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オートセーブは深夜0時に  作者: 夕凪の鐘
Episode15 オートセーブは深夜0時に
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83話 三門玲司

 目が覚めたらベッドの上。この光景は何度目だろうか。玲司(レイジ)は体を起こし、腕や足、そして首を手で擦る。

「繋がってる、か……」

 切れた跡すらない。やはりまたしてもループは抜けられなかったということだ。もしあのままループから抜け出していたとしても、自分も耀(ヒカリ)も助からないままだったので、不幸中の幸いと言えるだろう。


 レイジは記憶を取り戻そうと前回の出来事を時系列に沿ってノートに書き綴り始めた。文化祭の片付けを終え、時間(ジカン)たちと合流してからのこと。それより前のことは今までのことと大差はないので、石の位置を特定しそこへ着いてからの出来事に絞り思いつくままに書き足した。

「この後だ……」

 だいたいは埋まったが、どうしても思い出せないことがある。それはレイジが鎖に捕まり、五体を引き千切られてからのことだ。首が飛んだ直後から記憶が曖昧になっている。何か大事なことがあった気がするが、レイジにはそれが何だったのかが分からない。

 薄れ行く意識のなか、聞こえてきた誰かの声。視界がぼんやりとして誰がいるのか分からないが、顔のすぐ近くで思いをぶつけてくる少女の声がしたような気がしてならない。

 よく分からないままではあったが、レイジはその光景が忘れられずにいた。あの声を忘れてはいけない、受け入れなければならない。そんな風に訴えてくる自分がいて、頭から離れない。


「どこに行くの、レイジ。」

 朝の会議。金曜日、初日の文化祭をめちゃくちゃにした星香(セイカ)への対抗策を考える会議だ。とはいえレイジにとっては些細なこと。今までのループで散々成功させてきているので、他の能力者が焦ったり悩んでいるなかで一人余裕でいられたのだ。そんなレイジの様子に気づいた未来(ミライ)は、会議が終わり教室を出たところで呼び止めた。


「ずいぶん落ち着いているようだけど、何か打つ手があるのね。私は力になれないかしら?」

「ああ。でも、もう一人必要だから、そいつが来るまで待っててくれ。一応作戦は伝えるから、ついてきてほしい。」

 ミライ、そして春菜(ハルナ)。この二人がいれば、視覚と聴覚を操るだけのセイカへの対抗は苦ではない。作戦を聞いたミライも、少し心に余裕ができていた。

「……ねえ、レイジ。あなたまだ何か隠してない?」

 作戦は完璧。そして失敗さえ想定していない。にもかかわらず、レイジの心には何かが引っ掛かりどこかぎこちないというのが、彼の鼓動に表れていた。それを感じ取ったミライは彼に尋ねた。対するレイジの答えと鼓動のリズムによって、答えが本当か嘘かも見抜くことができる。とにかく話しかけることで、ミライの能力は真価を発揮する。レイジには、それが邪魔だった。


「ああ。でも、お前に話したところで……」

「……そう。分かったわ。」

 ミライはそれ以上触れてこなかった。彼女のことだから、なんとしてでも聞き出そうと面倒くさく突っ掛かってくるかと思っていた。現に、というより前のループでは周りを気にすることなく大声で絡んできた。レイジはそれを覚えているが、ミライは、他の人はまったく知らない。今回すんなりと引いたのは、ただの気まぐれなのだろうか。

 いや、違う。前々回のループでレイジはミライを突き放した。それで彼女のことを面倒な人だと思うようになった。つまりレイジはその経験を通じて、ミライのことを心底避けたい人だと思うようになってしまっていたのだ。それが彼女にも気づかれてしまっているから、こうして身を引いたのだ。ミライの心を読んで、レイジにもそれが分かった。

「悪い、一つ頼みを聞いてくれ。」

 一度進めていた足を止め、ミライに顔を向けることなく話しかける。ミライも一度足を止めるが、彼の顔を見ようとはしなかった。

「俺とヒカリ……いなくなって悲しい人の側にいてくれ。」

 何のことだが見当はつかない。けれどもレイジは冗談で言っていないことは伝わってくる。ミライは何も言わず、その言葉を受け止めた。口には出さなかったその答えを読み取ったレイジは、再び歩き始めた。


