31話 従姉妹ハーレム王
「それでは今日の練習はここまで。片づけを終えた者から帰っていいぞ。」
レイジたちの所属する部活動、小湊原高校バドミントン部の練習は終わりを迎えた。結局あの朝からレイジは1人先にヒエイの家を出て1度家に帰った。なぜアイコが起きたら全裸だったのかや寝間着が消えたのかは分からず、ヒエイがその後約束していた駅に向かったのかどうかも知らないまま出ていってしまったので、練習時間のほとんどはそれらのことで頭がいっぱいで、今一つ集中して取り組めなかった。
「どうしたんだよレイジ、今日ずっと上の空だったじゃん。」
「この前の市民大会で優勝できなかったのがまだ忘れられないのか? あれも結局ヒカリと一緒に行ったんだろ?」
同級生の部員には疑問を抱かれていて、次々と質問されて話が膨らんではまた他の部員がやってきてきりがない。ヒカリはヒカリで勘違いして不安そうな顔をしているが、彼女にはまったく関係のないことなのだし、そもそもヒエイやアイコに聞けば済むだけの簡単な話だ。
「いや、それは違くて……ああ、昨日夜遅くまでバイトしてて、疲れただけだ。」
どこのバイトだとも聞かれたが、1日限りのものだと話すとそれ以上を追及されなかった。
高校を出て、駅まで歩いていくレイジ。改札を通り、いつもなら歩道橋を渡って奥のホームへ行くのだが、今日は反対側、手前のホームに残った。
「今日もバイトか? それとも塾か?」
聞かれたもののどちらでもない。けれども適当に相槌を返して答えた。どこのだとかどんなだとかを知ったところで、その人に直接のメリットはない。少なくともこの連中は、さっきから興味本意で片っ端から聞いてくる。どこの塾に通えばいいだとか、どんなバイトが望ましいのかなどを真剣に考えていつなら喜んで答えるだろう。けれども知ったところでどうもしない人に教えるのは気が進まない。人付き合いはここまで面倒なものなのかと、却ってレイジを悩ませる。
レイジはそれからは他の人を無視して、スマホを取り出して弄り始めた。それを見た他の部員たちは、バラバラのタイミングで1人、また1人と携帯を手に取り、誰1人話さなくなった。
皆それぞれの、この場にいる知り合いとは関係ないやりとりに夢中だ。共通の趣味や塾でできた知り合いとの交流、果てには1人でオンラインゲームなど、やっていることは人それぞれだ。
そんな周りを見て、自分への注意がなくなってと思ったヒカリはこっそりと電車のドアに寄っ掛かり、我慢していたスマホを開いた。この間の連休に一緒に行った遊園地で撮った写真を、1枚見てはスライドして次の写真を見て、その度に撮ったときのシチュエーションを思い出しては笑みが零れている。声に出ないよう注意しているが、もう他の人の視線への注意はなかった。幸い皆それぞれの携帯の画面に夢中でヒカリの挙動には気がついていないが、当人であるレイジに見られていることにはまったく気づいていない。
1駅で降りなければならないはずなのに、写真に夢中で気づかないので、レイジはヒカリにスマホでメッセージを送った。
「もう着くぞ」というメッセージが届いたヒカリは我に帰ると、顔を上げ周りを見渡した。ほとんどの人がそれぞれの画面を見ているなか、レイジだけは真っ直ぐにこちらを見つめている。写真を見てにやけていた顔を見られてしまったことに気がつくと、「ひゃっ」と叫び声を上げてスマホで顔を隠した。
『まもなくー、小御門ー小御門。小御門の次は、に止まりまーす。』
ヒカリが降りる駅が見えてきた。基本的に小湊原高校に通う学生はこの駅より先で降りることはない。この次の駅が最寄り駅となる地域に住んでいる高校生は、ミライやセツナの通ういすみ崎高校の生徒だ。ヒカリだけでなく、多くの部員がこの駅で降り、残ったのはこれから塾に向かう2人だけになった。
ちなみにレイジは塾に通わず独学だが、本当のことは言わずこれから塾に行くことにしている。仮に今後別方面に向かっていて理由を知ろうとした生徒に聞かれ、「前は逆方面だったよね」などと言って追求してこようものなら、「そんなこと言ったっけ」と言ってはぐらかしてしまえばいい話だ。
レイジは5つ先の大薔薇駅で降りる。そこは今朝方ヒエイが女子2人との約束をすっぽかし慌てていた用事における集合場所だ。
なぜそこにレイジが行くのかというと、あれからヒエイはアイコを連れてそこの駅に向かったらしい。1時間半以上も待たせて駅に着くと、それからずっと公園にいたらしい。駅から歩いて20分。レイジも春休み中に1度入った、この地域で随一の広大さを誇る公園、大薔薇公園。
