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黒はすべてを混ぜる色 ――忘れられる少女と、忘れない者たち  作者: パンダプリン


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第34話 白昼夢からの悪夢

「あれを……黒の派閥が?」


「嘘だろ……。協奏者ほどではないが、それに次ぐ魔法じゃないか」


「そういえば、初日にとんでもない精霊を実体化させていたよな……」


「炎の派閥の協奏者も最初はあの黒女が候補だったって話だったけど、本当だったのか」


 しばらく静まり返っていたけれど、周りの人たちが私たちの成果に驚いたように口々に先ほどの魔法についての考えを述べる。

 ただ、それどころじゃない。いつも気にしていない周囲の声だけど、今はより一層気にしている場合ではない。


「な、なんか思っていたよりもすごい出力になったんだけど!」


「そ、そうね……。私たちって本番に強いってことかしら?」


「んなわけないだろ。お前ら、あそこでの訓練の意味わかってなかったのかよ……」


 私たちの言葉を聞き、先生が呆れたように口を開いた。

 え、ぶっつけ本番に強い黒の派閥という触れ込みにしようと思ったんだけど、そういうわけじゃないの?


「あの場所は精霊が少ないって言っただろ。だから、あそこでそれなりの魔法が使えるのなら、ここではより高度な魔法も使えるってことだよ」


「ああ、そういうことだったんですか!」


 たしかにこっちのほうが精霊がいっぱいいて魔力が豊富だからね!