 まただ。ライブの発表は成功させた。一度もミスはしなかった。客席も盛り上がった。けれどもその後の、教室の片付けの最中の演奏、その段階ですでに、レイジの頭からは今まで練習して身につけた感覚がすべて抜け去り、ろくにギターを弾けなくなっていた。ヒカリがショックを受けているのは分かっている。だからといって何ができるというわけではない。本題はこの後の時の石の争奪戦だ。きっとその力さえ手に入れれば、ループを抜け出す鍵を見つけられるかもしれない。頼れる物はそれだけだ。レイジは気持ちを押し殺し、ジカンたちとの合流に向かった。


「なんという偶然……石が見つかるなんて……」

 駅前で合流したレイジたちは、タブレットで石の場所を調べたところ目の前に転移してきた石を手に入れることに成功した。

 そうだ、これで良かったんだ。何回もループを繰り返せば、今回のように石が偶然手に入るルートに辿り着けることだってある。今回のチャンスは逃すわけにはいかない。すぐにその石を持っている石と重ね合わせ、その力を解放させた。


「すげぇ……偶然にしちゃあできすぎて怖いぐらいだ……」

 駅前から離れ人気のない公園の広場で石を合わせると、青白い光が次々と集まってきた。そして二つの石が輝き宙に浮くと、ジカンの体を回り始めた。

「これが……時の石の力……過去へ未来へ、自由に行き来できる力か……」

 ジカンの体が石とともに宙に浮いた。何が起こるのか想像もつかないが、レイジはただ見守り、そして邪魔が来ないかと周囲を警戒していた。


「まあ……当然来るわな……」

 レイジの想定通り、騒ぎを知った能力者たちが次々と集まってきた。

「その力を捨てろ! 歴史を変えることは罪だ! 早く出ないと、時の石に飲まれちまうぞ!」

 先陣を切る四天格のリーダー十四哉(トシヤ)は、鎖を伸ばし強引に引き摺りだそうとする。しかしそれは簡単に弾かれた。石の力を手にしたジカンが、自らの意思で抜け出そうとしない限り、解放されることはない。そう察していたトシヤは、説得するほかないとジカンに呼び掛けた。


「俺たちで時間を稼ぐぞ! 絶対に守りきるんだ!」

「無謀なる抵抗(レジスタンス)……これも秩序を破りし者の運命(さだめ)……」

 (セイン)、そして(マツリ)は翼を広げ飛び立ち、トシヤの妨害に向かった。

「ちっ、邪魔をするな!」

 トシヤはさらに鎖を出して撃ち落とそうとした。しかしそれはヒラリとかわされ、セインの繰り出した雷撃が彼の体を直撃した。

 想像以上だ。前回はまさに瞬殺された二人が、格上の、それも大勢を相手に押している。レイジは今回が最大のチャンスだと思い、ポケットからサバイバルナイフを取り出し前髪をバッサリと切った。これで右目の視界は広まった。かつて故郷を滅ぼした‘悪夢の瞳(アンチドリーム)’。その力のすべてを解放するときが来た。これでトシヤたち防衛軍の願いは何一つ叶わなくなる。セインとマツリ、そしてジカンを止めることなどできない。


 わずか二人対、三十人近くの能力者。ほとんど傷を負うことなく、着々と敵を減らしていく。雨も相まってセインの黒き稲妻は自然現象の雷さえも引き起こし、マツリが急降下して噛みつくことによって敵を操り戦況を混乱させている。一人地上にいるレイジのことなど気に留めず、徐々に追い詰められていく能力者たちにレイジは興奮が抑えきれなくなる。

 しかしレイジは、誰かの視線を感じた。感じた方向に目を向けると、戦闘に加勢することなくじっと彼を見つめる少女がいた。

 ミライだ。確かにSランクでありながら彼女の戦闘力は皆無。サポートに回ることさえできないため、何もしていないことは不思議ではない。気にする必要などない。けれどもレイジは、彼女の存在を無視できなかった。

 なぜ、そんな悲しそうな表情で見つめている。焦っている俺をなぜ心配そうに見つめているんだ。

 レイジは思わず歯ぎしりし、手を強く握った。


「ぐっ、があああ!」

 空中から、ジカンの苦しむ声が聞こえた。セインとマツリは戦うのを止め、思わず彼の姿に見いっていた。これはトシヤたちによるものではない。時の石によって、全身に激しい痛みが駆け巡っているのだ。けれどもそれで外部から干渉できるようになったわけではない。この痛みを耐え抜けば、過去へ未来へ自由自在だ。計画の成功は間近だと期待した次の瞬間、ジカンの弱音が聞こえてきた。

