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オートセーブは深夜0時に  作者: 夕凪の鐘
Episode16 勝ち負けの見えない勝負
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84話 心が読めるレイジくんと鼓動が聞こえるミライちゃん

 文化祭後の日曜日。そしてその次の月曜日は振替休日となるため、今日から二連休。疲れきって動けなくなることも想定していたため、玲司(レイジ)はこの二日間は喫茶店のバイトを入れていなかった。ゆえに暇だ。

 しかし眠い。動きたくない。深夜0時を迎えるのを見るために、わざわざ遠くの町まで行ってしまったせいで終電はとっくに逃してしまった。《ヒカリ》と話し合った結果、カラオケボックスに行って一晩歌い明かすことにしたため、一晩中騒いで一睡もしなかった。そして始発で家に帰り、乗り換え兼終着駅に着くまではしっかり眠っていたのだが、乗り換え後に再び眠って乗り過ごすと恐ろしく遠くまで行ってしまうので、その間の三十分は頑張って起きていた。つまり眠っていたのは最初の四十分だけで、それだけでレイジの疲れはほとんど取れなかった。


 肉体的にはまったくもって疲れていない。しかし精神的に激しく疲弊していた。通算八度同じ日を繰り返し、そのループを抜け出す方法を見つけようと試行錯誤、がむしゃらに走り回った。そしてようやく辿り着いた答えと切り開けた道。今まで気持ちを張りつめていた反動で、レイジはぐっすりと眠りにつき、目を覚ましたのは夕方だった。


「いっけね……せっかくの連休一日無駄にしちまった……」

 頭はまだボーっとしているが、時計を見てこれ以上寝て過ごすわけにはいかないと思い、強引に体を起こして立ち上がった。そしてふとスマホを見た。


 大量の着信履歴。その大半は未来(ミライ)によるものだった。その気になれば眠っていることが分かるはずだが、一時間に五回はかかってきていた。着信音で起こそうとしていたのだろうか。あいにくマナーモードにしておりまったく音は鳴らないようにしていたので、何度かけてきても無駄だったのだが。

「そんだけ電話すんならメール寄越せよ。かけ直していいのか分かんねえじゃん。」

 レイジは既読は付けずに着信履歴を見ながら、ぶつぶつと文句を言った。


 そして数分後、再び電話がかかってきた。音はしないが、画面に表示された。レイジは出ようかと迷ったが、面倒くさく感じスマホを放置しておいた。

『電話出ろ。』

 電話が切れると初めてメッセージが送られてきた。どうも無視しているのはバレているらしい。鼓動が聞こえているのだろう。


 生き物の心臓の音、鼓動を聞くことのできるミライ。その個体、その感情ごとのわずかなこと違いから、誰がどんな感情を抱えているか自由に読める。しかしそれは、生き物の心を読めるレイジの下位互換ともいうべき性質といえる。が、能力の及ぶ範囲は段違いだ。それぞれが自宅にいる状況では、レイジの能力は届かずミライの能力の適応範囲内。部屋を移動するぐらいでは、その優劣をひっくり返すことはできない。つまりこの状況では無能力者も同然となるレイジの一方的不利電話越しに声を聞いたり文章を見るだけでは機能しないレイジには最悪のシチュエーションだ。


 そんなことを考えている間に、何度も電話とメッセージが飛んでくる。起きていることだけでなく、部屋に一人閉じ籠っていることさえもバレているのだろう。

『用があるなら家に来い。』

 レイジはメッセージを送ると、すぐさま返信が来た。

『ちゃんと家にいなさいよ。』

「えっ、マジで?」

 言い合いになるかと思っていたが、妙に素直に、そして即答で頷いてきて、レイジは焦った。急に外泊してきたことを家の人にさえ説明していないのに、ミライまで来られると余計ややこしくなる。彼女の家の最寄り駅からここまでは最短で三十分。それまでに話を済ませなければならない。レイジは急いで階段を降りてリビングへ向かう。そして早急に弁明を済ませた。


 仲良くなったクラスメイトと三次回に行っていた。大きな町で一晩歌い明かした。話はこれだけで済んだ。誰と行ったとかは深く追求されず、ただ危険な真似はしないようにと釘を刺された。能力者がうじゃうじゃいるこの町で、下手に夜遊びするのは非常に危険な行為とのことだ。別の時間軸で何度も死に直面する危機に追いやられた記憶のあるレイジには強く刺さる忠告だった。


