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属性なんて山盛りなほど良い  作者: 椿


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3/7

魔法少女

 入学式は失敗した。黒永さんという知り合いは出来たものの、未だに自分のクラスで話すことの出来る人物は一人も居ない。この学校には昔の知り合いなども存在しないので、このままでは非常に困ったことになってしまう。


 だから、今日はいつもより一時間早く学校に来た。既にグループが出来上がっているのなら、そこに属する人が一人の時に声をかければ良いのだ。取っかかりさえあれば、そこから先は何とでもなる。我ながら完璧な作戦だ。


 しかし、僕は重大なミスをした。早く来すぎたせいで、まだ誰も教室に居ないのだ。始業までそれなりに時間がある。さて、どうやって暇を潰そう。


 仕方なく、何か飲み物でも買おうと自販機までやってきた。するとどうだろう、見覚えのある目立つ髪色の人物が、自販機に併設されたベンチで大層機嫌を悪そうにしている。


 例の金髪魔法少女だ。昨日の自己紹介によれば、名前を善財るなというらしい。大変可愛らしい名前をしているが、雰囲気は全くそういう感じでは無い。背も小さいのに、よくもまぁあんなピリついた空気を醸し出せるものだ。


 「おい、そこのお前。今あたしの悪口を言わなかったか?」


 「うぇ!? い、いやー……そんなことは全く、一切口に出していませんけど?」


 「心の中で思っただろ。それだけで重罪だ」


 真後ろに立っていたのに、どうして気づいたんだ? というか、自然に心を読むんじゃ無い。どれだけ自分の悪意に対して敏感なんだよ。


 「チッ……誰かと思えば、隣の隈野郎じゃねぇか」


 「くま……? 僕は熊みたいに大きくないけど?」


 「その熊じゃねぇよ眼の隈だっつの。鏡見ねぇのかよお前」


 隈……あぁ、これのことか。確かに出来ているけど、そんなに目立つものだろうか?


  これは、自分の力を自覚した日に錯乱して三日ほど寝なかった日があるのだが、その時からどれだけ眠っても戻らなくなってしまったのだ。


 「えっと……善財さんは、こんな朝早くにどうしたの? 随分早起きなんだね」


 「誰がこんな時間に好き好んで学校に来るかよ。仕方なく、だ」


 そういって彼女はオレンジジュースをすすった。よく見れば、バッグにもファンシーなウサギのストラップが付いていて、意外と子供っぽいところが多いようだ。髪色とその威圧感がどうしても先行してしまったが、こういう面もあるのだな、なんて思う。


 「オレンジジュース、好きなの?」


 「悪いか? 高校生にもなって、こんな子供っぽいもんが好きなんてよ」


 「いいや、凄い似合ってると思う」


 だって、魔法少女だから。ヤンキー、というよりは魔法少女というイメージが強い僕は、思っているままを話した。


 「そいつぁ、あたしがガキみてぇだからって、そう言いたいのか?」


 「え、あー……いや、そんなことない……ですよ?」


 「お前、嘘つくときに左手を首に当てる癖があるな。なら、さっきもやっぱりあたしのこと馬鹿にしてたんだな?」


 「流石にそれは早計というものでは……!?」


 飲み終わった紙パックを完璧にゴミ箱へ投げ捨てると、善財さんはこちらにゆっくりと近づいてくる。気づくと、何故かその手には木刀が握られていた。いつ、そんなものを取り出したんだよ!


 「ちょ、それ何!? なんで木刀持ってんの!?」


 「安心しろ、これでお前の頭をポカすだけだ。死にはしねぇからそこ動くな」


 「人は頭をポカされるとワンチャン死ぬんだよ!?」


 「うっさい、つべこべ言わずに死ね!」


 いや、死ねって言ってるじゃん!? 初っぱなから機嫌が悪そうだったし、これはただの八つ当たりではないのだろうか!


 あんな凶器でぶん殴られたらどうなってしまうのやら、考えただけでも恐ろしい! これ以上頭がおかしくなったらどうするんだ。


 「魔法少女はそんなことしないはずでしょ!?」


 「…………は?」


 あ、しまった。木刀が振り下ろされる直前、あまりの恐怖に言ってはいけないことを言ってしまった。善財さんの顔がスッと、能面のようになっていく。


 「おい、お前……」


 「え、えっと……い、今のはじょ、冗談というか……」


 「……ちょっとこっち来い」


 ガッと手首を掴まれ、僕は校舎裏に引きづられていった。そこは様々な場所から死角になっており、日中でも薄暗い場所だった。当たり前のように、こんな時間では誰もここには来ない。


 そんな状況で僕は、別の意味でドキドキとする壁ドンを喰らっていた。強引に屈まされ、任侠物のヤクザのような眼光で際限なく貫かれていく。それだけで心臓が止まってしまいそうだ。


