第29話 私のために争わないで!
「さ~て。今日はどの属性の精霊と仲良くなろっかな」
過去四日で四属性を満遍なく学んだ。
ということで今日はリセットの日。ここからまた四属性を一日ずつ特訓するのだ。
「あ、シエル」
「おや、ヴィルタさん先輩」
「また演習場? がんばるね」
「ええ! がんばるというか、精霊と戯れるシエル・アルモニアです!」
ちょうどここでヴィルタさん先輩と出会ったわけだし、今日は水属性の演習場に行こっかな。
「また教えようか?」
ちょうどヴィルタさん先輩もそう言ってくれたことだし、ここはお言葉に甘えて……。
「あら、二人とも」
むむ。この声はイルマ先輩!
他の派閥に話しかけるなんて他の生徒たちはなかなかしないけれど、協奏者たちは別だからね。
ふむ……。美男美女が並んでいる。
私もイルマ先輩にかわいいと言ってもらえるけれど、それはあくまでも動物感覚。
美男美女のそばに私がいたら、二人が仲良く飼っているペットみたいに見えそうだねえ。
『シエル、ちっちゃいからね』
ちっちゃくないよ!
……ごめん。嘘です。たしかに同級生と比べても背は低いさ!
でも、リセアちゃんもトゥリちゃんもみんな私と同じくらいだし!
『だからイルマからかわいがられているんでしょ。全員ちっちゃいってだけじゃん』
ぐぬぬぬぬ……。言い返せない。
い、いずれ成長の見込みが!
『人間ってそのくらいの年齢ではもう成長しないんでしょ?』
しませんけど!
例外だってあるかもしれないじゃない!
「にらめっこ?」
「精霊くんとの交流です!」
「ああ、あなたの契約精霊の……」
そうなんですよ~……。
生意気なんです。この子は。
まあ、そこも私は好きだけどね。
「……シエルちゃん。今日は私と演習場で訓練する?」
「待ってよ。シエルには俺が先に声をかけた」
おや?
「あら、でも約束を取り付けたわけでもないでしょ?」
「まあそうだけど……」
「なら、私が借りてもいいわよね?」
おやおや?
「俺が連れて行ってもいいと思うけど?」
両手をとられた。
なるほど、お父さんとお母さんと娘ってことだね!
やはりちっちゃい者扱い!
「あ、シエル。今日も私と訓練する?」
「トゥリちゃん。昨日はありがと~」
そこに新たなお客さんが現れた。
トゥリちゃんは、この光景を見ても気にすることなくマイペースに話しかける。
う~ん。さすがはトゥリちゃんだねえ。
「トゥリ。シエルは今日は俺と精霊を学ぶ」
「トゥリ。シエルちゃんは私と精霊の扱いを訓練するの」
「……じゃあ。間を取って私が」
間かなあ?
水と風の間って炎かなあ?
まあ、こうして熱心な先生が三人もいるってありがたいよねえ。
私もしっかりと何か一つでも学ばなきゃって気合いも入るってもんだよ!
「じゃあ、魔法で決めようか」
「あら。私、けっこう強いわよ?」
「私も協奏者。水にも風にも負けない」
気合……。先生たちのほうが入ってない?
なんかイルマ先輩の協奏者交代戦みたいな雰囲気になりつつある!
この場合、勝ったら負けた派閥を吸収するのかなあ?
つまり、私が乱入して三人に勝てば、黒の派閥が一気に最強派閥に!
『馬鹿なこと言ってないで止めなよ。そもそも、シエルだけじゃこの三人には勝てないでしょ?』
せ、精霊くんが協力してくれたらなんとか……!
『まあボク最強の精霊だし。ただ、ボクの力に頼りっぱなしにしないって決めたんでしょ?』
それはそう!
