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オートセーブは深夜0時に  作者: 夕凪の鐘
Episode10 帰れない 帰りたい?
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51話 海の家での休息

 気を失っていたレイジが目を覚ましたときには海の家の外に放り出されており、中を覗くと三人とも水着に着替えていた。

 どうももう一分早く目が覚めていれば着替えを覗けたのだが、仮に起きていたとしたらイブキによってより深い眠りにつかされるだけなので、身の安全を確保するといった意味では最高のタイミングで目が覚めたと言えるだろう。いくら何でも着替えを覗くだけで生死の境をさ迷わなければならないのは釣り合いが取れなさすぎる。

 そしてそんな目に遭わせてくるイブキ本人は着替えていないのだ。見てしまった相手にやられるのならまだしも、居合わせただけの人に裁かれなければならないのは不条理だ。かといってイブキの水着を見たいというわけでもない。何の起伏もない平坦な体のラインを見て興奮できるほど、(つう)の人ではないのだ。


「いやー、悪い悪い。すっかり忘れてたよ。んで、話って何だっけ? 俺は何時間でも聞いてあげるぜ。」

「そんな時間ないわよ。ほら、続き。」

 決して呼んではいないがせっかく来てくれたのだ。話を聞こうとしてレイジはテーブルに向かったが、まだ仕事が残っていると言われイブキに連れ出された。

 ペットボトルや空き缶のような大きなゴミならともかく、煙草(たばこ)やティッシュペーパーのような小さなゴミまで拾っているときりがない。けれども徹底して掃除しないと気が済まないイブキは、満足するまで彼がサボるのを許さない。

「能力使って十倍速や百倍速出せば一瞬で終わるだろうが。」

「そんな速く動きまくったら拾うまで飛んでいっちゃったのよ。疲れるうえに集められないんじゃあ、無駄骨よ。」

 ゴミをまとめて遠くに飛ばせばいいんじゃないかとも言ったが、海が綺麗な代わりに周りの道路が汚いと評判が悪くなるから拾うしか手はないようだ。どう足掻いても、レイジは掃除を続けるしかないのだ。


 海の家の中から、楽しそうにお喋りをしているアツカたちの声がする。本当は自分もあの中に加わっているのだと思うと、黙々とゴミ拾いしている今の自分の姿が惨めでならない。


 そこでレイジは、あることを思いつくとクラスのオンライングループにメッセージを載せた。

 そのメッセージの内容は、この小見宿海岸のゴミ拾いを手伝えばアツカたちの水着姿を一足先に見られるというものだった。男子が過半数を占めるこのトークグループだ。暇をしている何人かはすぐに来るだろう。とにかくレイジは、一秒でも早く人手を増やして作業を終わらせたかった。


「水着じゃねーじゃん! 騙したなレイジ!」

「お前らが来るのが遅いだけだ。まあ、手伝ってくりゃあ、このスマホに収めた写真を見せてやってもいいけど。」

 やって来たはいいものの、とっくにチハヤがアツカたちに着替えを持ってきており、水着からは着替えてしまっていた。クラスメイトはレイジを責めたが、撮ってもいない写真を見せるという提案を聞くと俄然やる気を出した。

 元から撮ろうと思わなかったわけではない。普通に頼んで撮らせてもらえるはずもないし、こっそり撮ってしまえば後でまたイブキにしばかれる。レイジ自体は生で彼女たちの水着姿、加えて濡れて透け通った私服姿をも見ることができたので、写真を撮る代わりに受ける痛みとしては釣り合いの取れないものだ。


 クラスメイトから信用を失うことに比べて、イブキ一人に攻められて瀕死になるほうがしんどいのは事実だ。

 恨むならそんな不純な動機でボランティアをしようとした己の下心を恨めと言い放ったレイジは、掃除が終わると何一つお礼も謝罪の言葉も言わないままクラスメイトたちを帰した。


 もう昼過ぎだ。体もくたくた、疲れて眠くもなってくる。今すぐにでも家に帰りたかったレイジだが、いまだに海の家で話をしているアツカたちを見るとこのまま帰ることはできないと察した。


