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オートセーブは深夜0時に  作者: 夕凪の鐘
Episode13 炎の文化祭
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67話 取り合い煽り合い

 明日は七月七日土曜日。世間は七夕、そして休日ということで各地で祭りが開かれ盛り上がる日だが、いくつかの高校は文化祭を迎えている。玲司(レイジ)の知る限りでは華燐(カリン)たちの通う長袖(ちょうしゅう)高校と未来(ミライ)たちの通ういすみ崎高校が該当する。数週間前からカリンから文化祭への誘いのメッセージが送られてきたのでレイジはそちらに行こうと計画していた。


 一方で数日前にヒカリからいすみ崎高校の文化祭に誘われていた。午後に行われるミライと刹那(セツナ)によるライブを見に行くためだ。しかしレイジは断った。先に他の高校に行く約束をしていてそれを破るわけにはいかない。二つの高校の所在地はかなり離れているので、気軽に行き来できるものではないのだ。

 耀(ヒカリ)からは誰と行くのかと聞かれた。一応誘ってきたのはカリンだが、ダンス発表を見に来てくれればそれでいいようなので一緒に回る人が決まっているわけではない。招待した本人は学級の出し物での仕事もあるのでほとんど外には出られない。

 レイジはどこに行くのかの計画は立ててある。カリンの学級で作り上げられたお化け屋敷や天羽(アゲハ)の学級の喫茶店、飛影(ヒエイ)の学級の迷路などに挑む。一人でも十分楽しめるので別に付き添いが欲しいとは思っていなかった。


 そして今日の金曜日、たまたま同行者が見つかった。


「あら、奇遇ね。駅で会うなんて。」

 ロータリーでレイジとヒカリが出会ったのは家から遠い名門私立高校、開明(かいめい)教育学園幕合(まくあい)高等学校に通う女子生徒にして、同居している息吹(イブキ)を除いてレイジと最も家の近い友達である少女、千迅(チハヤ)だった。

 本来は寮生活で実家の近くのこの方面にはなかなか来ないのだが、明日明後日と部活が休みで高校に行く用がないので実家に帰ってきたのだった。そのためチハヤはこの小見宿(こみやど)駅で降りるのだが、レイジとヒカリはここから電車に乗ってそれぞれの家へ向かうのですれ違いという感じだ。

 下り方面に帰るレイジにとっては彼女が乗ってきた電車に急いで乗りたいところだったが、別に一本くらい見送ってもいいと思い急ぐことはしなかった。それにヒカリとチハヤを二人きりにしてはいけない、おぞましい会話は始まりかねないと直感したレイジは迂闊(うかつ)にこの場を離れられなかった。


「おう、久しぶりだなチハヤ。」

「久しぶりってほどでもないでしょ? 先週の土曜日にも会ったし、その二週間前にも会ったじゃない。」

 ヒカリの顔が強ばった。自分の知らないところでチハヤがレイジに会っていたと知り、内心穏やかでいられなかった。

「いつ会ったの。」

「あ、あれだよ。海岸のゴミ拾いの日だ。ヒカリにも送っただろ? クラスのグループに手伝いを呼びかけたときの。チハヤは手伝いに来てくれただけなんだ。なあ。」

 話を合わせてもらうべく、レイジは顔をチハヤに向いて言った。


 チハヤはその日の出来事を思い出していた。幼なじみの(クルリ)に三人分の着替えを持ってきてほしいと言われて海へ行っらレイジがいた。彼の昔の話を聞いていて、つらい思いをしていたことを知った。

 そして天使(アツカ)が天使の羽を広げて優しくレイジの体を包むと(ツバサ)も彼の隣へ寄り添い、無意識の内に自分もと思い反対側へ寄り添ったこと。冷静に振り返るとなんて恥ずかしいことをしたのか、万が一知られたらどうしたら良いのかと悩み、チハヤは二人の前で頭を抱え始めた。


 レイジはチハヤたちがやっていたことはその日の内に知っていたのでチハヤの考えていることには驚かなかったが、今思い出されてしまうと口を滑らす可能性がある。女子四人に囲まれて眠っていたなんてことを知られてしまえばヒカリはどんな反応をするのか見当もつかない。それはなんとしても避けたいレイジは彼女が口を割らないことを願った。


「あ、そうそう。明日文化祭に行かない?」

「残念だったわね。レイジはもう長袖高校に行くって決めてあるのよ。」

 ヒカリは素早く得意げに言い返すが、チハヤは少し固まっていると状況を察して不敵な笑みをヒカリに向けた。

「その長袖高校に行こうと思ってたのよ。元々行くつもりならちょうどいいわ。私と二人で回らない?」

 チハヤは故郷ウィンドタウンからの幼なじみの春桜(サクラ)冬雪(フユキ)に会いに行くがてら彼女たちの高校の文化祭に行く予定だったそうだ。カリンと小学校からの知り合いである百花(モモカ)(ハルカ)と一緒に行く予定だったが、偶然にもレイジも一人で行く予定だったのであれば二人とは別行動しレイジと二人で回りたい。チハヤはそう考えていた。


