第22話 先輩はご機嫌斜め
「というわけで、仲間が増えました~! ローデン先輩とカリナ先輩で~す!」
「ローデン・テリオンだ。よろしく」
「カリナ・グラティアよ。よろしくね」
「え。す、すごいね……。シエルちゃん」
リセアちゃんにさっそく先輩二人を紹介する。
黒い制服が四人も! 一気に倍も増えた!
……まあ、元が二人だったというのもあるけれど、それでも倍は倍だからね!
「でも、黒の派閥って決まった属性の授業を受けているわけじゃないんだよな?」
「そりゃあなんせ、黒の派閥ですし!」
「それに、あなたたちもいつも一緒ってわけじゃないわよね」
「うちの派閥は自由を愛する派閥ですので!」
私の言葉に先輩二人は顔を見合わせた。
うちの方針ってガチガチに決まっているってわけじゃないからね。
あくまでも、どの属性の授業も受けたいという志の人が集まればいいだけだし。
だから、黒の派閥でずっと炎の精霊の授業を受けてもいいんだけどなあ……。
トゥリちゃん、そう言ったら仲間になってくれないかな?
「というわけで、先輩たちも自由ですよ? 今まで通り土の精霊だけを学ぶのも。ちょっと他に興味があるので受けてみるのも」
「そもそも、私たち今さら授業を変えるの難しいからねえ。シエルさんはともかく、リセアさんが変更できたのも入学したばかりだったからでしょ?」
「は、はい。それでもすでに受けた授業はそのままなので、風の属性が多めですけど」
あ~。そっか、そういう問題もあるのか。
まあ、そのときは次の学期に変わったら変更できるって話だし、先輩たちも夏には他の属性を学べるね。
というか、リセアちゃんとあまり授業で一緒にならないの、そういう理由だったんだねえ。
「なんで、君が何も知らないって顔してんだよ……」
「深いところまでは考えていなかったもので!」
「私たちがしっかりしないと、この子心配になってきたわ……」
ただ、今日は違うね。
私も風の精霊の授業を多めに取っている日だから、ほぼ一日中リセアちゃんと一緒なのだ。
「というわけで、風のほうに行ってきま~す!」
「はいはい。問題は起こさないようにね」
「なんか、あの子自身が風みたいだな」
精霊くんにも言われているからね!
私、精霊にも負けないくらい自由だって!
『褒めてはいないからね?』
ええ~。
いいじゃん自由。私の好きな言葉です。
なんて言ってないで、さっさと風の講堂に移動しなくっちゃ。
なかなか順調だね。今日の授業もしっかりと身についたと思う。
それに、黒仲間がいる授業というのも悪くない。
心なしかいつもよりは爪弾きにされていない気がするから。
「この流れでこのまま演習場行く?」
「そうだね。私もそろそろ風の精霊を上手に制御しなくっちゃ!」
「やる気だね~リセアちゃん。なら、急いで向かおっか!」
二人で校内を移動する。走りはしない。走ったらカリオ先輩に注意されるからね。
気持ち急ぎつつ、速足で演習場に向かう途中。綺麗な声が耳に響いた。
「あら。あなたたち」
その声がしたほうを振り向くと、そこにいたのはイルマ先輩。
う~ん特に美人だよねえ。トゥリちゃんはかわいいけど、この先輩は純粋に綺麗って感じだ。
物静かで大人の女性って感じがする。これで私と年齢が二つしか変わらないのかあ。
『たかだか二年の差なんて無いようなものなのにねぇ。ほんと、シエルって子供っぽいよ』
精霊くんに言われたくないんですけど!
『ボクはほら、生まれたばっかりだから』
そんなので二年をたかだかとか言ってたの!?
