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オートセーブは深夜0時に  作者: 夕凪の鐘
Episode15 オートセーブは深夜0時に
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79話 運命に抗う少年の物語の始まり

 スマホ、テレビ。どこを見ても、今は土曜日の深夜0時だ。信じられないがこれは事実。ならばこのことも憶測ではあるが事実である可能性は高いだろう。

 土曜日が終わった瞬間、つまり二十四時を迎えると再び始まり、つまり0時を迎える。決して次の日曜日を迎えることはなく、同じ土曜日の繰り返しが起こっている。そしてこのことに気づいているのは玲司(レイジ)以外誰もいない。レイジにとっては三度目の土曜日だが、会った人はすべて一度目の土曜日だと思い込んでいる。

 単純に記憶が消されているというわけではなさそうだ。朝を迎え家を出たレイジは、外はどこにも雨の降った形跡がないことに気づいた。そして彼の左腕にも、刺し傷は残っていない。昨日の、一つ前の土曜日の出来事はすべてなかったことにされているのだ。


 世間にとっては、昨日は金曜日。レイジの体もそうだ。彼の記憶だけが、昨日も一昨日も土曜日だったことを覚えている。

 そう考えると、レイジは希望が湧いてきた。そして教室に着くと、何事もなかったかのように耀(ヒカリ)が席で待っている。

「おはよう、レイジ……どうしたの? そんな所で固まって……」

 レイジは無言でヒカリの頭を撫でる。この感触、この香り。目の前にいる少女はヒカリそのものだった。

「良かった……」

 顔を赤らめるヒカリはレイジの言葉に疑問を持った。やはり彼女にも、昨日の……正確には今日の夜の記憶は残っていない。


 これではっきりした。世界は七月十四日の土曜日をいつまでも繰り返している。そのループに気づいているのはレイジただ一人だと。

 しかしまだ分からないことだらけだ。まず、このループの原因が何か。この近辺にあるのか、それとも遠い町で起こったことに巻き込まれているのかも見当がつかない。それだけこの島には多種多様の能力者がいるのだ。その原因さえ知ることができれば、このループから抜け出すことができるかもしれないとレイジは考えていた。 

 次になぜ、ヒカリに死の運命が待っているのかだ。最初の土曜日の夜、彼女は殺人犯に狙われて死んだ。二回目の土曜日の夜、車に轢かれて死んだ。彼女の命が、このループに関係があるのか。少なくともヒカリ自身、何も繋がりを知らない。ループを抜け出しても彼女が死んでしまったら、そこでもう取り返しがつかなくなる。ループが続くうちに彼女を救う。レイジはこの状況を、不運ではなくチャンスだと考えるようにした。


 未来の分岐点。そのうちの一つは今日のライブだ。これさえ行わなければ、今までのような悲しみを味わうことはなくなる。そのライブをなくすにはどうするか。決まっている。星香(セイカ)を野放しにすればいい。レイジは今までとは違い未来(ミライ)春菜(ハルナ)と手を組むことなく、セイカを止めに入ることはしなかった。他の人にはセイカを止める力はない。他校からやって来た能力者を捩じ伏せ、飽きればまた体育館に来てライブをめちゃくちゃに乱していくだろう。このまま午後三時を迎えれば、ヒカリの出番は中止になる。彼女の死を回避できるのなら、他がどうなっても構わない。彼女の悲しみを感じていながらも、レイジは自分の判断は間違ってなかったと自分に言い聞かせた。


 しかしその放課後、ヒカリは死亡した。教室の片付けの間、レイジが目を離した一瞬のときのことだった。一人体育館に向かったヒカリは、ステージに置かれた演奏で使う楽器を片っ端から破壊していった。

「お前、何をやっているんだ!」

 そこで後片付けをしていた他の生徒はヒカリを止めようと動き出すが、彼らは頭を押さえてその場に踞った。頭に響く電子音が、立っているのも困難なほどに彼らを苦しめている。


「あんた……何をやっているの……」

 セイカは教室の片付けをサボり、体育館に隠れて皆の視覚を操作し消していたその姿をヒカリの前に現した。彼女の目は怒りに燃えている。他人の所有物とはいえ、楽器を破壊したという行為に怒りを覚えていた。

