表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
黒はすべてを混ぜる色 ――忘れられる少女と、忘れない者たち  作者: パンダプリン


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

5/6

第5話 画用紙に黒インク一滴落ちた

「それじゃあ、今日は精霊使役中の魔力の変化について観測しましょうか~。みなさん、二人組で精霊の使役と観測を行ってくださいね~」


 むむっ! これはよくない!

 問題に気付いた私はすぐに高々と手を挙げた。


「はい。どうしました~? シエルさん」


 先生はそんな私に発言する許可をくれる。

 当たり前といえば当たり前だけど、先生はまともに相手をしてくれる。

 私の黒い制服をうとましく思っているのはあくまでも生徒だけ。

 まあ、生徒たちが勝手に作って守っているしきたりなんだから、先生までそれに乗ることはないか。


 そんなことを改めて考えながら、私は当面の問題を相談すべく口を開いた。


「私と組む生徒がいるとは思えません!」


「ど、堂々と言うのね~」


 もじもじと言っても仕方ないですからね!

 先生からしても話題にしづらいような問題ということはわかるけれど、それで授業が進まないのであればいよいよこうして黒い制服を着る意味さえなくなってしまう。

 ということで、ここは先生と組むか、もしくは別の観測手段を考えてもらいたいのだ。


「そ、それなら私が……」


 しかしここに救世主が降臨した。


「リセアちゃん!」


 彼女の申し出に講堂内がざわめく。

 当然だよね。だって黒い制服がぼっちになっていい気味だ、なんてみんな考えていただろうから。

 でも今日の私は昨日と違う。なんせ、友達が一人できたのだから!


「なんだ。落ちこぼれと問題児が傷を舐め合うようになったのね」


 失敬な! 傷一つない新品なんだけど!

