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黒はすべてを混ぜる色 ――忘れられる少女と、忘れない者たち  作者: パンダプリン


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3/6

第3話 なぜか少しだけ悲しい気がする

「あら、ごめんなさい?」


「いえいえ~。気にしないでください」


 入学式の翌日、選択した授業も無事終えて中庭を歩いていると、土の精霊を使役していた先輩が私の足元を隆起させた。

 バランスを崩して転びそうになるもそこは山育ち。この程度で転んでいるようじゃ山じゃ暮らせないのだ。

 ということで、謝罪を受け入れたんだけど……。


「……ちっ」


 最後が舌打ちなのは悪意を感じるねえ。

 せっかく途中までは和やかなやり取りだったのに。

 まあ、このくらいのことなら持ち前の運動能力でなんとかなるけどね!


「ちょっと待ちなさいよ!」


 なので、あからさまとはいえ偶然のふりをして嫌がらせをしてくる人よりも、こうして直接絡んでくる人のほうが厄介かもしれない。

 え~と。明るい茶色というかクリーム色だから土の派閥だね。

 今度はなんだろうと身構えると、先輩はたった二日で聞きなれた言葉を私にぶつける。


「黒はそっちに行かないでくれる? そっちは私たちの演習場なんだから」


「大丈夫です! 私は土属性も学んでいるので!」


 まだ授業を受けて一日目だけどね。

 でも学んでいる事には違いない。ということで、私も土属性の演習場を使う権利があるはず。

 自己完結して前へ進むと、先輩は慌てた様子で私を止める。


「ま、待ちなさいって! なんなのこの子。なんでそんなにけろっとしていられるのよ!?」


「そういう性分です!」


 精霊くんが魔石の中でケラケラと笑っている。

 そうだよねえ。私は負の感情とか好きじゃないし、人の悪意とかはこうぐにゃっと受け流すタイプだから。

 精霊くんも人間らしくないって褒めてくれたからね!


「とにかく、今は本当に部外者に立ち入ってほしくないの!」


「ええ……」


 なんか必死だ。嫌がらせとかじゃなくて、本当に困っているみたいだね。

 これじゃあ、私の方が悪いみたいでさすがに気が引けてしまう。

 足を止めると先輩はほっと息をついた。どうやら、本当にのっぴきならない事情があるみたい。


 何があったのか聞こうかな? 聞いても答えてくれない気がするなあ。

 そう悩んでいると、その理由のほうからやってきてくれた。


「何をしているの。……げっ、あなたは」


「あれ? 昨日の先輩」


 昨日会った先輩はあまりにも多い。私が黒い制服なせいか、絡んできた者や忠告してきた者はとても多かった。

 だけど、この先輩のことはよく覚えている。最初に私の制服を指摘したあの先輩だ。

 思えばこの先輩に精霊くんを見せたからこそ、私はそこまで大っぴらに嫌がらせを受けていないのかもしれない。


「何しに来たの? その服を見るに、昨日の発言を撤回するってわけじゃなさそうだけど」


「それは当然です! 私は一つの属性以外を認めないなんて、くだらないことはしたくないので!」


「言うわね……。ただ、それだけの実力があることは認めるわ」


『ボクのおかげだけどね~』


 うん。ありがとう精霊くん!

 だけど今出てきたらややこしいことになるから、一旦魔石の中にいてね。


 というか、すでにややこしいことになっている気がする。

 私と先輩たちの会話が演習の妨げになったのか、人がどんどん集まってきてしまった。

 遠巻きに私を見ながら、ひそひそと近くの人と話す生徒たち。完全にアウェーだねえ。


「騒がしいね」


 そんな中、その人だかりを割ってこちらに歩み寄ってくる男の人がいる。

 なんかデジャヴュってやつだ。

 ヴィルタさん先輩のときもそうだったけど、一目置かれている人のご登場って雰囲気を感じる。

 つまり、この先輩もきっとすごい生徒なんだと思う。


 だって、見た目がやっぱりすごい。

 一つ一つの所作からは、気品あふれるような雰囲気を感じる。

 田舎娘の私とは縁がないような世界の人。きっと貴族様とかなんだろうね。


「カリオ様! いえ、なんでもございません!」


「いいからいいから。その子のことは知っているよ」


 え、ヴィルタさん先輩に続いてこの人も、もしかして私と過去に出会ったみたいな冗談を?

 ……うん。もしも過去に会ったことがあるなんて言われても、確実に気のせいか冗談だね。

 私の記憶には、やっぱりこんな整った顔立ちの同年代の知り合いなんていない。

 そもそも同年代の知り合いが全然いないし。


「ええと、初めまして……ですよね?」


 先輩は私の言葉に目をわずかに見開く。

 驚いた顔も整っているのだから、やっぱり顔がいい人って得だよねえ。


「僕を知らない?」


「えっと……。え? もしかして、知り合いだったりします?」


「そんなわけないでしょ!? カリオ・エルディン様! この国の王子様よ!」


「へえ~。王子様も学校に通っているんですねえ」


「どこに感心してるの!?」


「精霊使いは国にとって重要な存在だからね。自ら学ぶことも必要なんだ」


 えらいなあ。

 将来は国のことを考えないといけないのに、それとは別に精霊のことまで勉強するなんて。

 そっか。王子様を知らないから非常識だと驚かれちゃったのか。

 ……なにぶん田舎育ちなもので。


「でも、さっき名前で呼んでいましたね。わりとそのへんはゆるいんですか?」


「ちょっと! なんなのこの子の距離感!」


 めげないのが私のいいところだって精霊くんも言っていたからね!

