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オートセーブは深夜0時に  作者: 夕凪の鐘
Episode13 炎の文化祭
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66話 1年C組

 七月になり、十三、十四日に迫る小湊原高校文化祭、通称小湊祭(こみなとさい)に向けて各学級が本格的に動き出した。一部の授業の時間を利用した、必要な準備とそれにおける役割分担についての話し合いに始まり、小道具の作成や装飾等の作業をする人と出し物の系統ごとに学級に与えられた予算を超えないように進めるために近くのスーパーマーケットやホームセンターなどに下見に行く人に分かれた活動へと進んでいく。


 玲司(レイジ)の学級で提案したカジノの企画は見事に通った。例年はカジノを第一希望に挙げる学級の多い激戦区なのだが、今年の一年生はお化け屋敷と喫茶店に希望が集中し、被ることのなかったこの学級は抽選落ちすることなく希望通りの出し物となった。そして今、学級委員長の指揮の下、まずは学級内でいくつかのグループに分かれて看板や景品を始めとする小道具等の準備に取りかかっている。決まっているのはグループだけで、細かい仕事内容はそのグループ内で改めて話し合うのかと思っていたレイジは適当に少人数のグループに入り指示を待とうとしていた。しかし一人ひとりに役割を与えられることはなく皆すぐに活動を始めてしまい、一つ終われば他のチームの進行状況に合わせて手伝ったり別の作業を始めたりと積極的に動く人が次々と仕事を見つけていくという流れになってしまった。


 自分から話しかけて仕事を探したり人を集めたりするのは苦手なので、最初は人手が足りなそうな所を探しては黙って仕事を手伝ったり押しつけられた雑用を引き受けたりしていた。

 しかし居心地が悪くなったレイジはだんだんと人目につかない教室の隅へ隅へと下がっていった。そして痺れを切らした彼は他の人が買ってきたトランプや文房具を取って机を一つ教室の隅に運んでいくと椅子に座ってトランプを広げ始めた。

 レイジの姿に気づいた耀(ヒカリ)は今やっている仕事をそそくさと片付けると椅子を一つ持ってレイジの席と向かい合うように座った。


「何やっているのレイジ?」

「ヒカリか。まぁ……仕事面倒だし、用具の点検とルールの調整っていう建前で借りてきたけど遊んでる。」

 借りてくるときは、勝負の最中トランプの端が折れる危険性はないか、シャッフルの最中滑って吹き飛ぶ心配はないかなどのチェックをすると言って頼んだのだが、今そんなことをする必要はないと言い返された。(しゃく)に障ったレイジは右目の能力を使って貸したくないというクラスメイトの願いを叶わなくさせて強引に話を通していた。

 さすがに教室を抜け出してライブの練習をするわけにもいかないので、それからしばらくはヒカリと二人だけでポーカーやブラックジャックをして遊んでいた。


 そしてふと思いついた。カジノ営業時の親、つまり担当者になれば負けが多いのは許されない。

「よしヒカリ、今からトレーニングだ。」

 今ここにあるトランプと文房具を使ってできる種目に強くなる特訓。これなら立派な準備だ。そう考えたレイジは今日の残りの時間そして明日以降の学級での準備時間すべてを費やして自身とヒカリの実力の強化に取り組んだ。


「まず一回目だ。2357。」

「えっと、ゼロヒットゼロブロー。」

 今も周りのクラスメイトは準備で忙しそうだが、レイジはそれに携わらずに教室の隅に留まっていた。文化祭本番までにできるだけ実力を上げるための特訓という名目でヒカリとトレーニングしている。同じものを何度も続けるのは疲れるので、今日はブラックジャックやポーカー、ヒットアンドブローの三つに絞り、その中からやりたいものを順に選んで取り組んでいる。端から見ればひたすら遊んでいるように見えるが半分はその通りなのであり、もう半分は過酷で頭を使いまくるため並大抵の人はすぐに根を上げてしまう特訓なのである。

 今二人が勝負しているヒットアンドブローとは、一人が相手に知られないように四桁の数字を用意し、もう一人がその配列を当てるというゲームだ。千の位に0を置くことも可能、しかし数字の重複は不可能。

