41話 約束なんてクソ食らえ
(警告⚠️)パロディネタを不快に思われる方はブラウザバックを推奨します。本当に申し訳ない。
「見ろよ! レイジの奴また彼女作りやがった!」
「何ぃ!? おのれこれで何人目だ?」
「これはすぐにヒカリに報告を……」
校門に着いたレイジは、教室の窓から覗いてくるクラスメイトの心の声に気づき、失敗したと思った。
普段通りの時間で行けば、登校時間ギリギリ。早い人はとっくに教室に着いている。見つかってしまうのは当然のことで、一本早い電車で行くか降りてからは別々に歩くべきだったと後悔するが、今何とかするべき問題はそこではない。
レイジはイブキにお辞儀をして校門の手前を通過した。これで彼女と一緒に校門前に来たのは自分のそっくりさんと言い張れる。意図を理解していないイブキは立ち止まっているので、指で校舎を指し先に行けとジェスチャーするが、彼女は首を傾げて動かない。
仕方ないので教室の窓から見えなくなるまで進んで折り返そうとし、今日は遠回りして反対方向から来た、たまたま校門で出会したということにしようとしたが、後方のイブキに気を取られていて前方の様子に気づかなかった。
「きゃっ!」
何かにぶつかり、レイジはふらついた。前を向くと、ヒカリが尻餅をついて倒れている。前にいる彼女に気づかないままぶつかってしまったことに気づいたレイジは、すぐに謝った。
「何やってるのよ。」
一方イブキは怪訝な顔でじっと見てくる。誰のせいでこうなったと思っているのか。レイジは諦め、校門へ戻っていった。
「見ろ! 正妻のお出ましだ!」
「両手に花ってまさにこれか! あの野郎、呪ってやる。」
「ヒカリとツーショットに見えるよう撮ってやろーっと。」
レイジは俯きながら校門を抜け、昇降口に進む。左手にはイブキ、右手にはヒカリ。二人が正式に顔を合わせるのは、先月の上旬以来だ。先週会ったとき、イブキは眠ってしまっていてヒカリと会話していない。
ヒカリ目線、普通の人なら、この二人付き合っているのかなくらいに思うのだろうが、彼女に至ってはイブキと同居していることを知られてしまっている。逆にイブキにはヒカリがこの関係を知っていることを話していないため、さほど印象に残っていない。現に彼女はヒカリのことを覚えていなかった。
「きゃっ! ちょっと、真っ直ぐ歩きなさいよ。」
ぶつかってきたのはヒカリのほうだ。少しでも近づこうと肩を寄せてきたので避けようとしたところ、反対側のイブキに当たってしまったのだ。
驚いたのは、男子高校生に肩をぶつけられたというのにふらつきもしないイブキだ。体格差は大きい。身長は三十センチメートル以上、体重は二十キログラムほど上回る相手とぶつかったというのにふらつかないのは、相当足腰が強い証拠だ。
見た感じは何の変哲もない小学生だ。高校生として見ても小柄で細い。腕にも言えることだが、どこにあれほどのパワーがあるのか不思議でならない。そう思って見ていたのが、イブキに誤解されてしまった。
「何ジロジロと見てるのよ。何か付いてるなら言いなさいよ?」
目を泳がせるレイジは何とかして誤魔化したかった。そして口にしたのがよりによってこれだ。
「いや、本当に何もついてないなぁって思ってな……何がとは言わんが。」
「っ、はったおすわよ!」
目線の先が胸部にいっていることを自覚し両手をクロスして隠すと、顔を赤らめて睨んできた。
そうは言ってもすぐ手を出してこない辺り、人前だと丸くなっている。これから生徒会長候補となる者が、喧嘩っ早い印象を持たれるわけにはいかないのもあるが。
一方ヒカリは胸を撫で下ろし、優越感に浸っていた。彼女もそれほど豊かなわけではない。断じてない。せいぜい普乳。胸以外も普。すべて普。それ以上はプライバシーの問題なので思考は読み取らないし聞き出さない。
「とにかく、今日から頼むわよ。とりあえず、昼休みに教室に来て。」
それは後でメールなり電話なりで言えなかったのだろうか。ヒカリからの、そして上から覗くクラスメイトの視線が痛い。一言返事をして靴を履き替え、それぞれの教室に入った。
「おっ、来た来た。熱いなぁー、朝っぱらからよぉー。」
勝手に盛り上がっているのはお前らだろう。レイジはそっぽを向いて机に座った。
「そこ机だよ。」
「あれ、久々だから勘が鈍ってるんな。」
というのは冗談。当てつけに椅子に座ろうとした瞬間引き抜いてすっ転ばせようと企んでいる男の思惑を狂わせるためだ。
四時間目のチャイムが鳴り終わり、今から昼休みだ。腹ペコ男子どもはあらかじめ取り出していた小銭を手に持ち一斉に立ち上がり教室から出ていく。学食に行く人もいれば、売店のパンを狙う人もいる。レイジも後者の内の一人だ。
