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黒はすべてを混ぜる色 ――忘れられる少女と、忘れない者たち  作者: パンダプリン


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第13話 クーリングオフ期間終了

「まあとりあえず炎の精霊の特訓をはじめよう!」


「ん」


 両手で拳を握ってやる気をアピールすると、トゥリちゃんは頷いてくれた。

 これまでのヴィルタさん先輩との訓練を考えると、炎の精霊の操作も今までは精度が甘かったっぽいよね。

 炎なんて特に精霊くん任せだったから、そのあたりの意識は欠けていたと思う。


「ところで」


「どうしたの?」


 さっきからトゥリちゃんが隣にいてくれるんだけど、もしやトゥリちゃんも私に教えてくれるのかな?

 だとしたら、さすがは兄妹だね。面倒見がよくて精霊使役の腕もよくて顔もよい。似たもの兄妹だなあ。


「もしかして、私の特訓に付き合ってくれるの?」


「いいよ。私、お兄ちゃんみたいに教えるのはうまくないけど」


「それでも見てもらえるだけですごい助かる!」


 じゃあ精霊くんに力を借りておさらいといきますか。

 精霊く~ん。ちょいと力を貸してくれない?

 ただ、実体化と制御は私がやってみるから、精霊集めと魔力譲渡だけよろしく!


『え~。ボクに任せたほうがうまくいくと思うけどなぁ』


 それはそう!

 でも、そのままだと上達できないみたいだから、いつまでも精霊くん頼りじゃだめなのさ。


『勉強熱心だね~。まあいいよ。そういうことなら、適当な精霊たちを呼び寄せてあげるから』


 そう言い残すと精霊くんが魔石から消えた。

 精霊は魔力や自然に近い存在だから、彼の場合は世界中の炎に自分の意識を移せる。

 そうして適当な炎へと転移して、仲間の精霊たちを集めてきてくれるんだろうね。


 ほんのわずかな時間で、精霊たちがどかっと集まってくる。

 そうそうこの感じ。私にとってはこれが普通の精霊使役だと思っていた。

 だけど精霊くんのおかげで、普通よりも多くの精霊が集まっているんだと今ならわかる。


 実体化は問題なし、と。

 まあそうだよね。実体化するところは私がいつもやっていたから。

 だから問題はその先。精霊くん自身を実体化させていたため、制御は精霊くん任せだった。

 だけど、今回は精霊くん以外を実体化したため、お願いも制御も私一人で行う必要がある。


「それじゃあ、火の玉をどかんと打ち上げてみよっか!」


 精霊くんと違って女性の精霊さんは喋らない。

 だけど意思疎通はできているらしく、彼女は私のお願いに頷き火の玉を作り出す。

 む……。けっこう大きいね。それじゃあ、私の魔力を全体に通して暴発しないように制御を……。


「よしっ、いくよ~!」


 しっかりと真上に向かって火球が飛んでいく。

 落下してきたら困るので、高く高く上がったところを見計らって……。

 ここだ! 火球に込めた魔力を操り、精霊さんの魔力を反発させる。


 すると火球は勢いよく爆ぜて跡形もなくなった。

 あとは散り散りと細かくなった火の粉が降り注ぐだけ。

 それも地面につく前に消えてなくなる。


「どう? どう? トゥリちゃん」


「うん。やっぱり私じゃなくて、シエルが炎の協奏者になったら?」


「いやあ、そこはねえ……。炎以外も好きだから。私」


 ただ、上手くできていたってことなんだと思う。

 いい感じだね。今までどおり精霊くんの力もちゃんと使いつつ、ヴィルタさん先輩との特訓の成果も組み込めた。

 これはいよいよ、黒の協奏者シエル・アルモニアが誕生する日も近いかもしれない。


「ただ……」


「え? なんかまずかった?」


 トゥリちゃんは、若干言いにくそうに言葉を選んでいるかのような態度を見せる。

 平気平気。普段からの陰口とか嫌味やらに比べたら、どんな指摘も何の問題もないし。


「その精霊の力……。あまり使うべきじゃないと思う」


「その精霊って、精霊くんのこと?」


『え~なんだよ~。ボクすごかったじゃん』


 うん。たしかに精霊くんはすごかった。

 でも、トゥリちゃんが理由もなくそういうことを言うのだろうか?