 気になることは聞いておく主義なのだ。だって、他の誰に聞いても同じように嫌がられるし。

 だったら、一番理解している本人に聞くのが一番じゃない。


「君が住んでいたところがどうだったかは知らないけれど、この国では名前で呼ぶ方が普通だよ?」


「なるほど~。そこは田舎も都会も変わらない、と」


 なら、私がそうしても無礼ではないってことだね。一つ勉強になった。

 もっとも、私の場合誰かを名前で呼んでも苗字で呼んでも、どちらにせよ嫌な顔されそうだけど。


「王子様ってことは、もしかして精霊使いとしての実力もすごいんですか?」


「やめなさい! あ~もう! わかったわ。私が教えてあげるから……」


 ついに先輩が根負けした。

 王子様と会話させるぐらいなら、自分が教えようと観念したらしい。

 そんな汚れ仕事みたいな顔しないでも。


「それで、王子様って精霊使いとしてもすごいんですか?」


「当然でしょ……。カリオ様は土の精霊使いとして、この学校で一番の実力者なんだから」


「先生よりもですか?」


「あなた、嫌な返し方するわね……」


 先生よりもってことはないらしい。

 あくまでも、生徒の範疇で一番ってことだね。

 それでも一番。一番かあ……。すごい人なんだろうなあ。


「いい? カリオ様は土の派閥の協奏者なの。あなたみたいな訳の分からない異端児とは、本来言葉を交わすこともできないんだからね」


「あ、協奏者っていうの。昨日も聞いた気がします」


「嫌味が全然通じないのね。あなた……」


 受け流すのは得意です!

 なんなら真っ向から受け止めたうえで、特に気にせずに会話を続けられます!


「それで、協奏者を聞いたですって? まさか、協奏者にまで同じように無謀なかかわり方しているんじゃないでしょうね……」


「いえ、なんか協奏者らしき男の人が吹っ飛んできました」


 あれはトゥリちゃんと会う前のことだったっけ。

 大柄な男の人が吹き飛ばされてきたけど、私でなければ怪我をしていたと思う。

 私は頑丈だから問題ないけどね!


「ああ、それ……」


 さすがにそれがこの学校の日常茶飯事なんてことはないのか、先輩も思い当たる節があったみたい。

 きっと誰かから聞いたんだろうね。


「炎の派閥はそれで大変らしいからね」


「なんかそのことも昨日聞きました。……それで、協奏者ってなんなんですか?」


「本当に呆れるわ……。あなた何も知らないのね」


「知るために学ぶために入学したので!」


 知らないことを恥じる私ではない。

 むしろこれから色々なことを知れるのが楽しいもん。

 今日の授業も基礎とのことだったけど、先生の説明はわかりやすくとても面白かった。


「いい? 協奏者っていうのは、精霊を自在に操れるこの学園の頂点の称号よ」


「なるほど。だから王子様が協奏者なんですね」


「そういうこと」


「あれ? それじゃあ、あの吹き飛ばされていた男の人が炎の派閥の協奏者だったんですか?」


「そうね。なんでも勝負に負けたそうよ。だから今は炎の派閥は大変な状況なの」


 へ~……。学園のトップが負けた。

 つまり、あの男の先輩を打ち負かした人がいるということで、その人が次の協奏者っていうやつになるのかな?


「なるほど。よくわかりました」


「はあ……。納得したのなら帰ってくれる? 今はカリオ様が私たちに精霊の扱い方を教えてくれているんだから」


「え! 私も教えてほしいです!」


 王子様は土の派閥の協奏者。つまり私よりもよっぽど色々なことを知っている。

 そんな実力者の特訓なら、ぜひ私も受けてみたい。

 王子様のほうを見ると、彼は微笑みながら口を開いた。


「ごめんね。残念ながら君には教えられないよ」


「ええ~。私が黒い制服だからですか?」


「うん。それもある」


「それも?」


 それ以外となると田舎育ちだから?

 さすがに王子様相手にぐいぐいといきすぎたかな?

 無礼だというのなら仕方ない。相手が嫌がっているのなら諦められるのが私だからね。

 ただ、それならせめて最後に。


「今回は諦めますけど、私はみんなと仲良くする気です!」


「うん。それはとてもいいことだね。応援しているよ」


「だから、王子様も仲良くなってください」


「……ごめん。それも無理」


「え~……」


 にこにこと微笑みながらあっさりと断られた。

 いい人そうなのに。なんともガードが固い人だ。

 まあ王子様だからね。付き合う人間は選べなんて言われているかもしれない。


「僕、君のこと好きじゃないんだ」


「あ~。そっちでしたか」


 たぶん、いい人ではあるんだと思う。

 だけど、人間ウマが合わない相手というのはいるもの。

 王子様にとっての私がそうだったというのであれば、そこは諦めて引き下がるしかない。

 まあしかたないよね。幸いなことに好かれていなくても嫌がらせはされていない。

 王子様の権力を持ってなにかされるようなら、さすがの私も山に帰ることになるかもしれないのだから。


「駄目かあ~」


 そう言いながらとりあえず演習場を後にする。

 みんなで王子さまから教えてもらっているのなら、さすがに邪魔になるだろうからね。

 演習場はまた今度行けばいいや。


 それにしても、外見ではわからないもんだなあ。

 ヴィルタさん先輩は、あんなに怖そうな目つきなのに話してみたら案外いい人だった。

 王子様は、あんなに優しそうな笑顔なのにはっきりと私を拒絶した。

 逆ならわかるんだけど、やっぱり人は見た目で決めたら駄目だってことだね。


    ◇


「そう。君のことは好きじゃない。……それでいいんだ」

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