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黒はすべてを混ぜる色 ――忘れられる少女と、忘れない者たち  作者: パンダプリン


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第14話 ようするにエビフライはえらい

「トゥリちゃん。トゥリちゃ~ん」


「どうしたの」


「ご飯食べに行こうよ~」


 お昼前は、ちょうど炎の精霊の授業だった。

 リセアちゃんを誘いに行ってもよかったけど、彼女は今微妙な立場だからねえ。

 私と一緒に黒の派閥に入ってくれたけど、元々仲がいい友人との関係が崩れたわけでもない。

 だから、そんな状況で私と一緒にご飯なんて食べていたら、そんな友人たちからも相手にされなくなるかもしれない。

 煙たがられるのは仕方ないにしても、そういうあからさまな態度は私にだけ向けばいいのだ!


「ってなわけで、ご飯食べよう」


「どんなわけ?」


「まあまあ。いいからいいから」


 トゥリちゃんはトゥリちゃんで炎の派閥の新たな協奏者ではあるものの、ちゃんと炎の派閥だからね。

 私と一緒にいても、リセアちゃんよりは周りとの関係も崩れない……はず!

 まあ、この前先輩に私と一緒にいないほうがいいとは忠告されていたけど。

 あれはあれでトゥリちゃんのために言っているのであって、嫌がらせとは別だからね。


 そんなトゥリちゃんは結局私と一緒に食事をしてくれるらしく、二人仲良く食堂へと向かった。

 お弁当……。まあ、気が向いたら作るよ。気が向いたらね。別に料理できないわけじゃないし。


「さて、今日は何にしようかな~」


「私、席取っておく」


「ありがと~」


 どうやらトゥリちゃんはお弁当を作ってきたみたいだね。

 ……う~ん。なんでもできるねえ。

 もしかして、ヴィルタさん先輩にも作ってあげてるのかな?

 待たせたらまずいし、すぱっと決めてさくっと戻ろう。


「今日はエビフライの日だね!」


 別にいつもあるけれど、私のお腹がエビフライを欲している日なのだ。

 というわけで、食堂の係の人に頼んで後は待つだけ。

 トゥリちゃんは……。いたいた、座席を二人分確保してくれている。

 律義にお弁当を開けずに待ってくれているので、やっぱりいい子だよねえ。


 待っている間にそんなふうに眺めていると、トゥリちゃんのほうにまたも先輩たちが絡みにいっていた。

 ……穏やかな会話ではないよね? だってトゥリちゃんの眉間にしわが寄っているし。

 何よりも雰囲気もあまりよろしくない。


 食堂の喧騒の中から、あのあたりの音だけに集中する。

 山の中で色々な音を聞き分けるのに比べたら、この程度なんでもないのだ。

 そして都合よくいらない音を遮断することで、ついでに私への陰口も聞かないことにする。


「まだわからないの? シエル・アルモニアと付き合うのはやめておきなさいよ」


「あれと一緒にいるだけで、あなたの評判も悪くなるのよ?」


 あ~。またこんな感じかあ。

 なら、昨日と同じく気にせず言わせておこう。

 先輩たちの悪口も私の音から意図的に遮断……。


「せっかくエヴァリス家のために努力したんでしょ? トゥリ・エヴァリスといえば、優秀な精霊使い候補だって有名よ?」


 お、そうそう。そういうのにしてほしいよね~。

 悪口じゃなくて褒め言葉のほうが気持ちがいいものだ。

 私への褒め言葉じゃないけれど、私の友達が褒められるのは嬉しい。


「そうよ。出来損ないの兄に代わって、エヴァリス家を支えるためなんでしょ? なら、落ちこぼれたちは放っておくべきじゃないの?」


「落ちこぼれたち……?」


「だってそうじゃない。あなた、実の兄であるヴィルタ・エヴァリスから距離を置いていたでしょ」


「それは……」


「そうして精霊使いとして努力したんでしょ? 足手まといにかまっている暇があったら研鑽する。せっかくそうして実力をつけたのに、あんな子に関わって台無しにしてもしょうがないじゃない」


「違う! わ、私は……」


 これはよくない!

 よし、さよならエビフライ! 私は君より優先すべきことができた!


「そういうのよくないと思いますっ!」


 私はすぐにトゥリちゃんのもとへ駆け寄って、周りのことも気にせずに大声をあげた。

 さすがに騒がしい食堂とはいえ、今の声量はだいぶ目立ったんだろうね。一瞬、しんと静まり返った。

 でも、今さら悪い意味で注目されてもなんでもない。なぜなら、もう慣れているからね!


