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黒はすべてを混ぜる色 ――忘れられる少女と、忘れない者たち  作者: パンダプリン


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第20話 にじんでいく墨の色

 苦しまないのがせめてもの救いかなあ。

 モンスターってなんなんだろうね。攻撃を回避したりはするから、人間を襲うことだけを考えているわけでもない。

 だけど、反撃なんて気にせずに戦うことを最優先。そこに感情らしきものもないし……。


「校舎に逃げるように言ったんだけどね」


「でも、あのままだと王子様が怪我することになるかなあ、なんて思いまして」


 どうだったかな?

 王子様は、土の精霊の力で生徒を守ることを第一に考えて行動していた。

 生徒たちは無事怪我無く土の壁に守られていたけれど、あのままだと王子様が……。

 それとも、王子様はあのくらいのモンスターなら問題ないのかな?


「それはその通りだね。ありがとう、助けられたことは感謝するよ」


「あ、助けになっていましたか。それはよかった」


「よくないね。それで君が危険な目に遭ったら意味がない。違うかい?」


「う~ん……。私、わりと強いですよ? ほら、山育ちなので」


「たしかに、山のほうがモンスターとの遭遇率は高いかもしれないけど……」


 そう。ちょくちょくモンスターとは遭遇している。

 そのたびに精霊くんが助けてくれるので、私はむしろこういうことに慣れているのだ。

 モンスターに襲われることと比べたら、制服云々で些細な嫌がらせを受けることなんて平和そのもの。

 ……まあ、モンスターとは違って悪意やらの感情には慣れてないけどね!


「無事ですか!?」


「あ、先生」


 騒ぎを聞きつけてくれたのか、先生たちがこちらに走ってくる。

 他の場所は大丈夫なのかなあ? こっちは問題ないから、片付いていないのなら別の場所に行ってもらいたいんだけど。


「こっちは平気です。ということで、他に困っている場所があれば手伝いましょうか?」


「何言ってるんですか!? 生徒を助けてくれたことは感謝しますが、無茶したらいけませんよ?」


「元気です!」


「そうみたいですけど……」


 ただ、教師としては生徒に無理させたくないってことかなあ。

 王子様も私がモンスターと戦うことを良しとしていなかったみたいだし、ここは大人しく校舎に逃げようかな。


「カリオくんもありがとうございます。ただ、あなたもすぐに避難してくださいね?」


「ええ。僕はそこの問題児を連れて行きます」


 そこの……。私かな?

 そうだよねえ。さっきまで襲われていた二人はもう避難したみたいだし。


「ほら、行くよ」


「は~い」


 ここで先生たちを困らせるつもりなんてない。

 私は王子様に手を引かれ、今度こそ校舎の中へと避難するのだった。

 ……子供じゃないんだから、手をつながなくてもついていけるんだけどなあ。


「さて、もう問題なさそうだね。モンスターたちは先生方が倒してくれている。あとは時間の問題だろうね」


「先生たち強いんですねえ」


「精霊使いの卵を指導している者たちだからね。いざというときは誰もが戦えるというわけさ」


 さすがは一人前の精霊使い。

 ただ、みんな属性は一つだけっぽいなあ。私が目指すような複数属性の先生はいない。

 そんなことを考えながら観察しているとばれたのか、王子様は私に尋ねてきた。


「まだ諦めない? あの先生方でさえ、属性を複数学んだりはしていないけれど」


「それってやっぱり、一つを極めたほうが強くなれるからってことですよねえ」


「……そうだね。複数の属性を戦場で扱うなんて、優れた精霊使いでも難しいのさ」


「王子様のお兄さんもですか?」


「あの人はそれでミスをした。規則を破って仲間を助けに行き、無茶な精霊の使い方をして力が暴発した。その結果、被害の全ては自分の力を過信した愚かな王子のものとなった」


 むむむ……。たしかに規則は破ったかもしれないし、もしかしたら自分のできること以上のことをしようとしたかもしれない。

 ただ、それで全ての責任が押し付けられるのはさすがにどうかと思うな!


「はい!」


「……何かな?」


「お兄さんはそれでも人を助けようとして動いたんです! えらい人たちはそれを罰する必要があるかもしれませんけど、私はお兄さんはすごい人だと思います!」


「……そう、だね」


 ほら! やっぱり王子様もそこは認めているじゃん!

