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黒はすべてを混ぜる色 ――忘れられる少女と、忘れない者たち  作者: パンダプリン


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第35話 人と精霊の本気

「なにここ。魔力が淀んでいてろくな場所じゃないわね」


 やっぱり先輩もそう思うみたい。

 私もあの黒制服のシエル・アルモニアと勝負したとき、まともな精霊魔法を行使できなかった。

 それ以前に実体化すらできなかった……。


「この魔力を取り込めば、あの連中みたいに強力な精霊魔法が使えるのかしら……」


 ここに集まる精霊ではなく、淀んだ魔力そのものを?

 たしかにそれは試してない。でも、本当にそんなことをして大丈夫なのかな。

 私もシエル・アルモニアも、あのときはそんなことしなかったけど……。


「まあいいわ。やるだけやってみましょう」


 先輩が精霊ではなく魔力だけを集めて取り込む。

 すると目に見えて大きな魔力が先輩の中で満ちるのを感じた。

 やっぱり、先輩の言うことは間違っていない。

 これだけの大きな魔力なら、黒制服たちにも負けはしない。

 そっか、これがあの連中の力の正体だったんだ。


「問題なさそうね。それじゃあ、あなたたちもやりなさい。四人であいつら以上の魔法を行使して、さっきの試験の結果を覆すわよ」


 先輩の言葉に私たちは魔力を取り込んだ。

 ……本当だ。ここの魔力、淀んでいるというよりも濃密なんだ。

 これだけの魔力があれば、あんな黒制服たちにだって負けはしない。


    ◇


『……』


 おや、どうしたの? 精霊くん。

 試験も終わり、私たちは満足いく結果を残せた。

 というわけで、あとはのんびりしようと思っていたんだけど。


『な~んか、嫌な感じの魔力を感じるよ』


 嫌な感じ? それって、嫌な精霊ってこと?


『精霊じゃなくてただの魔力だね。強い力だけど、真っ黒に濁っていて気持ち悪い感じ』


 黒制服を馬鹿にされた!?

 というわけでもなく、精霊くんのイメージではそう感じたってことだろうねえ。

 魔力に色はないけれど、精霊たちにとっては色がついているように見えるみたいだから。


『ちなみにボクが本気出したら七色の魔力になるけどね!』


 はいはい。そんなあからさまな冗談には騙されませんよ~だ。


『本当なのに~。……あれ? 本当だったっけ?』


 言ってる本人でさえよくわからないのなら、たぶん嘘だと思うよ。

 それで精霊くんが感じた嫌な魔力はどっち?


『ああ、いつもの演習場だね』


 旧演習場?

 たしかに、あそこの魔力は淀んでいるとは思ったけれど、精霊くん何も言わなかったよね?

 もしかして、わたしたちに気遣って黙っていたけれど、あの場所好きじゃなかった?


『あの程度なら何でもないんだけど、今はそれが集まってさらに気持ち悪い感じがする』


 なんだろう?

 気になるし、ちょっと様子を見に行ってみようかな。

 そうなると、まずは先生にお願いしないとね。


「せんせ~い」


「ああ、シエル・アルモニアか。訓練の成果は十分発揮できてたな。指導しがいがあるぞ、お前らは」


「ありがとうございます! っと、そのことなんですけど旧演習場に入りたいんです」


「試験が終わったばかりなのにか? 休むのも訓練のうちだぞ」


 さすがの私も今日はその予定だけど、気になることは先にすませておきたいからね。


「訓練はしません。ちょっと確認したいことがあるので、なんなら鍵を借りるだけでもいいですよ?」


「そういうことならかまわないが、鍵はカリオ・エルディンに預けた」


「え、カリオ先輩? 先生たちで管理しているんじゃないんですか?」


「それは合っているが、お前よりも先に旧演習場に行きたいと言われてな。あいつならおかしな真似はしないだろうから貸したんだよ」


 カリオ先輩くらいの優等生になると、先生からの信頼も厚いねえ。

 ということは、旧演習場に行けばカリオ先輩に会えるかな?