なぜそんな所に行って、今に至る18時まで何をして時間を潰していたのかは知らないが、今日の14時頃、ヒエイからそこに来てくれというメッセージが届いていた。レイジは部活中でスマホに触れることができず、ヒエイからはその後3時間、何もメッセージが送られてこなかったので、今部活が終わったことを伝えたところ、なら今から来いという返信が速攻で来たからだ。
電車に乗ること40分、駅から歩くこと20分。大通り沿いに進み交差点を1度曲がるだけで着いた公園は、名前に反して薔薇はあまり咲いていない。そして何より空は真っ暗で、薔薇どころかろくに花が見えない。
街灯を頼りに道を進み、中央広場に辿り着くと、本当にヒエイたちがいた。レイジが来たことにいち早く気づいたヒエイは、安心したかのようなため息をついた。
「紹介するぜ。こいつがレイジ。あのヘキサフリートの牙城を崩した期待の新生。そして、ネオ・ヘキサフリートにアイコを勧誘している創始者だ。」
無駄に凝った肩書きをべらべらと語るヒエイだが、イノリとルインにはこんな奴のためにずっと待たされていたのかと憎まれているのが伝わってくる。そもそもレイジはここに来るとは一言も言っていないし、恨まれる筋合いはないのだが、ヒエイの悪友という認識をされている時点で彼女らからの印象は良いものではなかった。
それ以前に、レイジはアイコをヒエイの家に泊めさせにきた張本人だ。その事実がある限り、ここに来ようと来まいと、良い印象を抱かれていなかったのだ。
レイジはイノリとルインの顔を交互に見た。アイコの誕生経緯を考えると2人に似た容姿になるのは合点がいく。しかし、この2人自体が従姉妹に当たるはずなのに、一卵性双生児のように瓜二つの容姿をしていた。
中身が違うのだがら好みの服装が違ってもおかしくない。比較対象は顔と髪型だ。目の色、髪の色を除けば、まったく同じに見える。今の座っている状態では背丈は分かりにくいが、それすらも変わらないようにも見える。
つまり、モノクロの写真を撮ればどっちがどっちなのかが分からないほどに、2人の姿はそっくりだった。
以前1度だけ、似たような光景を見たことがある。レイジの記憶にあったのは、カリンに呼ばれて彼女の地元へ行ったときのことだった。
カリンの学友であるサクラとフユキ。2人は学年の変わらない姉妹であり、目の色、髪の色、そして髪型が違うだけでこれまたそっくりの外見をしていた。ルインたちとの違いを挙げるとすれば、サクラ・フユキは服装、というより衣装が同じで、イノリ・ルインは髪型が同じというものだ。
そして共通点は従姉妹揃って高校1年生であること、生まれが早いほうは赤で遅いほうは青のイメージカラー。そして、ヒエイと関わりがあるということだ。
「ヒエイ……お前奇妙な所に惹かれるんだな。この2人といい長袖の2人といい、双子のような赤青従姉妹の両方を手にかけるとか、どういう性癖持っているんだ?」
ヒエイと同じ高校に通う、サクラとフユキのことを言っているのだとすぐに察した2人は、ヒエイに問い詰めた。
「ちょっとヒエイ! サクラたちにも手を出したって本当!?」
「詳しく聞かせてもらおうじゃない!」
ヒエイは困惑したように返しに詰まっているが、それが事実であるのかはレイジには分からない。少なくとも以前サクラたちに会ったときは好意を抱かれている程度で行為には至ってないのは分かっているが、それは1ヶ月ほど前の話であり、その後のことは分からない。そしてこの2人とは、何一つ進展していないだけに疑いは収まらなかった。何としても聞き出さないと、安心ができないからだ。
「だからぁ、誤解だって! そりゃあ、たまたま俺の周りにいるのが双子の姉妹っぽい同級生なだけで、俺が進んでそいつらと絡みにいってるわけじゃないから!」
その失言は余計にルインたちを怒らせていた。特にイノリに至っては、日頃からヒエイと結ばれたいという願いを能力で叶えようとしているのにヒエイの能力‘幻影’によって無効化されているのだから、今にも爆発しそうな感情をかろうじて押さえ込んでいる。ルインは破滅の力で1度ヒエイを痛い目に遭わせてその優柔不断さを自覚をさせようと思っているが、これまた無効化されるのでどうにもできない。
そもそもこのヒエイという人物は周りの能力を受けないためか周囲への関心が薄く、何か強い感情を抱かない限り他人に興味を持たない。異性に対する関心はあれど、踊っているときのアゲハからチラチラと見える太股のような、身体の魅力しか見ていない。恋愛感情は不明だが、そう言った話はしてこなかったうえにルインたちの反応を見ていると、自分どころか周りのことにさえ気がつかない超鈍感な男だ。
それでいて無駄に正義感が強いのだがら、惚れてしまった子は御愁傷様である。
「話が進まないな……ヒエイ、単刀直入に言う。俺を呼んだのはなぜだ?」
