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オートセーブは深夜0時に  作者: 夕凪の鐘
Episode59 同盟親睦会
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309話 打倒鬼の二千代

 清澄きよすみ祈聖ノエルの家にて勃発した、四校同盟のリーダー決定戦。打倒二千代高校を掲げる五人の主犯格の乱闘の勝者がリーダー、その手段での決定には誰一人異議はない。

 小細工なしの大乱闘を制した者が、リーダーの地位を手にする。


 勝負開始一秒。四人は床に突っ伏した。


「痛っ、動けねぇ……」

「“ノーツ”も、出せない……」


 0.36秒という一瞬のうちに四人は体の自由を奪われ、立ち上がることさえできなくなった。

 “ノーツ”と呼ばれる人それぞれの特別な力。それさえも転んだ瞬間に使えなくなってしまった。何もできない状態となっては、投了ものだ。



「……あれ、当たったの?」


 美南みなみ哀月アイリは部屋の中が静まり返ったことに違和感を覚え、四人の様子を確認する。粘着シートに捕まったネズミのように、皆硬直していた。


「アイリ、お前の仕業か!」

「うん、そうだけど……」


 体からクモの糸を放出し、触れると剥がれず“ノーツ”を使えなくなる。それがアイリの力だ。現状に戸惑う彼女は、ノエルからの問いかけに思わず素直に答えてしまった。


「そうか……お前の勝ちだ、アイリ。皆もそれでいいだろう?」


 アイリの“ノーツ”と判明したところで攻略の目処は立てられない。ノエルたちは彼女の勝ちと認め、臨戦態勢を解いた。彼女も決着がついたと判断し、クモの糸を解除した。



「これでもう動けるようになったよ」

「ありがと。くそっ、完全に忘れてた……」


 以前にも何度か味わったことがあったにもかかわらず餌食になってしまったノエルは特に悔しい思いをする。アイリ以外の三人を警戒するあまり、彼女のことが眼中になかったことが敗因となってしまった。

 そしてノエル以外の三人も、思わぬ伏兵に完膚なき敗北を叩きつけられたことに反省している。


 だが、次のアイリの一言が一層彼らの心を傷つけた。


「あなたの勝ちよ。すごい“ノーツ”持ってるのね。驚いたわ」

「私自身も驚いたよ……二千代の人たちには全然当たらないから」


 避けられて当然と思っていたアイリは、試行回数一回で一網打尽にできたことが信じられないと言い放った。その理由は、彼らが打ち勝つと決めた相手、二千代高校のメンバーには通用しないためだったのだ。



「えっ、それってつまり」

「二千代、主にトシヤには全部読まれてて……彼にはもちろん、誰にも当てられないなんてざらにあったことだから」


 久しぶりに名前の上がった赤羽あかばね十四哉トシヤは、二千代高校という最多の“ノーツ”持ちを擁するチームのリーダー格。

 トシヤは鎖を自在に操り、地面に広がるアイリのクモの巣に触れないよう空中に鎖を張り巡らせる。


 アイリの実力が二千代に通用しないのは、トシヤが自分だけでなく味方全員をその鎖に乗せて回避させるため。仲間の位置を把握し彼らの跳躍に合わせて鎖を張るという連携で、動きと“ノーツ”封じを封じてくる。


