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オートセーブは深夜0時に  作者: 夕凪の鐘
Episode13 炎の文化祭
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70話 呪われた右目

「ホントに怖かったんだから!」

「ひどすぎない!?」

「悪かったって。好きな物食べていいからさ。」

 結局あれから体の震えが治まらず立てなくなった耀(ヒカリ)千迅(チハヤ)春桜(サクラ)に連れられ入口から出ていった。二人が落ち着くまではサクラが側についた関係で、彼女が抜けた場所を補うべく代理人そして責任者として玲司(レイジ)が急遽お化け役として十一時まで入っていた。

 その効果は絶大だったようで、客が入る度に入口入ってすぐに待ち構える赤い右目のお化けにとてつもなく大きな悲鳴を上げるほどだった。

 レイジがやっていることはぼそぼそと呟いて髪を振り回し、隠れている右目を覗かせるだけだったので外からは何が起こっているのかは分からない。何で起こっていることを各々想像しているが、想像を遥かに越えるその恐怖にお化け屋敷の噂はどんどん広まり、客が次々と押し寄せてきた。


 サクラのクラスメイトには収益のためにもっとシフトに入ってくれないかと頼まれたが、そもそも部外者であるレイジは逃げるようにして断ってきた。

 やったことは単純なので、驚かすための首の動かし方などのコツを教えて、十一時になった途端にその場を後にした。

 そしてレイジは天羽(アゲハ)のクラスで開いている喫茶店へ向かい、サクラと入れ替わる形でヒカリたちと合流したのだった。席に着くなり言われたのが、先の言葉である。


「まったく……後、すぐお金で解決しようってのが良くない所だよね。」

 チハヤの言うことももっともだが、注文してから言ってくるのだからあまり説得力がない。お金以外の誠意を求めているのはそうなのだが、かといって奢ってもらう機会を逃したくもないらしい。


 ヒカリはさっきからレイジの顔をチラチラと見ては、目が合うとすぐに逸らしてくる。彼の右目が気になって仕方がないのだ。レイジは右目を覆う前髪に手を触れて掻こうとするとヒカリは目をぎゅっと瞑って見ないようにする。見たいけど見たくないという相反する感情がせめぎ合っているがゆえの動きだった。

「あれはメイクだから、ただ顔に張り付けただけだから。」

 証拠を見せようとすると目を背けてくるので、言葉だけで説得させるしかない。現にレイジはその右目をこの島に来てからは誰にも見せたことがない。

「そ、そうだよね。赤い目ってなんか気持ち悪いよね。」

「そ、そっか……俺はかっこいいと思うんだけどな……」

 能力を使えば右目は赤く染まるので、あのメイクのような歪んだ顔にはならないが本来の姿も拒絶された気がして、レイジは暗い気分になった。


「お待たせ致しました。ご注文のコーヒーです。」

 頼んだコーヒーを、グラスが一つだけ多いが、運んできたのはメイド姿のアゲハだった。以前会ったときに見た衣装にひけをとらないほどに可愛らしく、そして美しい。

 彼女の姿を見るためにやって来ている客も多く、中にはオーダーを直接取りに来てくれるまで一品ずつ注文を続ける人もいる。

「じゃあアタシ、休憩入りまーす。」

 そう言うと衣装を着替えずに空いていた席に着くと、四つあるグラスの一つを手に取りグビグビと飲んだ。


「なんで相席なんだ?」

 レイジは意図を分かっていたが、ヒカリやチハヤも疑問に思ったので一足先にレイジが尋ねた。

 一般的な教室の机を、高さが同じ物で二つ揃えて一つのテーブルを作ってあるが、用意されていた椅子は三つだ。案内待ちの客を座らせるために廊下に椅子を並べたため、四辺の内一ヶ所だけ椅子がないのはどこのテーブルも一緒だ。

 すでに三人座っているのでレイジたちのいたテーブルには空いている椅子はなかったのだが、アゲハはわざわざ隣のテーブルから椅子を引っ張って持ってきていた。元々客が一人で座っていたので、言ってしまえば使わない椅子ではあった。


「話があるからよ。カリンのことで……今見たでしょ。」

「見ようとは……したけど……」

 アゲハは足を組んでスマホを取り出した。そのときエプロンドレスの(すそ)が捲り上がりちらっと下着が見えそうだったので思わずレイジが一瞬下を見てしまった。結果的には見えなかったが目線が行ったことはアゲハには気づかれていた。レイジは目を泳がせながら答えたが、ダウトだ。そしてアゲハはギリギリ見えないようにやったことだそうだ。手のひらの上で踊らされているようで悔しくなる。