「どうせ俺が一人で行くって言っても当日見つけたら同行するんだろ。」

 レイジがそう言うと当然だと言わんばかりにチハヤは首を縦に振った。心を読んで見つからないように立ち回ろうにもその度に出し物の列から抜けてしまってはろくに楽しめない。それ以前にハルカが来る以上どこに隠れることもできない。

 彼女は一度見た物であればたとえどんなに不規則に動く物であっても目を離してもどこにあるのかが分かる。つまり一度視界に入ったことのある人がどこにいるのかがすぐに分かってしまうのだ。そしてレイジはゴールデンウィークのバドミントンの市民大会の会場で彼女に会ってしまっている。

 つまり当日ハルカが来てしまえばどこに隠れても無駄というわけだ。レイジは諦め、チハヤと一緒に行くことにした。


「いいぜ。俺は朝六時過ぎの小見宿(おみやど)駅発の電車で行こうと思っていたけど、お前に合わせるよ。」

「じゃあ私もそれで行くわ。」

 チハヤはスマホを取り出し五時に目覚ましアラームをかけた。この電車で行くと開始時刻である九時より前には会場に着ける。


「あなたは来れないの? 残念ね。」

 先ほどのヒカリの反応から行って彼女は長袖高校の文化祭には来れないのだと察したチハヤは彼女の方を向いて得意げな表情を浮かべていた。来れないことを気の毒だとは微塵も思っていない。ヒカリが来れない場所でレイジと二人きりで過ごすという約束をしたことの優越感に浮かれているのだ。


 ヒカリはチハヤを睨むとスマホを取り出し、ミライに電話をかけた。

「もしもし? ごめんねミライ、どうしても外せない用事ができて一緒に回れなくなっちゃった。ライブはちゃんと見に行くから、セツナにも言っておいて。」

 ヒカリは電話を切ると安心してため息をついた。片道三時間はかかると見ていいのに、そのため三時間しか文化祭に行けないのにヒカリは覚悟を決めて同行を選んだようだ。それでもきっちりライブは見に行く辺り友達思いではあるのだろう。状況を察したミライたちからは自分たちのライブを見に戻って来ないで一日中文化祭に行ってていいと言われる可能性もあるが。


「そんなわけで私も行くわ。よろしくね、レイジ。」

 あからさまにチハヤを無視しているのが見てとれる。チハヤはヒカリに冷たい視線を向けているが、彼女の前で文化祭に誘ってきたのが悪いとしか言いようがない。


「私と先頭車両に乗ろう。」

「そんな所に乗ったら乗り換えに遅れるわ。階段に近い五号車にしましょう。」

 駅構造の詳しさでは、実家暮らしのヒカリよりも寮生活で多くの路線に乗り慣れているチハヤに軍配が上がった。かといってヒカリは選んだ車両から動くつもりはない。乗り換え時間は八分と、多少階段から離れていたところで間に合わなくなるほどでもないと思っているからだ。

 階段から離れているということは乗り換えに不向きという面で乗る人が少なくなる。階段を昇るときもある程度空いてから列に並ぶことができるのでデメリットばかりではないのも事実だ。


「先に約束したのは私でしょ? それにあそこは一気に人が降りるから、階段が混んで乗り換えが間に合わない可能性があるわ。確かにこの車両って込むけど、ここから確実に座っていけるわ。」

 実家を出た寮生活ゆえにいくつもの路線に乗り慣れているチハヤの言い分にも納得はいく。道は長いのでできるだけ座って行きたいが、やはり混んでいる所で騒ぎを起こされたくないという思いもある。


 一番理想的なのは三人まとまって乗って行くことだ。手っ取り早いのは二人が選んだ所以外の車両を選ぶことだが、彼女たちが納得するかと言われるとまた話が変わってくる。


「とりあえずチハヤは連絡しなくていいのか? モモカ辺りと一緒に行くんじゃないのか?」

 チハヤは本来一緒に回る予定の人に急遽の変更を伝えなければならない。仮にここで何かしらのトラブルがありチハヤがその時間に出ることができなくなれば話は収まる。可能性はゼロに近いが、そういうものにもすがっていかないと収拾がつかない事態を迎えてしまう。


