第41話 それでも君に救いの手を差し伸べない
「リーヴァちゃ~ん。いい加減イルマ先輩のこと受け入れたら~?」
「何言ってるのよシエル! イルマ先輩のあの姿は否定しないけれど、私なんかをかわいがるなんてもったいないわ!」
強情だなあ。
イルマ先輩へのあこがれが強いからか、リーヴァちゃんは自分を軽々しくかわいがることは認めていなかった。
あっちのイルマ先輩が本当のイルマ先輩だということはわりとすんなり受け入れたのにねえ。
「とにかく! かわいがられるのはシエルだけにしてもらうわよ」
「え~。私は別にそれでもいいけどさあ」
恥ずかしがり屋だねえ。
だというのに、こうして学校内でも特に目立つ黒の派閥に加入してくれたのだから、彼女には友人として感謝するばかりだよね。
でも、やっぱりもっともっといるんと思うんだよねえ。一つの属性だけじゃなくて、四属性をそれぞれまんべんなく学びたい人って。
「派閥ってなんなのかなあ」
「どうしたのよ? 急に」
いやあ。こんなものがあるから、わりと不便な学校になっていると思うんだよねえ。私は。
たしか、カリオ先輩のお兄さんの時代にはすでにあったという話だし、かなり伝統的なものでもあるんだよね?
それでうまくいっているから、この学校ではそれが当たり前になってしまっている、と。
「解体しようよ~。全部混ぜて黒にしちゃおうよ~」
「私に言われてもねえ」
今は私とリーヴァちゃん。それにローデン先輩とカリナ先輩の四人だけだからなあ。
先はまだまだ長いよねえ。
「そもそも。制服の色はともかくとして、黒の属性ってイメージがあまり良くないんじゃない?」
「あ~……」
それには少しだけ納得してしまう部分はある。
各属性による制服のイメージカラーは、赤と青と緑と茶色。
元々の色である黒は属性のイメージカラーというよりも、どうしても魔族をイメージしちゃうらしいからねえ。
あとは濁って溜まってしまった負の魔力とかも、そういう色を連想してしまう。
「黒。いいと思うんだけどねえ」
「まあ、制服自体はけっこういいわよね」
「でしょ? ということで、黒制服布教をがんばっていこう」
「逆効果にならないといいけど……。私もこの制服に変えてから、それなりに嫌な態度取られるし」
恐るべきは黒という色ってことだね。
白制服とかに変えたら、案外みんながすんなりと加入してくれるかも?
「そういえば黒の魔力といえば」
リーヴァちゃんはふと思い出したかのように話を変えた。
「この学校内にも淀んだ魔力っていうのがあるみたいよ?」
「え、そうなの?」
淀んだ魔力はさっき話していた負の魔力に近しい存在。
ただ、自然に発生する魔力にもどうしても淀んでしまう魔力ってあるからねえ。
そういうのは案外何も害がない魔力だったりする。……まあ、取り扱いにくいって話らしいけれど。
ただ、見た目はほぼ同じだけど濁った黒の魔力は話が別。
かつて人類は魔王軍を戦っており、魔族が扱う魔力という負の遺産が今も世界の様々な場所で黒の魔力として出現することがある。
魔族の魔力だからねえ。きっと取り込んだら人間の体には悪影響間違いなしだね!
『そんなことないけどね~。どっちかというと、溜め込んでいる間の負の感情が悪さしてるよ。それ』
おお。さすがは精霊くん。
元魔王軍らしい知識で補足をしてくれた。
なるほど。魔力そのものは問題なかったけれど、長い期間で変な力が追加されてしまったってことだね。
『だからシエルも気を付けなよ~? 君、すぐに変なことに首を突っ込むんだから』
平気平気。私一人のときはそこまで危なっかしいことはしないから!
『それ、君以外の誰かが一緒にいるときは、危なっかしいことするってことじゃん』
それはねえ……。
だって、友達が危険な目に遭うというのなら、私一人で逃げるわけにもいかないでしょ?
