第28話 歴史と神話の境界にて
「ヴィルタさん先輩」
「精霊使役中は集中」
「はい!」
集中集中。
ぬぬぬ……。魔力を制御。魔力を制御。
鎮まれ、私の力!
「シエルは集中していると変なこと考えるから、なんかもう頭空っぽにしていいかも」
「なんですとうっ!?」
私が何考えていたかわかるっていうんですか!?
以心伝心で仲良しですねえ!
ただ、ヴィルタさん先輩のアドバイスは今日も的確で、その後の私の精霊魔法はいつもよりいい感じになるのだった。
「それで、さっき何か言いかけていたけど、どうしたの?」
「えっと~……。ああ、そうでした!」
訓練に集中して忘れそうになっていたけれど、今日は一通り終えて休憩中なのでちょっと聞いてしまおう。
「ヴィルタさん先輩たち協奏者って、別に仲悪くないですよね?」
「そりゃあ、俺とトゥリは兄妹だからね」
そっちは当然仲良し兄妹なんだろうけれど、私が言っているのはそこだけじゃないんです。
「カリオ先輩やイルマ先輩とも、わりと仲良いんじゃないですか?」
なんせ呼び捨てだからね。
私はちゃんと見逃さずに……聞き逃さずに? とにかく覚えているのだ。
……私も呼び捨てだけど、仲良しグループに入ってるかな?
「まあ、個人としてはカリオもイルマも嫌ってないし、仲良くしてるんじゃないの?」
「ですよねえ。でも、それならどうして派閥同士は違うんですか?」
私自身が黒の派閥という異端なので、周囲からの攻撃はだいたい私に集約する。
だけど、派閥間でもけっこうバチバチやり合っているんだよねえ。
さすがに協奏者である先輩方には他の派閥も従うけれど、それ以外はいがみ合いが基本。
そう考えると先輩じゃないのに協奏者をこなせるトゥリちゃんってすごい……。
「みんな自分の選んだ属性が一番って思いたいんじゃない?」
「そんな方々に黒の派閥! なんせ、どの属性も内包しているので最強です!」
「黒の派閥内で争いが起きて、内部分裂しそうだね」
「仲いいですよ? まだ四人ですけど」
主に風属性を学ぶリセアちゃん。そして主に土属性を学ぶ先輩二人。
別にいがみ合っている様子もないんだけどなあ。
「人が増えたらそうはいかないかもね。とにかく、ここの生徒たちは競争心がすごいんだよ」
「なるほど……つまり協奏者も本当は競うほうの競争の可能性が……」
「それはないけど」
いい線行ってると思ったんだけどなあ。
ただ、学校の方針はこれも良しとしているんだろうねえ。
競い合って切磋琢磨して、そうして立派な精霊使いになりなさい。みたいな感じ?
でも、それについては度を超えている気もする。
「いがみ合うよりも、仲良くしたほうが楽しいと思うんですけどねえ」
「楽しいだけじゃ上達しない。誰もがシエルみたいにはなれないってことだよ」
「みんなで田舎暮らし体験してみます!?」
「大自然の中で戦うことになりそうだ」
そこでも戦いかあ。難しいものだね。
上は仲良し下はバチバチ。派閥という制度もだけど、その関係もずいぶんと歪んでいるなあ。
「ヴィルタさん先輩やトゥリちゃんが、下の人たちに呼びかけるとかはいかがでしょう!」
「俺の派閥での立場忘れてない? あまりいい顔されないと思うよ。というか、そこまでの言うこと聞かないんじゃないかな」
「くう……。八方塞がりです」
上はせっかく仲良しなのに!
「下を制御できない点は反省すべきなんだろうけど……。今はそれよりも優先したいことがあるからね」
「なんでしょうか? お勉強ですか? それとも契約精霊の探索とかですか?」
「いや。黒の派閥を潰したい」
「ヴィルタさん先輩が敵だった!」
その笑顔どっちのですか?
冗談って意味ですか? それとも肯定って意味ですか?
怪しげなヴィルタさん先輩にお礼を告げ、私はその日の訓練を終わりにした。
「なんてことがあったんですよ~」
「仕方ないわ。ヴィルタの言うことは間違っていないからね」
「え~。でも、みんな仲良く切磋琢磨もいいものですよ?」
「よしよし。あ~かわいい」
聞いてます?
堂々と私をかわいがってくれてもいいですけど、話はちゃんと聞いていますよね?
「でも、そのほうが上達しているし、そうしないと戦場で使い物にならないというのが、暗黙の了解なのかもね」
「む~……。それでギスギスするのもどうかと思いますけどねえ」
「そうでもしないと戦えないというのなら、まずは戦える力をつけるのが最優先なのよ」
「モンスター相手ですかあ」
たしかに命がかかっているからねえ。
そこで死んじゃうのと比べたら、ギスギス学園生活も仕方ないのかな?
「モンスターだけでなく、場合によっては他国ともね」
「むむ……。戦争ですか」
「今は平和だけど、魔王軍が滅んでからは人種ごとの戦争があったくらいだもの」
それも授業で聞いた。
人間の国だけじゃない。古竜の国。獣人の国。エルフの国等々。
それこそ勇者様同士の戦いにも発展したとか……。
「それに、もしもまた魔王が現れたらと思うと、戦う力は必要なんでしょうね」
「魔王か~……」
遠い昔といえど、魔王軍の恐ろしさはまだ伝えられている。
色褪せていないというには少しずつ様々なことが消えちゃってるけど、それでもみんな本能的に怖いのかもしれない。
なんせ、魔王そのものも強いのに、その軍勢自体がとんでない脅威だったらしいからね。
四天王やそれに次ぐ幹部もいたとかで、人類が勝てたのは女神様の力を借りられたからとかなんとか。
「そういえば、魔王軍の四天王にも精霊っていたんですよね」
「ええ。だから精霊使いのことをよく思わない人もいまだにいるわ。もっとも、勇者様の仲間の一人が精霊使いだったから、そこまであたりが強いわけでもないけれど」
むしろ、あたりが強くても私はなんとかなるけどね!
なんせ学校中がそうなんだから、予行演習が最もできている女になっているし!
私は渾身のドヤ顔をイルマ先輩へと向けた。
「かわいい~!」
「イルマ先輩、そうやって私を甘やかしてくれるから好きです」
「しかも告白された!」
「あ、あれ? う~ん……。イルマ先輩なら問題ないですね!」
よ~し、思う存分イルマ先輩に甘えよう!
『真面目な話してたはずなのにね~』
それはそれだよ精霊くん!
ところで、精霊くんって昔のこと詳しいよね?
それか、同じ精霊仲間からそういう情報とか聞いているんじゃないかな。
『……う~ん。知りたいの?』
おや、あまり乗り気でない。
なら、無理に聞くことはないけどね。
『ボク、シエルのそういうところは好きだよ』
それに、精霊くんは生まれ変わったからね。
昔のことも気になるけれど、今の精霊くんを知れたらそれでいっか。
ちょっとだけ興味はあるけどね。
かつて女神様は異世界の死者を救い、こちらの世界に転生させたっていうけれど、異世界の人ってどんな感じなのかとか。
『……女神ねえ。そんないいもんじゃないよ?』
やっぱ、女神様は嫌いかあ。これは私が悪かったね。ごめんね、精霊くん。
『まあいいさ。君の言うとおり、もう全ては過去のことだからね。それよりも未来を見たほうがいいんじゃないかな?』
だねえ。
さあ、イルマ先輩にたっぷりと愛でられたことだし、今日も精霊使いのお勉強がんばろっか!




