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オートセーブは深夜0時に  作者: 夕凪の鐘
Episode14 耀の文化祭
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74話 崩された牙城

『もしもし耀(ヒカリ)? それともまた玲司(レイジ)かしら?』

 再び未来(ミライ)から電話がかかってきた。応答に出たのはヒカリだ。むしろ彼女のスマホにかかってきた電話に他人が真っ先に出ることを疑っているのもおかしな話だが。

『私だよ、ミライ。ごめんね、さっきは……』

 ヒカリが謝ることでもないが、ろくに事情を伝えず突然電話を切ったことはミライに謝っていた。どうせ彼女には今自分がヒカリの側にいることは知られてしまっているので、レイジはスマホ越しに彼女の耳元で言葉を発した。

『いや、悪いのは俺だ。心配させちまってすまない。』

 いきなり耳元で話されたので思わずヒカリはひゃっと甲高い声を洩らしてしまった。ミライは状況を察したのか無言だ。


 ミライの能力は動物の心臓の音を聞くことができるというもの。その用途は非常に多彩で、あらゆる生物の心臓の位置の把握、一度聞いたことのある生物の鼓動であればそこに誰がいるのかさえも知ることができる。さらに心拍数の速さを計測することによって感情や活動状態を把握することができる。冷静か興奮状態か、眠っているか起きているかなどと、心臓ペースメーカーを取り付けれてているかのようにすべて見透かされてしまうのだ。

 彼女の能力は同じSランクのなかでは特に戦闘に不向きである代わりに、索敵において非常に有用なものである。能力そのものはもっと低いランクに当たるのだが、聞こえた鼓動で瞬時にその者の心理面を分析する力も備えているからこそ、彼女はSランクの一角となり得たのだ。


 これが何を表すのかというと、十キロメートルは離れている場所からヒカリの鼓動の変化を感知し、彼女の現在地、そして周りにいる生物の様子から彼女の置かれている状況を瞬時に判断することができるということだ。つまり最初にミライがヒカリへ電話をかけた時点で、彼女の鼓動は動揺によって急激に速まり、その近くにいるのはレイジただ一人ということが知られてしまっていたことになる。

 ちなみに以前にも似たようなことがありミライから電話がかかってきた。図書室へ本を運んでいる最中階段から落ちそうになったヒカリを助けるために強く手を引いたところ、レイジは彼女を抱きしめるように引き寄せてしまったのだ。おかげでヒカリの鼓動は急加速し、その異常な変化にミライは焦って電話をかけてきたのだ。放課後であったためそのときは刹那(セツナ)もいてややこしいことになったが、ヒカリの口から原因を話したことで落ち着いたのだった。


 さて、本題に戻すと今はミライの高校で十分間の休み時間になり、自由に電話できるようになった彼女が再びヒカリへかけてきたところなのだが、問題は事情の説明だ。

『あなたたち、今日から文化祭よね。突然二人で人混みを駆け抜けて人のいない場所へ向かったってところかしら?』

 レイジは相手の心が読めるとはいえ、電話越しでは十キロメートルも離れた相手には効果がない。けれどもそこまで状況を把握されているミライに不用意に嘘はつけないと思い、仕方なく頷いて返事をした。


『……告白の結果はどうだったのかしら? ヒカリ。』

 まあその後のヒカリの鼓動の変化が分かっているならそういう状況だったと予想が立ってしまうのは仕方のないことだが、ここまで直球に突かれると二人とも困惑してしまう。

『へぇっ!? 告白って、何言ってるのミライ! そんなのまだしてないし、してもらってもいない……って、えええ!?』

『でしょうね。もしそうなら今のあなたたちがこんなに落ち着いているはずがないもの。』

 やはり見抜かれている。実際ヒカリは今から告白でもされるのかと緊張していたし、結局右目を見せただけで何事もなく終わったので少し落ち着いていたというのも事実だ。しかし心の奥ではレイジに愛の告白をしたい、逆にされたいと密かに抱え込んでいることを思わず漏らしてしまったヒカリは、パニックで鼓動が速まっていた。


