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黒はすべてを混ぜる色 ――忘れられる少女と、忘れない者たち  作者: パンダプリン


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第23話 プリンセスと小動物

「やっほ~トゥリちゃん」


「やっほー」


 表情筋はともかく、トゥリちゃんってわりとノリがいいよねえ。

 あとは黒の派閥に入ってくれたら言うことなしなんだけど……。


「入らない」


「え、声に出してた?」


「言われそうなことはわかる」


「ほええ、さすがだねえ。トゥリちゃん」


 それとも私がわかりやすいだけ?

 ただ、いちいち口に出さずとも勧誘できると考えれば、これはこれでありなのでは?

 ……その都度断られるだけな気がしてきたけど。


「人が増えたんだね」


「そう! 黒の派閥は着々と力をつけているよ~。今入れば古参を名乗れるけど、どうかな?」


「入らない」


 それにしても今は私とリセアちゃんしかいないのに、よく知っているね。

 案外注目度が高かったりする? なら、ここらで一つ成果を出せば、派閥加入希望者がどっさりと集まりそう!


「あなたはそれでいいの?」


「え、わ、私ですか!? ええと……はい。私はシエルさんのように、全ての属性を学びたいので」


「そう……」


 むむ……。

 うちのナンバーツーを引き抜こうだなんて、さすがにトゥリちゃんでもそれは駄目だよ。

 ということで、私はリセアちゃんをこちらに抱きよせた。


「シ、シエルちゃん?」


「リセアちゃんはうちの派閥だからね?」


「わかってる」


 ならいいや!

 さて、今日の勧誘も失敗したことだし、明日改めて勧誘しよう。

 あとはヴィルタさん先輩と王子様も勧誘して、ノルマを達成しなくっちゃ。

 三人で集まってお話するのもいいけれど、やることをすませてからじゃないとね。


 さて、気軽に話せるヴィルタさん先輩のほうから勧誘に……。

 行こうと思ったら、ばったりとイルマ先輩と出くわした。


「……」


 あ、表情をしかめている。ってことは、私を見て不快に思ったとかかな?

 それじゃあ一旦失礼して、イルマ先輩の横を通り抜けさせてもらおう。

 向こうも歩み寄ろうとしてくれているので、いつもみたいにぐいぐいと距離を詰めてはいけないのだ。


「……か」


「か?」


「かわいい」


 なにが? もしかして、校内に動物でも迷い込んでいた?

 イルマ先輩はまた顔を押さえてしまったけれど、今度はその場に崩れるようにしゃがみこんでいる。


「……また」


 また?

 私はトゥリちゃんの呟きを聞き逃さなかった。

 もしかして、私の見えないところに何かかわいいものが……。あ、もしかして精霊を見て言ったのかなあ?


「どういうこと? トゥリちゃん」


 私はトゥリちゃんのところに小走りで戻って聞いてみる。

 リセアちゃんとトゥリちゃんと三人でわちゃわちゃしていると、イルマ先輩がぷるぷると堪えきれない様子で大声を出した。


「かわいい! あ~もう! 我慢してたのに!」


「な、なにごとでしょうか!?」


「またイルマの発作が……」


「どういうこと? トゥリちゃん」


 トゥリちゃんはなにかわかっているのかな?

 というか、呼び捨てだねえ。もしかして知り合いだったりするんだろうか。

 いや、疑問はいっぱいあるけれど、今はこの状況についての説明を聞かなくっちゃ。


「イルマはかわいいものが好き」


「ちっちゃくてかわいい生き物が三人で固まってる! なでていい!?」


「……え!? 私たちですか!?」


 私とリセアちゃんは二人揃ってきょろきょろしてみたけど、周りには他に誰もいないもんね?

 精霊さんたちかもしれないと思ったけれど、三人って人数は私たちも同じだし……。

 え? 本当に私たちのこと言ってます?


 トゥリちゃんのげんなりした表情を見るに、どうやらそれは自意識過剰ではないらしい。

 え~……。なんか手が怖いよ~。

 もしかして、今までしかめっ面をしていたのって、これを我慢していたから?


「一回触るごとに、黒の派閥に一日所属してもらうのはいかがでしょう?」


「う……。そう、ね。ありがとう落ち着いてきたわ。ごめんなさい変なことを言って」


 あれえ!?

