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黒はすべてを混ぜる色 ――忘れられる少女と、忘れない者たち  作者: パンダプリン


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第25話 私は最初から知っていました

「さて、今日はこんなところかしら」


「ありがとうございます!」


 最近はなかなかの充実具合だね。

 それぞれの演習を行っているけれど、水と風は協奏者が指導してくれているおかげでみるみる上達している気がする!


「リセアちゃんも、もうすっかりと風の精霊使いだね!」


「あ、ありがとう。でも、まだまだスタートラインに立ったくらいだから」


「それでも上達は上達だよ!」


 それに、苦手な風属性を学んでいることで他の属性も上達しているみたい。

 つまり、風を学ぶことは間違ってなかったし、黒の派閥に入ったことも間違いではないのだ。


「かわいい~」


 私とリセアちゃんのやり取りに、イルマ先輩はすっかり取り繕うこともしなくなった。

 私たちが仲良くするこ。とでイルマ先輩も楽しいのなら何よりだね!


「イルマ先輩も混ざります?」


「いえ。私が混ざるのは違うと思うわ」


「そ、そうですか」


 なんかよくわからないけれどこだわりもあるんだねえ……。

 ただ、混ざりこそしないものの、たまに私たちを抱きしめてくるし、触れたくないとかではないのだ。

 むしろ、触りたいと思っている節があるねえ。


「とりあえずリセアちゃんをお渡ししますね」


「シエルちゃん!?」


「ありがとう。じゃあ失礼して」


 イルマ先輩は困惑するリセアちゃんを抱きしめた。

 うん。やっぱりあれは動物扱いだなあ。

 私もそんなふうに抱きしめられるし。


 ただ、イルマ先輩がこんな姿を見せるのは私たちにだけだ。

 私は問題ないと思うけれど、周りには完璧な先輩を演じないといけないみたい。

 今のイルマ先輩のほうが無理してないしいいと思うのに……。


「せんぱ~い。周りに本当の先輩見せちゃいましょうよ~」


「駄目駄目。こんな姿を受け入れてくれるはずないもの。私はイルマ・ヴェントール。周りが期待するのは完璧な私よ」


「でも、それじゃあイルマ先輩本人が自分を殺し続けることになっちゃうじゃないですか~」


「……いいの」


 いいのかなあ?

 なら、どうして返事に少し間があったんですか?

