33話 悪の3人組
「そろそろ助けてあげましょうよ?」
「そうだな。ルインの奴止め指そうとしているし、いい頃合いだろう。」
レイジは鞄のチャックを開け、中から目出し帽とマントを取り出した。
「……何よ、これ。」
「何って、ヒーローグッズだよ。」
アイコは小道具を受け取ると、渋々と装着し出した。
「いい加減帰りなよ。そろそろ怒るよ、本気で。」
ルインが詰め寄ると、三人揃って一歩引いたが背中を向けようとはしなかった。
「どうすんだよ……」
男の子二人はリーダーの子を見る。先に逃げてしまうと、以降はいじめの対象になる。だからリーダーが指示するまでは逃げるに逃げられなかった。そしてそのリーダーも、まだ諦めていなかった。勝てないのは十分に承知している。けれども認めたくなかった。一言ぎゃふんと言わせられればそれでいい。馬鹿にされたまま負けたくはない、そんな意地があった彼は、逃げるという選択肢を選ばなかった。彼はその判断が間違いだったことに気づいたが、もう遅かった。
「ぎゃあああ! いたっ、痛いいい!」
男の子三人組の体が青い光に包まれると、体が宙に浮かんだ。頭を締めつけられるような激痛が走り、身動きが取れない。足をバタバタ動かしても、青い光と痛みから解放されることはなかった。
「このまま破壊したいけど、それは犯罪になるからね……」
ルインは両手を伸ばし、彼らのほうに向けている。手の先から青い光が溢れている。あれが力の源だ。見えないボールを握っているかのように中途半端に開いた手は、徐々に握られていく。そしてそれに伴い、彼らの頭にかかる力は増大し、今にも砕けてしまいそうだ。
そして次の瞬間、ルインが手を下ろすと男の子たちは落下し、重なって倒れ込んだ。
三人は起き上がれないが、意識はある。歩道に寝転がるように倒れた彼らの目に映ったのはルインの足。少しずつ見上げていくと、スカートが見え始めた。
「へぇ、やっぱり水玉なんだ。」
レイジは男の子たちの心の中を読み取ったが、つい口に出てしまった。何のことかとアイコに突っ込まれたが、気にせず壁を登りきった。
男の子たちの視線に気づいたルインは、スカートを押さえて一歩引いた。さらに怒りのボルテージが上がった彼女はヒエイに聞いた。
「ねえヒエイ。どうしようか。」
ヒエイは空を見上げた。少し先のレストランの屋根の上に、顔がよく見えないマントをつけた二人組が見えた。顔こそよく見えないが、さっきまで一緒にいた人が抱えていた鞄と同じように見える物を担いでいるのは分かったため察しはついていた。何やってるんだかと心の中でツッコミを入れたヒエイは応えた。
「蹴り飛ばしていいんじゃない? 真上じゃなくて、斜め前に。」
それを聞いたルインはすかさず三人纏めて蹴り飛ばした。これまた破壊のエネルギーが乗り、女子高生の蹴りとは思えないほど高く遠くに蹴り上げていた。
暗闇の中、宙を舞うか弱い小学生たち。蹴り上げられて放物線上に飛ばされていると、空中から謎の影が彼らを捉えた。
空中で三人ともキャッチをしたのは、二人組の覆面人だ。
「誰!?」
「何者!?」
イノリとルインは叫んだが、ヒエイは顔色一つ変えなかった。彼らがすぐそばのレストランの屋根で待ち伏せていて飛び降りたのが見えていたからだ。そして、その覆面の正体も分かっている。
「君たち、大丈夫か?」
覆面は子どもたちを優しく降ろすと、彼らを庇うようにルインたちの前に立ちはだかった。
「よく分かんないけど、怪しい奴!」
ルインは再度体を光らせると、今度は砲撃を放った。青く太いビーム状の砲撃が、覆面、そして男の子たちをめがけて襲いかかる。
「今だ!」
覆面の男の叫び声とともに、もう一人の覆面は両手を前に出し、同じく青色の光を放った。
厳密にはルインのより紫がかっていて、禍々しく見える。双方のエネルギーが衝突すると、どちらが押しきるかの力比べが始まった。
ルインは全力で放っているが、力の差は歴然。紫がかった青い光がルインのエネルギーを押し返し、体を直撃した。激しい爆発音とともにルインは吹き飛ばされた。
「大丈夫か!?」
吹き飛ばされたルインが地上に落下する直前、ヒエイは全身を抱えるようにキャッチした。おかげで彼女は体をコンクリートにぶつけずに済んだ。
「あ、ありがと……」
