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黒はすべてを混ぜる色 ――忘れられる少女と、忘れない者たち  作者: パンダプリン


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19/59

第19話 わりと武闘派です。山育ちなので。

「今日は魔族とモンスターについての授業です」


 精霊使いといえど、精霊についてばかり勉強するわけじゃない。

 周辺国について、精霊以外の魔法について、果てはこのような基本的な知識までを教えてもらえる。

 だけど、さすがの私でもこのあたりについては知っているからね!

 安心して授業に取り込めるというものだよ。


「魔族とはかつて女神に見捨てられた悪しき種族であり、その報復に地上を侵略しようと企てていました」


 遠い昔。まだ女神様がこの世界に存在していたころ、そりゃあもう恐ろしい種族がいたらしい。


「魔族の王は魔王を名乗り、世界中を巻き込んで争いを続けました」


 怖い話だよねえ。たしか、勇者様や女神様の使徒が力を合わせて戦ってくれたんだっけ。

 魔王がいたのも遥か昔の話だけど、そのことは忘れないようにと伝えられている。

 それに、意外と身近なところで私たちにも関係あるからねえ。


「魔王や魔族は恐ろしい強さでしたが人類には数で劣る。だから、魔王はモンスターと呼ばれる存在を生み出しました」


 そう、それがモンスター。

 先日王子様も言っていたように精霊使いが前線で戦う場合、主な敵となるのはこのモンスターたちってことみたい。


「モンスターは知性を有しておらず、目についた人類を襲う極めて凶暴な生物であり、未だ人類への脅威として残り続けています」


 現にモンスターの被害に遭ったって人は毎年少なからずいるからねえ。

 私が住んでいたような田舎だろうが、この学校があるような都会だろうがおかまいなし。

 人間と見たら襲いかかってくるのだから、本当にただ人を襲うためだけに生まれた存在なんだと思う。


「私たち精霊使いがこの国で優遇されている理由は、モンスターへの対抗手段という側面があります」


 そうそう。でも精霊くんたちさえいれば、たしかにモンスターへ対抗ができると思う。

 なんせ、炎でドカンと攻撃できるからね!

 ただ、それが危険だということは忘れないようにしないとね。

 王子様のお兄さん、そういう戦いで亡くなったみたいだし……。


 その後も先生からモンスターの危険性や習性。

 いざというときはどうすれば狙われづらくなるか、等々を教えてもらえた。

 それにしても種類が多いねえ……。モンスター学科でもないと、全てを学ぶことは無理なんだろうなあ。


「モンスターは知性がありません。だからこそ、とんでもない場所で襲撃される可能性があることを忘れないでください」


 人が多いからとか、そういうことも考えないみたいだからねえ。

 ここで襲いかかったら確実に撃退されるという考えはなく、目についたらとにかく攻撃。

 いやあ、恐ろしい習性だよ。


 そんな恐ろしいモンスターたち。

 それが身近な存在であるということは、私たちはすぐに思い知ることになってしまった……。


『シエル』


 おや、どうしたの? 精霊くん。

 魔石の中から精霊くんの声が届く。

 実体化していないときは自分から話しかけることは少ないのに、精霊くんからの話だなんて珍しいね。


『気を付けたほうがいいよ。たぶん、校内にモンスターが入ってきた』


「ええ!?」


 思わず思念ではなく普通に声をあげてしまった。

 周りが何事かと見てくるも、なんだあの黒かとすぐに視線を逸らされる。

 ありがたいんだかありがたくないんだか、まあ今更目立っても問題ないってことかな。


 と、とにかく先生に報告を……。

 廊下は走ってはいけません。そんな規則を破りながら、私は一直線に職員室のほうへ……。

 向かう途中でぶつかってしまった。


「あいたた……。す、すみません。急いでいて」


「……昨日制服については話したけど、廊下を走るのは完全に規則を破ってるよ?」


 この声は王子様!

