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黒はすべてを混ぜる色 ――忘れられる少女と、忘れない者たち  作者: パンダプリン


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第2話 真っ白なキャンバスの前で

「あなた絶対に炎の派閥に入るべきよ!」


「いえ! 私はぼっち派閥でがんばります!」


「嘘でしょ……。それだけの才能がありながら」


 赤い制服の人たちが次々と話しかけてくる。

 それ以外の色の人たちは、私のことを見るからに異端児みたいに扱ってるなあ。

 本当におかしな学校だね。生徒たちで勝手に変な派閥なんて作るんだから。


「そもそも、私みたいなのを派閥に入れたら、むしろ大変なことになるんじゃないですか?」


「炎の派閥は今問題が起きているの。だから、あなたみたいに才能があるなら、多少は問題児でも目を瞑るわ」


 問題児……。入学初日からとんでもないレッテルを張られたもんだよねえ。

 だけど、もう決めたのだから仕方がない。

 きっとこの先輩を含めた赤い制服の人たちも、いずれは私を邪険に扱うんだろうなあ。

 周囲が敵になるとはそういうこと。それはもう仕方ないので諦めよう。

 だって、そんな変なしきたりは納得できないから。


「……仕方ないわね。それじゃあ気を付けて。私はともかく、他の人たちはあなたをあまりいい目で見てないわよ」


「平気です! 田舎暮らしなので!」


「関係あるのかしら……」


 複雑な人間関係には興味がないというか。ついていけないという意味では関係あります。

 友達ができなくなるかもしれないけれど、元々の目的は精霊くんたちを知ることだからね。

 そうして精霊と友達になれば……。なんか余計にぼっちじゃない?


「まあいっか」


 なんせ私は、周囲に同年代の子供なんていない暮らしだったからね。

 周りは年上の人か精霊か動物だけ。だから、同年代の友達がいないことだって慣れているのだ。

 ……自慢できることじゃないよねえ。


「そういえば、問題ってなんなんだろう」


 炎の派閥で何か大変なことが起こっているのかな?

 私みたいな問題児でも目を瞑るって言ってたし、背に腹は代えられない状況っぽいよね。

 ……トゥリちゃん。大丈夫かな? あの子は赤い制服だったし、炎の派閥に入るんだと思う。

 入学初日からそんなごたごたが起きている派閥に入ってしまって、彼女は大丈夫なんだろうか。


「……まあ、私よりましかなあ」


 なんせ、クラスメイトから誰も話しかけてもらえなかったからね!

 いやあ、ちょっと甘くみていたよ。まさかここまで露骨に派閥派閥だなんて思わなったもん。


 校舎の中には四色の制服しか見えない。黒い制服は全然いないねえ。

 落ち着いてみてみると、同じ色の服の人同士で話してばかりで違う服の人とはいがみあっている。

 ……そりゃあ私が誰からも敵視されるはずだよ。

 違う色は敵だなんて短絡的な考えなんだから、唯一の黒である私はみんなの敵ってわけかあ。


「おい、あいつさっき土の派閥と騒ぎを起こしていたやつだろ」


「うわあ、本当に黒い制服じゃん。何考えているんだろうね」


 前途多難だなあ。最終的にみんな黒にしてしまおう計画はなんとも逆風が吹いている。

 仕方ない。まずは明日からの授業の選択だけを考えよう。

 こんな目に遭ってまでこの色を貫いているだから、やっぱり四属性は学びたいよね。

 精霊の歴史なら精霊くんが教えてくれるし、ここはやっぱり各属性の基礎から学んでいこうかな。


 となると、それぞれの属性を学ぶときの設備が気になる。

 幸いなことに見学は自由らしいので、堂々とその場所を目指して歩いていこう。


「おい、そこの黒いの」


「はいは~い。黒い制服のシエルですよ」


 おかしいなあ。たった一日で私の呼び名が黒関連になりそうだよ。

 いいけどね! 私、黒も好きだから!

 なのでしっかりと返事をしたのに、相手はそれが気に入らなかったみたい。


「調子に乗んなよ。だいたいそっちは俺たちの研究室だ。お前みたいなのが近寄るな」


「ええ……。でも、見学は自由って話じゃないですか」


 抗議はするけれど、先輩っぽいので敬語は忘れない。

 ただ、敬語云々以前に私の態度が気に入らなかったみたい。

 さ、さすがに体格がいい男の人に囲まれるのはちょっと怖いかも!

 ……でも、山の動物とかよりは大人しいだろうし、やっぱり問題ないかな!


「な、何を急に落ち着いてんだよ。お前」


「大丈夫です! 猪には慣れているので!」


「はあ? お前、俺たちのこと猪だって馬鹿にしてんの?」


 どうしよう会話がかみ合わない。

 いや、相手は人間。話せばわかるはず。

 猪だってわかったのだから、あなたたちもきっと大丈夫。


「こいつ。なんかむかつく!」


 大丈夫じゃなかった!

