第38話 遠い昔の生き証人
「こ、殺されたって穏やかじゃないねえ……」
「でしょ~? ほんっと最悪だったよあいつ!」
「そんなこと言っていたら、女神様に罰がくだされないかなあ……」
ピルカヤくんはぷりぷりと怒っている。
こうしているとなんかかわいらしく、四天王って本当かなあという疑いばかりが深まっていく。
「いいんだよ。あいつも死んだもん」
「精霊くんが殺したのかなあ!?」
やっぱ危険だよ! この精霊!
この世界から神様がいなくなったのってピルカヤくんのせいなの!?
「ボクじゃないよ、ボクの仲間の四天王。リグマさんっていうんだけどさぁ。あっ、もうあのときはダートルさんになっちゃったか」
「魔王軍危険すぎない!?」
「……ま、そう思うよね~。いいよもう。全部終わったことだし」
ありゃりゃ。なんか黄昏ているというか、諦めているというか。
過去の仲間たちに思いをはせているのかな?
「楽しかったんだね」
だから、私はついそんなことを口にしてしまった。
ピルカヤくんはそんな私の言葉に驚いたように目を丸くする。
「うん、楽しかった。魔王様がいて宰相がいて、四天王に十魔将。あとは転生者や人類もけっこういたっけなあ」
いた。過去の話だ。つまり今はもう……。
当然だよね。だって魔王軍と勇者様の戦いなんて、名前が残らないほど遥か昔だもん。
精霊が長生きとは聞いていたけれど、まさかこうしてこの時代まで生き残るなんて……。
「あれ? さっき殺されたって言わなかったっけ?」
「言ったよ~? だから長い時を経てボク復活! って感じ。というか生まれ直しかなあ。生まれたばかりの精霊なの」
「じゃあ精霊くんって魔王軍の精霊とは別人?」
「そもそも人じゃないけどねえ。ま、話半分に聞いときなよ」
う~ん。どこまで本当なんだろう。
もしかしたら魔王軍四天王のふりをしている精霊なのかな?
でもいいや。たぶんだけどこの精霊はいい精霊だ。なので、私は当初の目的に戻ることにした。
「ピルカヤくん。友達になろうよ」
「え~。四天王だったらどうすんのさ? 君たち人類の大敵なんだけど」
「じゃあ、今から別の精霊ってことにしよう!」
「君、ボクが知っている転生者に似てるよ」
転生者はよくわからないけれど、知り合いに似てるのなら精霊くんもさみしくないんじゃないかな?
そして私にもようやく友達ができるわけだし、悪くないね!
「ま、いっか。死んだのも生まれたのも本当だし。今からボクは精霊くんになってあげるよ」
「そうそう。第二の人生楽しもうよ」
「シエルって言ったっけ? 君、うっかりボクのこと他人に話さないでよ? 君まで人類に狙われるからね」
「わかった。じゃあ、これからは精霊くんって呼ぶね」
「そこは……別の名前を考えるとかじゃないのかなぁ」
そうかな? でも、もしもそんな大精霊だとしたら、私が名前を考えるのは迷惑かもしれない。
ということで、今日からピルカヤくんは私の友達の精霊くんとなるのでした。
◇
「本よし。音楽結晶よし。お菓子よし」
大丈夫。ちゃんと全部持っている。
今日からは全寮制の生活だから、しっかりと忘れ物しないようにしないと。
「あのさぁ……。そういうときって、まずは教科書とか制服の確認じゃないの? ボク、精霊だから人間のことはわかんないけど」
……ん、デジャヴュ? それとも精霊くんに毎回注意されているから?
まいっか。精霊くんの言うとおり学校の準備を確認しに行こっと!
なんせ今日は精霊使いとしての第一歩を踏み出す日だからね!
