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オートセーブは深夜0時に  作者: 夕凪の鐘
Episode14 耀の文化祭
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75話 鼓動を聞いて心を聞いて

 小湊原(こみなとはら)高校の文化祭一日目は、信じられない結末を迎えた。リズムを乱して演奏やコールをめちゃくちゃにし、おびただしい量の血の幻覚を見せて生徒たちを混乱に陥れた。騒ぎを起こした張本人である高尾(たかお)星香(せいか)という少女は、それから一度も姿を見せなかった。職員総動員で捜索にあたるも手がかりは見つからず、生徒は各々の教室で待機、後に解散の指示が下された。


 彼女の情報は、瞬く間に広まった。今までの能力者とは一線を画する凶悪な能力は、すぐに十四哉(トシヤ)たちの耳にも入ってきた。ちょうど明日は土曜日にして文化祭二日目であり、一般の人も自由に校内に立ち入ることができる。またパニックが起こらないように、そしてセイカのことを突き止める絶好の機会だ。元々行くつもりがなかったトシヤも、仲間の後押しを得て朝早く家を出て小湊原高校へ向かうことにした。


 そして翌朝。玲司(レイジ)は昨日よりずっと早くに家を出て、生徒会室へ向かった。高校が違っても比較的近くに住んでいる能力者は、何人かすでに中で話をしている。

「おはようーす。」

 なるべく目立たないように、けれども誰かには気づいてもらえるような声量で挨拶し、空いている席に座った。

「じゃあ始めようかしら。」

 誰が来るとか決まっているわけではないが、レイジ一人が入ってきたのをきっかけに会議を始めようと号令をかけた息吹(イブキ)に思わず心の中でツッコミを入れてしまった。そんなに俺が大事な役なのかと。そんな戸惑いを見せるレイジをよそに、イブキはセイカの写真を黒板に強く貼り付けた。

「今日は文化祭の一般公開。昨日みたいな騒ぎを起こせば、この高校の評判が悪くなるわ。来年の文化祭……それどころか秋の全体祭にも出られないことになる可能性もある。」

 全体祭、正式名称‘全校一斉体育祭’。学年ごとにすべての中学校、高等学校が一地域に集まり、計三日間開かれる年に一度の特大イベントだ。過去にも能力関係なく学生として問題となる行動を起こし出場停止処分を受けた学校が存在する。この高校も、それはなんとしても避けたかった。


「なんとしてもセイカ(こいつ)の好き勝手にはさせないように、私たちに協力をしてほしいの!」

 イブキの言いたいことは皆に伝わっているが、具体的に何をすればいいのかとなってしまうとその先への話が進まない。分かっていることはセイカの能力によってリズムが乱されることと、そして彼女自身姿を消すことができることだけ。昨日出没したのは体育館のみで、騒ぎが起きたのも演奏の最中。つまり、今日の発表部会の演奏開始時刻に合わせ体育館を重点的に警備するのが現段階の最善策となる。要はせっかく客として来たのに遊ぶ時間はありませんということだ。


 それだけ話すと会議は終わり、収集をかけた張本人であるイブキは自分の教室へ準備に向かった。レイジも今日はカジノの当番の時間が多いのだが、戦えると思っていた他校の能力者たちはセイカへの警戒にあたって出し物は二の次だろうし、レイジ自身場合によっては仕事を放置して鎮圧に向かわざるを得なくなる可能性もある。

 どっちにしろ出し物へのモチベーションが下がったレイジは、やる気なさそうに自分の教室へと戻っていった。


 レイジが考え込んでいたのはカジノではなくライブの方だ。もし昨日のように片っ端から演奏を崩壊させていこうとしているのなら、午後三時から始まるヒカリとのライブも台無しにされるか始まる前に中止にされる可能性が高い。あれだけ練習を重ねてきたものが、こんないい加減な理由で無駄になるなんて許せない。

 できることなら昨日のうちにセイカの正体を突き止めその能力を封じておきたかった。しかしあまりにも他の能力者と次元の違う存在である彼女に投じられる策は思い浮かばず、結局何一つ情報は掴めなかった。自分の無力さ、そしてあまりにも高すぎる壁の出現に苛立ちが収まらないレイジは、何もかもがどうでもよくなってきた。せいぜい能力者たちが足掻(あが)きに足掻いて彼女に立ち向かい為す術なく打ちのめされていくことで、その強さに満足したセイカが暴れるのに飽きてくれることを期待するくらいしか考えなかった。


「いつまで下を向いているの!」

 廊下を歩くレイジの後方で、強く見据える未来(ミライ)が叫んだ。彼は一瞬足を止めた。周りの生徒は何事かと目線を向けてくるが、彼は気にも留めなかった。ミライには顔を向けることも、言い返すこともしなかった。