ルインたちはヒエイがレイジを呼び出した理由も、こんな時間まで公園に退こっている理由も知らない。知っているのはヒエイだけだ。
朝からずっとこの公園にいるのではなく、しばらく公園の遊具で遊んだ後は少し歩いた所にあるレストランで昼食を済ませると、ショッピングモールへ行き買い物をしたりゲームセンターで遊んだりしていた。それからフードコートで時間を潰すとレイジからの返事に気づいたヒエイは皆を連れて公園に戻った。その経緯は分かっていた。肝心なのは、そこまでしてレイジが来るのを待っていたことだ。
「そうそう、レイジからも言ってくれよ! 今朝の件は事故なんだって。」
寝坊して約束の時間に遅れた。その話はもう済んだこと。問題はなぜアイコがヒエイの家にいたのかだった。
アイコからも泊まりにいった経緯は話してあるが、ルインとイノリは納得していなかったことや、それを黙っていたことに文句があるようだった。
結局アイコの寝間着は見つからなかったのも、ヒエイが隠したのではないかと疑われてしまっている。だからその誤解を解くために、現場にいて事実を証明できる立場にあるレイジを、何としても今日中に呼びたかった。
それがヒエイの言い分だった。
レイジはアイコにヒエイの家に泊まるよう伝えたのは事実であり自分が言ったことに間違いはないと話した。
問題はアイコの寝間着だ。どこにいったのか見当もつかない。仮にヒエイが本当に隠しているとしたら、その事実を唯一知っているヒエイから心を読み取ることはできないので彼の力では真実に辿り着けない。
けれどもそれ以外の理由、ルインたちが納得できるような理由を話せば、ヒエイが隠してようと隠してまいと、彼への疑いは晴れる。レイジは昨日聞いたアイコの生い立ちを思い出し、ある程度信じられる原因を考える。
アイコの能力は、願いを叶えること。そして願いを叶えていくと、定期的に発散しなければならない破壊のエネルギーが溜まっていくこと。
これらの情報から考えられる、信憑性の高い予想は、このようなものになった。
「多分、アイコの服は無意識に破壊されてしまったんだ。」
一見でたらめな意見だが、アイコの能力を考えれば筋は通っているはずだ。まず願いを叶えすぎたことによる破壊のエネルギーが、彼女が眠り意識しない内に発散され、結果として寝間着が消滅したのだというのがレイジが口にした精一杯の仮定だ。
「そういえば、私があれ以外の服を着て寝たのって昨日が初めてかも。」
普段のアイコのパジャマは毎日同じ物であり、勝手に消えることはなかった。けれども昨日のパジャマが消えたのは、普段着る寝間着を置いてきたためにまったく来たことのない服で寝たのが原因かもしれないという考えに、意外にも早くアイコやヒエイにも伝わっていた。
「そうか……昨日アイコは俺の母親の服着て寝たからなあ……自分の服じゃないと、壊れちまうのかもな。」
定期的に破壊のエネルギーを放出しなければならない。アイコはそう言っていた。それは意図的なものでないこともある。昨日は帰るのが遅く、エネルギーを逃がすことができなかった分、眠っている間に漏れだしてしまったのだろう。そして布団には影響を及ぼさず、着ていた服だけを消滅させた。それに気づかず朝を迎えていた。
普段着ている服はアイコの効果を受けない性質があるのか、1日の終わりにエネルギーを発散せずに眠った場合でもどこにも影響を及ぼさなかった。
自分の能力を副作用を知らなかったゆえに、今朝のトラブルが発生した。
アイコは生み出されたそのときに着ていた服を現在寝間着として使っているので、破壊されない性質があることも頷けるはずだ。
おそらくこの仮定が、1番穏やかに解決できる最適なものだろうと、レイジは考えた。
「はぁ……まあ、それが本当かどうかは置いといて、変なことはなかったのは間違いみたいね。」
疑いが晴れたのか、イノリはもうこれ以上聞き出そうとは思っていなかった。ヒエイがアイコを呼んだわけでないのは信じてくれているし、遅刻こそしたが約束通り来てくれたから許せるそうだ。
「ま、まあ、私は最初から疑ってなかったし。イノリと違って。」
「はぁ!? 9時になった瞬間マンホールへし折ったのは誰よ!」
「それから怪しいと思って電話かけたのはどっちだったっけ? 私は来るって信じてたし。」
イノリとルインが口喧嘩を始めた。同居しているアイコからすれば日常茶飯事で、驚きはしなかったが頭を悩ませていた。
似た感性を持ち2人で1人分の意見しか持たないありきたりの双子ではなく、姉妹なのかと疑うギスギス具合はやけにリアリティーがあった。もっともこの2人、ルックスが似ているだけで姉妹ではないのだが。