学食に行く手もあるが、一緒に行く人がいないのが問題だ。ヒカリは基本的に毎日弁当を持参し、一度だけ約束して一緒に学食へ行ったきり。
売店のパンでは足りないと感じてはいるが、弁当にすると中身がいつもイブキと同じになってしまい、同居がバレるのは時間の問題になってしまうからだ。居候の身として、別々の弁当を作ってもらうよう駄々をこねるなどできない。料理ができればいいのだが、練習する気はさらさらない。
それに市民大会以来、ヒカリにおかずを分けてもらっているので売店のパンだけ買うのも苦ではない。むしろ出費は抑えられている。
そんなこんなで今まさにダッシュで教室を出ようとしたところ、誰が出るよりも早いイブキが教室に飛び込み、レイジを連れ出していった。
「お邪魔します。」
その声だけが教室に残り、入口にいたイブキと室内にいたレイジの姿は忽然と消えていた。何が起こったのか誰も理解できず、硬直した空気が漂った。
「ちょっと放せ! 月曜はメロンパンが安いんだ! ってか何か買わせろ!」
レイジの叫びは届かぬまま、イブキに引っ張られ足がつかないまま体は階段を上がっていく。上の階に辿り着いたところで解放され、息を整えていたのもつかの間。指で弾かれた何かを口に入れられ、顎を持ち上げられ飲み込まされた。
「はい、昼ご飯は終わり。まずはA組に行くわよ。」
理解が追いつかない。まず、口に突っ込まれ強引に喉を通された物は一食分の学食のメニューを圧縮しビー玉ほどのサイズにした物だった。
これにより一食分の栄養を数秒で取り込めたらしい。消化の面としては、噛んで砕けるほど柔らかい物でもないので胃液で少しずつ消化するというもの。つまり口は使っていないものの体内では食事を続けているという状態だ。
噛むことによる唾液の分泌などの問題が心配だが、それ以上に危険だと思ったのは具材の鮮度だ。
「これ先週の学食だろ? 丸く潰して引き出しの中に四日放置してるうえに、床に落として埃まみれになったやつだろ!」
「買ったのを忘れていたのよ。捨てるのももったいないし、昼飯代浮いたから一石二鳥ね。あ、今度一回奢ってもらうからそれで貸し借りなしにしてあげる。」
イブキは学食を一日二食注文する。一食はそのまま食べ、もう一食は保存食として圧縮し、円筒状のケースに乾燥剤とともに保管する。
これで夜中トレーニング中にお腹が空いても食べることができるし、混んでいて学食に入れない日は代わりに食べることもできる。
ただ消費期限という問題点があり、彼女にとっては二日が限度だ。そんな代物を、四日放置していたうえにゴミが付着した物を、いきなり他人の口に突っ込み飲み込ませるのは人としての神経を疑わざるをえない。
彼女を生徒会長に推薦して良いのだろうか。今になって思い返すと不安だらけになるレイジをよそに、イブキは一年生の教室へ駆り出した。
「失礼します。」
教室の前の扉から入り、クラス中の生徒の前でイブキは演説を始める。さすがは中学校で三年連続生徒会長になっただけある。ハキハキとした喋り方、最後列に座る生徒にも届く大きな声、そして何より、本心と微塵も違わない決意表明。
どれほど他の立候補者が優れていようと、彼女にはかなわない。レイジはそう確信をもっていた。
「待っていたわ、辰巳息吹。あなたも立候補すると思っていたわ。」
去年のこの高校の生徒会長にして、今年も会長の座を狙う二年の女子高生だ。どうも彼女が中学二年生のときから生徒会長を目指していたが、二年連続でイブキに敗れていたのを根に持っているようだ。
そしてイブキと違って信念はなく、Fランクである自分でも評価されたいというただのプライド、名誉のために会長を目指しているのだが、それなりに信頼を得ているらしい。気に食わない女だ。
「今まで私一人にかなわなかったのに、今年の私に勝てるなんて思ってる?」
中学のときは同じクラスのコミチが推薦者を務めていたのだが、まるで彼女はいなかったことにされている。最も形だけの推薦者であり、演説のときも傘を指したまま内側にぶら下げた原稿を読んでいただけであり、まったくと言っていいほど貢献していないのであながち間違いでもないが。
そんなことより、今のイブキのセリフで重要なのは“今年の私”だ。レイジのことを、頼れるパートナーと見ているからこそ出てくる単語であり、それは紛れもない本心で鼻が高くなる。
もちろん対抗の女子は彼のことなど知らない。レイジのことは、最初こそ校庭でカリンを負かしたことで話題になったがそれは一過性のもの。翌週には噂をする人はほとんどいなかったし、話題が再発することもなかった。