「何? 一緒に回る人がいたのに勝手に別行動しようとしてたの? ねえねえ。」

 ヒカリはチハヤをねちねちと責めるが、チハヤの思っている通り連絡を済ませたとはいえ似たことをヒカリ自身もしたのである。


「……ならじゃんけんで決めましょう。五連勝した方の勝ちね。」

 なんて自分に有利な勝負を選んだのか。ヒカリは一度でも勝てれば五連続だろうと十連続だろうと勝つことができる。一発勝負では機能せず、試行回数が多いほど成功率が上がるための五連勝というルールを選んでいた。これでヒカリの負ける確率は単純な五連敗、つまり僅か三十二分の一だ。その余事象、すなわち五回負けるまでに一度でも勝つ確率がそのままヒカリの勝つ確率となる。


「まあ、それでもいいわよ。」

「やめとけチハヤ。お前じゃ勝てない。」

 レイジはヒカリがじゃんけんに強いことを、以前彼女に五十連敗したという経験を交えて説明した。チハヤは信じられないという顔つきだったが、二点連続で点を入れればバドミントンの試合に勝てるという能力を見ていたことから派生させたものだと考えれば納得がいっていた。


「レイジはチハヤの味方をするんだね。」

「あまりにもアンフェアだから止めただけだろ! もっと正々堂々勝負しろよ。」

 これでチハヤがバドミントンで勝負しようと言ってきたら止めるつもりだったと説明するとヒカリの怒りも収まったようだった。


 レイジはふと閃いたことを提案した。

「俺が一本早いやつで行くから、二人はそのままの電車で来てくれ。そして現地集合で。」

「つまり電車の中は私たち二人だけね。分かったわ。たっぷり話をしましょう、ヒカリ。」

「もちろんよ。話を聞かせてもらおうじゃない。」

 これは駄目だとレイジは焦った。電車に乗っている二時間半の間ずっとぎすぎすした状態で話を続ける光景は恐ろしい。

 実話を話し合うだけならまだいいが、見栄を張るあまり話がどこまでも誇張されてあることないこと言い合われてしまってはたまったものではない。


 レイジは考えながらポケットに手を入れると中に何かあるのに気づくと手に取ってポケットから出した。カジノで使うためのサイコロが一つあった。教室に返すのを後回しにして、それからずっとポケットにしまっていたことを思い出した。これを上手く使えないかと考え、とりあえず今思いついたことを言ってみた。


「サイコロで出た目の車両に乗ろう。それでいいだろ?」

「そうね。三人それぞれ振って出た目に乗れば平等ね。」

 レイジはそこでなぜ三人別々にサイコロを振る必要があるのかと疑問に思った。自分一人が振って三人でそこに乗ればいいと思って言ったつもりだったというのに、三人がそれぞれサイコロを振るという話として受け止められたことが不思議だった。

 提案したのはチハヤだが、ヒカリも勝負に乗る気満々だった。こうなればやることは二つ。自分はレイジと同じ目を出し、かつ相手が数字の離れた目を出すのを祈ることだ。隣の車両ではない。できるだけ相手を遠くへやってしまいたいからだ。そして(よこしま)に満ちたその考え方はヒカリもチハヤも同じだった。


「先攻はどっちがやる? レイジは最後ね。」

「それはじゃんけんで決めましょう。一発勝負で。」

 レイジを挟んで向かい合ったヒカリとチハヤは右手に力を込めて腰を低くした。すでにこの段階から戦いは始まっている。二人の目は以前試合をしたとき以上に闘志に満ち溢れていた。


「じゃんけんぽん!」

 勝ったのはヒカリだ。勝った人は先手か後手かを選べるので、ヒカリは後手を選んだ。

「じゃあ私から振るわね。」

 チハヤはレイジからサイコロを受け取った。そのときにわざとらしく彼の手を握っていたことをヒカリは見逃さなかった。

 チハヤが出した目は六。これで二人がどんな目を出そうとも彼女は六号車で確定だ。ならばヒカリの狙う目は一つ。それは一だ。一を出しつつレイジも一を、妥協しても二を出すことを祈る。隣の車両になってしまってもお互い車両の連結部分の座席に座れれば話せるくらい近くにいられる。

 一を出す、というのはチハヤからなるべく離れたいからであって、レイジと同じか隣接する車両に乗れれば、つまり同じか一つ違いの目が出れば何でも良かった。


「じゃあ次は私ね。それっ。」

 ヒカリはチハヤからサイコロを受け取り放り投げた。

 出た目は一。狙い通りの一にヒカリは思わず歓喜の声を上げた。

 そしてすぐさまサイコロを拾うと次に投げる番であるレイジに手渡した。このときもわざとらしくヒカリは彼の手を握ってチハヤに目を向けた。


 チハヤとヒカリが出した目はそれぞれ六と一。つまり二人は先頭車両と最後尾の車両に乗るというわけだ。

 レイジは何の目を出そうと喜ぶことはできない。どんな結果になろうと受け止める他はないと思い、適当にサイコロを振った。

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