 そんなことを言ってきたのは、昨日リセアちゃんに指導していたけど見限った先輩だった。

 よく見るとイルマ先輩もいる。そりゃあそっか。風の精霊の授業なんだし。

 だからリセアちゃんもいたんだね。


「はいは~い。授業と関係ないことは話さないようにね~」


 ここから怒涛の悪口が飛んでくるかと思ったけど、先生があっさりと収めてくれた。

 さすがは先生。ついでにこの学校の変な風習も消してくれないかなあ。

 だけどさすがにそこまでは望めず、私とリセアちゃんは周囲からなんとなく嫌な目で見られつつも召喚室へと向かった。


 体に魔力測定用の腕輪が取り付けられる。

 これは装着者の魔力の値が確認できるアイテムらしく、その結果はリセアちゃんが見ている結晶に投影されているみたい。

 今は精霊の力は借りていないので、ごくごく普通の数値が出ているはずだ。


「見えてる~?」


「う、うん。大丈夫だよ」


 計測はできているようなので、それじゃあ精霊を呼び出そう。

 精霊くんにお願いすると彼は快く引き受けてくれた。

 実験室内だけではなく近くにいた精霊たちも呼んでくれたのか、私の中に大きな魔力が注がれていく。

 あとはこの力を使って、精霊のうちの一人を実体化させるだけ。


「とりゃあ!」


 気合十分。風の精霊さんは見事に私たちの目の前に姿を現した。

 精霊くんほどの魔力はないけれど、この子も十分魔力に満ちている。

 これなら風の力を十分に使いこなしてくれるはずだね。


「精霊さ~ん。ちょっと風吹かせて~」


 ……やっぱり言葉は返ってこない。

 でも、私のお願いはしっかりと聞いてくれるみたいで、私たちの頬を風が優しく撫でていった。

 暑い日とかには便利だよねえ。


「ちっ、なんであれだけの実力があって黒なのよ」


「力の無駄ね」


 なんて言葉もついでに風で飛ばしてくれるといいんだけど、精霊さんたちにとってこの手の言葉はあまり理解されていない。

 人間ってややこしいからねえ……。

 まあ、実力を認めてもらえたんだと前向きにとらえよう。


「やっぱりシエルちゃんすごいね……」


「数値上がってた~?」


「うん。記録しておくね」


 ふむふむ。呼び出す前がやっぱり一番高いね。

 そんでもって呼び出した後は、精霊さんの体の構築に消費して減っているっぽい。

 お願いしたときもわずかに減っている。


 つまり、準備段階で精霊たちから力をもらって魔力を溜め込み、誰か一人を実体化させるのに魔力を使う。

 その後も色々なお願いをするたびに減っていく。

 だから、最初にどれだけ魔力を溜められるかは大切だね。


「そろそろ交代する?」


「あ、私は……。呼べないかもしれないから」


「いや、きっとできるよ! できなくてもがんばろう!」


 せっかくの授業なんだから、まずはやってみないと損だからね。

 駄目なら駄目で、先生から何か意見がもらえるかもしれないし。

 そんな私の勢いに押されたのか、リセアちゃんは戸惑いながらも気合を入れて測定用の腕輪を身につけた。


「そ、それじゃあ呼ぶね……!」


「ちゃんと計測するから大丈夫だよ~」


 数値は見えている。記録もとった。

 あとはここからリセアちゃんの魔力がどう変動していくか観測を……。


「……」


 上がっている。きっと精霊たちに呼びかけている最中なんだろうね。

 それは正しい。私も同じやり方だったから、正しい手順を踏んでいる。

 ……上がってるよね? 記録した数値と比べても明らかに増えているし。

 ということは、準備は十分できている。


「……お願い!」


 あとは精霊を実体化させるだけ。

 ……なんだけど、やっぱり昨日と同じで精霊の姿は見えない。

 ほんのわずかに風は発生するけれど、これが精霊を使役した結果なんだろう。

 昨日と違って窓も扉も締め切った屋内だから、自然現象でないことはわかる。


「見た? あれ」


「ほんと、つくづく落ちこぼれね」


 むむ……。私はいいけど、リセアちゃんにそういうことを言うのは。

 っと、リセアちゃんが先生に頭を下げて召喚室を出ていっちゃった。

 まずはそっちを追わないと!


 私もすぐに召喚室を後にする。

 リセアちゃんは……ああ、こっちみたい。ありがとう精霊さん!

 私が実体化させた風の精霊さんは、それを教えてくれてから再び魔力に戻った。

 人間と違って悪意がないねえ。


 少しだけ、田舎に思いをはせてしまう。

 小さな村だったけれど、少なくともみんないい人だった。

 都会って大変なんだね。

 っといけない。中庭の噴水広場だったっけ。


「あ、いたいた! リセアちゃ~ん」


 声をかけるも反応はない。

 精霊さんの言うとおり。リセアちゃんは噴水の前のベンチでふさぎこんでいた。

 私は彼女の横に座って噴水を眺める。

 話せないというのなら、無理に話させる必要は無い。


 そうして二人揃って何も言わずに時間だけが流れていく。

 水の流れる音だけが聞こえてくる。こうしていると、ここが都会だということも忘れそう。


「私才能ないのかなあ」


 気持ちが落ち着いたのか。リセアちゃんが口を開く。

 才能かあ……。私、一つ気になっていたことがあるんだよね。


「リセアちゃん。むしろ才能あると思うよ?」


「え……」


「だって、溜め込んだ魔力の量は十分だったから」


 そう。準備段階の魔力の測定結果を見たけれど、精霊さんを実体化させるのに十分な量だった。

 つまり、あとは実体化の魔力操作が足りないだけ。

 魔力そのものはあるのだから、そこさえ直せばむしろすごい精霊使いになると思う。


「魔力があるのなら、あとは精霊実体化と精霊使役の魔力技術だね! よし、そこをがんばって鍛えよう!」


「ええと……。あの」


 おや? もしかして気付いていないのかな。

 リセアちゃんは十分に素質があると思うんだけど。

 そうだよね? 精霊くん。


『まあね~。その子の魔力、精霊たちを実体化させられるだけの量はあったよ~』


 精霊たちって、なんか自分は含んでないような言いかただねえ。


『ボクは普通の精霊よりすごいからね。精霊使いの力を使わなくても実体化できるもん』


 それはそうだった。どうやら精霊は精霊でいろいろあるみたい。

 すごい精霊は精霊使いなんていなくても実体化できる。力も自由に使える。

 だから、私たちが扱う精霊は本来は自分だけでは実体化もできず、力を行使できない精霊たち。

 初日の授業で習った初歩のお話だ。

 つまり、精霊くんはすごい!