「あなただけよ! すでに諦めているのは!」

 隣の高校から駆けつけてきた、鼓動が聞こえるミライには、イブキや大薔薇(おおばら)高校のSランクである久遠(クオン)藍子(アイコ)やその他集まった能力者が皆抱えている緊迫感と焦りが伝わってきていた。そのなかでレイジただ一人からはそういったものが感じられなかった。確実な対抗策を持っている余裕でも安心感でもない。ただ無関心、そして無気力。彼女にはそう感じ取れていた。


「いい? あなたは耀(ヒカリ)を、そして自分をも裏切ろうとしてるのよ。もう一度よく考えなさい!」

「っ、だったら!」

 レイジは拳を握り、教室の壁を強く殴る。抑えきれない感情が、八つ当たりとして表に出てしまった。その大きな音で彼は我に返ったが、言ってしまったことは取り消せない。震える声で、続きの言葉を洩らした。

「……言ってくれよ。俺の力が必要だって……」

 意気消沈していたのは自信を失っていたからか。レイジの内心を見抜いたミライは、さっきまでの強気で怒りをぶつける口調ではなく穏やかな口調に変えて言った。

「みんなが頼りにしてるわよ。私は違うけどね。」

 イブキでさえ敵わなかった相手だ。だがそれがなんだ。時間はまだある。セイカを止める方法を考え実行するだけの時間は残されている。

 そしてレイジは周りの声を聞いた。自分を頼りにしている仲間の心の声。Sランク集団‘ヘキサフリート’を打ち負かした最強のSランクである自分を頼ってくれる心の声が聞こえてくる。

 そうだ。自分が諦めてどうする。むしろあんな化け物のような相手に勝利してこそ、さらなる実力の証明になる。レイジは頭をフル回転させ、対応策を考え始めた。


 数秒後、レイジは後ろを振り返りミライの顔を見て言った。

「力を貸してくれ、ミライ。今日一日、ともに行動しよう。」

 思いもせぬ頼まれ事に、ミライは言葉を失った。彼と同じSランクとはいえ現状十人のなかでは最弱、これから他の高ランクの知り合いが来ると思われるのに真っ先に自分を頼りにしてきたのが、彼女には信じられない出来事だった。


 

 時刻は午前九時二十分。文化祭が始まって少し経ったところだ。校門には一人の男子高校生と二人の女子高生がいた。四天格(してんかく)最強の(キヨシ)だとその付き添いだ。

「ここ、だね……例の現象は……」

「本気で戦うんですかキヨシ様? キヨシ様より強いなんて根も葉もない噂が広まってますけど。」

 付き添いの一人、冬華(トウカ)はその噂を微塵も信じていなかった。キヨシより格上の能力者が現れるなんてあり得ない。そう盲信するほどに、彼の強さを認めているからだ。

「イブキが負けたっていうしね……かなりヤバいと思う、よ……」

 姿が見えず、どこから何をしてくるのかさえも読めない相手に、キヨシは周りを強く警戒しながら高校の敷地内へ足を入れた。

 次の瞬間、彼らの目の前に突然セイカが現れた。


「ようこそ。あなたが大手町(おおてまち)(きよし)さんですね。」

 誰だとかなど聞くまでもない。写真で見た通り、高尾星香本人だ。キヨシはすぐさま臨戦体勢に入るが、周りは誰もこちらを気に留めていなかった。トウカももう一人の付き添いの春菜(ハルナ)も、気づかずどんどん先へと進んでしまう。キヨシは呼び止めようとしたがその瞬間、彼の視界から二人が消えた。

「……ふーん、これが噂に聞いた、視聴覚のコントロール……」

「二人を助けてほしければ、降参してねえ。見たいなあ。元最強の降伏する姿。」

 端から見れば、トウカとハルナは消えても危害を加えられてもいないのだろう。あくまでこれは見せかけ。そうと気づかず、あるいは気づいたうえで何一つ抵抗せずに負けを認めさせることで、周囲の目に晒すというのが狙いといったところか。

「その程度で怖じ気づくほど、僕は未熟じゃない、よ……」

「じゃーあー、見捨てるってことでいいのねえ。」

 突如女性の悲鳴が聞こえる。本当にトウカたちに手を出したのか、それとも聴覚を操り脳に吹き込んでいるのか。どこまでがセイカの狙いかは分からないが、いずれにしてもこのまま待っていては駄目だ。

 幻覚を見せられているということは、セイカはキヨシが見える位置にいる。しかし範囲が広すぎる。今いる場所は文化祭の会場の入口。不用意に動けば生徒や他の客を巻き込む可能性がある。

