第12話 気まぐれなだけじゃなく恩義もあります
「疲れた……」
「おや、お疲れだねえ。トゥリちゃん」
机の上に顎を乗せてぐてーっとしている姿は、なんだかより一層猫っぽい。
朝からこんな状態ってことは、早朝に何かあったのかな?
「なんかあったの~?」
「炎の派閥のこれからについて、いろいろと」
「ほえ~。大変だねえ」
「シエルが代わってくれたら、私は楽なのに」
「そりゃあ無理だよ~。私、黒の派閥で協奏者に最も近い者なんだから」
そんな言葉にトゥリちゃんはジト目を向けてくる。
眠そうなのか怒っているのかわからないけれど、かわいらしいことには変わりない。
やはり猫兄妹……。
「変なこと考えてない?」
「かんがえてないよー」
顔に出やすいのかな? 見透かされたような目を向けられる。
それにしても、こういうやり取りをしているとまるで自分が普通の学生みたいだね。
「トゥリさん。黒と話してるわよ……」
「協奏者ともなると、変人の相手もしなきゃいけないのかもね」
「え~。そんなことなら協奏者になりたくない」
まあ、いつもの教室だけどね!
相も変わらず私は変人扱いで、遠巻きに陰口を叩かれる生徒。
まだまだ黒の派閥の肩身は狭いねえ。
トゥリちゃんもこうして仲良くしてくれるけど、黒の派閥関連の話題には興味がないらしい。
むっとした表情で机に顎を乗せたままだ。……やっぱり眠いのかな?
「そういえば、お兄ちゃんと会ったんでしょ」
「そうそう。ヴィルタさん先輩すごいね~。精霊の扱い方も上手だし、教えるのも上手だよ」
「そう。お兄ちゃんはすごい」
「私みたいなのが来ても、毎回相手してくれるんだよね~」
「お兄ちゃん、シエルのこと気に入ってるから」
「え、そうなの?」
というより、あの先輩は面倒見がいいってだけだと思うけどなあ。
やはり、一年生ヴィルタ先輩の舎弟計画を……。
とその前に、全校生徒黒化計画のほうが先かなあ。
そんなことを考えていると、朝のホームルームが始まった。
さて、今日も四属性の授業を受けていこう。
できれば、リセアちゃんみたいな仲間が増えるといいんだけど……。
なんて思いもむなしく気付けば放課後。
授業は楽しいんだけどなかなか仲間は増えないねえ。
そして四属性それぞれが、しっかりと私やリセアちゃんを疎ましく扱っている。
「まったくもう! みんなして一致団結して疎外するのなら、仲良く授業受けられるでしょうに!」
なんなのその無駄な連帯感!?
誰も彼もが私たちに同じような対応をしている。
息ぴったりだね! 違う授業で違う講堂なのに、同じようなことされてるね!
幸いなことにリセアちゃんには直接的な嫌がらせは向かないけれど、私はわりと物理的になにかされる。
物理的というか精霊的というか、ともかく精霊を使った嫌がらせをされるのだ。
そんなことをして精霊使いとしての腕が上がったら、私が育てたと言いまわってやろうか。
「今日は炎かな~」
連日、ヴィルタさん先輩に精霊の扱い方を教わっていた。
だけど同じ属性ばかりというのは、私の信条に反する。
わざわざ黒い制服を身にまとった以上、しっかりと全属性の訓練を行わないと、いびられ損だよ。
『お、久々だね~。たまにはボクがどかんと派手にやってあげようか?』
精霊くんがどかんとやったら、とんでもないことになるでしょ。
初めてお願いしたときは、あわや山火事になるかと思ったよ。
もっとも、燃え広がる炎さえも自在に操れるみたいだし、あれは私の反応を見て楽しんでただけだね。
『ほら、たまには力を使わないと鈍っちゃうし』
どうだかねえ。
今の時点であれだけの力を持っているんだから、まだまだ鈍ったりしないと思うけど。
前に本気を出せば七色に輝くとか言ってたけど、そっちは絶対嘘だね!
