第6話 彼女が獣人なら猫だと思う
協奏者。それは各属性の精霊使いのトップを指す称号らしい。
どうせまた生徒たちが勝手に付けたんだろうなと思ったけれど、実はこっちのほうは学校の伝統ある称号だとか。
「じゃあ今の協奏者って、先生たちが任命しているんですか?」
「う~ん。そこはちょっと違うのよねえ。各派閥で選出して私たちに報告しているわ。ほら、今の学内の力関係って生徒たちがしっかりと決めてるでしょ?」
「しっかりとというか、ものすごい自治だと思ってます!」
「そうよねえ。でも、それでうまくいってるのも事実だし、教師の中にはこのやり方を賛成する者もいるからねえ」
生徒が権力を持ちすぎるのも、どうなのかと思いますけどねえ。
ただ、結果を残しているのなら仕方ない面もあるのかな?
……なら、私も結果を残せば黒の派閥が正式に認められるんじゃない?
「先生! 私黒の派閥でトップなので、黒の派閥の協奏者じゃないですか!?」
「そ、そういうふうに、自称するのはさすがに許可できないかな~」
「ですよね~」
それが許されるのなら、学内みんなが協奏者だからね。
だから派閥内で誰がトップか決めて、それを先生たちが事後承諾しているってことか。
「ちなみに、誰が協奏者なんですか?」
「まず、私の授業を選択している風の派閥はイルマ・ヴェントールさんね。それで土の派閥はカリオ・エルディン王子。水の派閥はヴィルタ・エヴァリスくん」
「それと黒の派閥のシエル・アルモニア」
「さ、さりげなく自分を混ぜちゃだめよ~」
駄目か。
それにしても、全員知っている人だった。
王子様はそうだとわかっていたけれど、やっぱりヴィルタさん先輩とイルマ先輩も実力者だったんだねえ。
「あれ? 炎の派閥は?」
入学した日に吹っ飛んできた先輩。
たぶんあの人がそうだよね? 協奏者がどうだとか周りが言っていたし。
「それなんだけど。今、申請中なのよ」
「申請中?」
「ええ。なんでも勝負したら負けちゃったとかでね? それなら、勝者のほうが協奏者にふさわしいなんて言われてるみたいよ?」
「うええ……。そんな弱肉強食の世界だったんだあ」
トップになっても一度負けたら降格とか。
トップはトップで気が休まらないだろうねえ。
「普段はそんなことないんだけどね~。今回は勝った子が勝った子だから」
うん? なにか事情がありそうな予感。
ここは首を突っ込めと私の勘が囁いている!
「ところで、そろそろホームルームじゃないかしら?」
「あ」
急いで戻ったほうがいいね!
というか、授業は選択式だからクラスとかホームルームとかあまり意味なくないかな!
まあ、クラスメイトから私色に染めてやってもいいけどね。
お前たちも黒く染めてやる!
「よし、間に合った~!」
幸い時間には間に合ったようで、クラスの人たちはまだ談笑していた。
私を一瞥するもできる限り気にしないようにしているのは、噂が広まっているせいだろうね。
「ぎりきりだね」
だけど、彼女だけは話しかけてくれる!
「トゥリちゃん!」
なお、その後はそっけないのがトゥリちゃんなのだ。
ただしこれは私が嫌われているとかじゃない。
彼女は誰に対してもこんな感じ。マイペースというか、周りに合わせないのはある意味では私と一緒だね。
ここから私の話術によって、トゥリちゃんとの会話を広げ……。
ようと思ったけど、その前に先生が来たから今日はホームルームが先だね。
「ということだが、シエル・アルモニア」
「はい!」
「その……問題はないか? 正直、いまだにその制服を貫くとは思わなかったが」
「問題というか、もはやいじめです!」
「だよなあ……。お前ら~。制服がどうとかくだらないことはやめなさい」
先生が毎度のことながら注意してくれるも、クラスメイトはバツが悪そうにするだけ。
まあ、しょうがないよねえ。どの派閥も上級生の言うことには従っているみたいだった。
なら、入学したての私たちには、それに逆らうことなんてできない。
直接的な被害を加えたり、何か嫌味を言ってこないぶんマシなほうだよね。
「みんなが静かになるまで一秒かかりませんでした!」
「お前はいつも賑やかだなあ。シエル・アルモニア……」
「持ち前の元気だけが取り柄です!」
さて、今日も無理そうだし諦めよう!