 そして他の客からは反感を買っている。アゲハと相席、加えてメイド服のまま隣にいるので心の中から怒りをぶつけられているのだ。


 ヒカリとチハヤの機嫌がさらに悪くなる。レイジは急いで話を戻した。

「分かっているよ。見に行けばいいんだろ?」

 カリンたちの演技が行われる場所の案内図はすでに彼女から送られているが、アゲハからも今送られてきた。送るためには友達コードを入力しなければならないので、まずはお互いにスマホを持ってIDを打ち込んだ。ここで案内図は要らないと拒否してしまうと連絡先を入手できない。むしろ入手するために地図を受け取ったと言っても過言ではない。


「あっ、私そろそろ戻らなきゃ。」

 時刻は十二時五分前。ちょうど飲み終えてきりが良いのでヒカリは刹那(セツナ)たちの高校の文化祭を見に行くために駅へ向かうことにした。レイジは彼女を駅まで連れていくために、一度席を離れた。

 残されたチハヤは百花(モモカ)に電話をかけた。三時から始まる華燐(カリン)たちのライブは予定通り見に行くとのことなので、一時からは合流するという話になった。

 モモカ、そして(ハルカ)と合流することになったのだった。


「送ってくれてありがとね、レイジ。」

「ああ……悪かったな、せっかく誘ってくれたのに。」

 一歩先にチハヤからこっちに誘われたという理由でヒカリがこれから行くいすみ(さき)高校の文化祭にまったく行けないというのはレイジには心残りだった。

 けれどもヒカリ自身は、午前中だけでも一緒に回れたことが嬉しかったようでそこまで気にしていなかった。そして何より、本番は来週の二日間に控える自分たちの文化祭だ。


「来週は一緒に回るからね。約束。」

 そう言ってヒカリは改札を通った。定期券の範囲外なので、もう引き返すことはできない。彼女はまだ言い残したことがあるのはレイジには分かっているので、レイジは高校へ引き返さずにそれを言うのを待っているのが彼女に伝わるように黙って改札の前に立っていた。


 ふと振り向くと改札を抜けてもそこに残っているレイジに気づいたヒカリは、決心して口を開いた。

「来週のライブ、絶対に成功させようね!」

「ああ、会場をあっと言わせてやろうぜ。」

 今日が最後なのではない。明日だって明後日だって、まだ一週間練習する時間がある。今はまだ気合いを入れる言葉の掛け合いのときではないと思い、二人は手を交わすこともそれ以降言葉を交わすこともせず、互いに背を向けてそれぞれの行き先へと足を進めていった。


「お待たせ……って来てたのか、モモカ。」

「お久しぶりね。じゃあそろそろ。」

 モモカはハルカにメッセージを送った。レイジが戻ってきたのを確認してから彼女に来るよう伝えようとしていたようだ。

「そろそろ話をするときのようね……カリンとハルのこと。」

 モモカとハルカは小学校からの仲。ゆえに彼女のことをハルというあだ名で呼んでいる。というのもハルカ自身かつて一人称がハルであったために、モモカそしてカリンもそう呼んでいたのだ。そのハルカがここに来るまでの間に、モモカはレイジに打ち明けた。


 三年前の、つらい出来事を……


「あれは中学校一年生のときの秋頃の話ね。」

 カリン、モモカ、そしてハルカは同じ小学校に通っていた。彼女たちは大の仲良しだったが、六年生になってからは同級生に比べて背が高くなり、当時気の弱いカリンはしょっちゅうクラスの男子に意地悪な目に遭わされていた。

 そんなカリンをいつも守っていたのがハルカだった。

 教室、公園、通学路。どこにいてもすぐに駆けつけ男子たちをやっつけていくハルカの姿はカリンにとってとても頼もしいもので、今度はハルカが意地悪の対象になってしまったものの束になろうと力では彼女一人に敵わず、ハルカ、そしてカリンに手を出す人はいなくなった。


 中学校に進学し、ここでも同じ学校だった。公立の学校は地域ごとに進学先が決められており、引っ越さない限り同じ高校に進むのも確定していた。

 彼女たちはずっと仲良しでいると決めていた。


 中学一年生の十一月上旬。カリンたちはバスケットボールの大会に出場した。‘エクストリームバスケ’と名付けられたその競技は学校のバスケ部、地域のバスケクラブといったチームに所属していない中学一年生及び高校一年生が校内でチームを作り参加するというものだ。


「二週間!? そんな短いのか!?」

「え、ええ……十月に入ってから練習を始めて、二週間は練習、島の中で大会があって、十一月から全国大会。」

 三年前の大会ならレイジも参加した。確かに大会は十月中旬からだったが、練習は四月から始めていた。それは全国共通だと思っていたので、今年は何も話を聞かないから行われないのかと思っていただけに、レイジ、そしてチハヤにとって衝撃の事実が明かされた。

「なるほど……この島だけは二週間の練習ってことか……そして島の外では半年の期間があることは知らなかったと……」

 島は外部と連絡を経っているというのはレイジも知っていた。そうでなければ誰も彼を知らないはずがない。彼を知っていたのは島の外にいたことがある人。同じ学園に通っていたアツカやツバサなどだけだ。

