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属性なんて山盛りなほど良い  作者: 椿


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6/7

ムチムチ超能力少女

 「うふふ……おはよう、ございます」


 「……え?」


 急に意識が飛んで、気がついたら僕の上に見たことのある女子が馬乗りになっていた。昨日、図書館で会った黒永さんだ。息を荒げ、ちらちらと下着が見えるその扇情的な姿は、あの時の彼女とはまるで別人だった。


 「えちょ、なにこれ……? なんで手錠?」


 上から退いて貰おうと手を動かすと、ガチャンッという音が辺りに響いた。視線を上に向けると、手錠で僕の腕は完全に固定されていた。


 「蓮さんが……悪いんですよ?」


 「な、何がですか……?」


 「私、今日も図書館で貴方を待っていようと思ったのに……なのに、貴方はあんな軽薄そうなチビと仲良さげに、どこかに行ってしまったじゃないですか」


 淡々と、一切言葉に詰まること無く彼女は自らの心情を溢れさせる。黒髪のカーテンから覗く双眸は光が無く、ただ淀んでいた。


 「ファミレスに入ってからも、見せつけるみたいに楽しげで……しかも、途中からまた違う女の子を引っかけてましたよね? そんなの、許せる訳ありませんよ」


 「え、えっと……別に口説いた訳じゃ無くて……」


 「どうして? 蓮さんは、私だから優しくしてくれたんじゃ無くて、女の子だったら誰にでもそういうことするんですか?」


 一体どうして、彼女がこんなに怒っているのか。そもそも、ここは一体何処で、どうやって僕をここまで運んだのか。数々の疑問点が僕の頭を混乱させる。すると、そんな僕をじっと見つめていた黒永さんが、にたりと笑った。


 「うふふっ……ちょっと、困らせちゃいましたね。大丈夫ですよ? ちゃんと、一から十まで。隅々まで私のことを教えてあげますから」


 まるで、僕の考えが分かっている様なその口ぶり。なるほど、全て合点が行った。彼女の属性、それは……


 「私、ちょっと不思議な力があるんです。貴方の考えていることが分かったり……頭で思ったところに一瞬で行けちゃったり、そういう事が出来るんです」


 超能力者。彼女もまた、るなや羽崎さんの様に見たことも無い属性をしている。瞬間移動に読心術、いずれも特異な能力だ。


 「あぁ、また私以外のこと考えた」


 「うむぅう!?」


 一瞬で意識が彼女に引っ張られる。これまでに無いくらい接近した彼女の顔は、僕の口を物理的に封じていた。簡潔に言えば、頭を掴まれた状態でキスをされた。


 熱い口づけは、息が切れる直前まで続いた。口内を蹂躙する、湿った舌が引き抜かれると同時に、新鮮な酸素が肺に入り込む。咽せる僕を見て黒永さんは、その口元を三日月に歪めた。


 「あはぁ……! 蓮さんとキス、しちゃいました……! くふふ、苦しそうな貴方も可愛くて好きですよぉ……!」


 ヤバい。彼女がヤンデレ属性を持っているのは知っていたが、既にマークされていたなんて。あの図書館での出来事、たったあれだけでこんな風になったのか?


 「貴方にとっては、その程度だったかもしれません。ですが、私にとっては狂ってしまうくらい、大切で大事な事だったんですよ?」


 「そ、その……! こういうのは段階を踏むべきで、出来ればお友達から始めていきたいなと思うんですけど……!」


 「必要ありませんよ? 貴方と私は運命の赤い糸で結ばれているんですから。もう私以外見ないで? 今日から一緒に暮らしましょう? これから一生、私のことを愛して?」


 「いやいや! 僕にも僕の生活があるし、それにこのままじゃ誘拐になっちゃうって!」


 いくら何でもステップを吹っ飛ばし過ぎだろう。だが、きっぱりと断ってしまえばどうなるか分からない。ならば、きちんと正常な順路に戻してあげれば良いのだ。そうする意外に、僕が助かる道は無い。


 「どうして? 私のことを受け入れてくれるならそれで、私が嫌なら拒めば良いでしょ? そこに順路も、ステップも、助かる道も必要ありません」


 「ちなみに……断ったら、どうなるの?」


 「うふふ……そんなの、決まってるじゃ無いですかぁ」


 薄暗い部屋の中で、黒永さんの手元がキラリと輝いた。その瞬間、ズボッと僕の頭の横に何かが突き立てられる。ベッドの上に突き刺さったそれは、包丁だった。


 「これで貴方を分解して、私だけの蓮さんにします。私の体の中で、一生一緒にいましょうね?」


 「うっ……!?」


 思わず悲鳴が漏れ出る。嘘や冗談では無く、黒永綴はそれをやってしまうだろう。彼女が放つその全てが、こいつは超えてはいけない一線を易々と越えると確信させている。


 僕が恐怖していると、彼女は僕の頬を撫でながらぽつりと語り始めた。


 「私ね? こんな風だから、昔から友達が全然出来なかったんです。心の声と肉声の声が混じって、ワンテンポ会話が遅れるし、聞きたくも無い本音を無理矢理聞かされるので……何度もこの力を恨みましたよ」


 それは、彼女の独白。これまで歩んできた彼女の、苦痛や絶望の一片だ。


 「両親もこんな私を気味悪がって、いつも壁を感じていました。中学生の時からこんな狭い部屋で一人暮らしをして、ずっと寂しかった。高校生になったところで、それは変わらないと思ってました。そんな時だったんです、貴方が現れたのは」


