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黒はすべてを混ぜる色 ――忘れられる少女と、忘れない者たち  作者: パンダプリン


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第15話 いっそ世界がモノクロだったら

「悪かったね。俺たち兄妹のこと、というか家の噂なんかに巻き込んで」


「いえいえ! その噂は山まで届いていないので、私には通じません!」


「あんた。山じゃなくて村での暮らしって言ってなかった? 野生に帰るなよ」


「野山を駆けまわっていたのも事実なので!」


 ヴィルタさん先輩にも言っていたっけ?

 私が田舎の村出身だって。ただ、山で遊んでいたことは話していなかったみたい。

 山はいいよ。自然が多いってことは、精霊だってそれだけたくさんいるってことだし。


「噂が流れないなら、そっちのほうがいい場所なんだろうな」


「噂自体ならむしろ流れやすいと思いますよ? 何かあったら全ての家庭で情報が共有されますし」


「……そっちはそっちでなんか怖いな」


 悪い噂ってわけじゃないので、そこまで怖い話でもないけどね!

 単に情報網がしっかりとしているというだけなのだ。

 知らない人が訪ねてきたら、すぐに村人全員に噂自体は流れていくからね。


「ところでトゥリちゃん」


「どうしたの?」


 冷めたエビフライを食べながら、トゥリちゃんに尋ねる。

 精霊の力を学んできた私たちだからこそ、こういう場面でその力を活かせると思うんだ。


「炎の精霊の力さえあれば、この冷めたエビフライも美味しく温め直せるのでは?」


「消し炭になるんじゃない?」


「そこまでかなあ」


 どう思う精霊くん?

 美味しく温かい料理の提供、実はできたりしない?


『炎に何を求めているのさ』


 だめっぽい。

 まあいいさ、冷めても美味しいからね。

 いずれは精霊の精密操作も可能になって、温かいご飯を食べてやるんだから。


「そんなことより」


「ご飯は大切だよ?」


「それもそうだけど、そんなことより私に言いたいことないの?」


 トゥリちゃんに?

 なんだろう。今日も猫みたいだねとか、今日もかわいいねみたいな話?


「黒の派閥に入ろう! って話?」


「それはない」


 トゥリちゃんだけでなく、ヴィルタさん先輩にもぴしゃりと断られてしまった。

 な、なかなか手強いじゃないの。

 まあ、それぞれの派閥の協奏者ってことは代表みたいなものだもんねえ。

 いきなりトップを勧誘するのではなく、少しずつ末端から奪っていこう。


「そうじゃなくて……。私のせいで王子様にまで注意された」


「ああ、大丈夫大丈夫! 私、なんかあの王子様に嫌われてるっぽいから!」


「いや、それは……」


 ヴィルタさん先輩が訂正しようとするも、次の言葉が浮かばなかったみたいだねえ。

 大丈夫ですよ~。学校のほとんどの生徒が敵なんだから、いまさら一人や二人増えたところでなんてことはないし!


「私は冷淡な女だから……」


「え~。でも、炎の協奏者だよ?」


「そういうことじゃなくて……」


 いや、私だってトゥリちゃんが言わんとしていることの意味くらいはわかっているよ?

 でも、どちらにせよそうは思わないのだ。


「私、周りのことは考えずに精霊使いの勉強ばかりだったし、あの人たちの言うことは間違ってない」


 ヴィルタさん先輩のほうを見ると、彼は困ったような顔をしていた。

 本人がこう言っているってことは、さっきの言葉もあながち適当な発言じゃなかったってことなんだろうねえ。

 ただ、結果的にそうなっていたとしても、トゥリちゃんが精霊のことばかりの冷たい女っていう印象はない。


「私と仲良くしてくれているじゃん」


「それは……。でも、周りの人間を止めていないから」


「まあ、それはしょうがないよねえ。全員敵だなんてほんとすごい状況だよ」


「シエルはそれでいいの?」


「よくないけど、派閥だけで仲良くしてるっておかしいから」


 そう。絶対におかしい。

 私が入学初日に先輩の言うことを守ったとしよう。

 たぶん炎の派閥に入っただろうね。


 そうしたらトゥリちゃんとはやっぱり仲良くなれたと思う。

 でも、リセアちゃんとは? ヴィルタさん先輩とは?