 しかしこれはヒカリの想定通りだった。セイカの姿を誘きださせるために、楽器を破壊し続けていたのだ。

「あなたは……何の恨みがあるの!? なんで私たちの邪魔をしたの!? 能力って、そういうことに使うものじゃないって分からないの!?」

「楽器を……楽器を壊したの……」

 セイカは聞く耳持たず、ゆっくりとヒカリに迫る。その威圧感に一瞬怯えるも、姿を見せたその隙を逃さないよう堂々と構えていた。


 教室にいたレイジは、遠くから聞こえるヒカリの思いに気づき、体育館で何か起こっていると知ると一目散に向かっていった。

 脳へ響く電子音。どんなに耳を押さえても頭を振り回しても逃れられないその音にヒカリは苦しんでいる。

「やめろぉ!」

 レイジは体育館に突入した。セイカは舌打ちをすると彼にも聴覚を操ることで超音波を叩き込んだ。激しい痛みに襲われるが、ミライもハルナもいない今為す術はない。ヒカリを連れて逃げることしかできず、それだけでレイジの意識は飛びかけていた。


 その後セイカは姿を見せることはなかった。けれどもヒカリへの怒りが収まっていないのが感じ取れた。相手は歴代のS+ランクで最も高い能力者だ。どんな目に遭わされるか知れたものではない。レイジは常にヒカリの側につき、周りを常に警戒したが無駄だった。

 幻聴に苦しむヒカリは精神崩壊を起こし、次第に脳の機能は崩壊していった。これで三度目だ。レイジは彼女の亡骸を抱えあげ、そして自身の判断を嘆いた。自身の過失から目を背け、ヒカリの願いを奪ったうえでの変わらない最悪の結末は、彼の心に強く突き刺さった。


 レイジはその日の夜、島のあちこちを回った。家にいても仕方がない。じっとしていられなかった。どこにあるのかも分からない情報を集めるために、とにかく各地を歩き回った。ミライから何度も電話がかかってきたが、すべて無視をした。どうせ日付が変わる頃には一日がリセットされ、セーブ地点である深夜0時に戻ってしまうのだから、何を言われようが何と思われようが関係ないと考えた。


 島の北西部に向かい電車に乗っていたレイジは、下の方から何者かの強い意思を感じた。意識を集中させると、だんだんと遠ざかっていきながらもはっきりと聞こえてくる。

 その男は、時の支配者と言っていた。


 確証はない。けれどもこの奇妙な出来事と、想像できない能力を持った人で溢れるこの島ならば、繋がりがある可能性を信じる価値はある。レイジは次の駅で改札を抜け、その男の心の声を便りに走っていった。


 レイジは家の前に着くと、インターホンを鳴らす。出てきたのはさっきの男だ。名は三ノ輪(みのわ)時間(じかん)。彼も同じく高校一年生だ。

「誰だい、君は。」

「……(とき)の石。」

 ジカンの顔色が青く染まる。研究がバレたのかと内心焦りだしたが、レイジは彼の敵ではないことを伝えた。

「その石、俺にも探させてくれ。」

 ジカンは辺りをキョロキョロ見回し、こっそりとレイジを家に招き入れた。


 時の石。時間を操る力を持った不思議な石だ。今ジカンの部屋にあるのはその一欠片。これをもう一つ手に入れれば、過去に遡ったり未来へ進んだりできるという。土曜日のループのことは、彼も知らないようだ。レイジはそのことは伝えず、とにかく石探しに協力するということを必死に伝えた。


「調査によると、その石の効果が残っているのは日が変わるまでだ。つまり後四時間。それまでに見つけなければならない。」

 その石は誰かの体に触れてないときに限り、不規則な時間間隔と距離で瞬間移動を繰り返すことが分かっている。その移動パターンを分析し、持っている石と重ねることその力が発揮するという。レイジは今までの石の転移状況のデータを見た。確かに読めない動きを繰り返しているが、陸上にしか行かない、島の外からは出ないという法則があると読めた。

 ジカンの能力も、石の位置を感知することだけ。この二人では島のどこかにある石の欠片を後四時間で手に入れるのは不可能に近い。そこでレイジは、知り合いの能力者に助けを求めようと考えた。