 許可したのに冷静にさせちゃった! そんなに嫌かなあ。黒の派閥に入ることが。

 イルマ先輩はすっかりいつも通りの綺麗な先輩に戻った。

 さっきまでも綺麗だったけど、雰囲気ってやっぱり大事なんだねえ。

 綺麗さよりもなんか恐ろしい感じがしたよ。


「ああ、もう。せっかく我慢してたのに……」


「我慢するほどですか? 私たちこんなですよ」


「やめて、見せないで。あなたたちみんなちっちゃいし、小動物的なかわいさがあるの」


 失敬な!

 ちっちゃいことは否定できないけれど、私だっていずれは大きくなる可能性があると思うんだよね!

 ……リセアちゃんとトゥリちゃんを横目で見る。

 うん。私のほうが心なしか背丈も大きい。


「なに?」


「い、いや~? なんでもないよー」


「ほら! そうやって小動物同士でかわいくじゃれあってる!」


「ついに私たちが、人間というくくりから解き放たれましたけど!?」


 小動物みたいという発言は、いつしか本物の小動物扱いへと変化していた。

 そっかあ。そういうかわいさに……いや、あまり納得できないけどね!


「イルマ先輩ってかわいい動物が好きなんですか? 山にきます? リスとかいますよ?」


「う……。行きたい」


「では、山を案内する代わりに黒の派閥に」


「あなた本当にたくましいわよねえ……」


「黒の派閥の協奏者に最も近い生徒ですから!」


 ただ、私の勘違いでよかった。

 私と一緒にいるイルマ先輩って、いつも何かをこらえていたもんね。

 私が気に入らないから怒りたいけれど、それを何とかして我慢しているのかと思ったよ。

 まさか……私たちを愛でるのを我慢していたとは。

 うん。改めて言語化しても意味わかんないね!


「つまり、イルマ先輩と私はこれから仲良しになれるってことでいいですね?」


「何がつまりかわからないけど、私は別にどの生徒が相手でも仲良くしたいとは思っているわ」


「そうなんですか? じゃあ、リセアちゃんも?」


「ええ。その子はよく風の精霊の授業を受けているわね。演習場で訓練している姿も……なんか、一生懸命でかわいい」


「あ、ありがとうございます……?」


 そういえば初日はイルマ先輩がかばってくれていたっけ。

 ただ、その後すぐにいなくなっていたから、私たちに興味なんてないんだと思ってた。

 それが、実はリセアちゃんをかわいがるのを我慢するためだったとは……。

 風の協奏者であるイルマ先輩。この人もなかなか癖が強いねえ。


「じゃあ、せっかくだしイルマ先輩に指導してもらようよ。リセアちゃん」


「そ、そうだね……。シエルちゃん」


「そうやってすぐにじゃれあってるところがかわいい……。どうする? なでる?」


 つまり、私たちが仲良くしている姿をかわいいと思ってくれているってことだね。

 なでてもいいですけど、まずは演習場に移動しましょうか。


「イルマさん。今日はその子たちと一緒なんですか?」


「え、ええ。指導を頼まれたからね。後輩の面倒を見るのも協奏者としての役目、でしょ?」


「イルマさんはやさしすぎるんですよ」


「あら、この子たちだって風の派閥の仲間よ」


 う~ん。この人たちはさっきのイルマ先輩の姿を知らないっぽいねえ。

 今やすっかり物静かで冷静なお姉さんに戻っている。

 ということは、あれはあれで普段見られない希少な姿を見られたのかもしれない。

 なんかトゥリちゃんは知っていたっぽいけれど、知り合いみたいだからね。


「あなたたちも精霊使いの腕を磨くためにここに来たんでしょ? この子たちのことはいいから、自分のことだけに集中していいわよ」


「……イルマさんがそういうのなら」


 こうしていると、さっきのイルマ先輩が嘘みたいだねえ。

 私とリセアちゃんはそのままイルマ先輩に指導してもらうことにした。

 さすがは協奏者。ヴィルタさん先輩もそうだったけれど、なんか今日は特に上達できた気がする!

 リセアちゃんもそれは同じだったようで、私たちは二人で喜びを分かち合った。


「んん! か、かわいい……」


 あ、さっきのイルマ先輩だ。

 よかったあ。さっきの姿は私が見た幻覚かと思っていたけれど、どうやらそうじゃないんだねえ。


    ◇


「でもやっぱりどこかで……? いえ、私があんなかわいい生き物を忘れるはずないし、気のせいかしら?」

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