 受け手は挑戦者が言った数字と自分が決めた数字を比較し、位置と数字の両方が合っていたらヒット、位置は違うが数字は合っていたらブローと言う。例を挙げれば1234と決めてあるときに挑戦者が1357と言えば、1が千の位にあって一致しているのでワンヒット、3は位の場所が違うが含まれているのでワンブローとなり、合わせて言えばワンヒットワンブローとなる。しかし挑戦者はこの場合、どの数字がヒットしていてどの数字がブローなのか分からない。そのため次に別の数字配列を聞いて新たにヒントを得るのを繰り返す。そしてその答えを元に正解を導き出すというゲームだ。


 このクラスで決めたルールとして、事前に答えの数字はホワイトボードに書いて隠しておき、挑戦者が使用できるものはボールペンと一枚の白紙だけ、成功条件は七回以内での正解となっている。頭の回転が速い人は相手が最初に言った四桁の数字に対して最も想定される組み合わせが多いワンヒットスリーブローとなるような配列を瞬時に考えるというイカサマめいた有利な戦い方が存在するが、正式な賭け事ではないのでそのやり方は禁止となったのだ。

 そして肝心の勝敗判定。挑戦者と担当者で一回ずつチャレンジし、どちらも成功しなかった場合は挑戦者の負け、どちらも成功した場合は当てるまでの回数勝負。担当者より多くかかっていたら挑戦者の負け、同じか少なければ挑戦者の勝ちとなる。

 これでもし両者同じ回数で成功したときに挑戦者の負けという判定のルールにしてしまえば挑戦者はレイジには絶対に勝てなくなってしまうので、その点の調整は怠らずに学級内でのルールの考案にはレイジも意見を出した。

 

 これはただの運勝負ではない。一手でも早く勝つためには、いくつヒットしたか、ブローしたかに応じて次に最適な問いかけをする必要がある。担当者が負けてしまえばチップを奪われ、高価な景品が取られてしまう。レイジは二日間景品を守り抜けば、その功労をだしにして片付けの際の余り物処分時に貰えるようになるかもしれないと思っているので、景品を客に取られずその可能性を残すためにどんな勝負でも負けることを許さなかった。

 加えて土曜日には他校の生徒もやって来る。レイジの知り合いの高能力者たちもおそらく来るだろう。となれば、景品が何であれ負けるわけにはいかない。景品も取らせないように自分との直接対決以外でも負けないようにするのも必要なことである。

 この学級には偶然にも三人も能力者がいるのだ。二週間前から特訓しておけば、生半可な能力者さえ太刀打ちできない凶悪な布陣を築き上げることだってできる。昼であろうと限られた空間を夜に変えてレイジやヒカリの能力や体力等を強化する小通(コミチ)はともかく、一度起こった事象を繰り返す能力があるヒカリは上手く機能すればレイジでも右目を使わなければ対処できないほど強烈な真価を発揮する。


 僅かな確率であっても一度の成功で莫大なメリットが得られるのが賭け事というもの。人はその一度の成功を得るために大金を費やして何度も挑み、抜け出せない沼にはまってしまうものだ。一度起こればそこで満足するものでもない。一度の次は二度、二度の次は三度と、満たされることのない欲求が心を蝕んでいく。

 そして果てには破産。莫大な借金を抱え生活が厳しくなる者、犯罪に手を染めてしまう者、自ら命を絶ってしまう者。実際はそのような結末を迎える者に比べて賭け事に乗って裕福になった者は圧倒的に少ない。その一握りの勝者に自分はなれる。そう思う人が絶えないからこそ、いつまでもギャンブルという概念が存在し続けるのだ。

 ギャンブルにおいて勝者になるために必要なのは運と覚悟だ。分の悪い勝負でもほんの僅かな可能性を信じ、そして成し遂げるだけの運と覚悟。これを兼ね備えて初めて一度だけ勝者になれる。一度なったからといってずっと勝者ではいられない。一時期は大量に資産を抱えていた人でも、数ヶ月後には困窮に陥っていることがある。一度の勝利に溺れ欲を抑えきれなかった結果だ。


 なら一度勝者になればその後もずっと勝者になる、一度として敗北はしない。そんなことを可能にする者がいたらどうなるか。

 一度宝くじが当たればその価値に等しいくじがなくならない限りずっと当て続けられたとしたら。ポーカーで一度勝利したらその後全部勝利できるようになれたとしたら。


 考えるだけでも恐ろしい。一度起こった事象を繰り返す能力を持つヒカリ。彼女には決して本物のギャンブルに近づけてはならないとレイジは戦慄した。自分が強いと思わせてはいけない。決して自分には敵わないと思わせたい。そう考えたレイジは、何が起ころうともどの種目においても彼女を勝たせるわけにはいかないと決意し本気で勝負に挑んでいるのだった。