「あっ、やっと終わったの? でもごめん、今ちょうどお昼ご飯食べたとこなの。」

 レイジが入ったときは四人は焼きそばやラーメン等の、海の家ほたるの人気商品を食べ終えて話をしている最中だった。


「じゃあ俺も何か買ってくるけどよ、お前ら今日ずっとここにいる気なのか?」

 アツカたちは顔を見合わせると、話ができさえすればどこでもいいらしい。まだ六月の頭、他に客はほとんどいないから気にしないようだ。


「それにしても懐かしいね。この三人が一緒にいるのって。」

 確かにレイジがアツカ、ツバサと揃って会ったのは二年ぶりだ。最初にアツカが引っ越してしまう前は、もう二人加えて一緒にいることが多かった。


「私、アツカとツバサが中一からの知り合いってのは聞いてたけど、昔の話は全然聞いたことなかったなー。」

「あれっ、そうだっけ? そんなこと言ったらクルリとチハヤの昔を私たちまだ知らないもん。せっかくレイジもいるんだし、思い出話しようよ!」

 レイジとしては昔のことを話したくないのだが、チハヤたちは興味津々だ。けれどもアツカやツバサとの思い出ならそこまで思い出したくないものはないので、断らなかった。


「チハヤとクルリはウィンドタウンからの仲なんだろ? なんか恥ずかしい思い出とかないの?」

「あるわけないでしょ!? 初っぱなから何言い出すのさ!」

 チハヤが怒った。けれどもそれだけだ。話そうとは思わずともそういった思い出があれば思い出してしまうのだろうが、二人とも何も思い浮かんでいない。これでは弄り甲斐がない。


「そう言うレイジだって、昔何かやらかしたんじゃないの!?」

 そう返されると心当たりがありすぎる。笑い話や黒歴史もあるが、やはりこの二人といたときの思い出といえばあれだろう。実際、アツカとツバサも同じことを考えていた。

 けれどもそれを今、このまま話題にするわけにはいかない。少なくともチハヤに知られてはいけない。


「やっぱりあれだよね。三年前のバス……」

「ちょっと待ったー!」

 レイジは喋りだそうとしたアツカとそのことを知っているツバサの首根っこを掴み、店の外へ出ていった。


「いきなり何するの!?」

「今バスケの大会のこと話そうとしてただろ? そこで頼みがあるんだけどさ……」

 レイジの頼みというのは、練習中や休日のことは好きに話していいが試合の結果については予選落ちということにしておいてくれというものだった。

 なぜ隠すのかと聞かれた彼は、迂闊に口外すれば今年は確実にマークされる。この島の人は前回の出場校は知っているものの出場者は知ることができない。だから本当のことを話しては不利になるだけだと答えた。

 ツバサは腑に落ちなかったが、アツカはそれで納得していたのでそれ以上は追求しなかった。


「あっ、お帰り。何してたの?」

「べ、別に、何でもないけど。」

 そうは言っても信用しないのがチハヤの面倒なところだ。彼女と会うのはゴールデンウィーク初日以来一ヶ月ぶりで、あの日から一切連絡もとっていない。連絡先を交換していないからとりようもなかったのだが。


「そうそう。三年前のバスケ、エクストリームバスケのことなんだけどね。」

「それ知ってる! 私たちも出たよね、クルリ。」

「懐かしいわね。そういえば、今年もあるんだっけ?」

「どうだろう? 前は四月からもう練習始めてたけど……」

 そうか。三年前はチハヤはまだこの島に来ていない。だから島の外の、全国大会の結果も知っている。これでは隠しようがないじゃないか。とはいえ、彼女は優勝校を覚えていないので気にすることもないだろうと思い、レイジは一安心した。


「あのとき私たちみんなチームメイトだったの。だから練習のあった半年はほとんど毎日一緒にいたのよね。」

「へー、一緒にいたんだー。」

 確かにアツカの言ったことは事実だが誤解を招く言い方だ。現にチハヤはありもしなかったことを妄想しては機嫌を悪くしている。

 そしてレイジの頼んだ通り、試合の結果には触れず話を広げてくれているようで、その意味での彼の心の焦りはなくなった。


「練習くらい一緒にやるだろ。俺の記憶だと、俺は練習終わったらすぐ帰ってたけどな。」

「えー、そんなことないよ。よくお菓子買ってたじゃん。ねえツバサ。」

「私は別に、付き添いだったから……」


 ツバサからすれば、一番の仲良しだったアツカがレイジを誘っていたから結果として一緒にいただけだということで、実際アツカ抜きで一緒にいることはなかった。ツバサとレイジは小学校入学時点での知り合いだが、例の右目の噂から一気に距離をとるようになった。

 けれどもレイジが危惧していたほど彼女からの敵対心はなかった。距離を置くだけで、彼がこの島にいると分かっても右目の噂を広めようとは思っておらず、何としてでも避けようという意思も感じられなかった。

