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黒はすべてを混ぜる色 ――忘れられる少女と、忘れない者たち  作者: パンダプリン


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第32話 スポーツチャンバラでの真剣勝負

「あら、汚らしい黒制服じゃない」


「え、汚れてた!? 黒は汚れが目立たないはずなのに!」


「そういうことを言ってるんじゃないわよ!」


 よかった~。どうやら汚れてはいないみたい。

 汚れているとしたら、白系の汚れってことになるね。小麦かな?


「あなたたちが演習場に来なくなってせいせいしているわ」


「あ~。試験前はみんなピリピリしてるもんねえ」


 でももう大丈夫!

 なんせ私たちも演習場が手に入ったのだから!

 試験まではまだまだ訓練が必要だけど、自分たちの場所っていいよねえ。

 ついでに空き教室も正式な黒の派閥の部屋にならないかな?

 黒で塗りたくっておけば、なんかもうここは黒の派閥のものだなって思ってくれないかな?


「余裕そうね。試験結果を気にしていないってことかしら。それとも上手くいかない言い訳ができてほっとしているの?」


「狙うは一番ですけどね!」


 ただ、一番を狙うとなると強敵が少なくとも四人か~……。

 協奏者たちのチームって手強いんだろうなあ。

 まあ、直接競い合うってわけじゃないし、私たちは私たちにできる精霊魔法の連携を見せればいっか。


「生意気な……。あなたたちごときが、正式な派閥に勝てるわけないじゃない」


 むむ……。まだ言われているけれど、結果で見せるしかないね!

 というわけで、今日も私たちは旧演習場で訓練といこうじゃないの。


 そうして移動した先にはすでにみんな集まっていた。

 やる気が合っていいことだねえ。先生もしっかりと面倒を見てくれているし、私もさっそく……。


「シエルちゃん大丈夫だった?」


「え、なにが?」


「来るの遅かったから、また他の派閥の誰かに絡まれたのかなって思って……」


「そうだねえ。まあいつものことだから大丈夫だよ」


 入学してからずっと同じような感じだからなあ。

 というか、入学数日で慣れたし!

 嫌なことは耳に入れずに記憶から消し去る。それが豊かな生活を送る秘訣だね。


「俺たちよりも、シエルのほうが絡まれやすいよなあ」


「私たちの場合陰口のほうが多いけど、シエルちゃんの場合は直接絡まれるもんね」


「大丈夫です! むしろ私が囮になっているうちに、先輩たちもリセアちゃんも先に行ってください!」


「そんな緊急性が高い状況だったの……?」


 気持ちの問題ですね!

 まあ実際のところ、私に嫌がらせが集中するのはいいことだと思う。

 意外と嫌がらせされないんだなあとわかれば、うちに加入してくれる人も増えるかもしれないからね。


「先生たちはなんとかしてくれないんですか?」


 リセアちゃんの質問に先生は答えづらそうに口を開いた。


「う~ん……。こっちはこっちで派閥をいいと思う教師も多いんだよ。それにシエル・アルモニア本人がこうも元気だからなあ。問題視されていないというか」


「問題ありません!」


「な?」


 先生まで出てくるようなことがあれば、自体がややこしいだろうからねえ。

 私に嫌がらせしている人たちも、未来の黒の派閥の要員たち。

 未来のボスとして、私が守ってやろうじゃないの!


「あら、こんなみすぼらしい場所でこそこそと訓練していたの?」


「あ、未来の黒の派閥」


「誰がよ! 薄汚い黒制服なんかに着替えるもんですか!」


 突如会話に混ざってきたのは、ここに来る前に私とお話していた生徒だった。

 ここまで追ってくるなんて、わりと執念深かったりする?

 それか私に用事が……。はっ! まさか本当に黒の派閥に興味があるのかも!


「黒の派閥に入れば、今なら自動的に上位五人になれるよ?」


「いや、そんな売り込みが通じるやついないだろ」


「要するにまだ四人しかいないってことだからね……」


 先輩たちが呆れたように肩をすくめる。

 いや、何でも言ってみるのがいいと思うんですよ。

 言うだけならただなので!


「私が上位五人に……」


「意外と効きそうです」


「嘘でしょ……」


 そして案外効果てきめんみたいだね!

 よし、ここは上位五人に入れるということをアピールポイントにして、今後も人集めを……。


『やめておきなよ。先輩の言うことって聞くもんだと思うよ?』


 駄目か~。

 精霊くんにまで反対されたとなったら、残念ながら私の案はあまり良いものじゃないみたいだねえ。

 こちらがそんな結論を出していると、向こうもまた結論を出し終えていたみたい。


「そんな甘言に騙されないわよ! だいたい、こんな場所しか与えられていない弱小の派閥じゃないの」


「住めば都予定地です」


「住むの!?」


 いや、言葉の綾と言いますか……。

 実際のところ、ここもそう悪いもんじゃないんだよね。

 初日こそ精霊の実体化さえ苦労しそうだったけれど、今ではみんなしっかりと実体化までできているし。

 精霊魔法の出力が低いのは問題だけど、そのぶん制御のための特訓にはなるからね!