こうなったら、リセアちゃんと真っ黒同盟で傷を舐め合わなくっちゃ。
「仕方ない。ホームルームは終わりだ」
その言葉でクラスは解散。私もあとは寮に戻るだけ。
リセアちゃんのところに行くために、帰り支度をすませていると珍しく誰かがやってきた。
「帰るの?」
「うん。帰るよ~」
話しかけてきたのはトゥリちゃんだった。
珍しいね。この子いつも猫みたいにどこかに消えているのに。
「ちょっと話いい?」
これは、お友達の予感!
ならば当然私の返事は決まっている。
「もちろんいいよ!」
私が勢いよく両手をとろうとすると、トゥリちゃんはさっと身をかわしてしまった。
う~ん……やっぱり猫みたい。
ただ、こうして話してくれるのは嬉しいし、今日は勘弁してあげよう。
「あなたには」
「トゥリさん! 今日こそ引き受けてもらうわよ!」
「またきた……」
なんか騒々しい人たちがやってきた。
赤い制服だから炎の派閥。名前を呼んでいたことからもトゥリちゃんの知り合いっぽいね。
話を中断させられたトゥリちゃんは、どことなく不機嫌そうに眉が下がっている。
「今、話し中」
「あ、ごめんなさい。……ってなんだ。黒じゃない」
「あなたも黒になりませんか?」
「ならないわよ! なんなの急にとんでもない提案してきて!」
駄目だった。
私の完璧な勧誘術をかわすなんて、さすがは精霊使いの先輩だね。
いつか絶対黒に染めてやると密かに誓い、私はトゥリちゃんに話しかける。
「明日にしよっか? 同じクラスだし、いつでも話せるから」
「駄目。それにこの人たちとも関係する話だから?」
この先輩たちと関係する話……。
はっ、まさか!
「やっぱり黒に染まりたいってことですね! いいでしょう! 私がしっかりと色むらの無い黒に……」
「そんなはずないでしょ! トゥリさん、どういうことなの?」
「だって、私よりシエルのほうが強い」
「ん? 肉体的な強さなら自信あるよ」
野山を駆けまわる系女子を舐めてもらったら困る。
都会っ子の体力には負ける気がしないからね!
「まさか……。よりによって黒を推薦するんじゃないわよね!?」
「私より強いんだから間違ってない。でしょ?」
何の話? 一応当事者っぽいのに、私だけ話についていけてない気がする。
少なくとも体力についての話じゃないね。
「もしも~し、トゥリさんや。何の話をしているの?」
「あなたが炎の派閥の協奏者になる話」
「聞いてないけど!?」
何それ! 私は黒の派閥の協奏者なんだけど!
……まあ自称だけどさ。
それにしたって、学校内で腫物扱いの私をなんでまた協奏者なんかに……。
はっ! まさか、そうして目立たせることで私への迫害を強めようとしている?
トゥリちゃん。なんという恐ろしいことを……。
「とにかく駄目よ! 入学初日で協奏者に勝ったあなただからこそ、私たちは次の協奏者として推薦しているんだから!」
「私はシエルほどの精霊は実体化できない」
「そ、それは……。でも駄目! その子が協奏者なんかになったら、炎の派閥が黒の派閥になっちゃうじゃない!」
「漏れなくなんでも黒くするシエル・アルモニアです」
「聞いたでしょ! とんだ危険思想の持ち主よ!?」
冗談なのに~。……半分は。
「考えておいてね!」
「はあ……。しょうがない」
先輩は言いたいことだけ言って退散してしまった。
要するに、トゥリちゃんが協奏者として推薦されているってことだね。
へえ、すごいなあ。私と同じ一年生なのに。
「ならないの? 協奏者?」
「あなたに勝てないなら、学校のトップじゃないから」
「私はなんかもう番外って感じだけどね!」
なのであくまでも四属性のトップとかは無関係。
そんな思いが伝わったのか、トゥリちゃんはまたもため息をついた。
幸せが逃げるよ~?
「でもすごいねえ。入学初日で吹っ飛んだ先輩は協奏者で、トゥリちゃんとの勝負に負けたんだ」
「すごくない。だって……あなたのほうがすごいから」
「私? 精霊の実体化ってことなら、精霊くんがすごいだけだからなあ」
「……それ。いや、なんでもない」
「え、気になる」
そこでやめる?
だけどトゥリちゃんは気が変わったのか、帰り支度をしてそのまま行ってしまった。
う~ん。自由な子だよねえ。
それにしても、協奏者かあ。一年生なのに学校でのトップだなんて、私の友達はすごいなあ。
◇
「……やっぱり。前とおんなじ」