ということで、三人をがんばって止めるとしよう。
魔力を集め始めてるから、そろそろ危険かもしれないからね。
「何をしているのかな? よりにもよって協奏者が三人で」
「カリオ先輩!」
先輩、なんかいつも呆れていますねえ。
ただ、今回は私は無関係なので、その呆れ声も他人ごととして聞いてしまおう。
「なんで他人ごとなのさ。君も当事者でしょ」
「私はトロフィーみたいなものなので」
「はあ?」
意味不明といった様子のカリオ先輩に事情を説明する。
そうしたら、カリオ先輩は協奏者三人をじろっと睨んだ。
なんだろうね。なんかいつもさわやか系な顔なのに、三人が相手のときはそうでもないねえ。
もしかして、カリオ先輩のさわやか笑顔って無理してるとかかな?
「イルマが」
「トゥリが」
「お兄ちゃんが」
「はいはい。全員悪い」
さすがに自分たちに問題があったと思っているのか、三人ともカリオ先輩の言葉に反省しているようだった。
すごいねえ。あの三人を簡単に止めてみせるなんて。
「はあ……。それじゃあ、今日はうちで預かるよ」
「ほほう。土の派閥ですか」
「こうなった以上、三つの派閥どこに行っても不公平だからね」
う~ん。
そうなると、協奏者に教わるってことができないんだよねえ。
まあ、土は土で練習が必要だからどの道行くつもりはあったし、それなら今日は土の日にしちゃおっか!
「よ~し。よろしくお願いしま~す!」
そんなこんなで話が決まると、三人はがっかりした様子を見せた。
なんかかわいいねえ。協奏者っていう学内最強トリオなのにねえ。
そして私を引き連れているのも協奏者。
今さらだけど、ここに学園の四大戦力みたいなのが揃っているのか~。
……私を入れて五大戦力!
「なにをにやにやしているの?」
「五大戦力のシエル・アルモニアです!」
「……君の発言、たまによくわからなくなるよ」
否定はされなかったので、実質認められたようなもんだね。
ということで、今後は黒の派閥ももっとがんがん勧誘しよう。
「あ、そうだ。カリオ先輩」
「何?」
「イルマ先輩がなんか若干今までと違うな~って思っているんですけど、心当たりありませんか?」
「……君、意外とよく見ているんだね」
「そりゃあ、大好きな先輩ですので!」
普段とあまり変わってない。
周りの人たちも気にしないほどだった。
だけど、な~んか少しだけ違うよね? 私への態度が少しだけ。
……も、もしかしてなんか嫌がることしちゃったかな!?
「思い出しただけだよ。だから、君が気にすることじゃない」
「今までなんか忘れていたんですか?」
「気にすることじゃないって、今言ったばかりなんだけど……」
「好奇心の女と呼んでください」
「それじゃあ好奇心の女。演習場につくから騒がないでね」
「ごめんなさい。嘘です!」
まったくもう。冗談が通じない……いや、むしろ通じているからこそだねえ。
案外ノリがいい先輩なのでは? まあ、私のことを嫌っているらしいけど!
「はい、それじゃあ土の精霊への命令。一通り見せてくれる?」
「おや? 今日はカリオ先輩が訓練を見てくれるんですか?」
なんとも意外。
いつもなら、土の演習場を使っているときは私が自由にやっているのに。
カリオ先輩は正規の土の派閥の生徒たちの指導で忙しそうだからね。
それが、今日はそんな生徒たちを気にすることなく私を見てくれるみたい。
「あの三人なら指導してくれたんでしょ? それなのに、三人から君を奪った僕が指導しなかったら、後で文句を言われそうでね」
「あ~……」
言いそう。
三人とも面倒見がいいので、今日の訓練分で伸びる予定だった私の才を引き出さないと、カリオ先輩に普通に文句言いそう。
「大変ですねえ」
「まったくだよ」
「でも、面倒見いいですねえ」
「……君はここの生徒で、今は土の派閥の管理下だからね」
つまり責任者として面倒を見てくれているわけだねえ。
厳格な人だよ。ほんとに。
それなら、せめて私も何か学んで帰らないと。
厳しくもやさしい王子様が怒られないためにも、私は真剣に指導を受けるのだった。
王子様は、翌日無事三人の追及を切り抜けられたみたい。