ゆえに今の彼は、完全にダークホース的存在。このままイブキが生徒会長に当選すれば、推薦者である自分も有名になること間違いない。彼はそう妄想し、頬の緩みが収まらなくなった。
「私たち忙しいので、失礼します。」
イブキはレイジの頬を摘まんで引っ張り歩き出した。痛みで現実に戻ってきたレイジは、放してと訴えながら腰を曲げた状態で自力で歩いていった。
その後は二つの教室を周り、昼休みは終わりを迎えた。続きは明日のこの時間ということになり、それぞれ教室に戻っていった。
「それで、今日の成果はどんな感じだったの?」
成果、つまり学生の反応だ。人の心が読めるレイジは、イブキの演説中聞いている生徒の心を読み、彼女自身やその演説に対しどのような印象を受けているか読み取ることができる。もちろん、他の候補者の見方も知ることができるので、彼としたらその場にいるだけで情報収集に貢献できているのだ。これが、イブキにとって頼れるパートナーと評価される由縁である。
「大方の予想通り、候補者は二人だな。半数は中学時代のイブキを知っていて、こちらを支持しているから、全体としても優勢になってる。」
「まあ当然ね。ここまで来たら狙いは高くするわよ。」
イブキの狙い、一見無茶だが手を組めば不可能ではない。
「得票率百パーセントか。」
レイジの言葉にイブキは強く頷く。こちらはより信頼を高め、向こうの評価が落ちるよう仕向ける。誰もが認め、誰もが逆らえない存在、学校の絶対的権限者になることが、最終的な目標となった。イブキが満足するならそれでいい考えのレイジは、彼女の提案には一切反対しなかった。
それから一週間は教室を回った演説が続いた。世論はイブキ優勢にして、差は広がる一方おそらく今投票すれば、九割以上の得票率で勝利するだろうが、目標は全票獲得、十割の得票率だ。
選挙活動が熱くなる一方で、組織票の構成の噂が立ち込めてきた。
賄賂ではなく、脅しによるもの。クラス単位で取り込み、当選を確実にしようとする陰謀だ。上級生から下級生までまんべんなく押さえつけにいくことを知る。ここからはレイジの仕事だ。
人を脅すのは簡単なことだ。一つ弱みを握ればいいだけ。バレるとまずいこと、人質を取られること。あらゆる情報網を駆使して様々な人の弱みを握ろうとしているのが、あちらこちらで話題になる。
その首謀者の首を掴み、逆に支配権を取る。まるでオセロだな。一手二手先を読むことに関しては、常に相手の手の内が読めるレイジの右に出る者はいない。一つ、また一つと駒を増やし、最終ラインですべての支配権を握る。
こんなことが職員に知られると本末転倒。けれども向こうの連中は教員の弱みさえ握り利用してくる。あくまで対等に勝負してやるつもりでいたが仕方ない。とことん本気を出し、学校全体をも支配する。こうなったレイジは止まらなくなった。
「順調そうね。さすがは私のパートナー。」
「まあな。このまま生徒会長、いや、支配者の座はいただきだな。」
イブキとレイジは完全に調子に乗っていた。特にレイジ。相手陣営が混乱しているのが見てとれ、笑いが収まらない。
「上機嫌ね。」
「ああ。俺たちの積み上げてきたもんは、全部無駄じゃなかった。これからも……」
今日も今日とて話し合いながら登校しようと玄関を出た矢先、パシャパシャという音とともに眩しい光の点滅が二人を襲った。顔を見られてはまずい。レイジは咄嗟にイブキの姿を隠すべく、身を盾にして彼女を抱き抱えた。
しかし、それは無駄な抵抗だった。
「レイジ? 何やってるのよ? レイジ!」
「ぐっ! うおぉ……」
イブキは思わず正拳を突き刺してしまい、レイジは崩れ込むように沈んでいった。
「張りつめていた甲斐があったわね。まさか同棲しているなんて。こんなのが知られたら、選挙どころじゃなくなるわよねぇ?」
イブキは瞬時に飛びかかろうとしたが、瞬間移動で逃げられてしまった。
ここにきて、まずいことになってしまった。レイジは頭を抱え込む。学校に着いてからどんな目に遭わされるか。考えるだけでも、恐ろしいものだった。
「あっ……ああ……」
「なんて声、出してやがる……こんくらいなんてことはないだろ?」
レイジは立ち上がりながら宥めようとするが、イブキが悩んでいる原因、それは写真を撮られたときのレイジの行動にある。
なんてことがないと思っているのは彼だけだ。家の前で高校生男女が朝から抱き合っているのは、確実に大問題なのだから。
「謝っても許さない。」
「ホントすまねぇ……庇ったつもりが逆効果だったな……」