 まだ短い付き合いではあるものの、さっきの先輩とのやり取りもあるし、変な理由でそんなことを言っているわけではないと思う。


「その精霊。……いや、なんでもない」


「え、気になる。さすがにそこで切られるときになるよ。トゥリちゃん」


「シエルは、もう精霊と契約しているんだね」


 精霊との契約とは、ちょうど今の私と精霊くんみたいな感じのこと。

 魔石に特定の精霊を収めておき、いざ使役するときは基本的には契約した精霊を実体化させる。

 相性がいい精霊との契約をすることで精霊使いは安定した実力を発揮できるし、精霊は日頃から魔石の中で精霊使いの魔力を供給される。


 この前の授業でも習ったけど、学生のうちに精霊との契約をすませるのが普通のことみたい。

 だから、入学初日からすでに契約済みだった私はこれでも特殊な存在なのだ!


「精霊くんとは昔から仲良しだからね」


「そうなんだ。すごい力だし、長生きしている精霊なんでしょ」


 精霊は長く生きれば生きるほどに力が増していく。

 といっても、ある程度の壁で打ち止めになる子もいるから、完全に強さと年齢が比例しているわけじゃないけど。

 ともかく、長生きな精霊は力もすごいっていうのが常識みたい。

 ただ、精霊くんの場合はたぶん例外なんだよねえ。


「精霊くん。たぶん生まれたばかりだよ?」


「……それでそんなに強いの?」


「うん。だって私と出会う前の記憶はないし、そのときに自我を持って誕生したんじゃないかなって思ってる」


 精霊って元々は魔力だからね。

 魔力が長い年月をかけて自我を持ったもの。

 だから生まれたてというのは少し違うけれど、精霊となったのは最近なんだと思う。


「……そう。仲良くね」


「うん! 大丈夫だよ。私たちとっても仲良しだから!」


『シエルはボクがいないと全然駄目だからね~』


 そんなことないけどね!

 ただ、精霊くんがいたほうが頼りになって安心っていうのは本当のこと。

 これからも持ちつ持たれつでいたいもんだねえ。


「次はトゥリちゃんの番だね」


「わかった。……来て」


 トゥリちゃんが静かにお願いすると、彼女の周りに精霊が集まったことがわかる。

 実体化していないから姿は見えないけれど、なんとなく魔力の流れが大きくなることを感じる。

 そのままゆっくりと静かに魔力を調整し、彼女は一人の精霊を召喚した。


 私と同じように炎を変形させ、彼女の場合は一直線に一筋の流星のように発射した。

 こっちはこっちできれいだねえ。


「この子はトゥリちゃんが契約してる子?」


「ううん。その辺にいた子。私はまだ精霊と契約してないから」


「そうなんだ」


「今の時点で契約しているのなんて、シエルくらいじゃない?」


 やっぱり私が特殊なんだね。

 そのへんも精霊使いとしての基礎を学んでいない弊害かな。

 まいっか。精霊くんとの契約は間違いではないから。


「先輩たちはどうなんだろう? 学生として生活しているうちに契約してるのかなあ」


「お兄ちゃんはまだしてない」


「え、ヴィルタさん先輩も? ってことは、やっぱり私の契約は早すぎたかもしれないねえ……」


「……破棄する?」


「ええっ!? さ、さすがにそれはしないよ? 精霊くん以上の子は、早々見つからないと思うからね!」


 早々どころか、今後見つかることもないんじゃないかなあ。

 精霊くんはトゥリちゃんの発言に憤慨していたけれど、私の発言を聞いて機嫌を直してくれた。

 なんか、精霊くんは精霊くんで若干ちょろくて心配になるねえ。


「冗談。気にしないで」


「なんだ冗談かあ」


 トゥリちゃんも冗談って言うんだね。

 ただ、そういうことを言い合える仲になれたのなら、私としては嬉しいかぎりだね!

 私はそのままトゥリちゃんと二人で、精霊の制御についてあれこれと試してみた。


 そうして充実した時間も過ぎていった。

 やっぱりヴィルタさん先輩の妹ということもあり、トゥリちゃんの制御って洗練されているなあ。

 私も精霊くん任せにせずに、もっともっとがんばらなくっちゃ。


    ◇


「……やっぱ駄目だった。破棄したほうがいいのに」

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