 縄跳びを例に挙げると、十四本ある腕で個別に大縄を回し誰一人つっかえさせずに跳び続ける芸当を成し遂げているということだ。



「ってことは、奴らにとっては避けられて当たり前ってことか!?」

「なのに私たちは誰も避けられなくて……」


 直接戦うまでもなく、目標の相手との差を思い知らされた。そして今の段階で果たして勝てるのか、彼らは一気に不安に思えてくる。


「きっとたまたまだよ。アイリの“ノーツ”を知っていれば警戒するのが普通だし」

「甘い! 奴らは全員の“ノーツ”に対策を立てているかもしれないんだぞ!」


 アイリはSランク未満の有象無象の一人に過ぎない。彼女にだけ特別対策を練っているから戦って勝てないとは限らない。

 そんな高尾たかお星香セイカの予想は浅はかだと突き返された。



「とにかく欠点を残したまま二千代とは戦えねえ。アイリ、特訓に付き合え」


 ノエルは次元のゲートを作り、特訓の地に向かおうとした。出口は近所の公園だ。


「公園で鬼ごっこだ。走りながら、アイリの糸を避けられるようになる!」

「面白そうね。あ、でも靴履かないと」


 ノエルの“ノーツ”は任意の場所に瞬間移動できる反面、服装には気をつけなければならない。屋外と屋外を行き来するときは、靴の脱ぎ履きの用意が必要なのだ。


「なんなら皆、一旦外に出ようぜ」

「ってかわざわざワープする距離でもねえわ。歩いていこう」


 彼らが集合してノエルの家に来るまでにも次元を越えた瞬間移動の繰り返しだったので、まともに歩いていない。

 体を暖めるためにも適度に足を動かすことには、皆賛同した。



 公園へ行く途中、ノエルたちは飯田橋いいだばし千夜センヤに出会った。彼もまた同じ小学校を卒業し二千代を離れた経歴をもつ、同じ立場の同学年だ。


「やあ、ノエル……と、久しぶりの人たちだ」

「センヤか、ちょうどいい。お前も来い」


 ノエルはセンヤを飛び入り参加させ、六人で公園に向かった。その行く途中でセンヤは動機と目的をざっくりと聞かされ理解した。


「ノエル、なんで誘ってくれなかったのさ」

「すまん。忙しくて忘れてた」


 “ノーツ”を持ち、二千代高校には行かなかった繋がり。そのメンバーを集めて同盟を組んでいたなら、ノエルと同じ高校のセンヤは最初から絡んでいてもよかったはずだ。だが除け者のように放置されていたと知り、不満をぶつけている。



「で、アイリの“ノーツ”を避けられるようになるための特訓に行くと」

「そうね。っていうか知ってた!? この子ノエルと付き合ってたのよ!」

「うん、だいぶ前から……過去形? 別れたの?」


 センヤはノエルとアイリの関係については五ヶ月前から知っていた。他の生徒に成り済ましたアイリが彼らの学校に来ており、そのとき彼女の口から聞かされ知った。

 だがセンヤも二人の関係が終わっていたことは知らなかった。


「最近な。アイリを使っても二千代の奴らは来ねえから」

「なるほど、アイリを利用してラクアたちと戦おうとしたのか。で、諦めたと」


 アイリに恋人ができたと知れば、三郷みさと楽阿ラクアは黙っていない。ラクアを刺激すれば芋づる式に二千代のメンバーが誘き寄せられる。そこを返り討ちにするのがノエルの野望だったが、まるで意味を成さずアイリを人質の身から解放させた。

 その流れで、二人の交際関係は幕を閉じたのだった。



「アイリはそれで良かったの?」

「え、私は……」


 自由になれたとはいえ、アイリはあまり喜べなかった。結局ラクアとも溝が生じたままで、苦しい所もある。


「分からない。でも、弱いままじゃいけないと思うから……」


 別れたとはいえ、ノエルたちに協力することを選んだ。彼らとともに強くなることが、自分にとって一番納得いく答えだと思うから、アイリはここに手を貸すと決めた。


「着いたぞ。全然人いなくてラッキー」

「平日の夕方だしね。最近の小中学生はインドアだし」


 人が少ないのは広く使えて好都合。存分に“ノーツ”を打てるので、自ずとモチベーションは上がっていった。



「ルールは至って普通の鬼ごっこだ。範囲はこの公園の敷地内で、最初の鬼はアイリ」


 ノエルたちの特訓メニュー、今日のお題は鬼ごっこ。一人が鬼となり他の五人を追いかけ、タッチするとその人が鬼となり追う身となる、シンプルな勝負だ。

 だがローカルルールは様々なので、事前に統一しておかないと揉め事になってしまう。しかし彼らは皆同じ小学校に通ったので、バリアの制限時間は五秒、タッチしてきた人にはタッチできない鬼返しの禁止、鬼か聞かれ黙るか嘘をつくのも禁止、チャイムが鳴り終わるまでが勝負などは暗黙の了解だった。


 そして最初の鬼役は、いつもは前日の最後の鬼としていたが今回は特訓の目的を鑑みるとアイリで確定する。

 アイリの“ノーツ”を避けるための練習なので、いかにして彼女に捕まらない立ち回りができるか、各々考えて戦う。


「当然、“ノーツ”の使用はオーケーでしょ」

「ああ。鬼にはもちろん、いつ誰に対し使ってもオーケーだ」


 過去に経験した鬼ごっことの最大の違いは、島の一部の人しか持たない“ノーツ”の使用。この特殊な力の存在で、持久力や瞬発力などの身体能力に依存しない駆け引きが生まれる。