 蓄積され、貯まりに貯まった彼女の苦悩は、少し聞いただけでも重苦しい。変わらないはずの表情が、叫んでいる様にも見えた。だが、そんな表情が終わりの言葉を最後に消え失せた。


 「入学式の時、貴方だけが私をきちんと見てくれました。貴方だけが私を応援してくれました。それがどれほど嬉しくて、幸せなことだったか。あの後の図書館でも私を助けてくれて、私のことを褒めてくれて……凄く、嬉しかったんです」


 頬を赤く染め、その声色は弾み、楽しそうに僕との出会いを話す。たった、あれだけ。でも、それだけが彼女の救いだったのだ。そう思うと、なんだか無性に悲しくなってきた。


 「なのに……なのになのに! 蓮さんの優しさは私だけのじゃなかった! 誰にでも分け与えられる、その程度のものだった! そんなの嫌です! 貴方の優しさは、私だけのものなんです! 誰にも絶対、渡しません!」


 それは怒りか、それとも嘆きなのか。僕には分からない。だが、一つ確かなのは、今の彼女は平常ではないということだ。


 だから、僕がするべき事は一つだけだ。


 「分かってくれましたか? 貴方の優しさが欲しいんです、貴方の全てを、私だけのものにしたいんです」


 「そっか……黒永さん。だったらひとつ、お願いがあるんだ」


 「何です?」


 「手錠、外してくれないかな」


 黒永さんは少し、怪訝な顔をした。きっと、僕が逃げ出すのでは無いかと心配しているのだろう。安心して欲しい。こんな美少女に求められて、逃げ帰るほど日和ってはいない。


 「大丈夫、逃げたりしないよ。それに、黒永さんならすぐに追いつけるでしょ?」


 「……それもそうですね。良いでしょう、外してあげます」


 「うん、ありがと」


 手錠が外される。僕はそのまま、自由になった両手を使って起き上がり、黒永さんを抱きしめた。出来る限り全てを包み込むように、全身を使って彼女を包み込む。


 「……へ? あえ、な?」


 「大丈夫だよ。心配しないで」


 「ぇう……」


 短い悲鳴と共に、彼女は何も言わなくなった。僕はその間、彼女の背中をずっとさすり続ける。これが僕の作戦。好意爆下げ幻滅大作戦だ。


 正直、今の黒永さんはヤバい。その好意も、明らかに膨らみすぎだ。だから、必要なのは理性的な判断だ。彼女はあまりにも僕を美化し過ぎている。


 だから僕は脳内を欲望を全開にする。するとどうだろう、僕が『変態異常者』であることは明白となる。


 果たして、彼女はその時、僕のことを好いたままで居られるだろうか? 答えはノーだ。おのずと、彼女の方から僕をクーリングオフすることだろう。


 さぁ、黒永さん! 僕の心を読め! 僕は君の身体の色んなところを味わう、ただの変態だぞ! さっさと突き飛ばしてビンタの一つでもしてしまえ!!!


 しかし、予想とは反して、彼女は僕の方に抱きしめ返してきた。え、なんで? 普通、急にハグされたら引かない? 僕の頭ん中、黒永さんのエロい妄想でいっぱいなんだけど。


 「……ばか。ばかばか、ばーか」


 「酷い……!? いや、馬鹿なのは事実なんだけどさ!」


 「そんなことで、私が幻滅するとでも思ったんですか?」


 彼女はぎゅうっと、その力を強めると、僕の耳元で囁いた。熱っぽいその吐息はむず痒いやら心地いいやら、感情の大渋滞を起こしていた。


 「良いんですよ……♡ 貴女が私を見てくれるなら、そういう妄想を現実にしても」


 「へぇ……!? マジっすか!?」


 「うふふ……♡ まじです」


 つまりは、あんなことやこんなことをしても良いと!? 最高か!?


 「じゃあ、僕と──」


 その欲望を口にしようとした瞬間、思った。果たして、これで良いのだろうかと。


 確かに、彼女は僕の些細な点を見て、チョロいとは思うが、好きになってくれたのだろう。


 だが、僕はどうだ? 降って湧いたこの好機に甘え、僕は何もしていない。そんなことが、許されて良いのか?


 答えは、否である。複数属性持ちであり、間違いなく美少女である黒永さんと、ただの『変態異常者』である僕とでは、釣り合いが取れない。


 「そんなこと、私は気にしませんが?」


 「いや、駄目だ。やっぱり少し待って欲しい」


 「……そんなことを言って、私から逃げたいだけじゃ──ご、ごめんなさい。本気なのは分かりましたから」


 こんなに涙を堪えたのは、後輩に死ぬほど煽られた時以来だ。僕は顔を拭い、深呼吸をしてから、彼女に向き直った。


 「黒永さん。告白ありがとう。すごく、嬉しかったよ」


 「……はい」


 「でも、僕は黒永さんのこと、何にも知らない。そんな状態で中途半端に、返事を出したくないんだ」


 もっと黒永さんの可愛いところ、意外なところ、エロいところを知ってから、その上で答えを出したい。それが、彼女の気持ちに対する誠意だと思うから。


 「だから……返事は、保留にさせてほしい」


 「分かりました。ですが、前向きに検討してくださるのですね?」


 「それは勿論。君のことを、どうかもっと教えて欲しい」


 僕がそう言うと、彼女は僕の頬に手を添えると、ゆっくりと顔を近づけてきた。


 ちゅっ、と、艶やかな音が、聞こえた。


 「どうぞ、もっと知ってください。そして、好きになってください。私はずっと、据え膳でお待ちしております♡」


 ……やっぱり、我慢とか無理かもしれない。

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