 そこで鍵を空けてもらえばいいや。


「じゃあ、ちょっと行ってきます」


「おう。無茶な修行は……いや、今日は修行はやめとけよ。あの場所の精霊や魔力を扱うのなら、教師か協奏者くらいが見ておかないとまずいからな」


「修行はお休みなので大丈夫で~す」


 先生の注意はしっかりと頭に入れておき、私は通い慣れた旧演習場に向かうことにした。

 さて、変な魔力変な魔力。私にはわからないけれど、カリオ先輩もそっちにいるのなら何かあったら困るからね。

 さくっと様子見して、何事もなく帰るとしよう。


「ついたけど……。なんか、いや~な感じが大きくなってない?」


『……うん。ちょっと警戒したほうがいいかも』


 精霊くんもいつもの軽い調子ではなく、真剣な声色で注意を喚起してきた。

 こりゃあまずいかもしれないね。カリオ先輩を見つけたらすぐに帰りたいところかなあ。

 というか、今からでも先生を呼びに……。


「アハハハハハハハ」


「……今の何?」


 音が割れるような甲高い声。

 だけど、それはどこかで聞いたことがあるような笑い声だったような……。

 ええと……。ああそっか。リーヴァちゃんの声じゃないかな?


「ヴィルタ! そっちに行った!」


「わかってる!」


 え、ヴィルタさん先輩? それにイルマ先輩の声も?

 ここにいると思わなかった二人の声。それに驚いている暇もなく旧演習場の中からけたたましい音が響く。

 な、なに!? なんか爆発してない!?


「とりあえず、まずそうだから様子見に!」


『いつでもボクを呼べる準備しときなよ!』


 おっけー!

 魔力は込める。周囲の精霊は少ないけれど、精霊くんの場合は話が別。

 彼との相性はばっちりなので、彼一人の魔力で実体化も精霊魔法も軽々できる。

 訓練のおかげで省エネになったのでなおさらだね!


「なんかわかりませんが手伝いましょうか!?」


「シエル!? くそっ!」


「やっぱり……。駄目なの?」


 なにが?

 なんだろう。お呼びじゃない感じかな?

 というわりにはお邪魔扱いされているというよりも、私の登場に二人が焦っているような……。

 あれ、カリオ先輩はいると思っていたけれど、トゥリちゃんまでいるんだね。


「見ツケタ! アンタナンカニ私タチハ負ケナイ!」


 うわあ……。な、なにあれ!?

 なんか黒い塊が、私にあらん限りの敵意をぶつけてきている。

 いつもの学生たちの嫌がらせとは程遠い。なんかもっと深刻な感じがする。

 でも……あの感じには覚えがあるような。


 ああ……。リーヴァちゃんたちなんだね。黒いヘドロみたいな姿だけどなぜかわかる。

 何が起きているかはわからないけれど、たぶんあれは私もいくらか責任があるはず!


「精霊くん!」


「待て! 君は逃げろ!」


「カリオ先輩? でも、あのリーヴァちゃんスフィアは私に用事があるっぽいです!」


「いいから、ここは僕たちに任せろ!」


 いつもの口調じゃない。

 柔らかい物腰はどこへやら。強気な口調の王子様って感じだ。

 それだけ余裕がないのかな? ただ、それでみんなを見捨てる私ではない!

 大丈夫……。精霊くんがいるから。


『そうそう、ボク最強だから。……ただ、あれはけっこうやばいかもね』


 ええ!?

 逃げる? みんなで逃げちゃう?


『前に話したことは覚えている?』


 精霊くんの奥の手だっけ?

 精霊くんは炎の精霊だけど、実はとんでもない奥の手を持っているってやつ。


『ちょっと違うね。ボクのじゃなくてボクたちの奥の手だよ。精霊だけじゃ無理。精霊と精霊使いが力を合わせて起こせる現象』


 ……まあ、それも考慮に入れておく必要があるってことだね。

 そのときはそのときさ! 大丈夫! きっと私はいつだって私だから!


『ボクもずっとボクのままだと思うよ。そんじゃあ、そうならないためにがんばろっか!』


 精霊くんの体が実体化していく。

 炎でできた綺麗な体。その燃え盛る姿はとても頼もしく……それでも、あの淀んだ魔力の前では少し小さく見えた。

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