精霊くんと出会ってからというもの、私は精霊魔法について色々学んだ。
さすがは自称元魔王軍の四天王だね。というか精霊という時点で思わぬ詳しさを見せてくれた。
なので今の私は我流の精霊魔法使いもどき。
村の中ではわりともてはやされたけれど、どうせならしっかりと学校で学ぼうと思ったのだ。
「シエル~。急がないと遅れる」
「そうだった! 精霊くん。魔石に入って~」
元魔王軍だなんていっても、その姿どころか名前すらもう忘れ去られているからね。
姿を見られたからどうのとかはない。
だけど、外で精霊くんの実体化をさせてしまうと、他の精霊たちが驚くみたい。
なので普段は魔石の中で魔力に近い状態になってもらう。
『忘れ物がないなら転移魔法陣まで移動しなよ~』
「もちろん! それじゃあ行ってきます!」
村に別れを告げて私たちは学校へと向かう。
精霊使いとして勉強し、人間の友達なんかもできるかもね!
と思っていたんだけどなあ……。
◇
「なんなの~。この学校」
制服の色がどうとか、学ぶ属性が一つだけとか聞いてない。
それもそのはず、それを言っているのは教師ではなく生徒たちなのだから。
「あ~あ。前途多難だな~」
先輩に向かって勢いよく全員を黒く染めるなんて言っちゃった。
さて、言っちゃったものは仕方ない。なんか周囲からの目線が冷たいねえ。
でも不思議と平気。なんでだろう? そんな体験したことないのに、なぜか慣れている気がする。
ま、気にならないならいいことだよね。
「ん? あれは」
私に制服がどうとか教えてくれた女の子だ。名前は……たしか、トゥリちゃん。
彼女は赤い制服を着ているから、炎の派閥ってやつに入るんだろうねえ。
身長は同じくらいだし、もしかしたら仲良くなれるんじゃないかなあ?
「お~い!」
「……」
私の声に、彼女はきょろきょろと周りを見回した。
なので急いで駆け寄ることにする。これで姿を見た瞬間に嫌な顔をされたらどうしよう。
「さっきはありがと~。制服のことなんて私全然知らなかったよ~」
「……でも、その結局黒制服なんだね」
「そりゃあ当然。私は全てを学びたいからね!」
「そんなことしなくても……」
おや? なにかまずかったかな?
トゥリちゃんは悲しそうな顔を浮かべた。
……けど、一瞬でそれもなくなった。眠そうな表情になっている。
「ごめん。忘れて」
「わかった! 忘れるのは得意なんだ~」
あれ? また悲しそう。
大丈夫かな? お腹痛いのかな? お腹空いたのかな?
『シエルじゃないんだから、お腹空いて悲しくはならないでしょ』
なるかもしれないじゃん!
お腹が空いてもいいことないからね。
悲しくなるか怒りっぽくなるか、そのどっちかだと思うんだ。
「大丈夫? パン食べる?」
「大丈夫」
遠慮しなくていいのにねえ。
トゥリちゃんは私に心配をかけたくないのか、そのまま少し話したら行ってしまった。
う~ん。食堂に向かったのかな?
『結局、腹ペコ扱いのままなんだねぇ』
お腹はいっぱいのほうがいいからね!
なんて話をしていると私もお腹が空いてきた。
今日は寮に戻ってご飯でも作ろっかな。
◇
覚えてない。なんにも覚えてない。
やっぱりシエルは何一つ覚えていなかった。
私とお兄ちゃんの仲を取り持ってくれたことも、命を懸けて守ってくれたことも。
……私たちの思い出が消えている。全てまっさらに消えていく。
あるいは真っ黒に……。黒、黒黒黒。だから黒は嫌い。
「黒の派閥なんて認めない」
私とシエルの仲を引き裂くことになるそんな色は認めない。
だけど……私は弱いから、行動できない。
お兄ちゃんやカリオみたいに動けない。
イルマみたいにあの思い出を封じることすらできない。
「見つけたわよ。トゥリ・エヴァリスさん」
ああ、また協奏者になるって話か。
最初はシエルを協奏者にしようとしていたっけ。
彼女は過去を教えたあのとき以外、全て黒の派閥になるからと断った。
「あなたに話があるの」
「いいよ」
「そう、ありがとう。あなたは炎の派閥の協奏者に推薦されているわ」
「やる」
「え?」
「炎の協奏者になる。そう言った」
ここを今度こそシエルの居場所にする。
だから、私は炎の派閥の協奏者になることを承諾した。
私にできることはこれくらいしかないから……。