「痛い……助けて……」

 誰が助けるか。ここまで来て失敗に終わらせやしない。レイジは右目でジカンを見て、助けてほしいという願いを叶わなくさせようとした。


「今すぐそこから出るんだ! 過去なんて変えなくてもいいんだ! お前が犠牲になってまで、死んだ父親が喜ぶとでも思っているのか!」

「耳を貸すな! そこから出るんじゃねえ!」

 ジカンの心が揺れている気がしたレイジは、思わず叫んでしまった。しかしその声は彼の心には届かず、痛みそして良心に堪えきれなくなったジカンの体を纏っていた光は消えてしまった。時間移動の力を、自ら捨ててしまったのだ。


「大丈夫か!?」

「あ、ああ……ありがとう。あのままだったら、俺は……」

 時の石の力を手にしようとしていたことは間違っていた。もう二度と使わない。ジカンは自分の過ちを認めてしまっていた。

「こんな物、必要なかったんだ。」

「……ふっざけるな……」

 レイジはゆっくりとジカンに近づき、顔を強く殴った。彼の体は吹き飛び、周りに浮いていた時の石はそこから真下に落下し始め、レイジはその二つをキャッチした。

「ここまで来て間違っていた? そんなことで済まされるか!」

「レイジ! 何を……」

 レイジは両手に持った石を重ね、今度は彼の体が光に包まれた。

「そうだ……最初から俺がやっていれば良かったんだ……俺が、時の支配者になれば良かったんだ!」


 トシヤの鎖も、他の能力者の攻撃も一切レイジには通じない。このままあの痛みに堪えれば、時の石の力を手にすることができる。もう誰にも邪魔はさせない。彼の体は石とともに徐々に浮き上がっていった。

 レイジは全身に痛みを感じた。しかしこの程度の痛みなど、今まで受けていたものに比べればどうということはない。過去へ戻れる力さえ手に入れられれば、この体がどうなろうと構わない。ループを抜け出し、ヒカリが助かるのなら、この身がどうなろうと構わなかった。


 そして彼の体は、爆発した……


 今回も駄目だった。確かに過去や未来へ行けるようにはなった。頭上に見える光のゲートがその入口なのだろう。しかしレイジの体はまったく動かない。時の支配者。それはタイムスリップできる空間を作り出すことができるようになることであって、自らタイムスリップできるようになるというわけではなかったのだ。支配者一人を犠牲に、その扉は開かれる。それに気づいたところで、今のレイジには何もできなかった。


 誰もがそこに立ち尽くすなか、一人の足が彼の元へと進んでいった。

 ミライはレイジの隣で屈むと彼の頭を持ち上げ、耳元で囁いた。

「ヒカリからの伝言よ。もう一度会って、ごめんなさいって言いたかったって……」

「ごめんって……悪いのは、俺……」

「それが分かっているんでしょ? だったら心じゃなく、思いを受け止めてあげて。次はきっと、大丈夫よ。」

 レイジの頼み、彼とヒカリの、いなくなって悲しい人の側にいてほしいという頼みを聞き、最初にヒカリの元へ向かっていた。我が儘をぶつけて去ってしまったこと、一緒にステージに立つという願いを叶えてくれたことに何も言えなかったこと。レイジへ謝りたいことがたくさんあったまま命を落としてしまったヒカリはその直前に思っていたことがあった。


 文化祭を、もう一度。


 ミライの前でも言ったヒカリの望みは、一度起きた事象を繰り返すことができる彼女の能力‘深夜零時ビギニング・オブ・フィナーレ’によって叶えられていたのではないか。そしてそれをレイジは何度も経験しているのではないか。ミライはそう考えると、朝からの不自然な言動が一本の線で繋がった。

 タイムリープを引き起こしているヒカリ本人はそれを知らず、レイジただ一人が知っている。それがこの文化祭ループの原因。それがミライの辿り着いた結論。レイジもにわかには信じがたいが、そうだとすれば答えは一つだ。

 行動で応えるだけじゃだめだったんだ。心で、気持ちで応えてこそ、自ずと結果はついてくる。石の力に飲まれ血を吐くレイジは、寄り添うミライに最期に言葉を残した。

「ありがとう。」

 微笑む彼に、ミライは唇を強く噛み締めた。彼女にとってベストとは言えない選択。しかしヒカリの幸せのためには、自分の気持ちは抑えなければならない。ならないのに、レイジの言葉が彼女の感情を爆発させた。