「……あなたと話しているとペースが乱されるわ! シエル・アルモニア。私と勝負しなさい!」


「勝負? 試験はまだ先だよ?」


「わざわざ試験なんかで勝負する必要はないわ。ここで私と勝負しなさい。あなたなんかより私が優秀だってこと、イルマ様に証明してみせるんだから」


 あ~。風の派閥の制服だもんねえ。

 イルマ先輩が好きな生徒の一人か~。わかる、わかるよ。あの先輩いい人だもんね。


「よ~し、そういうことなら勝負しよう!」


「当然じゃない。田舎娘のあんたなんかに、私が負けるはずないんだから」


 たしかに都会度では私の負けだけど、その分田舎度では私が勝ってるけどね!

 ここまで一勝一敗……。そうなると、ここからは精霊魔法による勝負を。


『結局、この子が言ってるとおりに勝負するってだけだね』


 そうとも言えるね!


「精霊魔法の出力勝負よ。もっとも、あなたたちは実体化さえ苦労していたみたいだし、私の勝ちは決まっているけどね」


 甘いね! それは昨日までの話であって、今日の私は実体化もできるのだ!

 というか、昨日の途中からできるようになったのだ!


「じゃあ先生。審判お願いします」


「はいはい。この場所なら問題ないだろうけど、出力上げすぎて回りに迷惑かけんなよ」


「燃やしつくしてやりますよ!」


「俺の話聞いてた?」


 そのくらいの意気込みって意味です!

 というわけで、昨日の特訓の成果を発揮するよ。精霊くん。

 昨日はここの精霊を実体化させていたけれど、今日は久しぶりに精霊くんの出番といこうじゃないの。


『りょうか~い。まあ、ここじゃ魔力も少ないだろうから、大した魔法は期待しないでよね』


「燃やしつくしてやろうじゃない!」


「なんで二回言った!? 俺の話本当に聞いてなかった!?」


 あ、つい意気込みが口に出た。

 精霊くんとの会話だから念話で十分なのにねえ。


 ということで、これ以上先生が困る前に魔力の準備準備と……。

 精霊たちは相変わらず少なくて、そこから吸収できる魔力もここ以外の場所と比較してかなり少ない。

 なので実体化は効率的に。それでいて精霊くんに最も適合した姿をイメージするのだ。

 炎の精霊炎の精霊。人間っぽいけれど燃えている姿。よし、ここだ!


「精霊くん。的はあそこだよ。お願い!」


「おっけ~」


 気の抜けたような返事。だけど、扱う魔法は一級品。それが精霊くんなのだ。

 気負わないからこその強さだというのであれば、それが彼らしいということなのかもしれないね。


 彼が放った魔法は見事に的に命中した。

 ただ、さすがにいつもよりだいぶ小さな火の玉だったねえ。

 ここは今後の訓練で改善していかなくっちゃ。


「ほう、昨日の今日でこれか。なかなか優秀じゃないか。シエル・アルモニア」


「精霊くんの力あってこそですけどね!」


「当然だね!」


「その喋る精霊も教師として……いや、精霊使いとしてかなり興味深いけれど、まあ今回は関係ないか」


 精霊くんレアっぽいからねえ。

 さて、そんな私たちの結果を見て相手は……。勝ち誇っていた。


「その程度? それで褒められるだなんて、あなたよっぽど出来が悪いのね」


「いや、これは」


「私ならあれ以上の魔法を使えるわ。見ていなさい」


 そう言ってあちらはあちらで魔力を集め始めた。

 もしかして、この場所でもとんでもない力を発揮できるんじゃ……。

 なんてことはなく、うまく魔力が集まっていないみたいだねえ。

 首を傾げながらも実体化の工程へと移っている。


「……お、おかしいわ! なんで実体化なんて初歩の初歩ができないのよ!」


「ここ、精霊が少ないみたいだよ?」


「先に言いなさいよ! なんて卑劣な……」


「言おうとしたのに~……」


 まあ、言ったところでどうにもならないけどさあ。

 私が精霊を隠しているとかじゃないし。


「え、あなたもこの状態だったのに、実体化して精霊魔法まで使えたってこと?」


「これが特訓というものだよ」


「すごい……。じゃなかった! 私は負けていないわ! だって、ここはあなたたちの得意な場所だもの!」


 得意でもないんだけどねえ。まあ、昨日一日分のアドバンテージはあるね。

 ということは、そもそも勝負の条件がおかしかったってことかあ。

 次からはそういうのはしっかりと決めたほうがいいかもしれないね。


「いいこと? 試験では絶対に私が勝ってみせるから!」


 あ、行っちゃった……。

 この勝負はお預けってことだねえ。

 惜しかったなあ。勝ったあかつきには、それを口実に黒の派閥に引き込もうと思っていたのに。

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