 「なんでお前がそれを知ってる? もしかして、お前も来訪者か?」


 「ら、らい……? なんだって?」


 「……今度は本当に知らねぇみたいだな。なら……おい、お前」


 「はい! なんでしょう!」


 僕は正座の状態で、ジッとこちらを見つめる善財さんの眼を見つめる。まるで、全てが見透かされているようだ。


 「嘘や隠し事は無しだ。もし、誤魔化すようなことがあれば……分かるな?」


 「もちろんです! 絶対に嘘はつきません!」


 空いた片方の手に未だ握られた木刀を見せられては、そう言わざるを得ない。それに、僕には確信があった。彼女には絶対、嘘は通じないだろうという確信が。


 「まずは、なんで私が魔法少女だ、なんてことを思ったんだ?」


 「そ、それは……み、見えたからです」


 「見えた……? あたしが魔法少女に見えたってか? 訳分かんねぇから、もう少し具体的に言え」


 「その……僕には人の趣味趣向や性格、職業なんかが浮かんで見えるんです。それで、善財さんは魔法少女って、浮かんできたので……」


 自分で言っていて、何を言っているのか全く分からない。だが、これは本当のことなのだ。信じて貰うほか無い。


 「どういうことだ……? 魔力も持ってねぇ一般人が、なんでそんなこと出来るんだよ? けど、嘘は言ってねぇみたいだし……」


 「あのー……し、信じて貰えますか?」


 「信じるしかねぇだろ。あたしの魔法は絶対だ。それが真実だって言うなら、そうなんだろうよ」


 「はぁ……じゃ、じゃあ僕はこれで失礼しま」


 「まぁ、信じるからって逃がす訳じゃねぇけどな」


 そういって彼女は、またどこからともなく厚い紙を取り出した。パルプ紙というより、古めかしい羊皮紙のようなそれは、読めない文字がびっしりと書き込まれていた。


 「ほら、これにサインしろ。取引の契約書だ」


 「えっと……説明をお願いします」


 「簡単なことだ。お前は私の正体をバラさない、代わりに私は対価を差し出すってだけだ。お前、友達が欲しいんだろ? 私がと、友達になってやんよ」


 「な、なんでそのこと……」


 「んなことはどうでも良いんだよ! おら、とっととサインしやがれ!」


 なんという押し売り。友達って対価として作るものじゃないと思うのだが……さらに言ってしまえば、こんな大層なものを使わなくても、僕は誰にもこのことを言わないのに。というか、彼女が魔法少女だなんて言っても信じて貰えない。


 けれど、この様子じゃ信用して貰えなさそうだ。大人しく差し出された羊皮紙にサインをする。すると、僕の名前が光ってから紙が燃え尽きた。


 「これで契約は完了だ。けど勘違いすんなよ! これは仕方なく、だからな!」


 「……まぁ、いっか。よろしくね、善財さん」


 「え……あたし達、友達なんだろ? 友達って普通、名前で呼び合うって聞いたぞ」


 「そうなの?」


 「そ、そうなんだよ! あたしも良く分かんないけど……」


 流れとは言え、友達が出来た……ということで良いのか? それにしても、敵意むき出しな時と比べて、幾分か柔らかな雰囲気になったような気がする。そのまま言ってしまえば、大変可愛らしく見えていた。


 「あたしもれ、蓮って呼ぶから、蓮もあたしのこと、名前で呼べよ」


 「わ、分かった……よろしく、るな」


 「~~~っぅ!?!?」


 一瞬、呆気に取られたような顔をした後、るなは音速かと見間違うほどの早さでこちらから顔を逸らした。一体、どうしたというのだろう。


 「る、るな? 一体、どうし」


 「うっ、うっさいバーカ! こっち見んな!」


 急に様子がおかしくなった彼女は、数十秒の間顔を手で覆って、その後何も無かったかのように立ち上がった。けど、僕は見えた。その耳が、真っ赤になっていたことに。


 「もしかして、名前呼びされて照れたの?」


 「そそそそそんな訳ないだろ!? つうかなんだよ!? そんな微笑ましい顔であたしを見るな!?」


 「いやだって……明らかに動揺してるからさ」


 「うっさいうっさい! やっぱり一発殴らせろ!」


 危なっ!? 振りかぶった木刀が単純な軌道だったので躱せたが、次は絶対に無理だ。それより、木刀が当たったところコンクリートが砕けてるんだが!? これ、絶対当たったらまずいだろ!?


 「ちょまっ!? 落ち着けって!?」


 「あたしは落ち着いてる!」


 不味い。るなが興奮しているのもそうだが、今足音の様なものが聞こえた。それはどんどんこちら側に近づいている。生徒にしろ先生にしろ、見つかったら色々と問題だ。近くの茂みに、僕はるなの手を取って身を隠した。


 「お、おい!? きゅ、急に何すんだよ!?」


 「静かに……! 誰か来る」


 眼をグルグルと回していたるなだったが、足音に気づいて息を殺し始めた。僕たちが隠れてから数秒後、二人の人物が校舎裏に現れた。


 「あれって……」


 その内、一人の男子生徒は知らなかったが、もう一人は分かった。僕が見紛うはずが無い人物だからだ。


 「それで、話って?」


 相変わらず唯一無二の存在感をまき散らす、吸血鬼のあの子だった。

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