「とりあえず、片っ端から頼んでみる。他にも協力を呼びかけないと。」

「駄目だ! 能力以外で時間遡行は許されない。見つかれば捕まって処刑だぞ!」

 ならなぜジカンはその石を探しているのか。口で聞くまでもない。父親の夢を継ぐためだ。前後の時間を自由に行き来できる石が発見された。その論文を書き上げている最中、命が絶たれてしまった。その書きかけの論文を発掘したジカンは自らその石を探し、父親が死ぬ前に戻りその存在が本物だったことを発表させる。父親に少しでも報われてほしいから、最後の懸けに出ているのだ。


「……だったら、暴れてやる。」

 時の石の力を求め騒ぎを起こしていることが広まれば、隠された石を見つけた者はそれを守ろうとするだろう。そこで石を強奪し持っている物と重ね合わせれば計画は成功だ。


 本来ならこんな計画、提案していいものでなければ関わっていいものでもない。けれどもレイジは、この作戦に懸けるしかなかった。時の石の力を手にすれば、タイムリープを抜けられるかもしれない。それがヒカリを救うことに結び付くかの確証はないが、できるだけのことはやる。それがレイジの決断だ。


「それで、具体的に何をするつもりなんだ?」

 家の玄関を出たところで、ジカンはレイジに問いかける。レイジは考えた。誰を利用し、何から始めるべきか。今まで知り合った同級生の能力者の特徴を思い出し、一つ一つパーツを作り上げていく。そしてそのパーツは一部繋がった。

「知り合いに暗殺者がいる。まずはそいつに嘘の情報を流し、他の連中にも広まらせる。」

 暗殺者というワードに若干引いているジカンをよそに、レイジは着信履歴から久遠(クオン)の番号を探し、公衆電話から発信した。

「これでよし。ここから去るぞ。」

「去るってどこに!? 何をするんだ?」

 クオンにまず、時の石とは言わずこの島のどこかにある青い結晶を狙いに行くと伝えた。そして仲間を総動員し、全力で止めに来いと挑発した。そうすれば彼女はヘキサフリートや四天格などに連絡し、誰かが石を見つけ次第その情報は共有してくるはずだ。もちろんネオ・ヘキサフリートの一員であるレイジにも伝わってくる可能性はあるし、そうでなくとも関係者に遭遇すれば心を読んで石のありかを突き止められる。後はそこへ行き、石を奪えばいいだけだ。


 狙い通り、多くの人で探せば石はすぐに見つかった。レイジはその連絡を受け、最速最短のルートで向かっていった。

「レイジ……あなたも来たのね。」

「ミライ、石を見つけたのは本当なんだな?」

 ミライは上からは見えないようにして、正面にいるレイジにその石を見せた。確かにジカンが持っていた石の色と一致する。間違いない。目的の石はあれだ。

 ミライはレイジの鼓動の変化に気づいた。緊張でテンポが高まっている。その手に持つ石を強く握り一歩下がるミライに、レイジははや歩き、そして猛ダッシュへと、徐々に加速して迫っていった。

「じゃあその石、寄越せ。」

 握った手を強引に()じ開け、石を抜き取ろうとするレイジ。能力による戦闘能力は皆無に等しいミライ一人など、レイジの敵ではなかった。石を奪うと、ジカンの待つ拠点へと駆け出していった。

 そんなレイジの前に、立ちはだかる者が現れた。

「……何しに来た。息吹(イブキ)。」

「こっちのセリフよ。」

 あらかじめレイジがミライの元へ向かうことは、Sランク以上の人には伝えていた。彼がいれば大丈夫だと思ったのか他に援軍は来ないと思っていたが、裏では……四天格のグループではイブキが向かうことを話し合っていたらしい。そして着いてみたらこの有り様だったというわけだ。

「来るなら言ってくれないと。俺を仲間外れにして話し合うなんて良くないぜ。」

「こっちはこっちで連絡が必要なのよ。で、何のつもり?」

 ミライ一人なら力づくで振りきれたが、イブキ相手では部が悪い。背中を見せた瞬間倒される。かといって欺くこともできない。ミライのいる前ではどんな嘘も通じない。まさに最悪の組み合わせだが、レイジは立ち止まっていられない。