 私たちは出力を上げる訓練ではなく、効率よく魔力と精霊を扱うように成長していた。

 だから、いざ本番というときにあんなにすごい出力になったってことだねえ。


「そんなの……認めない」


 それはリーヴァちゃんの組のリーダーっぽい女の人の声だった。

 彼女は悔しそうな表情でこちらを睨みつけている。

 ……まだまだ認めてはもらえないかあ。


「おいおい。こいつらの成果を判定するのは俺だぞ」


「リーヴァから聞きました! 黒の派閥だけ優遇し、特別な場所で訓練していたそうじゃないですか! それも、先生が常に指導しながら」


「なんだそれ。教師に取り入っていたのかよ」


「どうりで黒制服のくせにあんな魔法ができたわけね」


 先輩の声に周りのざわめきはいつも通りの悪意交じりのものへと変わる。

 まあこのあたりもう慣れているし、私は特に気にせずに聞き流せる。

 先輩たちとリセアちゃんは……。うん、特に問題なさそうだね。


「優遇ってお前らなあ……。そもそも演習場への出入り禁止なんてしなければ、こっちも余計な仕事しなくてすんだんだよ」


「その件はすみません、お世話になりました!」


「ああ言葉の綾だ。余計な仕事って言ったのは悪かった。シエル・アルモニア」


 よかった~。

 実は嫌々私たちの面倒を見てくれていたとなっては、先生に申し訳ないからね。

 ただ、その発言で先輩たちは、やっぱり私たちが優遇されているという考えに傾いてしまったらしい。


「認めません。そんなやつらのことなんて……」


「試験結果は試験結果だ。こいつらは不正を働いたわけでもない。公平に判定するつもりだが、それを認めるかどうかはお前たち次第だな」


 ちぇ~。せっかくがんばっていい結果残したっぽいのに~。

 周りの目はなかなか良くならないもんだねえ。

 ただ、全員が全員そうってわけでもないのなら、また一歩前に進んだって考えてもいいかもしれないね。


「ほら、まだ試験は終わってないぞ。次の組は準備しろ。他のやつらは騒いで邪魔するな」


 先生のその言葉で、周囲の生徒たちは一旦口を閉じた。

 だけど、納得していないのは一目瞭然だよねえ……。

 なんとも刺々しい視線が送られてくる。


「お疲れ」


「おや、ヴィルタさん先輩」


 そんな視線を遮るように、ヴィルタさん先輩が私たちのところへやってきた。

 同じチームの人たちは~……。なんか焦っているし、ヴィルタさん先輩が独断でこっちにやってきたっぽいね。

 相変わらず猫みたいで自由な人だねえ。


「すごいじゃん。黒の派閥」


「でしょう? いや~、私たちもけっこうやるもんですよね~」


「まあ、俺としてはさっさと解散してもらって、全員うちの派閥に来てほしいけど」


「行きませんけど? 危ない危ない。大声で叫ぶところでしたよ」


 急な発言に思わずびっくりしちゃったからね。

 おのれヴィルタさん先輩。まさか黒の派閥を解体しようとする刺客だったなんて。


「さっきもそうだったけど、たかだか制服の色だけで正当な評価をされないって嫌じゃない?」


「それは不満しかありませんけど、だからといって私たちが折れるつもりはないのです」


「ほんと、強いね」


「最強ですね。あ、いずれはって話ですけど」


 そう。今はまだまだ最強ではないのだ。

 こうして話しているヴィルタさん先輩だって、私よりも強い精霊使いのうちの一人だからね。

 黒の派閥の協奏者だなんてうそぶいていたけれど、いずれは本当にそれくらいになる必要があるんだろうなあ。

 そうすれば、もっと純粋に力を認めてもらえると思う。

 私はいいんだけど、先輩やリセアちゃんが認められないというのは、なんとも歯がゆいものなのだ。


「じゃあ、シエルは俺のライバルってことだ」


「そうですね。いずれ蹴散らしてやりますとも。ただ、それまでの間は精霊魔法の指導をお願いしますね」


「ふふっ。図々しいけれどシエルっぽいから嫌いじゃないよ」


 はい笑った。今日もヴィルタさん先輩を一回笑わせたから私の勝ち。

 ということで、実は私は連日ヴィルタさん先輩に勝利しているのだ。


「まあ、協奏者を名乗るにはまだまだ早いかな」


「ですよねえ。そこはまあ、いずれ協奏者の大型新人くらいの扱いでお願いします」


「謙虚なんだか図太いんだか、微妙なところだね」


 だけど、ヴィルタさん先輩には受けが良かったみたい。

 先輩はわずかに微笑むと、チームのところへ帰っていった。

 私たち黒の派閥への宣戦布告が本題だったのかな? となると、ヴィルタさん先輩以上の実力も身につけないとね!


 そんな話をしているうちに、試験もつつがなく終わったみたい。

 結果は後日発表するとの先生の言葉と共に、今日はこれで解散となった。

 ただ、みんななんとなく結果はわかっているみたいだね。

 まあそっか。目の前で各チームの精霊魔法を見ていたわけだし、ある程度の指標はあるもんねえ。


 ただ、私たちの場合はまだまだ認めてもらえないんだろうな~。

 それでもいっか。今は素直にうまくできたことだけを喜ぼう。

 なんせ、黒の派閥のみんなで初めて協力した成果なのだから。


    ◇


「認めないわ……。上に取り入っているだけじゃないの」


 後ろで不機嫌そうに文句を言う先輩を連れて、私は旧演習場へと向かった。

 ……負けちゃった。シエル・アルモニア。ずるばかりしている悪い生徒だって聞いたけど、今回もやっぱり負けた。

 前に旧演習場で勝負を挑んだときも同じ。彼女にはこれで二連敗。

 ただ……。先輩から教えられたように、ずるばかりしているっていうのは本当なのかしら。


「あの、先輩」


「どうしたの? リーヴァ」


「シエル・アルモニアたちは、やっぱり不正であんな結果を残したんですよね?」


「当然よ。特別な演習場で訓練し、教師や協奏者を味方につけていた。実力がないからそうやって誰かに取り入ってばかりなんでしょ」


 そう……なのかな?

 私は、彼女に実力で負けた気がしてしょうがなかった。

 本当に先輩の言うとおりなんだろうか……。あれがずるで私たちが正しいんだろうか。


 もしかして……。単に彼女がすごかっただけなのでは?

 そんなことを考えてしまい、私はそれを打ち消すようにすぐに首を横に振った。

 大丈夫。旧演習場にはもうついた。

 先輩たちはここでの特訓が怪しいと言っていたし、きっと悪さをした証拠が見つかるはず。

 ……見つかるのかな? あれが本当の実力だとしたら、そんなものは見つからないような気がするけれど。


 いいえ。先輩を信じるのよ。

 私だって一人前の精霊使いを目指すのだから、上の言うことにはしっかりと従って輪を乱さないようにするべきなのだから。

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