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黒はすべてを混ぜる色 ――忘れられる少女と、忘れない者たち  作者: パンダプリン


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第17話 あくまでも公平に厳格に

「一緒に行かないの?」


 困った。そんな顔されたら決心が揺らいでしまう。

 私の今日の予定をこうも乱すなんて、これだからかわいい子は!


「ご、ごめんよ~。昨日炎の精霊の練習をしたから、今日は別の属性にしようと思うんだ!」


「……」


 そ、そんな目で見ても、私の強い意志は決して揺らぐことは……。

 あ、ちょっと折れそう。いや、まだまだ!


 私たちを気にすることもなく、他の生徒たちは各々が自身の演習場へと向かっているみたい。

 わりとみんな勤勉なんだよねえ。

 そんな中、私は見知った顔を見つけた。

 向こうもこちらに気づいたらしく、真っ直ぐにこちらへ来てくれた。


「何してんの?」


「トゥリちゃんに懐かれています!」


「……まあ、たしかにその通りみたいだね」


 ヴィルタさん先輩は、私とトゥリちゃんを交互に見てから頷いた。

 ただ、同意を求めているのではなく、今回は別の精霊の訓練をしたいので、なんとかしてほしいのです。


「昨日は炎の精霊のお勉強をしたので、さすがに連日というのもと思いまして」


「そう。それじゃあ、今日は俺のところだね」


「え?」


「炎の次は水。水の次は炎。そうすれば連日じゃないでしょ」


 たしかにそうだけど、そういうことじゃありません!

 助っ人かと思いきや、猫が一匹増えた!

 かまってオーラを出されても今日は無理だから!


「一昨日が水だったので、今日は土か風の予定なのですよ!」


「え~。私じゃないの?」


「俺じゃないの?」


 そもそも精霊の話であって、あなたたち兄妹の話でもないよね!?

 揺らぐ私たちを気にすることなく、人々はやはり通り過ぎていく。

 ……いや、気にはしているね。協奏者二人と問題児一人。ここでたむろしていたら嫌でも目立っちゃうか~。


「君たち、そこで何をしているんだい?」


 そんな私たちに堂々と話しかけてくる人がいた。

 この声は王子様だね。

 まずい。ただでさえ問題児扱いなのに、また問題を起こしたなんて思われるのは心外だ。

 というわけで、私は言い訳という名の状況説明をするのだった。


「なるほど。事情はわかったけど、あまり悪目立ちはしないようにね」


「す、すみませ~ん」


 怒られはしなかったが、結局注意されてしまった。

 なので素直に謝ると、王子様はため息をついて首を振った。


「君じゃないよ。今回はヴィルタとトゥリが原因でしょ」


「悪い」


「すみません」


 おや? わりと正確に事情を把握してくれたんだね。

 てっきり私に責任が押し付けられると思ったんだけど……。


「そういうことなら土の演習場に来たら? それならそこの兄妹も諦めがつくでしょ」


「つかないぞ」


「うん。つかない」


「つけよ」


 マイペースな二人は、王子様の口調すら変えてしまったようだ。

 もしかして、普段は割と無理していたりするのかなあ?

 なんて無関係なことを考えていると、ヴィルタさん先輩もトゥリちゃんも、あきらめた様子で去っていった。


「な、なんかすみません」


「君が謝ることじゃないでしょ」


「ま、まあそうなんですが」


 ただ、意外だっただけ。

 あの状況なら、間違いなく私を叱る意外はないと思っていた。

 だから、私だけが叱られていないというこの状況、いまだに不思議だよ。


「王子様って私のこと嫌いなんですよね」


「君、直球で聞いてくるよね?」


「回りくどいことは嫌いなので!」


「そう。じゃあ回りくどくなく答えるけど、好きじゃないね」


「ですよねえ」


 やっぱりそこは変わっていない。

 てっきり、なんかの拍子で私の評価が覆ったのかと思ったけれど、そんな都合のいい話はないみたいだ。


「じゃあ、なんでさっきは二人を叱って、私は叱らなかったんですか?」


「事情を聞いた限りでは、今回はあの二人が問題だったんでしょ。それとも、実は君が原因なの?」


「い、いえ。王子様の考えであっていると思います」


「なら、そこで君を叱るのは間違っている」


 そうだけどね。

 ただ、嫌ってる人が相手でも公平に接することができる人なんだねえ。

 なら、この王子様に嫌われていようと、案外学園生活に支障はないのかも。

 というか、今の今まで支障はなかったね。


「君、僕が理不尽に嫌いな人を叱ると思ってる?」


「思ってましたけど違うみたいなので安心しました!」


「正直だね。美徳とするかどうかは別として」


「そうなると、私はそもそもなんで嫌われているんですか? 直せることなら改善しますけど?」


 そう尋ねると、王子様はしっかりと私のほうを見て……またため息!

