第18話 それはまるで喪服のようで
とはいえ、土の派閥では肩身が狭い。
水と炎はそれぞれの協奏者という理解者がいるし、風には友人でもあり黒仲間がいる。
だけど土にはそういう仲間が一人もいない。
このまま孤立無援で戦うのも私は一向に構わないけれど、仲間がいるとまた話も変わってくるのだ。
「というわけで、黒の派閥きません? 今なら安いですよ?」
「めげないどころか図々しく勧誘してくるなんてどうなってるのよ、あなた!」
「いやあ。わりと接点多いじゃないですか。私たち」
主に嫌がらせをする者とされる者という接点だけど。
もちろん、そんな関係の相手から派閥に誘われると思っていなかったのか、先輩はものすごく戸惑っている。
……これはこれで、嫌がらせ対策に使えるかも!
「とにかく、馴れ馴れしく話しかけてこないで! 黒のくせに!」
ああ、惜しかった。
ただ、やはり一筋縄ではいかないのが、この黒い制服と凝り固まった周囲の考えみたいだね。
いいよ~だ。私、一人で遊ぶの慣れてるし。
田舎暮らしをなめないでほしいね。山があれば何時間だって遊べるんだから。
……まあ、ここには山なんてないけれど。
「僕の派閥で引き抜き行為はやめてくれるかな?」
「なんなら王子様でもいいですよ? 今ならお安いです」
「何を売りつけるのかは知らないけれど、そうやって周りを巻き込んで騒ぎを起こさないようにね」
「う~ん」
やっぱりおかしいよねえ。
そう考える私を見て、王子様が尋ねてきた。
「なにか気になることでも?」
「いえ。王子様は学校内での騒動や規則違反を嫌ってますよね」
「当然だね。規則を守れない者や騒動を起こす者は、更生すべきだと思っているよ」
そこで私をまじまじと見ないでほしい。
更生させられるものならしてみるといいさ!
ただ、それ以前に一つだけ。
「黒制服への嫌がらせだけ黙認してるのが納得できませ~ん」
「またそれかい。仕方ない、少し話そうか」
そう言いながら、王子様は演習場の隅にある休憩所へと移動し始めた。
慌てて私もついていくと、そこで休んでいた生徒たちがぴしっと礼儀正しく立ち上がっては頭を下げる。
お~、さすがは王子様。歩いているだけで人々を動かすだなんて。
「さて、周りに人もいないことだし、ゆっくりと話せるね」
「いえ。さっきまでいましたけど、王子様を見て頭を下げて去っていったんじゃないですか」
もしかしてヴィルタさん先輩みたいに、周りから煙たがられてない?
大丈夫? 王子様なのに。
まあそんなはずもなく、ここの利用者が気を利かせたというのが正解っぽいけどね。
「さて、僕が黒制服を嫌ってる理由だったね」
「ええ。なんというか王子様は公平な印象ですけど、黒制服だけ例外っぽいなあと思いまして」
「さっきも言ったよね? 卒業後に危険だからって」
う~ん。でもやっぱりそれには納得してないかなあ。
私のそんな態度が透けて見えたのか、誤魔化しきれないと感じたのか、王子様はため息とともに口を開いた。
「危険というのは本当だよ。現に前例があるから」
「前例?」
ということは、もしかして私よりも前に入学した人にも、黒制服を貫き続けた者が!
しかも、卒業までしているということは、最後まで貫き通したってことじゃない?
ぜひとも話を聞いてみたい。嫌がらせ……については、まあどうでもいっか。私は気にしないし。
どっちかというと、黒の派閥への引き込み方とか聞いておきたいなあ。
「その人とお話できたりします?」
「突然だね」
「ええ。私は参考にできる人は全員参考にするので」
「なら、ぜひとも参考にしてほしいね。その人とは話すことはできないよ。もう亡くなったから」
ありゃ、そんな昔の話……。じゃなさそうだなあ。
なんだか、あまり愉快ではない話になりそう。
だけど、私に話してくれるということなので、しっかりと聞かなくちゃいけないね。
「その人も君と同じさ。入学したからには全ての精霊を学びたい。そう言って各属性を満遍なく学んでいった」
だよねえ!