「何のつもりかって……?」

 二人同時に相手はできない。ならまず、一人潰せばいい。

「あいつが時の石を狙うスパイだからだよ。」

 レイジは不敵な笑みを浮かべ、後ろにいるミライを指差した。


「嘘よ! 私じゃない。嘘を言っているのはあっち!」

「こいつはこの時の石を二つ集めて過去に戻ろうとしているんだ。もう一つの在りかも知っている。」

 イブキの眼光にミライは怯む。桁違いのスピードを出せる彼女は、たとえレイジが嘘をついていたとしても後で始末できる自信があった。だから今は、ミライへ矛先を向けている。

「なんでそこまで情報を知っているのよ! 本当はお前がスパイなんでしょ!?」

「お前が知っている情報を俺が知れないはずがないだろう。」

 イブキはレイジを素通りし、それでも進むのを止めない。完全に狙いはミライだ。明暗を分けたのは信用度の差だ。冷静なレイジと裏腹に、死への恐怖に動揺を隠せないミライ。第三者がどちらを疑うかなんてのは明白だった。

「嘘よ……やめてっ、やめ」

 イブキはミライの胸に手のひらを当てる。そして瞬時に手に力を込め、皮膚や骨、肉とあらゆる物質を無視して心臓に打撃を与えた。ミライは意識を失い、バタリと倒れた。

 死んだわけではない。一時的に呼吸が止まっただけだ。加減にもよるが、自力で目を覚ますには一時間はかかるらしい。もう一度浴びることですぐに心臓は動き出すが、激しい痛みが伴うことはレイジも身をもって知っている。

「レイジ! まだ時間かかるのか!」

 突然現れたジカンに、レイジは血の気が引いた。彼は首に時の石を提げている。関係者なのは一目瞭然。そして恐れた通り、イブキは一瞬で彼の元へ飛び移り顔を押さえて塀に叩きつけた。

「単刀直入に聞くわ。あなたの仲間はどっち。正直に言えば危害は加えないわ。」

 ジカンは体を震わせながら、ゆっくりと指をレイジに向ける。イブキは彼から手を離すと、今度はレイジに目を向けた。

「……そうだ。奴の仲間は俺だ。でも欲しいと思わないか? 過去に戻る力。これさえあればお前も二年前に」

「黙りなさい!」

 揺さぶりをかけたが逆効果だ。昔なじみとの決別の前に戻ってみてもいいというレイジの提案は、イブキの逆鱗に触れた。今ここでレイジを逃してしまえば、彼らに責められる。だから自分一人で挑み、すべて終わらせることでその力を証明する。そのためにイブキは、ここで彼の思い通りに動くまいと強く思っていた。


 イブキの右手がレイジに迫る。彼女の思い通りにはさせない。レイジは抵抗したが、次の瞬間彼は意識を失った。

 それはミライのような一時的のものではなかった。永久。彼は二度と、目を覚ますことはできなくなってしまった。


「あれっ? 死なせちゃった……」

 手応えに違和感があったイブキは倒れたばかりのレイジの胸に手を置き、再度ショックを与える。本来ならこれで目を覚ますか、そうでなくとも何かしらの反応が起こるはずだがレイジはまったく動かなかった。イブキはため息をつくと、後ろを振り返りジカンの元へ一瞬で迫った。

「仕方ないわね。危害は加えないって言ったけど、ちょっと寝てもらうわ。」

 本来はレイジを捕らえて話を聞くつもりだったが、永眠されてしまっては聞こうにも聞き出せない。そこでイブキは代わりにジカンを気絶させ、捕らえることにしたのだった。


 その後のことは、レイジの記憶に残っていない。目が覚めたときは午前四時。そして日付はやはり十四日の土曜日だった。

 けれどもレイジは道が見えた。時の石さえ集めれば、過去に戻ることができる。そうすればきっと、ヒカリを救ったうえでこのループから抜け出せる。レイジはノートのページを破き、昨日の……今日の夜に起こったことを書き記した。

 今度こそ、成功させてみせる。レイジは四度目の土曜日の朝を迎え、拳を強く握り高校へと向かっていった。

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