 ただ普通の、仲が良いわけではないが悪くもない男女の距離感といったものだろうか。レイジにとってはこの距離感がちょうど良い。


「後、他にアスミとヨウコが同じチームにいたんだけどね。その二人もこの島に来てて、二人は同じ高校に通ってるの。」

 三年前のドリームアカデミーのレギュラーは全員この島にいるのか。そうなると、いつまでも隠し通すのは難しい。いや、最後まで隠し通すつもりはない。いつかは明かさなければならないが、そのいつかはまだ先であってほしい。

 幸い、まだその二人にはレイジが島に来ていることは伝わってない。


「その五人でよく一緒にいたんだ。」

 懐かしむようにアツカは語るが、チハヤは一層機嫌が悪くなる。

 気になっている相手が女の子四人と遊んでいたのだ。チームメイトだろうと黙って聞いておけないのが本心だろう。そしてついに、我慢の限界を迎えた。


「レイジ! 真剣に聞いて!」

 突然席を立ったチハヤは、両手でテーブルを強く押して感情を抑えつつ、それでも抑えきれない感情を乗せて叫んだ。

「私はね! ヒカリの一途な想いを認めたからずっと我慢してたの! でもレイジ、あなたがそうやって女の子をとっかえひっかえするのなら、いつまでも黙っていられないの!」


 チハヤはヒカリといるときのレイジしか知らないから、彼の人間性を誤解していたのだろう。ヒカリ一筋の人だから、他の女子とは進んで話したり一緒に過ごしたりしない人だと。

 しかし、彼は違った。

 性別関係なく、能力の有無で関わる人を選ぶ人。それがレイジだ。

 けれども彼女はそうとは捉えず、可愛い女子に躊躇なく片っ端から手を出していく人だったと思い込んでしまっているので、一刻も早く誤解を解かなければならない。


「それも誤解だ、チハヤ。俺は能力さえあればどんな人とも仲良くする。代わりに無能力者は相手にもしないがな。」

 チハヤの怒りが一気に収まった。能力の有無、それなら自分にも可能性はある。そう思った彼女は冷静になり、今まさに言おうとしていたことを考え直すと顔を赤くし、席に着くなり彼に背を向けた。

 代わりに隣にいたクルリからは顔が丸見えになり、なぜ赤くなっているのか聞かれるとまた体を回し全員に背を向けた。


 能力があるから、自分にもチャンスはある。そう思って喜ぶ一方で、ヒカリのことを考えてしまった。

「ねえ、そのことはヒカリに言ってあるの?」

 当然言っていない。傷つくのが分かっているからだ。

 しかし、ここで素直に答えてしまうと、またチハヤに怒られるのも分かっているので、適当にはぐらかすのがベストだと決断した。


「お前がまだ俺を狙っているってことか?」

「ちっがうわよ! いや、違くもないっていうか、そのこともヒカリに話さないといけないのは分かってるけど……って何言わせるの!?」

 そのやり取りを聞いて疑問に思ったツバサは、レイジに尋ねた。

「ずいぶん仲良いみたいだけど、二人はどこで知り合ったの?」

「確かに。チハヤってこの島来てすぐ遠くの私立に通ってるもんね。レイジは地元の公立でしょ?」

 ツバサとクルリは疑問に思い聞いてきたので、隠すことでもないと思いきっかけを打ち明けた。


「先月のバドミントンの市民大会で会ったんだよ。クラスメイトのヒカリの対戦相手で、優勝したんだ。」

 優勝の単語を聞いて、クルリたちは目を輝かせた。それから話を深めていく内にレイジとヒカリは退部したことを明かしてしまった。

 チハヤは残念そうにしていたが、バドミントンをやること自体は嫌ではない、時間があればどこかで勝負したいと思っていることを聞くと、どこか安心していた。

 自分がヒカリに勝って優勝賞品のリゾートチケットを獲ってしまったせいで辞めることになってしまったのかと思ってしまったようで、そうではないことを知って安心したのだった。


「ツバサったら嫉妬しちゃったのね。かわいい。」

「違うよ! ちょっと気になっただけで、別にそんなこと……」

 こういった小悪魔のようなからかいをするのもアツカの特徴だ。レイジも昔散々やられたのだ。憎たらしいと思いつつ、この気持ちをどこか懐かしく感じていた。


「ついでにアスミとヨウコも呼んでみよっか?」

「それはやめて!」

 レイジは叫んだ。けれども数分前に比べて、会いたくないという気持ちは不思議と小さくなっていた。

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