まあ、精霊は何万年も生きるみたいだし、最終的には二年程度一瞬かもしれないけどさあ。
精霊くんと争っているとイルマ先輩は顔をしかめた。
「……大丈夫かしら?」
あ、心配してくれている顔だったんだね。
てっきり何か気分を害してしまったのかと心配しちゃった。
「大丈夫です! ちょっとした意見の食い違いというやつですので!」
「そう。それならよかった……のかしら?」
「問題ないです!」
うん。私とは別の人種って感じだね。
だけど、それが仲良くなれない理由にはならない。
ヴィルタさん先輩もトゥリちゃんも、あと一応カリオ先輩とも仲良くなれたことだし。
このまま風の協奏者のイルマ先輩とも仲良くなってしまって、派閥のトップみんな仲良し作戦といこうじゃないの。
「イルマ先輩。仲良くしましょう!」
「え。……ええと」
また険しい表情をされてしまった。
というか顔に手をあてているけれど、これは呆れられている?
そんな私たちを見て、リセアちゃんが慌ててフォローをしてくれた。
「あ、あの……。シエルちゃんはみんなと仲良くしたいだけで、その……」
逆効果かも!
言っていることはおかしくないはずなのに、なんか余計に顔を手で隠してしまった。
あの手の中にはもしかしたら鬼のような形相が……。
「そう。私も別にいがみ合うつもりはないから、よろしくね。二人とも」
なんてことはなかった。
落ち着きを取り戻したイルマ先輩は、やはり私たちに凛とした表情と声で返事をしてくれる。
……おや? 仲良くなる作戦早くも成功?
「ありがとう。リセアちゃん! ありがとうございます。イルマ先輩!」
「わ、私は別に……。シエルちゃんが臆せずに話しかけたからだよ。ありがとうございます。イルマ先輩」
「……」
大丈夫かなあ!
やっぱり私たち嫌われてない!?
話すたびに顔をしかめられるし、ひどいときは顔を手で隠しちゃうんだけど!
はっきりと嫌いだと言いながらも、表面上は普通に接してくれたカリオ先輩とはまた別だねえ。
ただ、もしもこの態度が私たちを嫌っていることを隠そうとしているものだとしたら、それを隠そうとしてくれていることだけでも嬉しいね!
だって、イルマ先輩はイルマ先輩でこちらに歩み寄ってくれようとしている証なんだから!
「それじゃあ、一緒に風の演習場まで行きましょうか!」
「シ、シエルちゃん。イルマ先輩の予定を聞かなくっちゃ」
「あ、そうだね。いけますか!? イルマ先輩!」
「……ちょっと待ってもらえる?」
あ~。やっぱり忙しいのかなあ?
それにしても、ちょっとイルマ先輩の印象が変わったなあ。
なんというか物静かで凛としていて大人な女性って感じだったけど、わりと表情がころころと変わるのかな?
ただ、それが呆れや怒りへの変化をこらえるものであり、その原因が私っていうのが問題だねえ。
「あなたたち、イルマさん相手に何してるの!」
「あ、初日の先輩」
「どんな覚え方!?」
だって、リセアちゃんを指導していたっていう印象が大きいんだもの。
あと、イルマ先輩に付き従っているような感じだったから、風の派閥でもけっこうな実力者っぽいなあとは思ったね。
「とにかく、イルマさんに絡まないでもらえる?」
「いえ」
「すみませんイルマさん。私がしっかりと指導しておきますので」
「いえ、私は……」
まずい! 怒られる?
ん? いや、今指導って言ったね。言質は取った!
「じゃあ指導お願いします。先輩! さあ、さっそく演習場に行きましょう!」
「え、ちょっと!? そういう意味じゃ」
「指導してくれるんですよね! さあさあ。風の精霊が待ってますよ!」
「精霊が人間を待つはずないでしょ! ちょっと、あなた強引ね!」
イルマ先輩と打ち解けるにはまだまだ時間はかかるかもしれないけれど、推定ナンバーツーの先輩を確保できた!
こちらの先輩は私たちにまだ良い印象を持っていないみたいだから、こうして強引にでも仲良くなれる切っ掛けを使ってしまえ。
ということで、私とリセアちゃんは先輩から風の精霊使いのなんたるかを学ぶのだった。
……先輩、案外面倒見いいんですねえ。