「ミライに会えて、良かったぜ……」

「……ヒカリを悲しませたら、許さないんだから……」

 涙を流しながら、それでも本心を言葉にしないよう堪えながら、ミライはレイジの服を強く掴んだ。

「まだあるんだろ? 言いたいこと。言ってくれよ、ミライ。きっと俺の力になるからさ。」

「名前、呼ばないでよ……」

 手で涙を拭いながら、言葉にする決意を固める。罪悪感はあるが、それで彼の決意が固まると言っているのだから、もう抑える気にはなれなかった。


「レイジ、あなたのこと……愛してる! だから、本気であの子に向き合ってあげて。」

「ありがとな、ミライ。これで次に、本気の俺……三門(みかど)玲司(れいじ)が未来を変えるから。」

 そう言うとレイジの体が白く光り始め、(かかと)からだんだんと消えていった。首から下がすべて消え、顔も消えかかってきた頃に、ミライは自分と唇をレイジに重ね、そのまま彼の姿は闇に消えていった。


 八度目の文化祭。レイジはもう迷わない。ゴールはここではなく、まだまだ先は続く。直後に期末試験、そして夏休み明けには体育祭がある。だからといって、文化祭が終わればすべて忘れて良いわけではない。レイジがここまで来れたのは自分一人の力ではない。周りの人、仲間がいたからだ。そんななかで、誰よりも身近だった存在。彼女への思いは特別だった。それを今証明し、一つの答えを送る。

「今度こそ、最高のステージにしよう。ヒカリ。」

 そして二人は、ステージに立った。今までと同じように見え、聞こえるどの演奏。しかし見えないところで繋がりができていた今回の演奏は、今までと違う光に満ちていた。


 放課後、片付け。今まで通り、ヒカリからの誘いがあった。

「ねぇ、もしよかったらさ……もう一回、やってみない?」

 レイジはそれを迷わず引き受け、ギターを手にした。深呼吸して、弦を弾く。

 忘れていない。あのときと同じように自在に指が動く。簡単なことだったんだ。まだやりたい、ヒカリと一緒にステージに立ちたい。そう願うだけで、突然弾けなくなることはなくなるんだ。ヒカリは満面の笑みを浮かべる。これでもう、悲しむあまりこの日を繰り返そうと決断することはない。これでタイムリープを抜けられるという期待はあったが、それでもこの目で確かめるまで心を落ち着かせられなかった。


「どうしたの、レイジ。こんな時間に呼び出して……」

 レイジはヒカリとともに文化祭の打ち上げ、そして二次会に参加したが、そこで家には帰らなかった。終電を逃すことを覚悟で、ヒカリを連れて遠くの町へ向かいとある駅で降りた。

 駅を出てデパートに向かう。その入口には大時計がある。レイジはその時計の前に立ち、ヒカリと向かい合った。

「この時計、昔は人形が出てきたんだよね。レイジは知らない、よね。高校に上がるよりも前のことだし……懐かしいな、ミライたちと来たの。」

「頼みがある。ここで明日を……深夜0時を迎えるのを待ってほしい。」

 ヒカリの顔が赤くなる。思考回路が混雑して言いたいことがまとまらないが、ただ純粋にここで時が過ぎるのを待った。立っているだけ、それでも大きな幸せだった。


 ベルは鳴らない。デパートはとうに営業を終了しており真っ暗だ。雨で月は見えないが、街灯のおかげでかろうじて見える文字盤と針。長い物と短い物が、まっすぐ上を指した。そのタイミングで、レイジは大声を出した。

「ヒカリ! 俺は、お前のことが好きだ!」

 言い終えるとすぐに目を瞑った。沈黙が続く。もしまた土曜日が始まっていたら、自室に戻させている頃だろう。しかしそれは杞憂だった。確かにヒカリの声が、正面から聞こえてくる。

「私も、だよ……やっと、やっと……」

 感情が(たかぶ)り、ヒカリはレイジに向かって走り出す。レイジも一緒に駆け出し、二人は強く抱き合った。

「文化祭、楽しかったよ! 一緒にやってくれて、ありがとう!」

「俺もだ……もう、つらい思いはさせないから……」

 レイジはヒカリの命という温もりを感じながら、その喜びと安心に浸っていた。時間が過ぎるのも忘れ、二人はいつまでも一緒にいた。

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