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黒はすべてを混ぜる色 ――忘れられる少女と、忘れない者たち  作者: パンダプリン


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第24話 壁があったら突き破るタイプ

「ありがとうございました!」


「ありがとうございました」


 今日の特訓はいい特訓だった。イルマ先輩、さすが協奏者だねえ。

 私も黒の派閥の協奏者を目指すからには、いずれこういうふうに誰かを指導できるようにならないと。

 リセアちゃんと二人で頭を下げると、イルマ先輩は周りを見てから言いにくそうに口を開いた。


「えっと……。私があんな感じだったこと、悪いけど内緒にしてもらえないかしら?」


「あんな感じというと……かわいいもの大好きなかわいいイルマ先輩のことですか?」


「う……。申し訳ないと思っているわ」


「え~なんでですか? 褒めてくれたんですし、私たちは全然気にしてませんけど。ね、リセアちゃん」


「う、うん。私も全然気にしていません」


 だよねえ。なんなら普段耳にする陰口なんかのほうがよっぽど嫌な言葉だし。

 私は聞かないことにしているけれど、リセアちゃんも少なからず言われているみたいで嫌になっちゃうね!


「だって、変だから」


「変」


 ……う~ん。そうかなあ。いや、言っちゃ悪いけどそうかも?

 私たちをかわいがってくれるのはいいけれど、小動物みたいな扱いだったもんね!

 ただ、そのぶんを考えても問題ない。かわいがられる後輩シエル・アルモニアを目指そうかな。


「大丈夫です。私の方が変なので」


「あ、それはたしかに……」


「リセアちゃ~ん?」


 なんであなたが同意するのかな?

 まったくもう! 遠慮が無くなってきていいことだね!

 お礼にほっぺたを触っておこう。


「シ、シエルちゃ~ん……」


「んん! かわいい!」


 あ、イルマ先輩の発作だ。

 ……なるほど、トゥリちゃんがそう言っていた理由が私にもわかった気がする。

 ただ、これはこれで変というよりは面白い。イルマ先輩は面白い先輩なのだ。


「うっ……。と、とにかくこんなことじゃいけないわ」


「え~? いいじゃないですかあ」


「駄目よ。私はヴェントール家の長女として、かわいいものやかわいい子なんかにうつつを抜かしている暇はないんだから」


 おやあ?

 イルマ先輩の言っている駄目という理由が、なんか私が思ってたのと違う。

 てっきり普段と全然違う態度になるから、それを恥ずかしがっているのかと思っていた。

 でも、今の言いかただとまるでかわいいものを愛でること自体を律しているかのようだ。


「イルマ先輩ってかわいい動物好きですか?」


「そうだけど……。でも、そういうのは今はいいの」


「え~。イルマ先輩なら、それだけに夢中になって他がおろそかになることはないと思うんですけど~」


「でも……。変だから」


 変かなあ? 私だってかわいいもの好きだけどね!

 リスとか鳥とか花とか猪とか熊とか。

 トゥリちゃんも猫みたいでかわいいと思ってるし。


「変じゃないですよ。かわいいものをかわいがることの何が変なんですか」


「……」


 あれ、聞いてます?

 私の言葉に驚いているとかならまだいいけれど、なんかそういう感じでもないような……。

 なんだろう。心ここにあらずみたいな感じ?


「え。あれ、それは……」


「あの~。大丈夫ですか?」


「……っええ。大丈夫よ」


 本当に大丈夫かなあ?

 なんだか急にぼうっとしていたみたいだけど貧血とか?

 だとしたら、保健室に連れて行ったほうがいいかも。


「保健室行きます?」


「本当に大丈夫だから」


 ……うん。たしかにもう問題なさそうだね。

 さっきのは立ち眩みか何かだったのかな?