 しばらくして、家のインターホンが鳴った。家の場所は教えてないが、GPSのごとく特定の個人の現在地が分かるミライには関係のないことだ。そしてドアを開けずとも、レイジにも誰が来たのかは分かっていた。真っ先に玄関へ向かい、ミライを出迎えに行った。

「いらっしゃい。あ、一応挨拶しておいて。」

 ミライがこの家にお邪魔するのは初めてなので、初対面となる家の人たちに顔を見せてほしいと言われていた。


「あ、もしかしてあなた、去年クラゲに刺された子?」

 心当たりのあるミライはその人たちの顔をよく見ると、この海で泳いでいて怪我をしたとき手当てをしてくれた人たちだと気づいた。そして隣にいるレイジが、弱味を握ったとばかりに不気味な表情を浮かべている。

「そっかあ、そうだよなあ……心臓のないクラゲに、お前が気づけるわけがないもんな……」

「い、今のことは忘れなさい! 次口にしたら殺すわよ!」

 恥ずかしさに堪えられなかったミライは顔を真っ赤にして剣幕を浴びせる。どうも彼女はその影響で海に入れなくなってしまったようだ。

「残念だなー。夏休み海に行こうって耀(ヒカリ)と話を進めてたのになー。」

「プールでもいいでしょ!? それにそういうのって二人きりで行くものよ!」

 言い合いは収まらないと勘づいた奥さんは、二人にコーヒーを出した。カップをテーブルに置き、椅子を引いて二人を呼んだ。

「けんかしないの。これでも飲んで、リラックスしなさい。」


「昨日ここは海開きしたのよ。クラゲはちゃんと駆除してあるから、もう心配いらないわ。」

 遊泳区域にいたクラゲは、七月の頭に捕獲し尽くしている。この一帯のライフセーバーたちが、潜ったり探知したりして手当たり次第捕まえていた。そしてその活動に、レイジは貢献していたのだ。

「心を読めるレイジくんのおかげで、たくさん捕れたのよ。」

 レイジは得意げに口元を緩める。生物の心を読めば、だいたいの位置が分かる。脳のないクラゲに対しても、その存在に気づいた魚などの心を読むことでその存在を感知でき、それだけで作業の効率は大幅に上がり、他の生物にも細心の注意を払うこともできていた。特段資格や経験がなくとも、その能力があるだけで十分奉仕したのだ。


 つまりレイジの言いたいことは何かというと、単なる自慢だ。一定の距離以内であればミライより応用の効く能力を持っているという優越感に浸っていることを彼女にアピールしたいという、非常にどうでもよくて小さい野望に過ぎないものしかレイジの心にはなかった。


「私だって手伝いますよ。クラゲは無理でも、他の生物ならより遠くまで確認できますし。困っている人がいても、すぐに気づけますから。」

 ミライも対抗して自分のアピールポイントを伝える。それもレイジと比較して、自分の優位点を強調して。そんなやり取りがおかしく思え、ふふっと笑い声が出てしまった奥さんはキッチンへ戻っていった。納得がいったわけではないがいつまでも本題に入らないわけにはいかないので、ミライはレイジの部屋へと向かっていった。


「ふーん。ここがあなたの部屋なのね。」

 先に入ったミライは部屋中見渡す。そして本棚やクローゼットなど、普通に部屋の中にいるだけでは目に入らない場所の前をおもむろに歩き回る。

 そしてタンスの一番下の引き出しに手を伸ばしたところで、レイジはその手を掴んで止めた。彼の鼓動が速くなっているのに気づいたミライは、空いた手でタンスのつまみを握ろうとする。

「痛っ! 何するのよ!」

 レイジは掴んだ手をおもいっきり引っ張り、ミライの体をベッドに叩き込んだ。そして手を離し、タンスの前に立ちはだかった。

「勝手に鼓動を聞いて秘密を探るのやめろ。部屋に入って最初にすることがこれかよ。」

「居候の身でそんなやましい物隠しているのが悪いんでしょ? もしかしてエッチな本でも溜め込んでいるの?」

 違う、なんて嘘をついたところでそれさえ見抜かれてしまう。最善手とはいえないが、ここは黙り込んで目を逸らす。

「それを言うならお前だって隠している物があるだろ! 勉強机一番下の引き出しの奥に」

「はぁ!? そ、そんなわけないでしょ! 何でたらめ言ってるのよこの変態!」

 これ以上言い争ったところで、どちらも幸せになれない。プライバシーはプライバシー。お互い自分の身を守るためにも、この話は流すことにした。


「それで……どうだったの?」

「んっ、ああ……告白はした、でもそれだけだ。」

 その告白のために、なぜ終電を逃すのを承知で遠くの町まで行き、深夜0時を迎えたのかとミライは追及する。今回の時間軸では彼女はヒカリの能力のことに気づいていないため、どうして彼が深夜0時にこだわっていたのかが分からないようだ。