 それをいかに活用するか、対策するかが、打倒二千代に向けた大きな課題となっているのだ。



「じゃあ、準備できたら始めるね」

「合図はいらん。もう勝負は始まっている」


 来るタイミングが分かっていては、いつでも避けられる反応の速さは身につかない。だから開始の声はなくしていいとノエルたち逃げる側は捉えている。


「じゃあ……」


 アイリの呟きに、四人は身構えた。だが彼女はまだ“ノーツ”を使わず、一瞬静かになった。


「……びくびくし過ぎでしょ」

「うるさいセンヤ。お前も食らえば分かる」


 アイリは踏み込んだ足からクモの糸を張った。触れた部位は剥がせない、束縛長けた“ノーツ”は、警戒していた四人を巻き込み転倒させた。


「また当てられた!?」

「あー、これはすごい」


 センヤだけは体を宙に浮かせて、地を這うクモの巣を回避していた。



「なんでお前は避けられる!」

「体が勝手に浮いたんだ。それが俺の“ノーツ”なんだけど」


 人にぶつからないという“ノーツ”が目覚めたセンヤは、いとも容易くアイリの攻撃を避けていた。他人の服や荷物にも当たらないのと同様に、体と繋がっている“ノーツ”にも適用される。だから彼女の糸が迫ってくると、自動的に体が浮いて回避成功したのだった。


「そこからどうしようって話だけど」

「タッチ」


 浮いたまままともに動けないセンヤはあっさりアイリに捕まってしまった。


「捕まってんじゃねえか!」

「地面に立って避けられないのはこうするしかないの! でも遅いけど、泳げば動けるし」


 センヤは空中で手足を動かし、ゆっくりと前進していく。


「おい! こっち来るな、あいつを狙え!」

「タッチ。鬼返しはなしだから、頑張って動いてね」


 センヤの手がノエルの体に触れた。だがノエルは四肢がクモの巣から離れず、まともに動けない。その隙にアイリは皆から離れた場所に移動する。



 目的は勝つことではなく“ノーツ”と反射神経の特訓。いつまでも動きを止めていては意味がないので、彼女は“ノーツ”を解除した。


「今度は避ける! でもその前に誰か捕まえてやる!」


 ノエルは次元のゲートで瞬間移動しセイカにタッチした。


「私!? もう……」


 セイカは五人の視聴覚を操り気配を消した。ゆっくりと歩いて辰巳たつみ息吹イブキに触れ、五感を元に戻した。


「はい、イブキの鬼ね」

「いつの間にっ……じゃあ勝負よトウイ!」


 イブキと住吉すみよし透依トウイの対決。限界を越える“ノーツ”と加速させる“ノーツ”の勝負は、他とは比べ物にならない速さと激しさで繰り広げられる。

 今回はイブキに軍配が上がった。



「アイリ! “ノーツ”を使わないと!」

「そうよ! これはあんたの攻撃をいつでも避けられるようにするための訓練なんだから!」


 学年上位の“ノーツ”持ちの乱闘に見惚れていたアイリは、見ていただけだったことを責められてしまった。


「だって、邪魔したら悪いし……」

「そんなの気にしなくていいから! それに次からは当たらねえし」


 トウイはノエルを追い始めるが、ゲートを駆使して間一髪の回避が続く。彼が見切れなくなるのが先かタイムアップが先かの勝負だが、アイリは彼らに言われた通りに横やりを刺した。

 案の定、二人は避けられず転倒するのだった。


「気づけたのに……」

「畜生、もう一回だ!」


 なかなか回避は成功しない。食らう前に激しい動きをしていれば、突然足が動かなくなって転んだときの衝撃は大きい。失敗する度に、体に痛々しい傷と疲労が増えていく。


「ねえ、そろそろ終わりにした方が……」

「黙れ! 一回も成功できずギブアップできるもんか!」


 五時のチャイムはとうに鳴り終わった。それでも勝負は続行している。ただ足踏みをして“ノーツ”を打っているだけのアイリは全然疲れていないが、皆はもう息が上がっている。


「アイリから見てどうだった? 何かアドバイスとか聞いていい?」

「アドバイス?」


 アイリから見たら隙は丸見えなのか、癖からある程度の法則を見抜いているのか、自分の気づかない欠点があるのかもしれない。

 やみくもに続けてもなかなか改善できないと考えたイブキは、彼女に意見を求めた。


「悪い点はないと思うけど、もしかしたら大きな違いがあるのかも。二千代の皆が、どんな対策をしているのか」

「鬼ごっこは効果が薄いってことか」

「奴らが何をしているのか知れば、もっと効率よく特訓できる。そういうことか」


 アイリは深く頷いた。トシヤたちが日頃どんなトレーニングをしているのかは、彼女自身も気になることだった。


「じゃあアイリ。お前をスパイに任命する。誰よりも近い場所にいるお前なら、二千代の日常の偵察ができる」

「偵察……それいいかも」


 一旦は彼らの研究をするということで話はまとまり、その流れで今日の特訓は終わりを迎えられた。



「よし、今日はこの辺でお開きにしよう」

「そうね。めちゃくちゃだったけど、なんだかんだで楽しかったわ」


 狙った成果は得られなかったが、存分に“ノーツ”を使ったことでのストレス発散ができたことは決してマイナスではない。いずれ大成させるための一歩として、体と頭にしっかりと残るものとなった。

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