「ふう、無事で何よりだ。」
顔を赤らめるルインを、イノリはじっと睨んでいる。
光線が当たる前に盾になれば、光線は無効化できてルインが吹き飛ばされることもなかったのに。そう思っていた。実際その通りであるが、ルインは気にもしていなかった。
「いいぞお前ら! あんな奴ら、けちょんけちょんにしちまえ!」
強い味方が来たと勘違いしている男の子たちは後ろから囃し立てた。覆面の男はイラっとしたが、相手にはしなかった。
「お前たち、正体を明かせ!」
茶番劇に乗ったヒエイはおもいっきり棒読みで叫んだ。するとかけ声とともに同時に覆面を放り投げ、その素顔を明かした。
「俺たちは(私たちは)正義と希望の(この街を守る)ために生きる(魅惑の戦士)魔界の使者(今ここに)! 我ら、新生・六調停者!」
バラバラの名乗りで何を言っているのか理解できないヒエイたちをよそに、アドリブながら最後の一文だけは綺麗に揃えたことに満足したレイジとアイコは得意げにポーズを決めていた。
名乗りを終えると急に静まりかえった。冷静になって恥ずかしいと感じたアイコは顔を赤くし目元を隠して顔を背けた。
「……あれアイコだよね……何やってるの?」
「分からないよ……」
イノリとルインはこそこそ話している。それに気づいたヒエイは、彼女らに一言伝えた。
「ちょっと付き合ってやれよ。」
それだけ聞くとルインは再び破壊のエネルギーを放った。光はレイジをめがけて進むが、彼の前に出たアイコは赤い光を放った。
願いの障壁。瞳が赤く輝くアイコの手から、赤みを帯びた紫色の光のベールが広がり、破壊の光を通さない。それを見てイノリたちはアイコ本人だと確信していた。
ルインが撃つのをやめると、今度はアイコの瞳が青く輝き、青紫のエネルギー弾を放った。イノリはアイコが出したような障壁を張るが、アイコの砲撃に押され続け、破壊されてしまった。
破壊のエネルギーが二人に直撃するかのように思えたが、その直前ヒエイは二人の前に出て右手を伸ばした。
右の手のひらは完全に砲撃を食い止め、どこにも被害を巻き込まないで抑えきった。もちろんヒエイ自身にも影響は及んでいない。格上の能力だろうと完全に無効化するのが、彼の能力の強さだ。
「やったわね。警察を呼ぶわよ!」
「ははっ、勤務時間を過ぎた警察が、呼んで素直に来ると思っているのか!?」
それは言い過ぎじゃないかと心の中で思わず突っ込んでしまったアイコだったが、そもそもこの対話自体茶番であり、深く考えないことにするのが正解だと考えた。
守るだけでは勝てないと思ったのか、ヒエイたちはその後抵抗せずに捨て台詞を置いて逃げていった。
「くそっ、逃げるぞ!」
「ああっ、待ってよヒエイ!」
「置いてかないでよー。」
撤退するとは聞いてなく、予想もしていなかったイノリたちは一目散に走っていくヒエイを追いかける他はなかった。
「逃がすか! 悪の三人組め、俺たちがとっちめてやる。」
レイジとアイコもすぐさま走って追いかけ出した。
「あのっ、ありがとうございました!」
男の子のリーダーの声を聞き、レイジは足を止めた。
「俺もいつか、あなたたちみたいな格好いい人になります! だから……」
目を輝かせて言うその言葉は本音であった。しかし、レイジは嘲笑うように応えた。
「ははっ、世の中悪い大人ばかりだぜ。気をつけな。」
捨て台詞を吐いて再び走り出したレイジにアイコは言った。
「あなたはまだ大人じゃないでしょ。」
「そうか? まだ子どものままか?」
そこまでは男の子たちに聞こえた会話だった。レイジたちが交差点を曲がり、その姿が見えなくなった後、男の子たちは笑顔で帰ろうとしていた。
するとそこに、一人の男がやってきた。イノリが呼んだ、警察官だ。
「君たちか。店の前で暴れているのは。こんな時間まで出歩いて、何をしているのかな?」
男の子たちは自分たちは被害者だ、高校生に虐められたと弁明するが、警察官は聞く耳を持たず署に連行した。
その後親を呼び出され、こっぴどく叱られた。
「まったく、何やってるのよ。ホントにわけが分からないわよ。」
一連の流れにイノリと、特にルインは頭を悩ませていた。結局どこの店にも行けず、夕食を食べずに駅まで戻ってしまったのだ。ルインに至ってはアイコに攻撃されている。男の子たちに実害を与えたのも彼女だけだから、報いを受けたということだと伝えても納得しなかった。