 本当のことを話したところで信じてもらえるかは分からないが、少なくとも嘘でないことは理解してくれる。疑問が解決できたところで誰かが幸せになるというわけではない。しかし残ったままでいることで悲しむであろう人がいる以上、レイジは一人で抱え込んでいるわけにはいかなかった。

「聞いてくれ。実はな……」


「なるほどね……一日単位で巻き戻しがあったから、日付が変わる瞬間まで一緒にいるしかなかったってことだったのね……」

 ミライは安心した一方で、どこかもやもやしていた。それに気づいたレイジは、黙り込んだ彼女に語りかけた。

「過去の……なくなった時間軸のお前は、何度も俺を助けてくれた。焦っている俺に気づいて、責めて、思いをぶつけてくれて……ヒカリの思いに向き合う覚悟ができたんだ。」

 なかったことになっている以上、ミライはレイジの言う自分が何をしたのかなど知るよしもない。にわかには信じられない話だったが、それでも彼の思いは伝わってきていた。


「お前のキスで、目が覚めたよ……ありがとう、ミライ。」

 ミライの動き、そして思考が固まった。からかっているのではない。レイジの記憶では、確かにその時間軸が存在していたというのが分かってしまっているだけに、自分の知らない、彼だけの知る自身の行動に、急激に動き始めた思考回路がショートした。

「な、なななな何!? キス、私が!? そんなわけ、あるわけないでしょ!? 夢だったんじゃないの!?」

 レイジ以外は誰も記憶にない。極端な話、あのループもすべてレイジの夢だったと言うこともできる。けれどもそれは間違いなく現実で、存在したであろう未来だったのだ。

 何をやってもヒカリの死ぬ運命を変えられず、土曜日のループから抜け出せなかったレイジ。そのときの不安定な心を誰よりも理解していたミライは、彼女の死を乗り越えて彼と向き合おうとした。それを繰り返すうちに辿り着いた答え。そのきっかけとなったのが、死に際に受け取ったミライの口づけだったのだ。


「こんなこと言われても困るってのは分かっている。でもな、ミライ。今こうして俺がここにいて、お前と話せているのはお前のおかげなんだ。」

 レイジは顔をぐいと寄せ、ミライは慌てて後退りするが後ろは壁だ。

「だからさ、俺はここに呼んだんだ。目を見て伝えたかったから、俺の思いを。」

「俺の、思い……?」

 ミライは自分が勘違いしている、そういう意味で言っているのでないことには気づいている。だからこそ、ここで返してはいけない言葉、返すべき言葉に気づき、現実に向き合わないといけないと分かっていた。

「だったら……ちゃんとあの子の思いに応えてあげなさいよ。もしあんな目に遭わせたら、許さないから。」

 それだけ言うと立ち上がり部屋から、そして家から出て行こうとするミライを、レイジは玄関まで送り届けることにした。今の彼女には、それ以上近づいてはいけないという、彼なりの気遣いだ。


「お邪魔しました。」

「あら、もう帰っちゃうの? せっかくだし、夕飯食べていきなよ。」

 奥さんはミライの分の食事も用意する気満々だった。どうもレイジがヒカリと付き合い始めたことは知らないようだとミライは察していた。

「ただいまー。」

 ちょうどそこに、自主トレ兼パトロールを終えた息吹(イブキ)が帰ってきて鉢合わせてしまった。朝帰りのレイジと隣にいるミライを見て、留守にしている間に何をしていたのかは容易にイメージできていた。

「あなたは居候の身でよく女を連れて朝帰りしてこれるわね……」

「ち、違うぜイブキ。こいつとは何でもないし俺にはちゃんとした相手が」

「それ、言い訳になってないから。」

 結局話をするために、ミライも夕食を一緒に過ごすことになった。イブキの誤解を解くのに苦労したが、ミライにとってその時間は決して居心地の悪いだけのものではなかった。

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