『それで、レイジ。あなたは何のためにヒカリを連れ込んだのかしら?』

 声は聞こえているが、レイジは知らないふりをして階段の隅に隠れた。こんなことでミライから逃れることができるわけではないが、声を聞くこと自体が堪えきれないほどに怖いのでせめて聞くまいとヒカリのスマホから耳を遠ざけた。


 レイジは今まで嘘をつきたい放題だった。相手の心を読み、疑いが晴れるのを確認するまで騙り通すことができた。人の心が読めることを利用し、誰かに容疑を(なす)り付けることさえ平気でできた。

 しかしミライには一切通じない。鼓動が聞こえる相手に自覚を持って嘘をついてバレないはずがない。レイジにとって未知のタイプであり、完全に不利な相手だ。


『……黙っているなら話してしまうわよ。ヒカリに、あなたの真実を……』

『もしもし、悪い、俺も電話してた。』

 何のことだか分からないが、何であっても危険だと直感したレイジはすぐさまヒカリのスマホを手に取り自分の耳に当てて返答に出た。レイジの返答、電話していたというのが嘘であることは彼女に気づかれているはずなのだが、そのことについては何も触れてこなかった。

『実は私、聞いてしまったのよ。あなたの能力のこと。人の心が読めるってことをね。』

 レイジは体が凍りついた。いつ誰から聞いたのか即座に問い詰めると、先週のミライたちの高校の文化祭で、客として来た十四哉(トシヤ)香李(コスモ)と話をしているのを偶然聞いてしまったとのことだった。

『お、おい……そのことは……』

『安心して。これを聞いたのは私だけ。そして私も誰にも話していないわ。』

 少なくともヒカリには知られてないことは分かっていたが、噂なんてものは一瞬で広がっていくのでレイジは気が気でならなかった。

 トシヤのような鎖を生み出す能力やコスモのように音波で破壊する能力と違って、目に見える形で能力を示すことができないレイジの能力は真偽も限度も不明瞭な影響で噂がどこまでも肥大化してしまう。そのため打ち明けるのは気の許した相手のみで、下手に真相を知られたくはなかった。

 今回は偶然とはいえミライに知られてしまった。彼女の言ったことが事実であることを祈り、そして念を押して彼女には黙っていてもらおうと頼み込んだ。


『本当だな。もし他の奴に教えたら……』

『おかしいと思っていたのよ……私に対してやけに警戒してるし、でも納得したわ。人の心が読めるのなら、私の能力にも気づいていたんでしょう。』

 ミライの能力もまた、他人の目に見えるものでも効果を受けていることを感じ取れるものでもない。初めて会った日からミライがレイジに感じていた違和感。その原因は彼の能力によって自分の能力が見抜かれていたゆえの言動を起こしていたことだ。そのことに気づいたミライはこのことを黙っていられず、レイジ本人に打ち明けたのだった。


『……なあ、このことは直接会って話さないか? こっちも今のお前の心が聞こえないんじゃやりずらいんだよ。』

『そうね。じゃあ私はもう話は済んだし、そろそろヒカリに返してあげなさい。』

 レイジは電話を切るとヒカリに返した。決して話は片付いたのではない。非常に面倒な話を後回しにしてしまったのに過ぎない。

「何の話をしてたの、レイジ?」

「後でミライに聞いてくれ。あいつが話さなければ、俺も話しちゃいけないことだから。」

 ヒカリは気になってはいたがそれ以上に悩んでいることがあった。

『告白の結果はどうだったのかしら?』

 ミライの言葉が彼女の脳裏によぎる。そしてそれに対する自分の返答。レイジへの好意を抑えきれず叫んでしまったその言葉は、彼にもしっかり聞こえてしまっていた。


 もう後には引き返せない。隠しても無意味なら、いっそのこと打ち明けたい。覚悟ができているわけではないが、かといってこれ以上黙っているのも堪えきれなかったヒカリは、両目を強く瞑って叫んだ。

「あ、あのね! レイジ!」

「しっ! 静かに……」

 あまりにも予想外の返答にはっと目を開けたヒカリの前にはすでにレイジはおらず、半分ほど階段を下った先に移動していた。

「何か様子が変だ……体育館の方が騒がしくなってきてる。」

 ヒカリには何も感じられなかった。違和感を感じたのは、そこにいる人の心の声によるものだった。強い感情であれば、多少距離が離れていてもレイジには聞こえてくる。それも大勢の声だ。具体的なことは分からない。それはレイジが悪いのではなく、現地にいる生徒でさえ状況が飲み込めていないためだ。