「それよりアイコ、もう破壊のエネルギーを発散する必要はないだろう。どうだった、今日のやり方は?」
「ええ、まったく罪悪感はなかったわ。とても清々しいくらいにね。」
レイジにも分かっていたが、口に出すとアイコはなおさらすっきりしたようだ。毎晩困っていたアイコを知っているイノリとルインはアイコの顔を見てお互い顔を見合わせた。今日の出来事はアイコのためになったというなら、自然と許せてしまう。そんな心情だった。
「いい仲間を見つけたわね、アイコ。」
「変な仲間だけど、アイコにはぴったりよ。」
ルインたちの言葉を聞いて、彼女も納得がいった。誰かがいれば、自分ではやろうと思わない、思いつきもしないことだってできる。ヘキサフリートに入れなかったのは、別の居場所があるからだ。自分の適性、それを活かす環境。そこに気づけたことで、可能性の視野は広がった。悩みだって相談すればいい、困ったら頼ればいい。心の扉を開いたアイコは、心の底から笑えていた。
「ええ。これからよろしく、レイジ。」
レイジもアイコの目を見て、フフっと笑い声を漏らすと少し笑った顔で応えた。
「……よろしくな、リーダーのアイコ。」
「ってわけで、二人目のメンバーはアイコになったわけよ。」
「ふーん。あのアイコがねぇ……」
数日後、再びラクアのアルバイト先にヘルプで入ったレイジは、二人で食器を片づけながら一連の出来事について話していた。
「まあ、それで俺のバイトスケジュールに文句言わなくなるってんなら俺としてもありがたいけどな。」
「寂しいだろ?」
レイジの質問を聞いて、ラクアは固まった。
「別に、寂しくなんかねえし。むしろ気楽だってんだ。」
動揺が隠せてないのは口も体も同じだ。
「アイコの指示は守っていたんだろ? 勤労時間に対し必要な睡眠時間は。多く入る日を作る代わりに授業中や移動時間に寝て、目安の睡眠時間を確保してきたのに、その目安の時間を今後知らせてくれなかったら分かっているんだろ? 過労死するって。」
ラクアは否定できなかった。事実、アイコにスケジュールを管理してもらってからは授業についていけなくなることもバイトに支障をきたすこともなくなってきていたからだ。
ラクアが小学校五年生から始めたアルバイトは、全然体調管理やスケジュールの調整ができず、悩みが多かった。中学三年生になってアイコと出会い、目標睡眠時間と仕事量を考えてシフトを組めるようになってから、一気に負担が減った。最近はしつこいと感じていたが、アイコの助けは必要不可欠なのは事実だった。
「困るんならすぐにアイコに頼んだほうがいいと思うぜ。」
アイコが自分の意志だけで変えたのではない。押してだめなら引いてみろの理論でラクアから彼女に頼み込ませるようにすればいいという考えは、レイジの吹き込みによるものだった。
これもまた、自分一人では見つけられない考え方であり、仲間を持って初めて気づけたものだ。
「悔しいがそうするよ。」
ラクアはあっさりと受け入れた。そしてレイジに伝えた。
「あいつの可能性はまだまだ引き出せるはずだ。その芽を潰さないように頼むぜ。」
仲間内で争いを起こすな。ラクアの言葉はそう表していた。
「その言葉、トシヤにも言ってやってくれ。」
レイジはラクアに伝えた。
四天格。ヘキサフリートはともかく、全員がS+ランクという完全に自分たちより格上のグループ。それが今はグループとして機能していない。
原因はイブキとトシヤだ。それが分かっていながら、レイジはいまだ両者の力になれていない。トシヤたちが以前起こした暴動、イブキが居候となることを選んだ真意。お互いがお互いを理解しようとしないまま二年の時が経とうとしている。
窮屈な思いをするラクアたちのためにも、一刻も早く解決しなければならない。初のメンバーを加えグループとして成立したネオ・ヘキサフリートも、協力して力を尽くさなければならない。
勝負のときは、刻々と迫っている。そう直感したレイジは言った。
「でも俺は、イブキの味方になる。ならなきゃいけないんだ。」
イブキの家、レイジが居候している家に帰るための電車に乗らなければならないレイジは、更衣室に向かい帰り支度を整えた。