 なに!? もう直しようがないってこと!?

 言ってみないとわからないですよ~?


「君がその制服を着続けて、学校内に無駄な不和を招いているからかな」


「あ、すみません。直せないことでした」


 私の返事に王子様の表情が一瞬崩れる。

 だけどすぐに持ち直すあたり、さすがは王子様なんだろうなあと思うね。

 まあ、今さらながら私が意見を変えるなんてことはない。

 だって、私は間違ってないもん。学校が定めたルールでもないのに、なんで従う必要があるのさ。


「あくまでも生徒たちが決めた風習というか規則なんか守る必要は無い。と言いたそうだね」


「わかっちゃいます?」


「まあ、君はわかりやすいから」


 褒め言葉として受け取ってしまおう!

 わかりやすいのならいいことだからね!


「でも、君がその服を着続けることで、周りから無意味に攻撃されるんじゃないかい?」


「そうですねえ。なんて治安の悪い学校でしょう」


「でも、君がその服を着なければ全て丸く収まるんだ」


「じゃあ、今後も丸く収まりませんねえ」


「だろうね。まあこればかりはどうしようもないか……」


 私が引き下がらないとわかったのか、それとも初めからわかっていたのか、王子様はため息と一緒に話を打ち切った。

 でも、大変だよねえ。学校の生徒たちについて色々と考えないといけないんだから。

 自由に過ごす私では到底成し得ないことをしているんだと思う。そして自由に過ごす私に振り回されているわけだねえ。

 少し気になる。規律にやたらと厳格に見える王子様が、なんで生徒だけで作った風習を律義に守るんだろう。


「王子様は規律に厳しいですよね」


「なんだい。口喧しいうるさい男だとでも思った?」


「いえいえ。正直なところ、私はそういう規律を守ろうとしている姿は尊敬しますよ」


「そ、そう……」


「ただ、それならなんで規律でもない制服の風習を守るんですか?」


 気になったことは尋ねてみる。それが私の生き方なのだ。

 まあそれで答えてくれるとは限らないけれど、今回は答えてくれるみたいだね。


「……半端に学んだ精霊使いなんて、実戦では何の役にも立たないからだよ」


「実戦ですか?」


「うん。君もこの国で精霊使いが重用されている理由は知っているでしょ?」


「戦力として優秀だからですよね? でも、戦いってそんな頻繁に起こります?」


 実戦という言葉にもあったとおり、なんか卒業後すぐに戦場に行くみたいな話だよねえ。

 そんなことはせずに、街で静かに暮らす人だってたくさんいると思うんだけど。


「君みたいに真っ直ぐ進む子は、人のために戦場に行きそうだからね」


「え~私がですか? まさか~」


「そうして国を守るために、今ならモンスター退治なんてことをすることになる。そこで半端な力しか持たない者は、モンスターに殺されるだけだよ」


 なんとなく納得はできるけれど、なんだか本当のことは言っていない気もするなあ。

 危険だからというのであれば、それこそ全属性を学んだほうがいざというときの手札も多そうなのに。


「規律を守らずに死んだ精霊使いも少なくない。だから、君もあまり問題は起こさないようにね」


「起こしてますかねえ?」


「被害者ではあるけれど、その理由を作っているのは君でもある。それは忘れちゃいけないよ」


「忘れてはいません。納得はしていませんけどね!」


「忘れていないのならそれでいいよ。きっと君とは意見が交わることはない。だから、無理して僕と話すこともないよ」


「無理ではありません! 私は王子様を含めて、いずれ全員黒の派閥に引き込む所存ですから!」


 あっさりと王子様の言葉を否定したためか、珍しくとても驚いた顔をしていた。

 ただ、私は諦めが悪いからねえ。そう簡単に引き下がるとは思わないでほしいな!

 みんな黒く染めてやる計画は、これからも前向きに進めていくつもりなんだから。

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