 なんかさっきよりも怒ってるね! どうやら私は失敗してしまったらしい。

 どうしよう。とりあえず今日は退散して、また明日こようかな。

 そんなことを考えていると、先輩たちよりもさらに低い声というか迫力のある声が聞こえた。


「ねえ。なにしてんの?」


 気だるそうなのに、やけに耳に通るような声。

 それは私だけでなく先輩たちにとっても同じだったみたい。

 私を取り囲んでいた先輩たちが、さっと道を開けるように廊下の隅に移動する。

 お~。なんかそういう魔法みたいだね。


「ヴィ、ヴィルタさん!」


 先輩はもう私のことなんて見えていない。

 さっきの声の主に慌てた様子で弁解するように口を開いた。


「な、生意気な一年がいたので」


「その子?」


「は、はい!」


 うわっ。顔怖っ!

 なんだろう。目つきかな? 目つきが悪いんだ。

 顔そのものはとても整っている男の人だけど、その眼光だけでこちらを攻撃できそう!

 さっき聞いた声も迫力があったし、これはいよいよ先輩たちのボスのお出ましなのかもしれない。


「君、何しにきたの?」


「見学です!」


「あ、お前!」


 ただ、事情を聞いてくれるあたりボスのほうが話がわかるかもしれない。

 先輩たちがさらに慌てているけれど、もう言っちゃったからね!

 ヴィルタさん? だっけ。このボスさえ説き伏せることができたら、なし崩しに見学が許されるはず!


「そう。ならさっさと行ったら?」


「へぇ!?」


「ヴィルタさん!?」


 意外なことにボスは私の見学をあっさりと許可してくれた。

 私と先輩は奇しくも同じような反応をしてしまう。

 あれ、もしかしてこの先輩。私を水の派閥の後輩だと思ってる?

 さては私の制服の色を見逃しているドジっ子だな?


「何?」


「そいつ、今朝騒ぎを起こしていた黒の制服ですよ!」


 あ、余計なことを。もめているうちに研究室に行けばよかった。


「見ればわかるよ。どう見ても黒い制服じゃん」


 だけど、ヴィルタさん先輩は私が無所属だと知ったうえで許可をくれたみたい。

 ははん? さてはいい先輩だね。あなた。

 よかった~。周りが全員敵と覚悟していたけれど、どうやら私にはまだ人間の味方がいるのかもしれない。


「で、ですが……」


「見学は自由。それが決まりでしょ?」


「はい……」


 しかも、あの先輩たちもヴィルタさん先輩の言葉には逆らえないらしい。

 よし、それなら大手を振って見学ができる。

 水の精霊の研究室。どんな感じなのかなあ。わくわくしてきた。


「行かないの?」


「へ? え、ええ! 今から行こうと思ってます!」


「案内はいる?」


「え? いいんですか?」


「これでも水の派閥の一員だからね。普段使っている場所くらい案内できるよ」


「それじゃあお願いします!」


 絶対いい人だ! 見た目は一番怖いけど、中身はいい人に違いない。

 きっと捨てられた猫とか世話しているタイプの先輩だ。

 それじゃあ、せっかくだし案内してもらおうかな。

 私はできたばかりのたった一人の味方を見つけて、浮かれながら研究室を案内してもらうことにした。


「すごかった~」


「そう。それはよかった」


 研究室の場所はわかっていたけれど、案内してもらったほうがより分かりやすくて助かった。

 それにこのヴィルタさん先輩は水の派閥でもすごい人なのか、私が隣にいても誰も何も言ってこなかった。

 何か言いたそうにしていたけれど、この人の目線が向けられるとさっと顔を逸らすのだ。

 わかってないな~。私はわかっちゃったもんね。この先輩、単に目つきが悪くて声が低くて顔が怖いだけで、中身はいい人だよ。

 私なんかを案内してくれたんだから間違いない。


「ところでさあ」


「はい? え、ええ~!?」


 な、なんか顔近くない!?

 よく見ると周りに人がいない場所に連れ込まれているし、まさか今までのは演技でここから本格的にヤキを入れられる!?


「俺のこと、覚えてる?」


「え?」


 ……知り合いだった? この先輩と?

 おかしいなあ。目つきはともかく、こんなに整った顔の知り合いがいたら忘れていないと思うんだけど。

 そもそも田舎暮らしの私にとって人との出会いはそう多いものじゃない。

 う~ん? 昔会ったとかだったとしても、さすがに覚えているはずだよねえ?


 ……でも、言われてみればどこか懐かしいような。

 ――会ったことがあるはずなのに、思い出せないような気がするかも?

 なんで……そんなこと思ったんだろう?


「……そんなに悩まなくていいよ。嘘だから」


「へ?」


「黒い制服を着た変わり者。ちょっとからかってやっただけ。じゃあね」


 そう言い残すとヴィルタさん先輩は去っていった。

 か、からかわれていた? しかもやっぱり黒い制服はいい印象を抱かれていないっぽい!

 あ~あ。そう簡単に味方にはなってくれないっぽいなあ。

 いや、それでも途中まで親切だったのは間違いない。演技だったのかもしれないけれど、そこだけは間違いないのだ。

 なら、ヴィルタさん先輩はきっと味方になってくれるはずだね!


    ◇


「あ~あ。だよなあ……。仕方ないか」

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