 イルマ先輩。本当は取り繕っていない自分を受け入れてほしいと思っているはずだよね。


 ただ、本人が嫌がっている以上は助けになれない。

 私たちができることといえば、たまにこうして本当のイルマ先輩にかわいがってもらうくらいかなあ。


 そんなイルマ先輩だけど、たしかに完璧といえるような存在だった。


「イルマさん。すみませんが上達のアドバイスをいただきたく……」


「ええ。かまわないわ」


「イルマく~ん。ちょっと相談なんだけど、今年の新入生の授業内容についてどう思う? 君たちの代からここらへんが変わったけど、やりにくくないかな?」


「はい。カリキュラムの変更をして正解だと思います」


 生徒に教えを請われ、先生にすら頼られている。

 四人の協奏者と知り合ったけれど、王子様と同じく誰からの信頼も厚いというのはすごいよねえ。

 これがイルマ先輩の努力の結果なのかあ。


 だから、そんな先輩に憧れる者はとても多い。

 そしてそれだけでなく、その座を狙う者だって出てくる。


「イルマ・ヴェントール。協奏者の座をかけて勝負を挑ませてもらうわ」


「ええ。風の協奏者として受けて立ちます」


 その日はイルマ先輩への挑戦者が現れた。

 実はこれ自体はそこまで珍しいことじゃないんだよね。

 イルマ先輩はそのたびに勝負に勝って、やはり彼女こそが風の協奏者にふさわしいと周囲に知らしめるのだ。


「勝負の内容はどうする?」


「当然、精霊を使った模擬戦よ!」


 協奏者の座をかけてなんていうけれど、協奏者自体が生徒たちが定めたもの。

 それらに関するルールもわりと曖昧な部分が多い。

 だから勝負は精霊使いとしての実力を測るものであり、互いに納得した手段が選ばれる。

 今回は実戦形式の模擬戦みたいだけど、これが一番多いんだよねえ。

 まあわかりやすいっていうのは納得だけど、物騒な気がする。


「今回もイルマさんの勝ちでしょうね」


「ああ。さすがに精霊使いとしての腕があまりにも違う」


 人だかりが二人の勝負の行方を見守る。

 こうして大勢に見られている以上は、勝負の結果をうやむやになんかできない。

 だから、この決闘についてごまかしはきかないのだ。


「くっ……」


 挑戦者の女性が押されてきた。

 さすがにイルマ先輩が相手では分が悪いみたいだね。

 この先輩もけっこうな実力者なんだけど。


「いいの? 私、あなたの秘密を知っているんだけど?」


 その言葉が放たれたのは、挑戦者の先輩が押され後少しで勝負が決するというそのときだった。

 苦し紛れのはったりかな? と思ったけれど、先輩の目線がどうにも私とリセアちゃんのほうを向いているような……。

 え、秘密ってあれ? 私たちが愛でられているってこと!?


「あなたは完璧なんかじゃないし、協奏者としてふさわしくもない。そうでしょ?」


「なにを……」


「あら、証拠ならあるわよ。しっかりと映像結晶に収めているもの」


 先輩が取り出した結晶は、映像を保存しておける魔道具の一つ。

 ……え、もしかしてあれに普段のイルマ先輩の姿が?

 ほしい。あのときの先輩、正直かわいいから映像でほしい。


「どうする? あんな汚点を隠して完璧な協奏者だなんて、ヴェントール家の恥にならないかしら?」


「……」


 なんかイルマ先輩が言いくるめられそうなんだけど……。

 え~。いいじゃん、かわいいものが好きだって!

 むしろそっちのイルマ先輩のほうが接しやすくて私好きだし!


「イルマ先輩! 大丈夫です! そんなの秘密にするようなことじゃないので!」


 だから、私はつい大声で叫んでいた。

 その声で吹っ切れてくれたのか、イルマ先輩は加減をやめたみたい。

 拮抗しているように見えた精霊魔法はすぐにイルマ先輩が優位となり、相手は突風に耐えきれずに転倒した。


 あ。その拍子に映像結晶が起動して……。


『かわいい~!』


 あなたのほうがかわいいですよ? イルマ先輩。

 収められた映像は予想通りのものだった。

 最近私たちによく見せてくれる、かわいいイルマ先輩の姿だね。


「あ、こ、これは……」


 さすがのイルマ先輩もこれにはしどろもどろになっている。

 真っ赤になって弁解しようとするも、何も言葉が思いつかないみたい。


「え、あれがイルマさん?」


「いや、さすがに幻術系の魔法とかなんじゃ……」


「でも、あれ」


「うう……」


 周りのざわめく声に、イルマ先輩は観念したように肩を落とした。

 こうなったら、私が変なことして気をそらすしかないね!

 しかし、一歩踏み出そうとしたその瞬間、ざわめく声はその内容が変わった。


「イルマさん。かわいいの好きなんだ」


「へえ。親しみやすいかも」


「なんかもっと冷たい人かと思ってた」


 大丈夫そう!

 ほ、ほらね? 私は最初からわかってたし。

 イルマ先輩なら、本当の姿でも受け入れてもらえるってね!


「君、何をドヤ顔してるのさ?」


「げえ! カリオ先輩!」


「はいはい、いつも元気だね。それより、今は騒ぎを収めないと」


 そう言いながら、カリオ先輩は人混みをわけてイルマ先輩の隣に立つ。

 あれ!? 私には今の皮肉っぽいこと言いにきただけ!?

 おのれえ……。やはりあの人がこの学校のラスボスだね。

 絶対陥落してやるんだから。


 ただ、騒ぎを収めて人だかりをテキパキと解散させるその姿はさすがだね。

 認めてやろうじゃないの!

 私のライバルとして認定しようかな?


「また変な顔して……。君もさっさと……いや、もういいや」


「ごめんね? カリオもシエルちゃんも」


「いいよ。単なる協奏者交代戦だし」


 行っちゃった。

 本当になんでもないことみたいだね。

 それだけ当たり前の光景なんだろうなあ。ああいう戦いが。


「シエルちゃん。私、自分を出してよかったみたい」


「でしょう!? いやあ、そうだと思ってたんですよねえ」


 私のそんな自信満々な返事にイルマ先輩が笑う。

 ほほえむじゃなくて笑う、だ。

 でも、私はそっちのイルマ先輩のほうがやっぱり好きだなあと思うのだった。

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