精霊くんは納得いかなそうな雰囲気だったけれど、こればかりは仕方ない。
そういうものなのさ。人間というものは。
「ちなみに、その淀んだ魔力ってどこにあるの?」
この学校の全てを知っているわけじゃないけれど、これでも色々と回ったはず。
だけどそういうのは見覚えないんだよねえ。
「さあ? 噂だからね。そもそも存在するかも怪しいんじゃない?」
「そっかあ」
なら下手に探すのもねえ。
私だって、何も面倒ごとに好んで首を突っ込みたいわけではないのだ。
……まあ、モンスター襲撃のときに戦ったりしたから、信じてもらえないかもしれないけどさあ。
でもあれは襲われている人がいたから話が別だからね。
「げっ、黒制服が二人も」
「……行きましょ。シエル」
「そうだねえ」
やっぱり私たち黒の派閥への人当たりはなかなか厳しいものがある。
私はなんか大丈夫。まるで慣れているかのように耐性があるからねえ。
ただ、リーヴァちゃんが大丈夫かどうかが心配だなあ。
「なによ?」
「いや、リーヴァちゃんは黒の派閥に入って平気だったのかなあなんて」
「なに? あんたまさかあれしきのことで折れそうになっているんじゃないでしょうね?」
「い、いや。私というかリーヴァちゃんが」
「私は自分の意思で黒の派閥に入ったの。そのほうが精霊使いとして強くなれると思ったからね。だから、あの程度のこと何でもないわ」
強いねえ。リーヴァちゃんは。
私と違って嫌がらせを受けて平気というわけじゃないのに。
彼女はそれを受けてなお、私たちの仲間でいてくれるというのだ。
なら、私もがんばって仲間を増やしていかないとね!
◇
「……」
「あの……。どうしました? ヴィルタさん」
「いや、なんでもない」
「そ、そうですか」
俺の顔と声から機嫌が悪いと思ったんだろうね。
話しかけてきた派閥の生徒はそのまま黙ってしまった。
普段ならばそれは勘違いであり、俺の人相の悪さと声の質による誤解だ。
だけど、今に限っては誤解なんかじゃない。
「ちょっと、黒制服が堂々と道を歩くんじゃないわよ」
「は~い。……おっと」
「ちっ……。忌々しい」
学校内を歩くたびに周囲の生徒から文句を言われ、それでも彼女はまるで気にしていないように振舞う。
それが生徒たちの癇に障り、単なる嫌がらせはどんどんエスカレートしていく。
今では、ああして精霊魔法を使って足を引っかけて転倒させようとする光景も珍しくない。
「ああ、また黒制服ですか。ほんと、目につきますよね」
「……」
ここで俺たちが彼女を守ったこともあった。
俺たちという後ろ盾と彼女の持ち前の人当たりの良さ。それで黒の派閥が五つ目の派閥として認められたことはあった。
それでうまくいくと思っていた。なんせ、彼女には多くの協力者がいたから。
だけど、仲間が増えるということは彼女が身を挺して守る者も増えるということ。
ただでさえ、仲間以外もそうして守ろうとする彼女には、仲間が増えすぎることが必ずしもいいことではない。
……俺たちだけでいい。俺とトゥリとカリオとイルマ。四人だけで十分だ。
だから、黒の派閥を助けることはできない。
こうして彼女がいじめられ続けて、それを黙って見ることしかできない。
……だってそうだろ。黒の派閥が大きくなればなるほど、彼女はどんどん力をつけてしまう。
その結果、彼女が破滅するなんてあってはならないんだ。
「おや、ヴィルタさん先輩。こんにちは~」
「ああ、こんにちは。君、いつも元気だよね」
「それだけが取り柄です!」
それだけじゃない。君のいいところはもっとたくさんある。
そんな君を救わずに、こうして手を差し伸べているふりをする自分のなんと醜いことか……。
本当に、自分自身が嫌になる。
カリオはすごい。彼女のためを思って時に嫌われることすら厭わないのだから。
俺には無理だ。彼女に味方をできないのに、彼女にとっていい人でありたいと思っている。
本当に……卑怯者。
「大丈夫ですか? ヴィルタさん先輩、なんか辛そうですけど?」
「大丈夫だよ」
「そうですか? 何かあったらいつでも言ってくださいね? ヴィルタさん先輩を私が守ってあげますから!」
それは……命をかけてなんだろうね。シエルはやさしいから。
現に何度かそうして守られてしまったことがあるから。
こんな醜悪な自分だけど、これだけは君に約束しよう。
「そう。それじゃあシエルのことは俺が必ず守るよ」