 島の学生は二週間の練習が、外の学生は半年間の練習が当たり前だと思っていて、お互いにそれだけやってきたのだと思いながら戦っていたというわけだ。


「えっと……じゃあ話を戻すね。十月から本格的にバスケを始めた私たちは……」

 バスケなど未経験だった三人は二週間という限られた練習期間に必死に取り組み、全国大会へ出場した。特にハルカによるカリンへのパスは百発百中。そこからカリンがシュートを決めるのがこのチームの強力な得点源だった。


 ベスト四入りを懸けた五回戦。接戦に次ぐ接戦で勝負はどちらかが勝ってもおかしくない状況が続いた。

 第四クォーター、残り五分。試合は急変した。

 ハルカからボールを受けて放つカリンのシュートがまったく入らなくなってしまったのである。対して相手のシュートは打つ度に決まるので得点差は広がっていく一方。

 そしてそこからの試合はどこかおかしかった。マークが外れていてスローインを受け取った後に誰にもパスを出さずにドリブルで持ち込んだシュートだけが入るようになっていたのだ。それはカリンだけでなく、ハルカやモモカ、そして相手チームも。


 残り三秒。得点差は一点のビハインド。次第に追い上げていったカリンのチームは最後の攻めに出た。スローインを受け取ったハルカが一気に走り、その前に四人の敵が立ちはだかる。

 さすがに四人は突破できないと思ったのと時間がギリギリで冷静になれなかったカリンは思わずパスを求めてしまう。その声を聞いて一瞬足を止めたハルカはカリンに目を向ける。彼女はノーマーク。受け取ってすぐに打ったとしても決めてくれると信じ、ハルカはパスを出した。


 そこへ残りの一人が待っていたかのようにそのパスの軌道に手を伸ばし、カットした。

 ボール取ってそのままドリブルしてくると思ったモモカたちは一斉にボールを奪いに走り出す。ハルカは四人に囲まれていて抜け出すことはできなかった。

 カリンはどうするべきか悩んだ。ここでボールを取りに行くか、仲間が取ることを信じて前に出て確実にシュートが入る位置でパスを受け取れるようにするか。

 一か八か。三人のチームメイトを信じて前に走り出したカリン。そしてボールを取りに詰めよってくるモモカたち。しかし相手はパスをカットした地点から動かず、そのままシュートを放った。自陣コート側のセンターサークル内から放たれたロングシュート。誰もブロックすることのできない高さを持ったそのシュートはゴールに入り、四点差へと広げられたところで試合終了のブザーが鳴った。


 あのとき私が取っていれば……

 悔やむカリンはその場に膝から崩れ落ちた。そして彼女の隣で、シュートを決めた相手は呟いた。

「弱い味方を信じるなんて、馬鹿なことをしたもんだ。」

 モモカやハルカに手を差しのべられたものの、カリンは何も言葉を返すことができず無言で立ち上がり整列して試合を終えた。


 相手の男の言葉に強く傷ついたカリンは心を閉ざしてしまった。それからの彼女の性格は気弱なものから一転、ことある度に拳を振るう乱暴なものとなった。男女問わず、学年問わず手を出すその暴れ具合は学校でも何度も問題となったが、彼女の心は元に戻ることはなかった。


「酷い奴がいるもんだ。」

「確かに、元凶はあの人。今もハルは忘れてないし、許していない。」

 申し訳ないことをしたとレイジは反省した。カリンに初めて会った日から、彼女の過去のことは知っていた。あまりにも強い恐怖心を持っているのとカリン自身レイジを信頼しているがために言い出す機会を作れず、真実を打ち明けられないでいたことを強く後悔した。

 レイジは気に食わなかった。点を決めるのはいつだって一人なのに、ことある度に喜びあっていたカリンたちのチームが。試合終了のブザーが鳴り、チームとして勝ったときに喜べばいいじゃないか。点を入れて喜ぶのは自分一人でいいじゃないか。

 そんな歪んだ考え方をしていたレイジは残り時間が僅かになったタイミングでチームメイトのアツカたちに指示を出した。全員でハルカ、四番の選手をマークしろと。そしてカリンにボールを渡すように仕向けさせた。あの結果はすべてレイジの想定通り。敵も味方も、すべては彼の手のひらの上で踊らされていたのだ。

 そんな勝利をするために、ただ勝つのではなく相手の心に深い傷を追わせて勝つ。それが当時のレイジの楽しみだった。


「なら今度リベンジだな。きっとそいつも今年出てくる。全国大会に進めば、おそらくその姿を見せるだろう。」

「そうね……直接戦うことはなくとも、ハルは絶対にそいつの姿を見つけ出すと思う。」

 レイジも出なければならない。あわよくばハルカやカリンと戦いたい。昔半年練習してようやく全国レベルになれたのだ。二週間という短すぎる期間で戦力になれるのかは分からないが、逃げるという選択肢はない以上やりきるしかない。


「この出来事の問題はここからなのよ。」

 モモカはそう言って話を続けた。

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