 い、いやあ。それにつきましてはのっぴきならない事情があるといいますか……。


「じゃなくて、大変です! モンスターが」


「モンスター……? もしかして、見かけたのかい?」


『校内にモンスターの侵入を確認しました。教員の指示に従い避難してください』


 この声は、イルマ先輩。

 風の精霊の力を借りているのか、私たちの耳にははっきりと彼女の言葉が届いた。

 周囲の生徒たちも非常事態だと理解したらしく、慌てた様子で行動に移っている。

 混乱した友人をなだめる者。教師の補助として生徒たちを取りまとめる者。震える後輩を勇気づける者。

 やっぱり、いくらモンスターの襲撃の可能性があるなんて言われても、いざとなったらこうなっちゃうよねえ……。


「君もすぐに指示に従って退避して」


「は、はい!」


 さすがにそこは王子様。

 私を嫌っているとはいえ、私のことを素直に心配してくれている。

 先生たちはさらに先に動いているようで、実技指導の先生たちは皆モンスターが現れた場所へと移動していった。


「それにしても、なんで急に……」


「そんなことを考えている暇があったら急いで」


「そ、そうでした!」


 私たちは校内へと駆け込んだ。

 さすがにこんなときばかりは廊下で走ってもいいよね!

 王子様は、先ほど私が走っていた理由に気が付いたようで、走りながら謝罪をしてくれた。


「ごめんね。非常事態だから、廊下で走ったことを咎めた僕が間違いだった」


「い、いえ! 大丈夫です! ちなみに、私が黒い制服を着ているのも非常事態だからです!」


「僕がそれに騙されるほど馬鹿だと思っているってことでいい?」


 駄目かあ。

 残念ながら王子様はかなりの知能の持ち主ってことだね!

 そう認めただけなのに、なんかまた呆れるものを見るような目つきだなあ。


「く、来るなっ!」


「わ、私はいいから先に行って!」


 っ! 外から叫び声!

 なんか明らかにモンスターに襲われている感じの言葉が聞こえた!

 走る足を止めて周りを見ると、そこには二人の茶色い制服の生徒たち。

 そして、そこににじり寄る五匹の大きな黒い狼……。


「王子様!」


「君はすぐに校内へ」


「え、でも!」


 王子様はそう言い残して二人の生徒の元へと駆けていく。

 ……守られるような弱い女じゃないんだよねえ。私は!

 だいたい、守ってもらうというのなら、普段の黒制服いじめのほうを守ってもらうべきでしょ!

 というわけで、校内へなんて走っていかない。私も王子様に少し遅れて襲われる寸前の生徒の元へ。


「規則は守りなよ。こういう緊急時は力ある者以外は避難するのが原則だよ」


「先生たちは近くにいませんし、王子様だって規則を破ってるじゃないですか」


「僕は協奏者だ。教師を除いた場合は一番力がある」


「私は黒の派閥なので、未知数の大いなる力があると思います!」


 仕方ないと諦めたのか。王子様は何も言わなかった。

 彼は走りながら周囲の精霊から力を借り、魔力を一気に高めている。

 なら、私も。精霊くん出番だよ!


『おっけ~』


 襲われている生徒たちも、無防備ということはなくすでに土の精霊の力を借りたみたい。

 身を守るように土の壁が作られているけれど、さすがに時間がなかったのか魔力の通りが甘い。

 あれじゃあ何度か攻撃されただけで壊れちゃう。


「頼んだよ」


 王子様の言葉は私に向けたものじゃない。

 すでに精霊の実体化も完了していたらしく、王子様の隣には頑丈そうな大きな人形が立っていた。


 人形がゆっくりと腕を動かす。

 すると地面がその動きに合わせたように揺れ、ボコボコと大きな土の塊がいくつも生えてきた。

 襲われている人たちが作った壁と違って、見るからに堅牢でちょっとやそっとじゃ壊れない頑丈な壁。

 土でできているとはいえ、これならモンスターたちが攻めるのも一苦労だろうね。


 だけど、それも完璧じゃない。

 素早い身のこなしで回り込んだ狼がしつこく男女を狙う。

 

「精霊くん!」


 だから、私はその狼を狙って精霊くんの力を借りた。

 火の玉が直撃した狼の尻尾が焼ける。だというのに、狼はまるで気にした様子もなく人間を襲うことしか考えていない。

 やっぱり駄目かあ。モンスターは自分の身の危険なんてどうでもいいんだ。

 だから……。モンスターは死ぬまで人を襲い続ける。


「精霊くんお願い」


 その言葉に頷いた精霊くんは、さらに大きな火の玉を作って投擲する。

 見事に命中した結果、狼のモンスターはその場で焼け焦げて動かなくなった。

 ……何度やっても、モンスター退治ってなれないなあ。

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