『ほんとなんだけどなぁ』
え~……。じゃあちょろっと光ってみてよ。
『今は無理~。力が鈍っちゃってるから』
まったく。そんな冗談ばかりなんだから。
ただ、精霊くんのおかげで移動中も暇じゃないのはいいことだね。
さて、そろそろ炎の派閥の演習場に……。
「トゥリさん。あなたは炎の協奏者なのよ?」
「知ってる」
「なら、あまり軽率な行動は控えてもらえるかしら?」
トゥリちゃんと先輩が話している?
当然といえば当然だけど、赤い制服なので全員が炎の派閥ってことだよね。
協奏者って派閥のトップのはずだけど、そこまでガチガチな上下関係ではないのかな?
「軽率な行動って?」
「黒と話していることよ」
私のことだった!
いやあ、人気者は困るねえ。なんて言ってる場合じゃない。
さすがに私が関係しているというのなら、ここで見ているというのも違うね!
私の問題は私にぶつければいい。ということで、さっそく止めに……。
「関係ないでしょ」
「か、関係ないって……」
……トゥ、トゥリちゃんってあんな怖い顔と声になるんだあ。
さ、さすがはヴィルタさん先輩の妹だねえ。
先輩も思わずしり込みしているみたい。
「どうせ断っても変わらないから協奏者にはなった。だけど、シエルのことを口出しされる筋合いはない」
「な、なんであんなのに関わろうとするの!?」
「それに、黒制服が周りに何をされても、トゥリさんはかばったりしないじゃない。本心ではあんなの嫌っているんでしょ?」
まあそこはあれだよ。えっと……思いつかない!
たしかにトゥリちゃんは私と仲良くしてくれる。
ヴィルタさん先輩と同じく、制服の色の風習なんて馬鹿馬鹿しいマイペースな子だからと思っていた。
でも、私への陰口が聞こえたら睨みを利かせるヴィルタさん先輩と違って、トゥリちゃんはそのあたりには無関心。
争うのが面倒だからだと思ったんだけど、こうして先輩たちといざこざが起きているんだよねえ。
なんだか、ちょっとちぐはぐとしている気がする。
「黒い制服を着ることはおすすめしない。でも、シエルは好き」
「だけど、あの制服を着ることを選ぶような子なのよ?」
「関係ないって言っている。シエルは私のお気に入りだから」
「うっ……」
な、なんか思っていたよりもトゥリちゃんからの好感度が高かった!
いつもぽやぽやしているマイペースな子だから、私のことはある程度仲良しな生徒くらいかと思ってたんだけど……。
「そんなにお気に入りなのに、周りからの嫌がらせは止めないのね」
「……しょうがない。黒い制服なんて似合わないから」
似合ってないかなあ!?
私、けっこうこの制服似合っている自信があったんだけど!
まさかのスタイルの問題だった……。いや、トゥリちゃんだって私と同じちっこい体じゃん!
ちっこい仲間としてがんばろうよ!
「あの服を着ていると、将来ろくなことにならないから」
「よくわかっているじゃない。だったら、そんな厄介者と一緒にいるのはやめたほうがいいわよ」
「そうそう。トゥリさんの品位を下げるわ」
「それは話が別。それにどう考えてもいじめるほうが品位は下がってる」
平行線って感じだねえ。
先輩たちもそう感じたのか、あるいはトゥリちゃんの意外な怖さに怖気づいたのか、結局そのまま去ってしまった。
さて、どうしよう。偶然今やってきたみたいな感じで振舞えば、あのやり取りは聞いていなかったことにできるかな?
「や、やートゥリちゃん。きぐうだねー」
「……はあ」
目が合った瞬間にため息!
バレてる? いや、まだバレてないと思う。
なら、このまま押し通そう!
「わたしも偶然演習場を使おうと思ったんだ。偶然だよねー」
「下手くそ」
「な、なにがかな!?」
「聞いてたんでしょ?」
「……ご、ごめんなさ~い」
トゥリちゃんは再びため息をついてから、私のことを許してくれた。
初めから素直に謝っておけばよかったねえ……。
「ところで、なんで私をお気に入ったの?」
「……恩返し」
恩返し……? 私なんかしたっけ?