 ならば行って確かめる他はないと思い、階段を駆け下りた。置いてきぼりを食らったヒカリも、少し遅れてレイジを追いかける。


 レイジとヒカリは体育館に到着した。午前九時半、ステージの上では軽音楽部の演奏会が行われている時間のはずだった。発表は十時半まで行われる予定と聞いていたのだが、観客はほとんどいない。ステージにいる部員も演奏を中止している。

「また失敗かよ。」

「緊張にしても酷すぎるぜ。なんて耳障りな音なんだ。」

 イライラして出口から出ていく観客もいれば、野次を飛ばす観客もいる。どうやら演奏が乱れに乱れ、めちゃくちゃな発表が続いているそうだ。一曲目は何事もなく成功させたものの、二曲目の終盤に突然一人のベースが乱れ、三曲目はさらにギターが全員バラバラになり、それから一曲も成功させられなかったらしい。


「よ、よしみんな、次こそは成功させよう。それでは次の一曲、集まってくれたみんなもコールを入れてくれ! 行くぞぉ! おーっ!」

 前奏とともに曲に合わせた手拍子が鳴る。一人、また一人と観客の手拍子が増え、一糸乱れぬ綺麗な演奏が出来上がった。

「す、すごい迫力……私たちも、明日はあそこに……」

 迫力に圧倒されヒカリも思わず手拍子を始める。しかしレイジは何も感じなかった。今まで聞こえた心の声が本当なら、ここから何かが起こるのだと直感し周りへの警戒に集中していたためだ。


(ピッポッポッポッ……)

 レイジの頭に奇妙な電子音が鳴り響いた。ヒカリにも同じ音が聞こえているのかと気にしたが、ライブに夢中で耳に届いていないのか、本当に聞こえていないのか判断できない。

 電子音が聞こえてきたその直後、手拍子のテンポが崩れた。一人、また一人とリズムが乱れ、さらに掛け声まで乱れていく。


 結果、演奏を続けるのは困難なほどに何もかもが狂い始め、またしても曲の途中で打ち切りとなった。ステージ上で演奏していた部員たちは、不気味な電子音が聞こえてきていること以外に何が起こっているのか分からず、そんな困惑をよそにヘタクソだの耳障りだの罵倒してくる生徒たちにプライドを傷つけられ、強く落ち込んでいた。


(あっはははは。本当に凄い能力ねえ。いくらやっても飽きないわあ。)

 観客席のどこかから聞こえる不思議な心の声。声の主が誰かは知らないが、彼女がこの騒ぎを起こしている元凶と見て間違いないだろう。そう判断したレイジは声を元に彼女の居場所へ向かう。

 見つけた。レイジは肩に手を乗せ、耳元に口を近づけて話しかける。ただでさえ少人数ではあるものの騒がしくなっているこの状況で話をするには多少大声を出すかこうやって口を近づけるしかない。

「お前だろ、お前の仕業なんだろ。」

「だ、誰!? いきなり何!?」

「あれっ? わ、悪い、何でもない……」

 おかしい。レイジが話しかけた女子からは確かにさっきの愉悦に浸る心の声が聞こえた。けれども今の反応からしてさっきの声には心辺りがなく、騒ぎのことも何も知らないようだった。


(誰か知らないけど、私の場所分かったんだー。でも残念。それは私じゃないのよ。)

 またあの声が聞こえてくる。しかもさっきとは別の場所から。そしてそこにいる女子も別人だ。さっきと同じように、他人の体内から自身の心の声を聞こえるようにしている。本体の場所は分からないままだ。


 レイジは考えた。おそらく心の声は反響させているため、他人の中から発しているように見せかけることができる。加えてあらゆる音のテンポを乱す電子音。音に関する能力を持っている可能性が高いと思われる。

 被害に遭っているのは体育館内にいる人だけ。そしてレイジの動向も知られている。この二点から考えられることがある。能力を使用している彼女自身が、この体育館のどこかにいることだ。