 キヨシはできれば避けたいと思っていたが、無差別に人を巻き込むという手段を取っているのは相手も同じだと思い、袖に付いたリボンを伸ばして振り回した。


「今から僕は、このリボンで手当たり次第に生気を奪っていくから……友達に当たったら、ごめん、ね。」

 キヨシは言い終えると同時に高速でリボンを振り回す。触れた者から生気を奪う能力‘絶対霊感(オカルト)’を持つキヨシ。その効果は四肢だけでなく袖に付けたリボンにも有効で、これに触れるだけで動物の生気をみるみると奪っていく。

 大事になれば、セイカも幻覚を見せるのもやめるはずだ。どちらが先に手を止めるか、負けを認めるかの対決というわけだ。


 何も見えない。音も聞こえない。残っているのはリボンの感触。建物か人かは判断できないが、次々と何かに当たっているという感覚は伝わってくる。これならセイカには当たらなくとも間違いなく辺りはパニックになっているだろう。

「危なっ!」

 危機一髪でリボンを避けたセイカの声とともに、キヨシの視界が元通りになった。

「そこだね。」

 転んで立ち上がれないでいるセイカめがけて、キヨシは両袖に付いた一対のリボンを真っ直ぐに伸ばした。


「待って、キヨシ様!」

 今まさにセイカの体にリボンが当たるところだったが、彼女の前に庇うように駆けつけたトウカが代わりにリボンに巻き付かれた。

 黒い霧のようなものがトウカの体を包み、静かに地面に倒れ込んだ。

「トウカ!? どうして……」

 慌てて駆けつけるも、トウカは一切返事をしない。できない。


「まったく……心臓に悪いわあ。」

 キヨシははっとして声のした方、さっきまでセイカがいた所に目を移すが、彼女の姿はどこにもない。

 次の瞬間、キヨシの頭にとてつもなく高く大きい電子音が鳴り響いた。

「いたっつ、痛いぃ!」

「こ・う・さ・ん、はあ!?」

 頭を抱えて地面に崩れながら、キヨシは精一杯の出せる声で降参と発した。それを聞いたセイカはようやく満足したのか聴覚を元に戻した。

「ったく、すごい疲れたわ! 後のことは知らない。あんたのやったことでしょ!」

 そう言い残し、皆の視覚を操り姿を見えなくさせたまま校門から去って言った。キヨシは深追いせず、意識を失ったトウカの心配をした。近くにいたハルナも視界が戻り二人に気づいたが何が起こったのかは理解できていなかった。

「どうして……トウカはどうして、あの子を庇ったんだろ……」

 心当たりのないハルナには、キヨシの言葉の意味が分からなかった。とにかく今は、一刻も早くトウカの手当てをしなければならないので、一連の出来事については深く掘り返さなかった。

「どうしよ……病院? 救急車呼ぶ?」

大事(おおごと)には、したくない。昌太(マサタ)がもうすぐ来るから、保健室……」

 幼なじみのマサタさえ来れば、症状を治す食品を能力で作ってくれるのだが、それを待っている間ここに残るのは危険だと思ったキヨシはトウカを抱え校舎内へ向かった。


「すみません! 少しの間、この子を休ませてください!」

 勢いよくドアを開け、ハルナ、続いてトウカを抱えたキヨシが保健室へ入ってきた。

「ようやく来たか。一室空けてあるから、ここを使え。」

 室内ではレイジとミライが待機していた。二人はキヨシたちが校門に到着したのに気づき、想定される結果の一つとして保健室のベッドを一台確保していたのだった。

「ありがとうございます。って、この前の変な人!?」

「変な人はないだろ! せめて噛ませ犬って言え。」

 それもどうかと、そしていつ会ったのかと、言いたいことはいくつもあったがどうせレイジのことだししょうもないことだろうと考えミライは何も聞かなかった。


 室内には看護兼護衛のキヨシを残し、三人は保健室を出て廊下に立っていた。

「トウカ……もしかして、さっきの子の仲間だったのかな……」

「それはないぜ。あいつの能力で、自分の姿をキヨシに見えるようにしていたんだ。だから、セイカを庇ったわけじゃない。」

 リボンの無差別襲撃によって追い詰められたセイカの咄嗟の策。その事実を伝えると、ハルナは怒りが込み上げてきた。

「トウカの気持ちを利用して……私、許せない。」

 レイジは握りこぶしを作るハルナの顔をじっと見つめる。彼女の能力なら、セイカの弱点を突けるかもしれない。レイジはさらに考え、一つの策を思いついた。


「頼む、ハルナ。俺たちと」

「私、トウカの(かたき)をとる。何かできることはない!?」

 聞く前に言われてしまった。レイジはミライと目を合わせると、ハルナの気持ちを受け止め改めて頼み込んだ。

「もちろんあるさ。だから、俺たちと手を組んでくれ。」

 ヘキサフリートや四天格。実力と経験のある彼らも(つど)い始めた裏で、即席グループを結成したレイジたち。さあ、ここからが本当の戦いだ。

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