「二回目。0618。」

「うっ、正解。早いよーレイジ。今回は勝てると思ったのにー。」

 今のヒットアンドブローは先にレイジが数字を選び、ヒカリは四回で当てた。そして今度は彼女が数字を選び彼が当てる番だが、僅か二回で完全に当てられてしまったのだった。

「一回目全部外したじゃん。」

「ゼロヒットゼロブローは下手に1ヒットするよりも逆に当てやすいからな。残り六つの数字の内四つが正解だから。ていうかそれ俺の誕生日だし。」

 レイジが最初に言った数字は2357。これらはすべて素数であり、ヒカリの用意した配列とは何も一致せず、この四種類の数字はヒカリの作った四桁の数字には一つも含まれていないとのことだった。そして二回目には残った六つの数字から四つを選んで言ったところフォーヒット、つまり正解という極端な結果となった。


 レイジの場合は相手の心が読めるので、大半のゲームは戦略を立てなくても確実に勝てるのである。しかし一人ですべてを担当するわけではなく、時間制でそれぞれの担当者が割り振られる。なるべくクラスメイトの実力を強化し失点を防ぐためには実践を多くこなす他はない。まだ小道具の揃っていないルーレットを除くすべての種目を全面的に特訓するべく、ヒカリはレイジとマンツーマンで指導を受けている。


「でもせっかくならライブの練習したいよね。あれこそ人手が足りないのに。」

「ああ。体育館の使用許可を出してもらうついでに生徒会役員に人員募集したんだがな。使用許可は出たけど雑用は断られた。」

 設置する機材や準備も含めたライブに要する時間及びスペースの確保は他の学級や部会と調整しつつ行うので時間も場所も限られている。いくらなんでもレイジとヒカリの二人で一から用意するのは骨が折れる。用意したところで他の出し物の邪魔と言われ撤去しなければならなくなってしまえば完全に水の泡だ。練習ももっともっとやらなければならないのに、そんなことで時間を奪われていては間に合わせることができなくなる。


「だから余計なことしたくないんだよ。クラスの準備の手伝いしてほしかったらこっちの雑用も引き受けろって言ってるのに。」

 レイジたちは話し合ったりふざけたりして楽しそうに準備に取り組むクラスメイトに交ざれないというわけではない。断固として違う。学級のリーダー的な存在を中心に仲の良い者同士で積極的に仕事を引き受けては楽しそうに取り組むのを見ていて、待っていても何も指示を聞かされず自分から聞きに行くことも恥ずかしくてできないので自然と教室の隅っこに寄っていったとかそういうわけではないのだ。

 第一自分たちは無能力者だ。学級に三人も能力者がいるのにまるでいない者のように扱い無能力者のFランク同士でワイワイと盛り上がっているに過ぎない話だ。少なくとも電灯避けの傘を差しているせいで邪魔と言われ廊下に出されたコミチとは違う。能力者である自分たちを特別視しないこの学級が間違っているだけなのだと、レイジはひたすらぼやいていた。


「……ちょっといいかレイジ、お前は大きな勘違いをしている。」

 学級委員長にしてクラスのリーダー的存在の男子がレイジの愚痴を聞いて近くにやって来た。面倒な話が始まるのは分かっているので、彼は顔を上げることはなくずっと俯いていた。


「お前はSランクの能力者である以前にこの一年C組のクラスの一員だ。ランクなんて関係なく、クラスメイトは皆協力するものなんだ。」

 説得して雑用を押しつけるつもりだ。能力なんてない人にもできる、単なる雑務を。他の生徒が取り組んでいる仕事を。そんな口車に乗るものかと、レイジは下を向いたまま顔を背けた。

「お前たちの話は聞いたよ。俺たちはいくらでも力を貸してやる。だからレイジも俺たちに協力するんだ。クラスメイトなんだから。」

「仕方ないな。どこと一緒にやればいい?」

 レイジは教室に飾る看板の文字書きに取り組み、ヒカリは景品候補の話し合いに参加した。コミチは人通りの少ない廊下に移動してノートパソコンでカジノの種目のルールの文章作成の代行に取り組み始めた。

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