


「もちろん」


「さすがリーヴァちゃん!」


 リーヴァちゃんは、私たちの試験に向けての訓練場問題を一発で解決してくれた。

 まさかこんなに早く解決できるなんて、この子優秀だなあ。


「先生に聞いただけよ」


「リーヴァちゃん偉い!」


「と、当然でしょ。私は優秀な精霊使いなんだから」


 それはそう! でも、だからこそ偉い!

 ということで、私たちはさっそく四人で旧演習場とやらに向かうことにした。

 なんでも先生が常に見張る必要があるらしいけれど、そこは快く協力してくれたのでありがたく見張っていてもらおう。


「というわけで、よろしくお願いします!」


「まあいいさ。やる気がある生徒を指導するのは嫌いじゃないしな」


 いい先生だねえ。あとは黒の派閥への他の生徒への態度を何とかしてほしいけれど。

 まあ、私がけろっとしているから口出ししづらいんだろうなあ。


「それにしても、本当に精霊が少ないわね」


「魔力がどんよりとしているから、精霊も近づきたくないのかもな」


「先生。本当にここで訓練して大丈夫なんですか?」


 みんなが言うこともわかる。

 なんかあまり心地のいい場所じゃないからねえ。

 ただ、先生はそれに関してはあまり気にしていないみたい。


「だからこその俺だ。いいか? くれぐれも訓練するときは俺抜きでやろうとするなよ」


「もしかして、わりと危険な場所なんですか?」


「事故が起きたことはないが、この淀みに関しては諸説あるからなあ。単なる淀みならいいが、魔族の残滓の可能性がゼロとはいえない」


「ええ!? 危険じゃないですか!」


「そればかりは完全に調べ切るのは無理なんだよ。活性化して初めてわかるからな」


 つまり、油断していると背後から襲われる可能性が……。

 そうして実戦的な直感とかも得ることで、成長につなげてしまえってことかなあ?


「安心しろ。俺たち教師が近くにいるうちは見逃さない。だから、何度も言うがくれぐれも教師抜きで訓練しないように。……まあ、忘れ物を取りに行くくらいならいいが」


 これはしっかりと言うことを聞かないといけないみたいだねえ。

 訓練する場合は絶対に先生と一緒。間違っても独断で自分たちだけで立ち入らないほうがよさそうだね。

 とにかく今は安全ということなので、私たちはしっかりと試験に向けての訓練に勤しむのだった。


 途中で興味を持った生徒たちが来たけれど、ほとんどが私たちを馬鹿にするためだったみたい。

 試験で忙しいって言ってたのにな~。暇なら演習場貸してくれたらいいのに!


 ただ、それだけではなく協奏者の四人もバラバラに訪れてくれた。

 この人たちはみんな私たちの心配をしてくれたらしく、時間外での演習場の使用を許可してくれたから良い人だねえ。

 でも大丈夫! 今は私たち専用の演習場が手に入ったのだから!

 ……まあ、ここが演習に向かないならお言葉に甘えよっかな~。

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