 レイジはステージに飛び乗った。そしてマイクをぶん取ると、体育館全体に聞こえるように叫んだ。

「俺たちの頭の中に電子音を流したのは誰だ! 出てこいよ!」

 ギクッとしている人はいない。全員の顔がはっきりと顔が見えるわけではないが、少なくとも今の言葉だけでは誰が犯人なのかを特定することはできなかった。


「そこまでよ!」

 扉を開けて飛び込んできたのは我らが誇り高き生徒会長息吹(イブキ)だ。

「話は聞いたわ。一年F組高尾(たかお)星香(せいか)! 今すぐ姿を現しなさい!」

 体育館の騒ぎを聞いて駆けつけてきたイブキは、通りかかった人たちに次々とすがられてきた。騒ぎを起こした人に心当たりがあるか聞き込んだところ、今日から突然姿を消せるようになった生徒が現れたという情報を耳にした。

 誰の目にも映らない。けれども声は聞こえてくる。そんな未知の能力が目覚めたセイカは朝から透明人間のまま過ごしているとのことだった。

 姿が見えない彼女は今も行方が掴めていない。そこへこの体育館での騒ぎだ。一番怪しいのは彼女で間違いないと確信したイブキは自ら彼女を鎮めにやって来た。


「やってみなよ、S+ランクの辰巳(たつみ)息吹。」

 どこからか聞こえるセイカの声に、体育館中の全生徒が辺りをキョロキョロと見回す。そして突如、彼女は姿を現した。

「証明してあげるわ。四天格(あなた)との格の違いってやつをね!」


 決着は一瞬だった。そこに現れたセイカめがけて必殺の真空掌、言うなれば痛い心臓マッサージを浴びせに駆け出したが、その右手は空を切った。現れたセイカの姿は、イブキに見せた幻覚だったのだ。

 続けざまにセイカはイブキの視覚を奪った。彼女の視界は真っ暗になり、人の声だけが聞こえる。

「抵抗してもいいけど……下手に動いたら野次馬に当たっちゃうよお。それでも戦う? 生徒会長さあん。」

「……っ、私の、負けよ……」

 イブキが降参した瞬間彼女の視覚は元に戻った。しかし目の前には、セイカの顔が映っていた。あまりの近さ、そして得体の知れない相手への恐怖に思わずイブキは腰を抜かしてしまった。その姿を見て、セイカは優越感に浸り高笑いする。

「あっはははは! これがS+ランクの実力? まるで相手にならないじゃない。あの評価は本物だったのね!」

 今朝昇降口にある能力測定器でランキングを見たセイカは、S+ランクの頂点、(キヨシ)を越えて首位に立っていたことに驚愕していたが、この瞬間それが事実であったと確信を得ていた。今まで四人のS+ランクを遥かに凌ぐ五人目のS+ランクの高校一年生となったセイカ。突如目覚めた恐るべき能力の強さに自惚(うぬぼ)れ、文化祭の演奏会を実験台として利用しイブキにも勝利をしてますます機嫌を良くしていた。


「くそっ、てめえのせいで、俺たちの発表が台無しだ! こんな物!」

 ステージ上にいた軽音楽部のリーダーの生徒が、自分のベースのネックの部分を持つとおもいっきり床に叩きつけた。溜まりに溜まったイライラが収まらず、自らの貯金で買った楽器をへし折ってしまったのだ。


「楽器を……壊した……」

 一部始終を見ていた本物のセイカがその姿を現した。目のハイライトは消え、濁った瞳が無惨に飛び散った破片を捉えている。

「コロス……」

 楽器をへし折った男子生徒の脳に爆音を響かせた。音でない音。幻聴に(うな)される彼はふらふらと頭を振り回し、その勢いで歩きだすとステージから転落し、頭から血が飛び散った。それは幻覚となり、周りにいた人の目には体育館中に血飛沫が上がったおぞましい景色が映っていた。生徒たちは大混乱。イブキでさえも、冷静さを失い幻聴幻覚に頭を痛め付けられる。これが幻だと気づいているレイジただ一人は意識を保てていたが、それで誰かを救うなんてことはできなかった。


 突然現れた一人の能力者。たった一人の暴走によって、年に一度の行事である文化祭の一日目は、あまりの騒動に打ち切りという結末で幕を閉じた。

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