 こうして仲良くなれたのは、私がどの派閥にも属していないからでしょ。


「私、わりと強いからね! 一人ずつ切り崩して、黒の派閥に取り込んでやろうじゃないの!」


「俺の派閥からはやめてね」


「私のところも……」


「そこは二人で応援してくれるところじゃないかなあ!?」


 そういう流れだったじゃん!

 まあ、さっきも考えた通り、二人は代表だから難しいかもしれないけどさあ。


「まあつまりあれだよ。これからも私はトゥリちゃんと仲良くしたいってこと」


「また問題に巻き込まれるかもしれないよ?」


「平気平気。なんなら私自身が問題ばかりだし!」


 毎日毎日、陰口やら精霊を扱った事故に見せかけた攻撃。

 慣れたけどね! 私が動じないせいか、先生たちもどうすればいいかわからなさそうだけどね!

 あからさまなのにはちゃんと注意してくれているけれど、被害者が元気すぎると大変なんだろうねえ。


「あと、トゥリちゃんは冷たくないと思うよ」


「でも、ずっと一人で精霊のことばかり……」


「たしかに、最初はマイペースだから一人でいるのが好きなのかなあって思ったけど、トゥリちゃんわりと人が好きでしょ」


「ま、まあ……」


「じゃあ冷たい子じゃないから大丈夫大丈夫」


 それは単に精霊の勉強に熱中していたってだけでしょ。

 それが変に尾ひれがついた噂になって、周りに興味がない冷たい子だなんて言われているだけだろうねえ。

 ヴィルタさん先輩といい人の噂って怖い……。いや、私の村の噂はそんな感じじゃなかったし、都会の噂って怖いねえ。


「トゥリちゃん。私のこと好きでしょ?」


「な、なにを急に……」


「あとヴィルタさん先輩のことも好きでしょ?」


「あ、ああ……。そういう」


 むしろどういう?

 まあいいや。否定しなかったってことは、やっぱり私もヴィルタさん先輩もトゥリちゃんと仲良し。

 お互いに嫌っていないのなら、何も問題ないと思うんだよ。


「まあ、俺とトゥリは最近まですれ違ってたけど、シエルのおかげでなんとかなったからね」


「え、そうだったんですか? いやあそれは良かった。本当に嫌ってるならともかく、不幸なすれ違いはよくないですからねえ」


「ああ、だから。カリオのやつも……」


 王子様? どうしてそこで急にその名前が?

 というか、ヴィルタさん先輩は王子様を呼び捨てにしているんだね。

 もしかして知り合い? 仲良し? いや、別の派閥だし違うかあ。

 トゥリちゃんの場合は妹だから、派閥が別でもこうして仲良く食事ができているんだろうからね。


「とにかく、俺はもう気にしてないよ。トゥリ」


「う、うん……」


「あと、シエルもそんな細かいことは気にしないと思う」


「もちろんです! 繊細で細かい魔力制御は、最近覚えたくらいなので!」


「それはまた別の話じゃないかな」


 別かもしれませんけど、私はわりと細かいことは気にしない豪快な女子を目指しているのだ。

 繊細な作業については、このまま継続してなんとかがんばっていく所存です……。


「当面は、この冷めたエビフライを温める繊細な技術をものにしてみせます」


「まだ諦めてなかったんだ……」


「諦めの悪い女ですよ。私は!」


 そんな発言にヴィルタさん先輩が微笑み、トゥリちゃんも笑ってくれた。

 ほら、こんな人たちが仲が悪いわけないし、冷たい人だなんてとんでもない。

 やっぱりこの二人を黒の派閥に引き込みたいなあ。

 黒、似合うと思うよ? ちょっとくらい染み込ませてみない?

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