 そんなことを考えていると、イルマ先輩は私が心配していることを申し訳なさそうにしながら話を続けた。


「あなたたち相手でも、かわいいと思わないようがんばるようにするわ」


「え~! かわいい後輩ポジションになれると思ったのに~」


「そういう意味じゃなくて、なんというかこうね。さっきみたいなかわいいという感情は不要なの」


「不要ですかねえ? 癒やしって大事ですよ?」


 まあ、私も自分が癒しがなんて傲慢なことを言うつもりはないけど。

 ただ、イルマ先輩がそう思ってくれているのなら、それでもいいんだけどなあ。


「駄目よ。ヴェントール家に恥じない精霊使いになるためには、かわいいものにかまっている姿なんて見せるわけにはいかない。私は、誰に見られても問題ない精霊使いを目指しているんだから」


「見られてもいいと思うんですけどねえ」


「私はそんなものを愛でるなんて許されないの」


「誰かにそう言われたんですか?」


「ええ、そう教育されたわ。だけどそのことが間違っているとは思っていない」


 でもなあ。かわいいと言っているイルマ先輩はいつもと違っていた。

 思うに、あっちが本来のイルマ先輩なんじゃないかな?

 だとしたら、イルマ先輩は家のために自分を押し殺しているってことにならない?


「イルマ先輩はそれでいいんですか?」


「もちろん。だって私がそう決めたんだもの」


「本当ですか? 誰かにそれを強要されたから、自分を騙したりしていませんか?」


「そんなことは……」


 むむっ! 怪しい反応!

 心当たりがあるじゃないかなあ? 違うのならもっときっぱりと断言しているはずだもの。


「イルマ先輩はすごい先輩だと思っています」


「ど、どうしたの急に?」


 話したのは少しだけど、さっきの精霊魔法の指導もすごかった。

 それに協奏者としてみんなに尊敬されているのだから、私が知る以上に色々と努力してきたんだと思う。

 他の先輩たちにも一目置かれている彼女は、間違いなく協奏者という頂点にふさわしい。


「でも、本当の自分を見せたとしても、そのすごさがなくなるわけじゃないと思います!」


「……そんなこと言われても」


「大丈夫です! 私が保証しますので! 今ならリセアちゃんの保証もついてきます」


「ええ!? ……で、でも私もシエルちゃんの言うとおりだと思います」


 だよねえ。

 だから、イルマ先輩は自分にそんなに厳しくしないでいいんじゃないかなあ?

 むしろ、ちょっと自分を甘やかすくらいのほうがバランスがいいと思いますよ?


「イルマ先輩はもっと自由に生きていいと思います」


「自由に……ね」


「はい! なんなら自由な生き方教えましょうか!? 私、この学校でもかなり自由な自覚がありますので!」


「たしかに、シエルちゃんは自由そのものね。まるで精霊みたい」


 だってさ。ほら、精霊くん。先輩も褒めてくれた。


『その人間は褒めてるけど、ボクの場合は褒めてないからね~』


 もう! 素直じゃないんだから!

 でも、イルマ先輩が認めてくれたっていうのは、私も同意見だし嬉しくなるね。


「先輩も自由になれますよ。簡単です。ほら、こうして黒い制服をちょっと着てみるだけで、あなたは完全に自由の人です」


「急に悪の勧誘になったわね」


「騙されませんか?」


「騙されません」


 駄目かあ。騙されたと思ってという言葉がこうも通じ無さそうな場面があるとはねえ。

 ただ、そんな私の言葉を冗談だと思ったらしく、イルマ先輩はやさしくほほえんでくれた。

 ……半分くらい本気だったんだけどね。まあ、イルマ先輩が元気ならいいことだよね。


「先輩、絶対に大丈夫です。なんなら自由に生きたほうがうまくいきますよ?」


「……ありがとう。考えてみるわ」


 考えてくれるかなあ?

 そう言って考えてくれない人ってわりといるからなあ。

 社交辞令。私の苦手な言葉です。


「あなたは……噂と違っていい子ね」


「噂はだいたい変なことが多いですからねえ」


 ヴィルタさん先輩もそれで苦しんでいたみたいだからねえ。

 無責任な噂ってよくないよ。


 だから、私はこうして真っ向からぶつかるのだ。

 そうしないとその人の本当の姿は見えてこない。

 私を避けていようと嫌っていようと、私はまずはぶつかってみる。

 そうして仲良くなれるのなら最高だよね。

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