『へへん。ボクすごいでしょ~』


 っといけない。今はリセアちゃんのことだった。

 話を中断させたせいか、精霊くんはちょっと気を悪くしたように魔石の中で黙ってしまった。


「ええとね……。シエルちゃん。ちょっと見てほしいの」


「へ、何を?」


 リセアちゃんはそう言いながら、再び魔力を集めはじめた。

 精霊をここで呼ぼうとしているのかな?

 たしかに、外にいたほうが風の精霊は呼びやすいけど……。

 って、火の精霊? それもしっかりと実体化している!


「リセアちゃんすごい!」


「えっと……。私、実は精霊の実体化はできるの」


「あれ? それじゃあさっきはなんで」


 何か事情があってわざと失敗していたってこと?

 でも、それならあんなに落ち込まないよね?


「私、風の精霊以外は得意なんだ」


「へ~……。え、じゃあなんで風の派閥に入ったの? もしかして間違えて?」


 風の精霊以外が得意だというのなら、この学校の変な風習に則ったら三つの派閥に入るべきじゃないの?

 わざわざ唯一の苦手属性である派閥を選ぶだなんて、不幸な行き違いでもあったのかな。


「私、どんな精霊も満遍なく使役できるようになりたくて。それで一番苦手な風の派閥に入ろうと思ったの……」


「そうだったんだ……」


 つまり、リセアちゃんって将来は全部の属性を扱える精霊使いを目指すってことじゃない?

 それならせっかくの学校だし、四つの属性を全部学びたいと思うんだ。

 なのに、この学校の派閥のせいでそれができないのかあ。


「ねえリセアちゃん」


「な、なに?」


「リセアちゃんの制服も黒くしよう!」


「ええっ!?」


 だってそうだよ。

 本当は全ての属性を学びたいのにそれができない。

 リセアちゃんは炎も水も土も得意なのに、風の派閥にいるせいでそれが誰にも伝わらない。

 それはおかしい。やっぱりこの学校はおかしいし納得いかない。


「精霊のこと学びたいんでしょ? 本当は風だけじゃなくて、炎も水も土も」


「そ、そうだけど……」


「それなら、私と一緒に全部学べばいいんだよ」


「……」


「黒の派閥は誰でも歓迎してるよ~? 今ならナンバーツーだよ?」


「ナンバーワンは?」


「当然私!」


 そう言うとリセアちゃんは笑いだした。

 よかった。もう落ち込んではいないみたい。

 これでついでに本当に私と同じく、全ての属性を学ぶようになればいいんだけど。

 そこまでは……。


「うん。そうだよね。せっかくここに入学したんだから、好きなもの全部学んでいいんだよね」


「お?」


「シエルちゃん。私、あなたと同じ黒い服にするよ」


「……えっと。大丈夫? わりと陰険なことされている自覚はあるよ?」


「だって、風の派閥にいてもどうせ落ちこぼれって馬鹿にされるもの。なら、あんまり変わらないから」


 たしかに、今のままだとリセアちゃんは実力すら知られずにそんなレッテルを張られてしまう。

 ……うん。それなら、実は風以外はすごいリセアちゃんのほうが、誰かに馬鹿にされたりしないよね。


「大歓迎だよ! よろしくねリセアちゃん!」


 がっしりと両手を握りしめると、リセアちゃんは少し戸惑いながらもやっぱり微笑んでくれた。

 昨日は友達になったけど、まさか今日は同じ派閥になってくれるなんて。

 こうして私は本当に全校生徒黒服計画の一歩目を踏みしめたのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