「な、なによ。あんたのせいで評判が落ちそうだって話でしょ!」


「それは別にいいです。ただ、ヴィルタさん先輩との話は全部嘘です!」


「嘘? だって実際にそうしていたじゃない! あなたは何も知らないだけよ!」


 おおう……。たしかに、私は噂関連のことは何も知らない。それは認める。

 だからといって、その噂を聞いたら二人が仲が悪かったと信じるかといえば……。

 ないね。ないない!


「いい? この子はね。小さいころからずっと精霊の勉強ばかりしていたのよ? だから今の実力があるの。落ちこぼれの兄なんかと一緒にいたら、きっと一緒にエヴァリス家の家名を汚していたでしょうね」


「ありえません!」


「ど、どうして何も知らないあなたがそう言い切れるのよ!」


「ヴィルタさん先輩はいい人で、トゥリちゃんもいい人だからです! だから二人は仲良し。決まってます!」


 私は自信満々にそう言い放った。

 間違いないね。だいたい先輩たちは見えていないのかな?


「トゥリちゃんもヴィルタさん先輩も、お互いのことを話すときはすごくやさしい顔でした! 絶対、お互いが大好きです!」


 私の勢いに、先輩たちが多少たじろいだ。

 だけど、まあ無理だよねえ。ここまでお互いに大声で叫びあっているのなら、どちらかがはいそうですかと納得なんてできるはずもない。

 となると、ここからは言い合いじゃなくて精霊でなんかされるのかなあ。

 さすがに私がそんな大暴れをしたら大問題だし、ある程度は気が済むまで受け止めるしかないかあ……。


「生意気な!」


 炎だね。ってことは、多少火傷程度を負いそうかな?

 ま、それで気が済むというのならいっか。

 先輩の目をしっかりと見つめ、その攻撃をなるべく上手に受け止めようと身構える。


「まったく、君はいつも騒がしいね」


 ……この声は、王子様!

 た、たしかに……前回も騒がしいと言われたねえ。

 それに関しては私もすみませんと思っていますよ?


「カ、カリオ様!」


「食事中に話すなとは言わないよ? 団らんはとても大切だ。でも、食事を忘れての大騒ぎは食材にも作ってくれた人にも失礼だと思わない?」


「あ、エビフライ」


 きっと出来立てだっただろうに、今は冷めちゃってるんだろうなあ……。

 ごめんよう。美味しく食べてあげるからね!


「それで、いったい何をそんなに騒いでいたのかな?」


「そ、それは……」


「お互いの主義主張の真っ向からのぶつかり合いの結果です!」


「……まあ、そういうことにしておこうか。とにかく、周りに迷惑をかけないように」


 私たちが喧嘩になる前に止めに来てくれたのかな?

 なんだ。この王子様もいい人だったんだね。


「すみません。ありがとうございました」


「お礼はいらないよ。前も言ったでしょ? 僕、君のこと好きじゃないんだ」


「し、知ってますよ~!」


 覚えているんだから、わざわざもう一回言わなくてもいいじゃない!

 まったく、失礼しちゃうよ。もう!

 王子様は騒ぎが止まったと判断したのか、自分の席へと戻っていった。

 歩く姿も様になってるねえ! さすがは王子様だよ!


「……私はあなたのことなんて認めない」


 まあ、そこはしょうがないかなあ。

 全員と仲良くなろう計画がそう簡単ではないということは、私だってわかっている。

 だけど、ちゃんと本心からぶつかり合うのは大事だし、私はこの先輩だってきっと何かの拍子で仲良くなれると信じているのだ。


「へえ。俺のことも認めてないみたいだよね。これでも一応協奏者なんだけど?」


「あ、ヴィルタさん先輩」


「ヴィ、ヴィルタ・エヴァリス! ……さん」


「詳しく話してもらえる? 落ちこぼれの俺にもわかりやすくね」


「し、失礼します!」


 あ、行っちゃった。

 たしかにすごいこと言ってたよねえ……。

 水の協奏者であるヴィルタさん先輩を落ちこぼれって。

 顔色を変えて去っていった先輩は、お昼ご飯ちゃんと食べられるのかなあ。

 授業中お腹が鳴らないといいんだけど……。


「ヴィルタさん先輩。どうしてここに?」


「なに? いちゃ悪いの? 俺だって食堂くらい使うけど」


「そりゃあそうですね。もしかして、騒ぎを聞きつけて?」


「いや、あんたこれ忘れてったろ」


「エビフライ~!」


 こうして私はヴィルタさん先輩のおかげでエビフライと再会できた。

 冷めていてもおいしいからエビフライって偉いよね。

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