 なのに、無理してお兄さんが悪かったなんて言う必要は無いと思うんだよね!


「お兄さんを誇っていいと思いますよ!」


「……ありがとう」


「いえいえ。では、私も黒の派閥として」


「だから、それは話が別だからね?」


 あちゃあ。

 本当に手強いねえ。さすがは王子様だよ。


「でも、私たち協力してモンスターを倒したことですし、これで王子様も私を嫌わなくなりましたね!」


「それも話が別。僕はこれからも君を嫌っていると思うよ」


「え~……。距離が縮まったと思ったんですけどねえ」


「そのときは僕がまた離れるから」


 そんなに嫌われてるの!?

 おかしいなあ。本当にそれほど嫌われているのなら、私だってもう少し遠慮するんだけど。

 ただ、王子様の場合はそこまでじゃないと思うんだよね!

 現に私とも普通に接してくれているし!


「王子様は強情ですねえ」


「ああ、それと」


「なんですか?」


「カリオでいいよ。この学校で僕を王子様なんて呼ぶの君くらいだし」


「わかりました! カリオ先輩!」


 ほら! これはもうカリオ先輩の中でのシエル・アルモニアの好感度がぎゅんと伸びたのでは?

 名前で呼べだなんて……。わりと普通のことだねえ。

 というか、周りもみんなカリオさんだのカリオ様だの呼んでるもんねえ。

 学校内でわざわざ王子という肩書を強調するな、という注意だったのかも。


「あ、いたいた」


 この声は……!

 知り合いではないねえ。えっと誰だっけ。でも聞き覚えがあるような。

 顔を向けると、そちらにはさっきモンスターに襲われかけていた先輩たちがいた。

 ああ、そっか。そのときの悲鳴みたいな声に聞き覚えがあったんだ。


「カリオ様。どうもありがとうございました!」


「いいよ。気にしないで」


 男女の先輩はカリオ先輩にしっかりと頭を下げる。

 さて、私はこの場にいたら邪魔だろうし、リセアちゃんやトゥリちゃんの様子を見に行こうかな。

 そろりと立ち去ろうとすると、女性の先輩がそれに気付いて私に声をかけてくる。


「あ! ……ま、待って」


「はい。なんでしょう」


 黒の派閥のシエル・アルモニアです。

 まさかこんな状況でも皮肉とか言われたら、私も少々後味が悪くなります。


「……ありがとう。助けてくれて」


「ああ。その、あんたがいなかったら危なかった。ありがとう」


「……いえいえ! なんせ黒の派閥のトップですからね!」


 よかった~。

 恩に着せるつもりはなかったけど、ここで陰口というか悪口を言われるのは嫌だからね!

 むしろ、素直に感謝の気持ちを伝えてくれる二人を疑うだなんて、私のほうが人が悪いね!

 なので、私はそんなばつの悪さをごまかすついでに、いつもどおりの勧誘をするのだった。


「黒の派閥はいつでも人材を募集していますので、感謝の証に加入してくれてもいいですよ」


 さあ、断られるのを待たずに立ち去ろう。

 踵を返して背を向けると、先輩たちは律義にも私の言葉に返事をした。


「……そうね。それでもいいわよ」


「ああ。モンスター相手に立ち向かえるようになれるなら、俺も制服の色を黒にしてもいい」


「え!? 本当ですか!」


「なんであなたが一番驚いているのよ……」


 そりゃあ当然! 駄目元でも言ってみるものだねえ。

 まさか本当に派閥に入ってくれるなんて。

 ……まあ、明日になったら気が変わっているかもしれないけれど、そう考えてもらえただけでも一歩前進だね!


「いつでも待ってますよ! 気が向いたらぜひ!」


「ええ。その……ごめんね。今まで」


「いえいえ!」


 そんな些細なことは気にしない。

 これから仲間になるのであれば、これまでのことなんてもう忘れた!

 これはなかなか確度が高いんじゃないかなあ! うまくいけば、本当に仲間になってくれる気がしてきたよ。


 急にモンスターの襲撃なんてあったけれど、終わってみれば怪我人もいなかったようだし仲間も増えそう。

 今日もまた、私は黒化計画を一歩前進するのだった。


    ◇


「やっぱり……君の気は変わらないんだね。黒の派閥……。なんとかして解体しないと」

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