やっぱり習うと決めた以上は妥協なく全部学びたいもん!
わかる。わかるよ、名も顔も知らないその先輩。
私もあなたの気持ちがよくわかる。
「実際、うまくいっていたとは思うよ? どの属性もそれなりに使いこなすことはできていた。まあ、協奏者みたいに極めたとは言えないけれど」
そりゃあそこについては仕方ない。
その属性を研鑽し続けた人に、私たちのような全てを学ぼうとする者が届くとまでは思っていない。
でも、器用貧乏というよりは、その時々での選択肢が多くなることはいいことだと思う。
私は自分もその先輩も決して間違っていないと思うね。
「優秀だったんだ。万能の精霊使いなんて呼ばれるほどにはね」
「それ! 私もそういうのを目指したいです!」
「目指さないほうがいいよ。だって、戦場で死んじゃったから。その人」
うう……。やっぱりそういう話だったかあ。
ただ、それって黒制服だからとかは関係ないよね。
その人の実力は高かったみたいだし、戦いという場において絶対はないからというだけであって……。
「その人は万能だなんて言われていたけれど、それはね周りが持ち上げすぎていただけだよ」
むむ、過剰評価ですか。
それとも、王子様は実力を認めていなかったとか?
「それぞれの属性だけを見れば、その人以上の精霊使いなんていくらでもいた。なのに、周りは必要以上にその人に期待して、その人も応えようとしてしまった」
なるほど、責任感の強い人だったんだろうね。
ただ、がんばれるのであればいいことでは……。
「その結果、対処しきれないモンスターをその人が請け負うことになった。規律も何もない。周りの人を守るために、一切の決まり事も守らずにモンスターに挑んで死んだ。くだらないでしょ」
「う、それは……」
力があると過信した。
そうして、規律を守らずに命を落とした。
そんなふうに調子に乗るな。まるで私とその人を重ねて注意しているかのようだねえ……。
「でも、その人はみんなを守るために戦ったのでは?」
「違うね。みんなを守らされて戦わされた。本人の意思なんだろうけれど、そうするよう差し向けたのは無責任な周囲からの評価さ」
おや……なんか思っていたのとは違う。
調子に乗った黒制服への悪感情というよりは、むしろ周囲に対して怒りを感じている……?
「あの~。その人って、王子様の知り合いだったりします?」
「……なんで?」
「なんといいますか、規則を破ったその人への怒りみたいなものは感じなかったので、理由でもあるのかなって」
「兄だよ。自分の能力以上にまつりあげられ、周囲の期待に応えようとして死んだ。愚かな兄さ」
お兄さん!?
な、なるほど……。思っていたよりもかなり身近な人だったみたいだねえ。
そんな人が亡くなっているんだから、黒制服への偏見もまあわからないでもないけれど……。
「で、でも。お兄さんは前線で戦えるだけの精霊使いにはなれたんですよね? だったら、黒制服だってそう捨てたもんじゃないと思うのですが……」
「君、周りが止めても正しいと思ったことのために動くでしょ」
「ま、まあそうですけど」
「そんな子が半端な力を身につけて戦場に出る。兄さんの二の舞いだね」
う……。否定したいところだけど、そのお兄さんの気持ちも分かる。
私は精霊使いになった後、どうするんだろう。
そこから先をまだまだ考えていなかった。
「納得してもらえたのなら、僕はこれで」
むむむ……。今は引き留めても意味ないかあ。
仕方ない。まずは自分のことをしっかりと考えよう。
◇
「本当のことを言うわけにもいかないからね。あれで納得してくれたらいいんだけど……。まあ、無理なんだろうなあ」




